枯れた樹海と殺し屋たち   作:リンゴ丸12

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久しぶりのケイ視点。やっぱりケイが書いてて楽しい。


殺さずにいる方が難しい

「ケイ、お前は優秀だな。父さんも鼻が高いよ」

 

ありがとう、父さん。僕も父さんの子に生まれて嬉しいよ。

 

「ケイ、あなたは優しい子。その優しさを忘れないでね」

 

うん、母さん。僕も母さんみたいな人徳溢れる人になってみせるよ。

 

「あにうえ!いっしよにあそぼ!」

 

コイ、口にお菓子をつけてるぞ。全くお前はだらしないな。兄ちゃんが拭いてやる。こっちに来い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さん、母さん、ちょっと友達と遊んでくる」

 

「あぁ、遅くならないようにな」

 

「夕飯までには帰って来なさい」

 

「やだぁ!あにうえ!コイといっしょにあそんでよぉ!」

 

「コイ、帰ったら遊んでやるから。いい子にしてろ。父さんと母さんの言うことちゃんと聞くんだぞ?」

 

「うぅ………」

 

「それじゃあ行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ケイ、へい、パス!」

 

「あぁ!」

 

「行け!シュートだ!」

 

バス!

 

「ゴール!!スゲェ!ケイ!ハットトリックだ!」

 

「そんなことないさ、みんなのチームプレイのおかげだよ」

 

「キャー!ケイく〜ん!」

「こっち向いてー!」

「カッコよかったよ〜」

 

「はは……」

 

「相変わらず、モテるな。お前は」

 

「ほんと、死ねばいいのに」

 

「手のひら返しがハンパねぇな……」

 

 

ゾク

 

 

「!!」

 

「どうした…ケイ?」

 

「いや……なんでもない……」

 

「大丈夫か?お前顔真っ青だぞ?」

 

「少し休めよ、最近お前そう言うの多いぞ?無理すんな?」

 

「あぁ、うん、ありがとう……」

 

 

『絞殺』

 

 

「んぐ……!ごめん……ちょっと休む……」

 

「おぉ……無理すんな……」

 

 

 

「ヘイ、パス!」

 

「おぅ!…っあぁ!取られた!やっぱりケイがいないと戦力ダウンだわ」

 

 

 

 

 

『刺殺』『毒殺』『圧殺』

 

やめろ………

 

『殴殺』『斬殺』『銃殺』『薬殺』『轢殺』

 

やめろ…………やめろ………

 

『撃殺』『射殺』『爆殺』『暴殺』『鏖殺』『暗殺』『焼殺』『虐殺』『禁殺』『磔殺』

 

やめろ!やめろ!やめろ!

 

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

 

やだ!俺は誰も殺さない!

 

 

殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ

 

 

「うがぁぁぁ!!」

 

バタッ!

 

「ケイ……?ケイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは……どこだ………?

 

「ケイ君の容態が、よくありません。精神科への入院を勧めます」

 

「そんな!ケイは!……ケイは優しい子です……!」

 

父……さん………?

 

「ですが………このままでは…手遅れになる場合も……」

 

「ねぇ、あにうえがどーかしたの?」

 

「…何でもないのよ。コイ、あそこの看護師さんに遊んでもらいなさい」

 

「はーい」

 

母さん?コイ?ここは病院…なのか?………やっぱり僕……どこかおかしいんだ……

 

「とにかく、早急に入院を勧めますよ。彼がーーー殺人者にならないうちにね」

 

 

 

 

 

 

 

「あにうえ!あそぼ!」

 

「あぁ……」

 

「きょうはねー。おにんぎょーさんごっこね!」

 

「なぁ、コイ……」

 

「?」

 

「父さんと母さん僕に関して何か言ってたか?」

 

「??よくわかんないんだけど?」

 

「……そうだよな。ごめん……さ、遊ぶか!」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

いっぱいいるなぁ。まぁ、メインストリートなんだから当たり前なんだけどさ。

 

 

………あぁ、なんて殺しやすそうな、か弱く、かすかで儚く頼りない生き物なんだろう。

頭を砕いても死んでしまう、首を絞めても死んでしまう、胸を刺しても死んでしまう、腹を割いても死んでしまう。

なんだこれ?こんな生き物、殺さずにいる方が難しいじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

「……ただいま」

 

「お帰りなさい、どこ行ってたの?」

 

「散歩。ねぇ母さん」

 

「ん?」

 

 

「どうして……人を殺しちゃいけないの?」

 

「……………」

 

「これの正解ってあるのかな。どうしたって答えが見つからないんだ」

 

「ケイ……。そんな酷いこと言わないで。母さん悲しいわ」

 

「……………」

 

「私は答えを知ってるわ」

 

「!本当!?」

 

「えぇ。人を殺しちゃうとね?人は人で無くなってしまうの」

 

「……………?」

 

「人を殺した瞬間、人はもう人ではいられないの。その人は鬼になってしまうのよ」

 

「鬼………」

 

「わかったらケイ?もう二度とそんな悲しいこと言わないで?家族四人で仲良くしていれば、人殺しなんて悲しい発想なんておきないわ。疲れているのよ。最近病院通いだったものね。もう、今日は休みなさい」

 

「うん……おやすみ」

 

「…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ん?ここは……どこだ?………リビング……か?暗くてよくわかんないな………明かりを………

 

ピチャ

 

ん?なんだ?床が濡れて………ッ!

