《マインちゃん、出発する前に少しいいかな?》
「なに?」
《俺っちの奥の手について》
「え!?奥の手……!?パンプキンに奥の手はないはずじゃ……」
《そうなんだけどねぇ。流石は対話の力、って感じかな?君と俺っちのペアリングに限り、奥の手が生まれたみたいだね。粋な計らいだぜ全く》
「?………で、どんな能力なの?」
《それはね………》
「どうやったか知らねぇが、私のスカーデッドの奥の手から回復したのは本当らしいな。ったく、だからあの時殺してれば……」
「………感謝しているわ。おかげであなたを殺すことができるんだから」
「はっ!ほざけよ!」
そう言うとカルマはどこらからともなくサバイバルナイフを出し、投げつけてきた。ケイの受け売りかしら?
「パンプキン!」
が、その適度なら今のパンプキンで跡形もなく消し飛ばせる。
「甘いわよ!そんな攻撃……」
「スカーデッド 」
「しまっ」
瞬間、体じゅうに激痛が走る。ヘカトンケイルに折られた骨かしら…。他にもあちこち傷が開いてる…。あの帝具の射程距離は結構広いわね…!
…………温存している場合じゃないか……。
「パンプキン!奥の手!」
《あいよ》
「あ?パンプキンに奥の手はないはずだろ?ハッタリならやめとけよ」
「すぐにわかるわよ……」
カチャ
………やっぱり怖いわね……今までで一番怖い狙撃かもしれないわ……。
《恐れちゃダメだ。大丈夫。俺っちに任せて》
ふぅ……。よし!
「……は?お前何を……!なんで自分のこめかみに銃口を向けてる!」
ズガン!
そして私は意識を失った。
「じ、自殺!?なんだ……どういうことだ……。スカーデッド相手に負けを悟ったのか?」
いや…それはない。曲がりなりにもスカーデッドの奥の手から復活した女だ。そんなタフな精神力を持った女がこんな状況で自殺するわけがない……。
……奥の手と言っていたな。宮殿内の書庫で見た帝具図鑑を見る限りパンプキンは奥の手がないタイプの帝具だった。だがそれが間違いだとしたら……。
「とどめをさしておくか……。幸い、今は動いてないしな」
近づくのは危険だな。遠くから銃で……。
「ッ‼︎」
いねぇ!?どこいった!?目を離したのは一瞬だぞ!?
「後ろよ」
「な!がっはっ!」
そのまま私は10メートル程度吹っ飛ばされる。……どういうことだ……。なぜ……なぜ……。
「何故そんな俊敏に動ける…切り傷や裂傷が激しいはずだ!骨も折れてるだろう!なのに何故……」
「パンプキンの奥の手【表】ーー『トリック』」
「トリック……?」
「そう。奥の手【表】は騙しの力。自分に撃ち込むことで体の状態を騙せる。なんて、カッコイイ言い方したけど要はドーピングね。今の私は傷なんて痛くもかゆくもない。骨が砕けようと、肉がちぎれようと効果が切れるまで動き続けられる」
「……くっ!」
マズイ……私の帝具の攻撃の利点が効かない……。ダメージを与えられるには与えられるが、それで仕留めきれないとなると……。
肉体の限界が来るまで発動し続けてみるか?あくまであの能力は体を騙すだけ。血を流し続ければ出血多量で死ぬだろう。…いやあいつは狙撃手。遠くで気付かれないような暗殺がメインだったはず。これまでの戦いで致命傷となるような傷は追っていないか……。くっ……仕方ねぇ。
「スカーデッド奥の手!また精神をズタズタにしてやるぜ!」
これしかない。どうやって回復したかわからない以上、また復活される可能性があるが、10秒動きが止まれば御の字だ。その間に殺してやる。
「…………」
「なっ!」
効かない?馬鹿な!いくら何でも眉一つ動かさないのは異常だ!そんなことミソギの旦那くらいしか……。
「……なんで効かないのか、みたいな顔をしてるわね。簡単よ。今私は一人じゃないの。どんなに混乱しそうになっても、それを止めてくれる相棒が居る」
「何を言って……」
「パンプキン!撃ちぬけぇぇ!」
ぐっ!マズイ!
ジュッ!
「うっぐうぅぅぅ!!」
マズイ……両足が……消し飛んだなんてもんじゃない……蒸発しやがった……!
「終わりね……」
「くっ………そぉぉ!!」
私はスカーデッドの力をフルに発動。マインから血が吹き出るがこちらに歩み寄る歩幅は一向に緩まない。
「無駄よ、むだ………っあれ?」
膝をついた?……出血多量!勝機!
「バズーカーデッド!!」
この辺の土地は地殻変動や噴火で昔とかなり変わっている。スカーデッドの力をフルに使ってその歪みを傷として処理する!そうすれば!
「!」
「地割れに呑まれて死ね!」
ズウゥン!
