………ここ……どこ……?
《目が覚めたか》
……だれ?
《私は……君の父だ》
父……?…………お父さん?
《そうだ。今日からよろしくな。……イート》
……イート?
《君の名だよ。イート。可愛らしい名前だろう?》
イート……私は…イート。うん、可愛いね。
《では朝ごはんにしよう、イート。色々あるぞ。何が食べたい》
……わかんない。……朝ごはん……日のはじめに食べる食事のこと?
《……そうか、君は知識しかないのだったな。……なら、今日から色々試してみるといい。ここはとても楽しい所だぞ?》
……うん、分かった。よろしく、お父さん。
《あぁ、よろしくな》
「ぷはー!美味しいですねぇ!」
「そうだね……」
「やっぱりラーメンは醤油ですよね〜。あ、別に他の味が嫌いって言ってるわけじゃないんですよ?あっさりしたものが食べたい時には塩ですし、こってりしたのが食べたいなら豚骨ですし。私はみんなみんな大好きです!」
「ソウダネ……」
なら、君は今日、どんな気分なんだい。全部の味を5杯ずつ召し上がってますが。
「ふぅ、満足満足。お勘定は割り勘でいいですか?」
「いいわけねぇだろ!?」
「え!?奢ってくれるんですか?」
「頭沸いてんのか!!」
本来俺が払う額の10倍は払うことになるわ!割引き効果ゼロだわ!
「え……!?まさか奢って貰うつもりですか!?こんな幼女に!?」
「いや……だから…自分で食べた分だけを払おう。それでいいだろ?」
てゆーか、それ以外あってたまるか。
「私はいいですけど、周りの目はどうですかねぇ」
「は?」
………ハッ!……こいつ……自分の幼い外見を利用して俺に奢らせようとしている……?さながら妹にご馳走してあげる兄が如く!
「…………」
「…………」
「…………」
「ゴチになります♪」
こうして今月分の村への仕送りもいつもの50%引きとなったのだった。
「いやー、今日はありがとうございました!てっきり店を出た後、お金を要求されると思ったんですが、本当に奢ってくれるとは!いやー男ですねぇ!」
「はぁ……もういいよ。ラーメンは美味しかったし」
善良なる市民に喜んでもらえて俺も嬉しいよ。そう思い込むことにする。
「ですよねー。まぁどっちにしろ私、お金持ってきてないですし」
「要するに俺はカモにされたってわけね……」
本当に女運がない。帝都に来てから、俺の会う女はクセがある奴ばっかりだ。サヨが恋しい。………いや、アイツもアイツで……
「そういえばさっきも気になってたんですけど、そんなに食料品を買ってどうするんです?宿屋かなにか経営されてるんですか?」
「いや、ウチの仲間に君ほどじゃないにしろ、大食いの人がいてね。こうやって買い足しておかないと、すぐに無くなるんだ」
「へぇ〜……あ、私こっちの道なんで。今日はありがとうございました!今度は奢りますよ」
「嘘つけよ」
「心外だなぁ。私は正直者で有名なんですよ?」
「はいはい。まぁ、じゃあな。イート」
「はい、バイバイです。タ……イエヤスさん」
「はぁ…思わぬ出費だったなぁ」
最近、仕事を多くこなしていたから蓄えは割とあったけど……全く変な子に捕まってしまった。
「くっ、重い………あと少し………」
やっとアジトが見えてきた。結局今日はアカメ一人で飯作ってるんだろうなぁ。やだなぁ、肉づくし……。
「ただいま〜」
「タツミッ!マインとラバに会わなかったか?」
なんだ?帰って早々?
