「イエヤスさーん、元気出してくださいよー」
あれから3日がたった。流石に骨をやってるため快調とは言いがたいが、イートちゃんの手厚い看護のおかげでなんとかマシにはなってきた。でも……
「あー」
「もー!なんで事あるごとに『あー』なんですか!赤ちゃんですか!こんな幼女と一緒にそんなプレイがしたいんですか!」
「あー…」
「もー!!」
インクルシオが折れた。俺はもう役立たずだ。いや、革命軍として働くことができるがイェーガーズとは勝負にならないだろう。こんな形で戦線離脱するなんて………
ラバは無事かな?マインは?心配でしょうがないが今の俺には何もできない。怪我が治っても何もできない。ゴミだ。俺はゴミクズだ……
「…………はぁ……」
「……そんなに大事な剣だったんですか?」
「……あぁ、打ち直しできるもんでもないしな……」
帝具は現在では失われた技術を用いた超兵器。インクルシオも例外ではない。確かバカみたいな生命力を持ったタイラントとかいう超級危険種を用いた、通称『生きた鎧』。持ち主のレベルや気持ちによってより強く進化していく帝具。しかしその鍵である剣が壊れてしまった。今の技術では再構築は不可能だろう。
「はぁー…」
「……その剣、大事さで言ったらどれくらいですか?」
「ん?なんだそりゃ?…まぁ命よりとは言わないけど、命と仲間の次に大事なものかな。俺の先輩の形見でもあるわけだからな」
「そうですかー。なら大丈夫ですかね」
「何が?」
「何でもないですよー。さ、寝た寝た!」
「お、おぉ」
「……ろです…ね……はい。…ぇ!いや……すがにそれは……むぅ……わ……りました。はい……はー……」
……むにゃ?なんだ?……イートちゃん?
「お、目が覚めました?ご飯食べますか?」
そう言うとイートちゃんはかなり手の込んだ料理を運んでくる。
「あぁ、うん、ありがとう」
イートちゃんのご飯。俺がここに来てから毎日作ってくれているがこれがとてもうまい。それこそスーさんと変わらないくらい。最近の子供は生活力あるなぁ……
「いつもありがとうな」
「いえいえ、食べ物の恩は食べ物で返しますよ。まぁ治療もしたのでまた今度奢ってください」
「それが狙いか……」
「えへへ」
抜け目ないな……今月は村への仕送りがさらに減りそうだ。
「そういえばイートちゃん、ご両親は?」
イートちゃんの家は結構な高級感がある。豪邸といってもいいくらいに。こんな子供一人で住むところではないだろう。親は資産家か何かか?
「母親は私が産まれる前にはもういませんでした。お父さんはずいぶん前に死んでしまいましたので、今は一人暮らしです」
「あ………ごめん……」
「別に大丈夫ですよ。もう気持ちの整理もついてます」
小さいのにたくましいんだな。しかし、父親はやっぱり帝国に殺されたのかな……イートちゃんの年齢的に流石に年で死んだとは考えられないんだが…。
「イエヤスさん?どうしました?手が止まってますよ?」
「ん?あ、いやいやなんでもない」
やっぱり国に殺されたのかな……。いや、これ以上聞くのは流石に野暮か。
………時々顔を出すようにしようかな。俺としてもこの子といると楽しいし。ナイトレイドとは違う友達になれる気がする。
「ふぅ、ごちそうさま!」
「はい、お粗末様でした!」
いやー、やっぱり美味かったな。スーさんの料理も美味しいけどイートちゃんのはなんだろ、精進料理ってかんじで体にも良さそうな感じがするな。
「……ん、そろそろですかね」
「なにが?」
「イエヤスさん。もう一度聞きますけどあなたにとってその剣はかなり大事なものですよね?」
「………?あぁ」
「そうですかそうですか………で、ではイエヤスさん、目をつぶってください」
「?なんで?」
「いいから!」
なんだ?寝ろってことか?まぁ怪我して、やることないから寝るだけしかできないんだけど急に目をつぶれって言われても………っ!
「んむ……ふ……!!」
「んんんん!?!?!?」
何!?え!?キス!?なにしてんのこの子!最近の子供はませすぎ……あ………れ………?視界が……暗……く…………。
「ーーーーー」
「ぷはっ!……成功ですかね、口区間(ドア・トゥ・ドア)………全くあの人は……うら若き乙女に何させるんですか………」
「ん……?ここは……?部屋?」
気がつくと俺は真っ白で椅子と机が大量に並べられている部屋にいた。俺はその真ん中の机に座っている。なんだこれ?夢?にしては意識がはっきりしてるな……明晰夢って奴か?