「ハッ……ハッ……」
勝った……………早く血を止めないと……こっちも出血多量で死んじまう……。
「とりあえず……服で止血を…………」
ズガン!
「え?」
突然、胸の辺りに急激な熱を感じる。手を当ててみると血で真っ赤になった。……撃たれた……?ま……さか……。
半信半疑ながら私はゆっくり振り返る。…ッ……あ……いつ……なんで生きて……。
「…………パンプキンの奥の手【表】の能力は自分に撃ち込めば自分の体を騙すことが出来る。でもね、それだけじゃないのよ。『トリックの発砲の瞬間を目撃したものを幻術にかける』それが本来の能力。ドーピングは応用能力なの。この能力はあくまで騙しの力だから。悪いわね」
「ヒュー……ヒュー…」
膝をついたのも、地割れに呑まれたのも幻覚だったのか……う………!
……肺をやられた……これはもう無理だな………あぁ、くそ……ここまでかよ……。ま、クソみたいな人生だったからな………。死んで本望だぜ……。
心残りも……ないしな………。
【カルマちゃん、君、結構戦闘力高いね。君なら殺しても死にそうにないね。安心して部隊を任せられるよ】
ケイの旦那……優しかったなぁ。毎日訓練をつけてくれて……兄貴ってあんな感じなのかな?あの人がいなかったらもっと早く死んでたかも。
【『カルマちゃん!このエプロンはどうかな?……え?いや、裸エプロンに……ふべっ!』】
ミソギの旦那……変態だったけど、
【あ!カルマさん!一緒にご飯食べません?いやー女の子二人ならバイキングも油断するですよ〜。行きましょ?ね?ね?】
イートちゃん。付き合いは短いけどすぐに私みたいな不良に馴染んでくれた。笑顔が可愛くて見ていて癒された。性格上、ムカエみたいに可愛がらなかったけど、今思えば私も頬ずりしたかったな。
【カルマちゃん!一緒にケーキ屋さん行こうよ!また一緒にお話しよ!……ほら、早く早く!ケーキ屋さんしまっちゃうよ!あ、その後服も見にいこうよ!大丈夫!カルマちゃんスタイルいいからなんでも似合うって!ふふふ楽しみだなぁ】
カルマ………私の親友……一緒にいた時間は一番長かった。子供の頃からいじめられてたから友達と一緒に話して、遊んで、訓練をするなんて考えても見なかった。いっつも一緒にいたなぁ。隙あらばショッピングに行ってたっけ?……一人にしちまうの悪いなぁ……。
みんな優しかったなぁ。そっか……もう会えないのか………。
ヤダなぁ……死にたくないなぁ……。
なんだよ……なんで涙が止まらないんだよ………みっともない………。
ミソギの旦那、ケイの旦那、イートちゃん、ムカエ、会いたい………会いたいよ………。もっと一緒にいたいよ………。
もっ………と………………。
……………………。
「………パンプキン。このまま、ボスのところに行くわよ。まだこいつの仲間がスーさんと戦っている。たぶん大丈夫だけどあんまりちんたらしてるとエスデスたちが来るかもしれないし」
!!ムカ……エ!そうだ……あいつ……あいつの力じゃ四人同時には不可能だ!
「ヒュッ!………ヒュッ!か………!ぐ………!ムカ……ヒュッ!」
ガッ!
「こいつ!まだ生きて!離しなさい!」
《マインちゃん。大丈夫だ。もう長くない。無駄に精神力を使うな。早くナジェンダさんのところへ》
「え、えぇ……」
ムカエ…………ムカ…エ………。
「はぁ……はぁ……」
「……しぶといな……流石は大臣直属の暗殺部隊………ってとこな」
くっ………強い……。向こうに二人戦えない奴がいるから戦闘力が下がってるのが幸いだけど……。
「スーさん!もう大丈夫だ!回復してきた!ナジェンダさんは俺に任せてくれ!」
「よし、わかった」
くっ!本格的にヤバイわね……。逃げるかな……。カルマちゃんが心配だし……。
「スーさん!」
「マイン!」
え?ちょっと待ってよ……なんで?なんであんたがここに居るのよ………。だってあなたはカルマちゃんと……。
「あの赤髪はどうした」
「やったわ」
「!」
え?え?待ってよ。やった?何を?……まさか殺された?カルマちゃんが?
「あなた何を言ってるの?カルマちゃんがあんたみたいのに殺されるわけないじゃない」
「別に信じなくていいわよ。あんたももうすぐ会えるしね」
「………………」
嘘よ………嘘に決まってる。……そうだ!私を精神的に追い詰める作戦ね!そうはいかないわ。
「パンプキン!」
「あっ!」
ほ、包丁が!マズ……。
「くらえ」
「うぐっ!」
角男に吹っ飛ばされる。だめだ逃げよう!流石にこの2人相手にするには私には荷が重い!とりあえずカルマちゃんを見つけて……。
「くっ!」
「あ、待て!」
「追うぞ!ラバック!ナジェンダをおぶって追ってこい!」
「了解!」
「はぁ……はぁ……」
「待て!」
くっ!振りきれない!マズイわね。このまま他の仲間なんかに出くわしたら本格的にヤバイ……っ痛!