「いや、会ってないけど……」
「帝都への仕事から帰って来ないんだ……」
「…今日はどっかの奴隷商人の暗殺だっけか?あいつらが手こずるとは思えないけど……」
もしかして帰り道に何かあったのか?イェーガーズか?それともケイ?一度考え出すと止まらない。
「タツミ。帰って早々悪いんだが、レオーネと一緒に様子を見てきてくれないか?顔バレしてないのはお前達とチェルシーだが、チェルシーは有事の際戦えないからな」
「了解。行こう、姐さん」
「あぁ。ま、大丈夫でしょ。どうせ、ラバがマインにちょっかい出して半殺しにされて遅れてるとかそんなだよ」
それはそれで問題だけどな。
「……いないなぁ」
アジトから数キロ離れた森の中。帰り道を辿ってきたからそろそろ遭遇しないとおかしいんだが。
「姐さん。匂いはどう?」
「んー、それらしき匂いは……ん!マインの匂いがする!」
「ホント!?」
「あぁ!でも……なんで、こんな所から……」
「どこ?」
「そこの木の上から……」
俺はインクルシオをつけて木の上に飛び乗る。なんでこんな所にマインはいたんだ?てゆうかラバは?と、そこまで考えて思考が止まった。
「マイン!!」
そこには気絶したマインが木の枝の中に倒れていた。
「おい!しっかりしろ!マイン!」
「タツミ!?どうした!」
「マインが気絶して倒れてる!」
「なに!とりあえず降ろせ!」
俺はマインを抱きかかえ、姐さんの所へ降りる。
「息はしているんだけど……目を覚まさない……敵にやられたのか?」
「いや、それにしては怪我もないし、血の匂いもしない。本当に気絶しているだけって感じだ」
……まぁ、命に別状ないならとりあえずはいいか……そうだ、ラバは?
「ッ!タツミ!危ない!」
姐さんが俺とマインを抱え後ろへ跳びだす。瞬間、今までいたところが爆発。これは……ケイが使っていた火薬兵器?まさか!?
「外しました!ウェイブ殿!」
「気にするな!行くぞ!」
そして突如二人の人影が。あいつは!
「捉えた仲間を探しにナイトレイドが現れる。隊長の読み通りだな」
「これならクロメさんとボルスさんも連れてくるべきでしたね」
「確証もないのに他のメンバー全員でかかる事は出来ないよ。相手も2人だ。ちょうどいいだろ?」
ウェイブ……面倒な奴がきた……もう一人の眼帯の女は……新入りか?
「タツミ……あいつ等は……」
姐さんが小声で話しかけてくる。
「男の方はウェイブ。俺のインクルシオの後期型、グランシャリオの使い手だ。もう一人は……知らない顔だ……」
「お前たち!ナイトレイドだな!ライオネルの方は手配書にないが、インクルシオの方は百人斬りのブラートで間違いないな!」
…間違いないわけではないが………否定するわけにもいかない。
「そういうお前はイェーガーズのウェイブだな!グランシャリオの!もう一人は誰だ!新入りか!」
「そう簡単に教える訳な「ふふん!そこまで言うなら教えてあげましょう!Dr.スタイリッシュさんの後釜に決まった『二超拳銃オルトロス』の使い手であり、ウェイブ殿の一番弟子!隻眼の魔銃使い、コイとは私のこと!さぁ覚悟して下さ痛い!!」
……ウェイブがコイ?と言っていた女の子にゲンコツを落とす。
「お前は馬鹿なのか!?なんで自分から名乗ってんだよ!!」
「だって!ウェイブ殿だけ有名人でズルイじゃないですか!私も『お前がイェーガーズのコイだな……?』とか言われたいんですよ!」
「別にそんないいもんでもねぇよ!暗殺者に命狙われるんだぞ!?罰として3日間飯抜きだからな!」
「……二つ名まで考えたのに〜」
………キャラの濃い子だなぁ……そこで何かに気づいたように姐さんが話しだす。
「捉えた仲間とか言ったな。まさかお前たち……」
!そうか!マインがここで気絶していたという事は……!
「…あぁ、帝国側がナイトレイドの1人を捕虜にしたそうだぞ?」
やっぱり!ラバが!くそ!無事なのか?