 

「父さん!母さん!」

 

し、死んでる………ッ!まさか!

 

「あ………あ……………あぁ……………」

 

殺した………僕が………?うそ……だろ………?………………!

 

「コイ……コイ!」

 

「あ、あにうえ……ははうえとちちうえが………」

 

よかった!生きて………

 

……?………ッ!!

 

「あにうえ……ちちうえが………ははうえが…………うわあぁぁぁぁん!!!」

 

 

「どうした!………っ!これは……何があった!!コイちゃん!ケイ君!強盗か!」

 

 

 

「…………した」

 

「なに?」

 

「殺した………」

 

「……は?」

 

 

 

ーーーー僕が殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っは!」

 

……夢………

 

「はぁ……はぁ……はぁ…」

 

「ケイの旦那〜入るぜ〜、聞いてくれよ、ミソギの旦那がまた裸エプ……おぉ!?どうしたんだ!ケイの旦那!汗びっしょり!」

 

「……何でもない……変な夢を…見ただけだ………」

 

「おぉ…そうか。水飲むか?」

 

「あぁ、頼むよ……」

 

バタン!

 

………ここに来てこんな夢を……イェーガーズにコイが入ったせいだ……。

 

「……水飲んだら、外に出よう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出た時はすっかり暗くなっていた。頬にあたる風が心地よい。帝都からは遠く離れている。もう夕食には間に合いそうにないが、カルマちゃんに事情は話してあるから大丈夫だろう。今日は野宿でもしますかね。

 

「…………………」

 

父さんと母さんが今の僕を見たらなんて思うだろうか。自分の息子と娘が殺し合うなんて悲劇的な運命をどう思うだろうか。まぁ……例によって清く正しく、優しくなさい。とでも言うのかね。

 

「僕には無理だったよ、父さん、母さん」

 

 

 

 

 

………誰かいるな……気配を消してはいるようだが………賞金稼ぎか何かか?

 

「出てこい。ばれてるぞ」

 

「……ばれずに行けると思ったんだけどな」

 

「タツミ君……」

 

そこにいたのはナイトレイドのタツミ君だった。何気にアジトを襲撃して以来か?ま、今は僕も正式に軍に所属する身。ここでこの子を捕まえとけばセリューちゃんの悪印象も少しは改善されるだろう。

 

「なんでここにいるのかは聞かないけど、逃すわけにはいかないな」

 

「だろうな。腕試しには丁度いい。やろうか」

 

「……本当、君とはいい友達になれそうなんだよなぁ」

 

「だから殺す?」

 

「人の座右の銘を……」

 

そこまで言って僕は刀を取り出す。インクルシオには刃物は効果が薄いが……ま、小手調べにね。

 

「じゃ、行くよ!」

 

 

僕は一気に距離を詰める。

………?

 

ギィン!

 

僕の剣は受け止められる。インクルシオの鍵によって。

 

「変身……しないのか?」

 

「いや、感触を確かめようと思ってな」

 

「………?」

 

「今からするよ。安心しろ」

 

 

ーーーーインクルシオーーーー

 

 

途端にタツミ君の身体は鎧に包まれる。……けど……あれ?あんな色だったっけ?全体的に赤みがかっている。

 

「カラーチェンジでもしたのかい?」

 

「あぁ……いろいろあってな」

 

そう言うと目の前からタツミ君が消えた。速いな……

 

「おぉ!」

 

タツミ君が後ろから殴りかかってくる。が、避けられない速さではない。

 

「へぇ!速いね!そうかインクルシオは所有者のレベルに応じて進化する鎧だったっけ?なるほど君達も遊んでた訳では無いってわけね」

 

「……ぐ……」

 

「?」

 

「ウオォォ!」

 

「……!?」

 

また速度が上がった?くっ……!

 

「ぐぅ!」

 

インクルシオよパンチが頰を掠める。この威力は当たったらタダではすみそうにないな。

 

「出し惜しみしてる場合じゃないか」

 

僕は刀を捨て、対危険種用ロケットランチャーで一気に仕とどめにかかる。

 

「死ね」

 

「!!」

 

ズガァァァン!