「やば!何かにつまづいて…。ーーーーッ!」
え?
「カ……ルマちゃん?」
なんで寝てるの?ほ、ほら敵が来てるよ!二人でやっつけようよ!気絶してるの?早く起きなきゃ!
「カルマちゃん!敵だよ!起きて!……起き……」
何………この赤いの………血?誰の?……。……!!
「カルマちゃん、胸に………穴が…………」
胸から血がとめどなく溢れてる。ま、まだ生きてる!早く止血を……!
「えっと…あぁ!ダメ流れないで!止まって!……あぁ!手で触れ……」
止血しようにも素手じゃカルマちゃんに触れられない………腐っちゃうから………えっと………。
「え?か、カルマちゃん?息してないよ?どうしたの………ねぇ!ねえったら!!」
「ね?本当だったでしょ?あなたもすぐに同じところに送ってあげる」
カルマちゃん……うそ………本当に…………。
「う……うぅ……ゔぅぅううぅゔぅゔ!!」
ヤダ!やだよ!死んじゃやだよ!!
「カルマちゃん!!カルマちゃん!!起きてよ!!ねえったら!!ねぇ………起きて………起きてよ」
「……戦意喪失ね。せめて楽に殺してあげるわ」
「あ………」
や、やられる……逃げなきゃ……。…………あれ?体に力が入らない………。
「さよなら」
ドン!
「え?」
銃声ではない。突如私は誰かに突き飛ばされ後ろに吹っ飛んだのだ。これは……。
「カルマちゃん!?」
「あんた!嘘でしょ!?なんで生きて………!!」
「ムカエ!能力を全開にして手を上に上げてろ!」
「え?」
「早く!」
言われた通り私はラフラフレシアの能力を全開にして手を掲げる。この手は今触れたものを一瞬にして腐らせグズグズにする。
「バズーカー………デッド!」
ズウゥン!と、周りの崖が崩れ始める。バズーカデッド!?いや、でもこれは!
「な!あんた、仲間ごと自滅する気!?」
「……お前らも……道ずれにな……」
「くっ!お前たち逃げるぞ!スサノオ全員連れて退避しろ!」
「了解!」
「無駄だぜ……逃げられる範囲じゃねぇよ」
「カルマちゃん!」
呼びかけるとカルマちゃんはこっちを振り返り、そして笑った。満面の笑みだった。今まで照れたときに少し微笑むくらいだったカルマちゃんが他にないくらいの満面の笑みで。
「ーーッ!」
私は悟った。これがカルマちゃん命を賭して作ってくれた私への延命措置だということに。この落石の雨あられに対してわたしのラフラフレシアなら生き残れることを知って……。
「カルマちゃん!」
「ーーーーーーー」
「!…………うっ!」
カルマちゃん………私もだよ。私も………カルマちゃんのことが………
ーーー大好きだよ。
「プハッ!みんな無事か!」
「スーさんが守ってくれたおかげでね。……いっ!」
《あらあら、マインちゃん骨が折れてるの忘れてたね?もうトリックの効果はきれてるのに》
「大丈夫かマイン。ナジェンダ。歩けるか?歩けるようならマインをおぶっていくが」
「あぁ、ラバック。肩を貸してくれ。それで十分だ」
「あぁ、はい」
「あいつらは……」
「死んだだろうな。この落石だ。それにしてもあの赤髪がここまで強かったとはな……」
山肌が崩れ落ち、元の地形の原型を留めてない。アカメたちは無事だろうか………。
「今ので2人が死んだ、戦績としては十分だ!他のメンバーを見つけ次第帰還する!」
「「「了解!」」」
クロメとボルスが討てなかったのは痛いが……致し方あるまい。もしかしたらアカメあたりがボルスは仕留めているかもしれんしな……。
ガララ
「……………………」
岩を全て腐らせた。腐臭がすごいけどどこも怪我はしてない。そう。どこも怪我はしてない。心以外は。
「……………………」
帰ろう。帰って…………帰って…………。
「……………………帰っても何も楽しいことなんてないじゃない。……………………う」
大声で泣き叫びたかった。でもできない。せっかくカルマちゃんが繋いでくれた命だから。今の私の任務は無事に宮殿まで帰ること。泣くのはそれから。
「う………っう……………」
ダメ……声を出しちゃ……ダメ…………。
「うわぁぁぁぁぁぁん!!!」
ドカァァン!!
どこからともなく起こった爆発に私の泣き声は掻き消された。
【カルマ死亡ーーーナイアーラトテップ残り4人】
カルマちゃん死亡です。なぜかマインが悪役みたく……。