涙……こんなものが私から流れるなんて…まだ昔の記憶が抜けきってないのか……不覚……。
まぁいい、せっかくだ。記憶なんて、思い出なんて、心なんて、くだらない事を証明してやる。
洗脳のせいで不十分な部分もあるが、子供の頃から記憶を再生し、思い出してから一蹴してやるとしよう。
「行くぞ!ラバック」
「………………」
エラーメッセージプレートは今の私には使えない事証明された。言葉の重みも何度も使いすぎて、抗力が薄くなっている。………肉弾戦か。
「…………ふっ!」
私の右ストレートがナジェンダの頬を掠める。
「くっ!これはどうだ!」
……!あの義手は中にリールが入っているのか……。パンチのリーチが無限大ですね。でも…。
「伸び切ったら何も出来ないのでは?」
私は腕が伸びきった事を確認し、本体に突っ込む。
「そうでもないさ!リールアサルト!」
「!!」
本体の方が腕に引かれるだと!?マズイ!
「オラァ!」
「ぐぅ!」
……肉弾戦は……やっぱりダメみたいですね……。
「お前は昔から肉弾戦はイマイチだったからな。これなら私にも武がある!」
「……………………」
…………そう、私は昔からケンカは苦手だった。
私は地方の地主の四男坊として生まれた。この腐った国で金持ちの家に生まれたのは相当ラッキーだと言ってもいい。
食うに困らなかったし、大体は器用になんでもこなせたし、欲しいもの、流行の品はいち早く手に入れてみんなからも尊敬されていた。
でも私はいつも思っていた。みんなが尊敬しているのは親の財力と権力で私に興味がある人なんていないんだよなぁ、と。
もっと言えば、私は親からもあまり必要とされてなかった。私の家の家督は長男が継ぐことになっている。その長男が何らかの事情で家督を継げないときのみ、次男が家督を継ぐ。つまり私は長男の予備の予備の予備だ。親はいかに家を繁栄させていくか、ということにしか興味がなさそうでしたし。
それでも悲観はしなかった。世の中には明日食べるものすら困る人もいるし、無実の罪で殺される人もごまんといる。そんな人たちに比べたら天国みたいな世界だ。
ただ退屈だった。親兄弟の事はそれなりに愛していたし、友達もいた。それでも私は5歳の頃には感じていた。
この世は普通の事しか起こらなくて、私は普通に生きて死んでいくだけなんだと。
少なくとも私の中ではそれだけが真実で真理だった。
それから十数年後、あいつが現れた。ナジェンダだ。
一目惚れだった。
私の周りには財力目当ての女がごまんと寄り添ってきた。もう少ししたらこのどれかと結ばれるんだろうなぁ適当にと思っていた。私にとって恋とはその程度の事だった。
が、ナジェンダが現れて世界が変わった。
出会ってから彼女のことで頭がいっぱいだった。親の権力を使い、あの手この手で近づいた。
「な、ナジェンダさん!俺の家の専属の警備員にならないか?給料は今までと変わらないし、何よりずっと安全だぜ?」
「………ありがたいがラバック。私は国を良くするために将軍にまで上り詰めた。今更このポジションは捨てられないさ」
「ふっ!」
「甘いぞ!ラバック!そんなパンチで私が倒せると思ってるのか!」
……何故だろう、私はこの女と戦う無意味さを知っている。勝てないとかそういうのではなく無意味なのだ。仮に私の肉弾戦闘スキルがこの女より勝っていたとして、あっという間に殺せたとしてもそれで私は勝ったとは思わないだろう。
何故だ?何故勝った気がしないのだ?そうだ。言葉の重み、もとい電気操作には他の使い方もあるじゃないか。ブドー大将軍のアドラメレクのような使い方も出来なくはない。それを使えばいい。絶対に殺せる。
……使える気がしない。否、使いたくない…のか?片目が見えず、右腕が義手の女に何故………。
ナジェンダが私の家に来てくれないことがわかると私は最終手段に出るしかなかった。私自身が軍に所属することだ。持ち前の器用さであっという間に側近にまで上り詰めることができ、それからはナジェンダさんと共に過ごすことが可能となった。
幸せだった。ナジェンダと共に働けることが。しかしこの時の私に志はなかった。ただナジェンダの傍にいることが目的で、国のために働こうだとか、腐った国を変えようだとかはちっとも頭になかった。
「!」
「?どうした?もう降参か?」
