後半もなるべく早くあげます。
ラバとの帝都視察が完了し、俺たちはすぐにアジトへ戻った。俺は先ほどのやる気が続いているうちにアカメと訓練を開始した。
…ラバ?虫の息ですけど、なにか?
「ぐあっ!」
アカメと木刀で模擬戦。が、刀で競り合うと必ずといっていいほど、押し負ける。こいつ…本当に女の子か?男として立つ瀬がない…。
「タツミ…今日はいつになくやる気だな。何かあったのか?」
アカメが尋ねてくる。
「あぁ、ラバからケイっていうスゲー強くて恐ろしい男の話を聞いてな。だから早く強くなってそいつみたいな強い奴らと互角くらいに戦えるような体を作りたいんだ。」
「ケイ……か…。」
「知ってるのか?」
「知らない奴の方が少ない」
「俺、知らなかったんだけど…」
思わぬところで田舎者を自覚させられる。
「アカメはそいつと会ったことがあるのか?」
「いや、ないな。……ただ…」
「ただ?」
「奴の帝具は……」
「え!?知ってんの!?」
ラバの素振りからして、その能力は謎に包まれているのかと思ったが…。あ、でもそんなことは言ってなかったか。厄介、って言ってただけで…。
「……どんな武器かわかっていないということは知ってる。」
「…なんじゃそりゃ、そんなの知らないのと同じゃないか。」
「奴と戦って生き残った仲間の話を聞いたことがあるんだが、話が食い違うんだ。ある者は奴の武器は日本刀だというし、またある奴は武器を銃だという。人によって武器の情報が異なるんだ。」
「それって…ケイは複数の帝具を持っているてことか?」
「いや、それはないだろう。帝具の使用には精神力の摩耗が半端ではない。複数の利用なんて精神が壊れてしまう。」
「でも…ラバの話からするとケイは数百人を暇つぶしに殺したほどのイカれた奴だろ?そんな奴、精神力がまともとは思えないけど…」
「確かにそういった見方もできるが……だが、北の異民族討伐のためにエスデスだって40万人を生き埋めにしている。そんな女だって使っている帝具は一つだけだ。それを考えればケイだって複数使えることにはならないんじゃないか?」
「うーん、そういうことになるのかなぁ…。」
「まぁ、奴は死んだ。帝国側からもそんな訳のわからない帝具使いを見つけたという話も聞かない。警戒するのはいいことだが、あまり気張ってばかりいても仕方がないと思うぞ。」
「それもそうだな。よし、休憩終わり!アカメ、稽古再開だ!」
「よし、行くぞ!」
その後、俺とアカメは途中途中休憩を入れつつ30回模擬戦を続けた。結局、一回も勝てなかったけどな…。
翌日も俺の訓練への情熱は消えず、アカメを背に乗せての腕立て伏せを行っていた。今度はラバも一緒に。あいつ昨日のケガ、もう治ってやがる…姐さんじゃないんだから…。ちなみにラバの背中には姐さんだ。
「誰か!あたしと訓練しなさい!」
びっくりした…。マインか、ケガは良くなったみたいだな。よかった。
「お、マイン、ケガは治ったか。よかったよかった。」
姐さんも心配してたようだ。
「何してんの…?」
「見ての通り腕立て伏せだよ。暇だからアタシたちも付き合ってるんだー。」
「インクルシオは思った以上に体力を持ってかれる。このままじゃ、透明化もすぐに切れちまう。長時間つけられるよう、兄貴みたいに体を作らないと。」
「……ッ」
ん?何赤くなってんだ?あいつ。あぁ、そうか。俺たち上半身裸だからか。あいつそれごときで恥じらうような乙女心を持っていたのか。驚きだ。
「ラバの汗塗れは珍しいわね。」
マインが話を逸らした。
「男が二人になっちゃったからね。俺も気合いれないと…。」
「そうはいうけどラバ?お前腕立ての回数タツミの半分以下だからな?」
「うぅ…」
「それは仕方ない。」
アカメが呟く。おい…まさか…やめろ!
「私とレオーネでは体重に大きな差がある。」
「「「!!」」」
ゴス!!とレオーネの鉄拳がアカメの頭を襲う。
「!?、!?」
アカメは涙目になりながらも何が起こったのかわかっていないようだ。いや、ホントご愁傷様です…。
「おい、みんな。集まってくれ!話しておきたいことがある!」
お、ボスの声だ。なんだろ、新たなミッションか?