ものすごい爆風がタツミ君を包む。流石にインクルシオを着ているからな死んではいないだろうけど………

 

「さて、どうなったかな?」

 

爆炎の中に立ち尽くす人影。ま、この程度じゃね。

 

「タツミ君?無事みたいだけど、ダメージの許容量にも限界があるんだからさ。あんまり余裕こいてる場合じゃ……タツミ君?」

 

「…………………」

 

「?」

 

「オオオォォオォォォォォォォォ!!!!」

 

「!!?カハッ!!」

 

何が起きた……!一瞬で後ろまで吹き飛んだ!ぐ……やべ…肋骨が……!

 

「アハ……アハ…アハハハハハハハハ!!いいわ!最高!久しぶりに肉体を得たわ!……ふーんタツミ君っていうの…まだガキって感じで生意気だけどさ。成長すればいい感じの男になりそうね。ま、ここはアタシに任せなさいって!」

 

「…タツミ君……?」

 

「ん〜あれ?生きてたの?へぇ、しぶといのね。アタシのパンチ受けて生きてたの初めてかも。ま、でも動けないでしょ?待ってて、今楽にしてあげるから」

 

「お前は………誰だ……」

 

「インクルシオよ」

 

「!?」

 

帝具が意識を持って使用者を乗っ取るだと……!?確かにインクルシオの素材になったタイラントは生命力の強い危険種だとは聞いていたが……いくら何でもこれは…

 

「ま、私も再び意識が生まれるとは思ってもみなかったわ。あの子のおかげね」

 

「あの子…?」

 

「なんでもないわ。さ!そろそろ時間よ?アタシが逝かせてあげる!」

 

「ぐ………」

 

ズキュン!

 

「ん?あら……?」

 

狙撃……誰が……

 

「兄上!」

 

……コイ……?

 

「コロ!5番!」

 

と、あれは……

 

「正義・閻魔槍!」

 

ガガガガガ!

 

「おっと!」

 

セリューちゃんか……

 

「コイちゃん!逃げるよ!」

 

「は、はい!」

 

「コロ!ケイを連れてって!食い殺しちゃダメだからね!」

 

「きゅい!」

 

 

 

 

 

 

 

「んん〜!……あら?逃げられちゃった…どうするタツミ君、追う?……えー…。………わかったわ。じゃ、帰りましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでお前達が………」

 

「勘違いするなよ。お前ののためじゃない。今お前に抜けられたら帝国の戦力ダウンに繋がるからな。だから助けただけだからな!」

 

「セリューさん…生ツンデレ……!」

 

……こいつ本当死ねばいいのに。

 

「誰がここに君達を……?」

 

「ミソギ君よ。『精神的にちょっと弱ってたから迎えに行ってあげて』ってさ」

 

………だったらムカエちゃんとカルマちゃんを寄越せばいいものを…。なんでこの子たち……

 

「兄上…………ご無事で…何よりです」

 

微笑みかけるコイ。…………………。

 

「ありがとう……助かった……。セリューちゃん」

 

「……………」

 

「あんたねぇ!最初に狙撃したのはコイちゃ「それと!」」

 

「!」

 

「コイ、助かった。狙撃……上手くなったな…」

 

「ーー!……はい!」

 

全く……今日はなんて日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、イートちゃん。王子様からの熱烈なキス、いかがだったかな?」

 

「とっても興奮しましたよ、とでも言えば満足ですか?安心院さん」

 

「そう拗ねるなよ。で?インクルシオにはどんな改造を施したんだい?」

 

「……いくらインクルシオといえども進化する段階には限界があります。あくまで道具ですから。なのでその道具という観念を改造しました」

 

「へぇ……つまり……?」

 

「インクルシオの素材となったタイラント。その自我をインクルシオに戻しました。タイラントと対話をすることで彼の伸び代は無限大になるはずです」

 

「ふーん。いいんじゃないかな?候補者としてはふさわしい能力じゃないか。…でもそれだけじゃないんだろう?これだけの能力だ。何かデメリットがあるんじゃない?」

 

「もちろん、タイラントとの仲が悪くなれば進化は止まります。そこがデメリットっちゃあデメリットですかね?むしろそれよりも……」

 

「?」

 

「タイラントの自我を復活させましたからね。言ってしまえば生き返ったようなもんです。結構な無理をしました。その代償が痛かったですかね?」

 

「その代償とは?」

 

「寿命です。タイラントの自我を保つのには彼がこの先、生きたであろう寿命をいくらか使わせる形になりますね。どれくらいかは私にもわかりませんが」

 

「ははぁ。そりゃまた……でもいんじゃない?彼は殺し屋だ。畳の上で死ねるとは思ってないだろうさ」

 

「ですかね」

 

「ふふ、そろそろ誰かと戦ったかな?あーあ…次の来客者が来るまで僕は暇だなぁ」

 

「すぐ来るでしょ。私の『口区間(ドア・トゥ・ドア)』まで奪わせといて」

 

「君のじゃないぜ?僕のだよ。そっか…彼女には何をしようかなぁ。別に彼女は候補者ではないしなぁ。ま、暇つぶしくらいにはなるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ゴメンな…さい。許し……て。……シェ………レ………」


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