そうか…私の中のこの女への恋心が消えきっていない……。だから殺せないのか。昔は狂おしいほど好きだった。その名残で体が本能的に殺すことを拒絶している…。そういうことか。
だったら、嫌いになってやろう。記憶の中には彼女の汚点も含まれているだろう。惚れていない今なら、それを客観的に見ることができる。それを見つけて彼女に失望したとき、私は彼女を殺せるだろう。
「ラバック、少しいいか?」
「…?はい…」
「ナジェンダと二人で、帝国西にあるシバ村へ行って来い」
「はぁ、いいっすけど…何でまた、二人きりで?」
「お前、最近クローステールに適合したろ?ナジェンダのパンプキンと一緒にその性能を確かめてこい」
「それって……!」
「シバ村は革命軍とつながりがあるとの噂だ。皆殺しにしても問題ない。万が一革命軍と無関係だったとしても大臣がもみ消してくれるさ。小さな村だしな」
「ッ!」
「じゃ、頼んだぞ?」
「そうか……」
「どう…しますか?」
「命令だからな。拒否はできない。いくぞラバック」
「は、はい!」
これだ……。ナジェンダも昔は国の命令で無実の人々を殺していた。この記憶だ……。掘り下げよう。
「やっぱ、出世のためにはこういうことも必要なんすね……。あ、いや!否定はしないっすよ!みんなやってることだし…」
「…………」
「ナジェンダさん?」
「ラバック、お前は正義って何だと思う?」
「え?………んーそう…ですね。……………強さですかね……。エスデスさんが言ってました。『この世は弱肉強食、弱いものは淘汰される運命だ』暴論のようですけど、割と真理だと思いませんか?俺だって金という強さがあったからここまで上り詰めたわけですし。弱いものは何もできません。正義を振りかざすには強さが必要です。……だと思います」
「そうか…」
「……?」
もう少し……もう少しで…。
「つきましたね」
「これはこれは……軍人さんたちが…な、何の用でしょうか」
「……この村が革命軍と繋がっているとの情報を得た」
「な!そ、そのようなことは決して…」
「……クローステール」
「う、うわああああ」
「なんだこれ!」
「お母さああん!」
「ひいい!」
「全員縛り上げました」
「………」
「て、てめえらが圧政をするからだろ!革命軍はきちんと食料をめぐんでくださる!」
「…言質が取れましたね。このまま殺しますか」
「いや……私がやる。パンプキン」
「ひっ!」
ドンドン!
「え?」
「な、ナジェンダさん!?なんで糸を!」
「…逃げろ」
「……?あ、ありがとうございます」
「ナジェンダさん!なんで!」
「ラバック、今から大事な話をする。その話を聞いて賛同できないようならお前は一人で帰れ。村人を逃がした罪は私のせいにして構わん」
「…?」
「私はいずれ革命軍に入ろうと思っている」
「!!」
「この国はもうだめだ。一度壊すしかない」
「な、なんでだよ!あんた将軍はあんたの夢だったんだろ!?それを捨てて……。第一、革命軍なんて小さな組織、すぐに弾圧されてお終いだって!死にに行くようなもんですよ!」
「ラバックさっき私は正義はなんだと聞いたな。私の意見もほぼ一緒だよ」
「?……だったら!」
「『正義とは、強者の利益にほかならず』どこかの哲学者の言葉だ。矛盾することを言うようだが正義は善じゃないんだよ。だったら私は悪者でいい」
「そんな……」
「この国の人間はあきらめて生きているよな。お前もそうじゃなかったか?未来は国が決める、自分たちが何をしたって変わらない、力なき者が死ぬのは必要犠牲だ。………みんな生きることに絶望してる。つまらない世界だよホント」
「……」
「今の世界はそうだよな。だから変えるんだ。私たちの手で」
「!」
「世界は平凡か?未来は退屈か?現実は適当か?」
ーーーーーーそれでも生きることは劇的だ。
「私について来てくれるか?ラバック。人々が生に前向きになれる世界を作りたい。助けてくれ、お前の力が必要だ」
バキ!
「…ふざけているのか。ラバック!なぜ反撃してこない!」
「……あなたに殴られる理由がありません。ゆえによける理由もありません」
「…?」
そうだ。私は、俺はナジェンダさんの顔や容姿だけを好きになったんじゃなかったんだ。ナジェンダさん、何よりあんたの言葉に、心意気に惚れたんだ。
あなたがいたから俺は俺になったんだ。
どうしてもめだかちゃんの名言を入れたくて文脈が少しおかしいかな、って気がしますが、大目にみてください……。