「今しがた、革命軍の支部から連絡があってな、エスデスが私達ナイトレイドを潰すために帝具使いだけの6人のメンバーの特殊警察を組織するようだ。本人を含め7人。まあ、当然といったらと当然か。三獣士もやられてしまった訳だしな。全員帝具使いというのが驚きだが。」
「全員帝具使いってなるとこっちが少し不利かな。人数的に。それにブラっちがやられたのがでかい。」
「……ごめんよ。俺が弱かったばっかりに……」
「あぁ!!いや、タツミを攻めた訳じゃないんだ!悪い悪い!そんなに落ち込まないでよ〜」
「「「レオーネ(姐さん)…」」」
「み…みんなまで…」
「タツミ、お前は帝具使いの三獣士を全員始末し、生きて帰ってきたんだ。ブラートのことを考慮したって良くやったさ。」
「ボス……。」
「…調子に乗らせないように黙ってたけど、ブラっちが言ってたよ……」
ーー『あいつはまだ青いが、ありゃあ鍛えれば相当強くなるぜ。それこそ俺を越すくらいにな。』って…
「兄貴…」
もう泣かないって決めたのに……涙が溢れてくる…。
「自信を持て、タツミ。そしてブラートが見込んだくらいの男になれ。」
「ボス…はい!」
「いい感じにまとまったけど、なんだろ。レオーネ姐さんの言い訳感がハンパないね。」
「もう少しでいい話になる所だっただろうが!そういうこと言うんじゃない!!」
姐さんの拳が炸裂。そして、ラバが吹き飛ぶ。…あいつ、死ぬとしたら仲間に殺されるんじゃないだろうか?
「あぁそれと、タツミが奪取してきた三獣士の帝具を革命軍本部に送り届けてくる。しばらくここを離れるがボス代行はアカメ、頼んだぞ。」
「わかった。」
「…なんか、のほほんとしてるけど大丈夫か?」
「アカメちゃんは締めるところはちゃんと締めるから大丈夫だって。」
「そうか…」
「作戦は、みんながんばれ、だ。」
「わかった。」
「大丈夫なのか…?あぁ、それとボス、一人で平気ですか?笛と指輪の帝具はともかく斧の帝具は相当重いですよ?」
「心配には及ばないさ。ほれ!」
ボスがヒョイっと斧を持ち上げる。すご!あれ俺が運ぶのにわざわざインクルシオをつけてきたのに……。
「もしかして、ボスってすごい人?」
ラバとコソコソ話す。
「当たり前だろ、元将軍だぜ?」
「さて、あまり無駄話もしてられない。行ってくる。あとは任せたぞ、アカメ。」
「了解。」
そうして、俺たちはボスを見送った。
「あ〜あ、しばらくナジェンダさんの入浴シーンはお預けか〜。」
「おまえ…昨日、あんな目にあっておいてまだそんなこと言ってんのかよ…」
「あの程度でへこたれる俺じゃねえよ。でもナジェンダさん酷いんだぜ。義手の方で殴るんだもんなぁ」
「そりゃそうだろ…」
そんな訳でボスがしばらくナイトレイドのアジトから外れることとなった。その後俺たちは組手による模擬戦を全員で交代交代でやり、気がつくと夕方だった。
「ふう、つっかれた〜。今日はもうおしまいにしよーか。」
「そうね、日も暮れてきたし。」
「夕飯の支度をしなくては。タツミ手伝え。」
「りょーかいー」
「今日は牛豚鳥丼だ。」
「……何丼て?」
「「いい(わ)ね〜」」
「「…ナイトレイド肉食系女子」」
なんて、殺し屋であることを忘れてしまいそうなくらいのほほんとしていた。あぁ、早く革命が成功して平和な世界になってくれればいいのに。そうすればこいつらずっと笑って暮らしていけるのに。
「すまない、ちょっといいかな。」
「「「「「!!」」」」」
今の今まで誰も居なかったその場所にフードを被った男が立っていた。いつの間に?いや、というかラバの結界に反応しなかった?そして姐さんにもアカメにも気付かれなかったとなると…。一般人ではなさそうだ…。
「誰だ…お前…。」
全員が臨戦態勢に入る中、姐さんが尋ねる。
「そう身構えないでくれ、僕は話をしに来たんだ。」
「…名前も教えないような奴とは話なんてしたくない。」
「…まぁ、正論だね。じゃあ自己紹介タイムだ。君たちもしてくれよ?アカメちゃんとマインちゃんは知ってるから別にかまわないけど。」
そういうと、彼はフードを脱ぐ。
「僕の名前はケイ。君たちと同じお尋ね者だよ。」
「な…!」
うまく言葉が出ない。だって、ケイは死んだはずじゃ…
「嘘つくんじゃないわよ!ケイってあれでしょ!"帝都・血の建国日"事件のケイのことでしょ!死んでるはずよ!」
「噂で、だろ?誰も死体を見ていない。勝手に殺さないでくれよ。心外だな。殺すのは僕の仕事なんだから。まぁ、確かにそのおかげで、動きやすくはあるわけだけど。」
「アカメちゃん、本物だと思う?確かに手配書とは似ているけど…。」
「………」
しばしの沈黙、それを破ったのはアカメだった。
「話があると言っていたな。まずはそれを話してくれ。」
「ありがとう。問答無用で襲われたらどうしようかと思っていたよ。武器も持ってないし。話というのはね…」
ーーー僕をナイトレイドに入れて欲しいんだ。
後半に続きます。