てゆーかなんでこんなところにいるんだっけ?確かイートちゃんのご飯を美味しくいただいて、その後……あぁ、イートちゃんに唇を奪われたんだっけ……。どっかのドS将軍に散々仕込まれたせいでなんかあんまり動揺しなくなったなぁ。喜んでいいやら悲しんでいいやら……。
で、その後目の前が真っ暗になって今に至るわけか。なるほどなるほど。いや全然わからんけど。なんだこれ?やっぱ動揺してたのか?幼女にキスされるという非常に稀有なシチュエーションに興奮しすぎて死んだのか?だとしたら笑えなさすぎるんだけど。天国で兄貴とシェーレに顔向けできないんだけど。
「はっはっは、幼女にキスされて嬉死とか新しいねぇ。僕は嫌いじゃないぜ?」
………!!いつの間にか女性が……!誰?俺の妄想の産物?て言うか…え?今の声にでてた?………は、恥ずかしいぃぃ!
「い、いや今のはその………う、嘘です!」
何言ってんだ俺。テンパり過ぎた。
「………何言ってんの?君」
………死にてぇ。
「ふふ、同じ殺し屋でもラバ君とはえらい違いだね。あの子ったら僕をいきなり閻魔大王扱いだぜ?」
「!ラバ!?あいつもここに来たのか?」
「うん、彼がケイ君とミソギ君と戦った時に死にかけたことがあったろう?それを助け、欲視力(パラサイトシーイング)を貸してあげたのは僕なんだ」
「ば、パラサイ……なんて?」
「彼の目が他人の視界を覗けるようになったはずだ。あれは僕の能力なんだ」
「……ちょ、ちょっと待ってちょっと待って!ついてけないんだけど!説明して!」
「…いつもならここで勿体振るところだけど……ま、君は候補者の一人だからね。詳しく説明するとしよう」
「……あんたは一体…」
「僕の名前は【安心院(あじむ)なじみ】。親しみを込めて【安心院(あんしんいん)さん】と呼びなさい」
「そうですかそうですか。ご苦労様です。ではエスデス将軍に話を通しておきます。そこのあなた、この危険種を実験室へ」
「はっ!」
そう警備兵に命令すると大臣はエスデスの部屋へ向かっていった。あの2人はどうなったかな?一応戦ってるわけだから早く援軍をよこしてもらいたいんだけど。
「あの…ケイさん……ミソギさんとカルマちゃん、大丈夫でしょうか?」
不安そうに訪ねてくるムカエちゃん。その顔に殺意が湧き上がってくる。いや、僕の場合はいい意味で。
「ミソギ君がいるから死ぬことはない。けど同時に勝ちも無くなる。ま、痛みわけがいいところかな?」
と、言うかそれ以外ありえないと思っている。ミソギ君の負けっぷりに対する信憑性は100%だ。『この世に100%はない』とか言う奴がいるがこればっかりは100%だ。おそらくこの世で唯一の。それでいて相手の心はズタズタにするんだから始末に負えない。彼にとって勝負は勝つものではなくて引っ掻き回すものなのだろう。いや知らんけど。
「そう…ですか。まぁ、またみんなで会えるならそれでいいです。勝てなくても幸せにはなれますから」
「……そうだね」
ミソギ君は多分幸せにもなろうとしてないけどね。まぁ、人のことは言えないか。俺も自身の幸せなんて願っても無いことだから。俺は目標が達成されればそれでいい。
「それにしても、ナイアーラトテップのもう一人の子はどうしましたかね?」
あぁ、そういえばいたね、そんなの。大臣は捜索中とか言ってたけど音沙汰ないな。名前は確か……
「どこいっちゃったんでしょうね〜。イートさん」
やっと名前が出ましたね。ケイ、ミソギなどカタカナの名前で固定してきましたが彼女は特別枠って事で。じゃない例のセリフも言えませんし。
なお、今後の『安心院』の読み方ですが『安心院さん』と出てきたら『あんしんいん』、『安心院なじみ』で出てきたら『あじむ』と読むと思って下さい。