「ラバはどうなったんだ!」
「さぁな、殺されてるか……まぁ少なくとも拷問はされてるな」
くっ!早く助けなくては!でもマインもこのままでは……
「…タツミ、私がマインを連れて帰ってそのままアカメを呼んでくる。そしたら3対2だ。それまでなんとか場を繋いでいてくれ」
イェーガーズ二人を一人でか……正直キツイな……でも帰るだけなら姐さんの方が速い。マインのことも考えるとそれが最善か……よし!
「任せてくれ!こんな奴ら一人て十分だぜ!なんせ俺は百人斬りのブラートだからな!」
「……言うようになったじゃないか。じゃあ…頼んだぞ!」
そこまで言うと姐さんがマインを抱きかかえてそこから跳びだす。
「逃がしませんぞ!」
コイがどこからともなく2丁の大砲を出す。しかしその武器は……
「その武器なら対策済み!どっかの殺人鬼のおかげでなぁ!」
俺はノインテーターで中の爆薬に当たらないように大砲の信管を壊す。これならもう使えないはず。
「な……!」
「くらえ!」
そのままコイに回し蹴りを放つ。インクルシオを装着している状態での蹴りだ。ただじゃ済まないぜ?コイはそのまま木の幹まで吹っ飛ばされる。
「か……は……!」
「コイ!」
……なんだ?やけに呆気ないな。イェーガーズの癖に。まぁでもこれで一人戦闘不能。流石に息の根までは止められていないだろうがな。あとは新旧タイラント対決だ!
「行くぞ!」
「くっ!グランシャリオォォ!」
ウェイブが叫ぶと少し近未来的なデザインの青みがかった鎧が身を包む。グランシャリオにはジェットパーツが付いていて、それを用いての加速や少しの間飛行が可能。つまり俺のインクルシオより性能がいい。ただその分、透明化が使えないらしい。状況的には五分ってとこか……
「「おおぉ!!」」
二人とも一歩も引かない戦い。ただ、俺はノインテーターを使っているが、ウェイブの方は使えないようだ。グランシャリオにはノインテーターもないのか?剣道三倍段の理屈で俺の方が若干有利のように感じる。このまま持久戦に持ち込めば…いける!
「オラッ!」
「ぐぅ!」
流石に硬いな……。鎧を構成しているパーツも向こうの方が多そうだ。
!!隙ができた!このチャンスは逃さねぇ!
「ここだ!」
よし!腋がガラ空き!入った!
「!!」
その時、ノインテーターが急にふっとばされた。なんだ?新手か?
「ナイスだ!コイ!」
な!あいつ!気絶したふりをしてたのか!銃もまだ持って……!しかもあれはライフル!?どこから出したんだよ!やばい、ノインテーターがふっとばされた衝撃で体制が……!
「いくぞ!グランフォール!」
「ぐっ!あぁぁ!!」
ジ……ジェット噴射の推進力を利用した蹴り!これは…ヤベェ……!
「かはっ!」
………インクルシオつけてこのダメージかよ…!肋骨を何本かやっちまった……!やばい……!変身が解ける……!
「俺のグランシャリオと同じなら一定ダメージで鎧は解除されるはずだ。もう限界だろう。大人しく捕まれ」
クソ……こうなったら!
「うおぉぉぉ!!!」
インクルシオの使用者の力を強制的に引き上げる能力で一瞬だけ戦闘モードに復帰。そしてそのまま思いっきり地面を叩き割る。
「目くらまし!?小癪な!」
「無駄だ!移動はできねぇだろう…………いない!?」
「なんですと!?この一瞬で逃げたと言うんですか!?」
「くそ!探すぞ!コイ!ついてこい!」
「はい!(コイ、ついてコイ……?…………いや、黙っとこ。ぶん殴られそうだ)」
……行ったか……やっぱり透明化の機能はないみたいだな。しかしこのままじゃ動けねぇ。変身も解けちまう……くそ…意識も……とおのく……
「…………あ、いたいた。イエヤスさーん………あれ?気絶しちゃってる………もう!運ぶの面倒くさいですねぇ!」
グランシャリオの設定を少しいじってます。ご了承くださいm(_ _)m