枯れた樹海と殺し屋たち   作:リンゴ丸12

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また新キャラ。あの子っぽいけど……変化を入れていこうと思います。


僕は被害者だ

「マイン……ちゃん…」

 

マインちゃんは見るも無残な姿になっていた。可愛らしい小さな体躯には無数の傷跡がつけられ、薄いピンク色だった服はほとんど真っ赤に染まっている。

 

「んー?ミソギの旦那また死んでんのか?いや、生き返ると分かってるならいいんだけどさ…」

 

赤髪の子、カルマが呟いている。そんな彼女を押しのけ俺はマインちゃんの元へかける。

 

「おっとと!」

 

「おい!マインちゃん!しっかりしろよ!意識をしっかり持って!」

 

くそ!息してねぇ!脈は……かろうじてあるがとても弱い。このままではあと五分と持たない…!

 

「痛ってーな、いきなり突き飛ばすなよ。そいつならもう助からねぇよ。血を流しすぎだ。骨も何本もイッてる。内臓もヤバイかな?」

 

「黙れ!おい、頼むよマインちゃん…息してくれ!」

 

俺は泣きながら人口呼吸や肺を圧迫し、息の吹き返しを試みる。頼むよ……死ないでくれ……!

 

 

 

 

『無駄だと思うけどなぁ?』

 

 

!!!……………この……!!

 

「……ミソギィ!!」

 

『おいおい、手止めていいの?マインちゃん死んじゃうよ?』

 

「旦那、もう大丈夫なのか?」

 

『うん。僕は殺されたくらいじゃ死なないよ……って!カルマちゃん右手!なくなってるよ!どうしたの!?』

 

「あ〜…ちょっとヘマしちゃって……ってうえぇ!?」

 

ミソギがカルマの右腕をつかんだと思ったらいつの間にか右手が再生している。本当にヤバイ能力だ。

 

『女の子があんまり無理しちゃダメだよ?』

 

「…ありがとな、旦那」

 

そんなことより、マインちゃんだ。頼む……なんとか……!

……ッ!…………ちくしょう……!

 

「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!!」

 

脈まで止まった………!これは…もう…………!

 

「……終わったな。旦那?どうする?こいつも殺すんだろ?私がやろうか?」

 

……くっ!スカーデッドの弱点がわからない以上、恐らく勝ち目はない…仕方ない、せめて相打ちにでも!

 

『待ってよ、カルマちゃん。ここは交渉といこう』

 

「交渉だと?マインちゃんを殺しておいて……これ以上俺にカードはねぇよ!」

 

『まだ死んでない。まぁ別に死んでてもいいんだけど少し手間だからさ。生きてる内に話をしよう』

 

………?

 

「どういうことだ?旦那」

 

『マインちゃんを助けてあげる』

 

「「!!」」

 

は?どういう……!まさか……!

 

「だ、旦那!?まさかオールフィクションで!?」

 

『うん、そうだよ。これから言う僕の条件を飲んでくれるならこの戦いで負ったマインちゃんのダメージをなかった事にしてさらにイェーガーズにも引き渡さないであげる』

 

「どういう風の吹きまわしだ……今の今まで殺しあってたんだぞ……」

 

『だからタダで助けるんじゃないんだって。条件を飲むなら、ってこと。どうする?そろそろイェーガーズも来ちゃうかもよ?』

 

……迷うまでもないか。

 

「飲む!だから……助けて……下さい……!」

 

俺は頭を地につけ頼み込む。なりふり構ってる場合じゃない。これしかマインちゃんを助ける方法はない。

 

『……まだ条件を出してないのに……素晴らしい友情だね。感動したよ。何、簡単な話だ。君はこれから僕たちの捕虜になるんだ』

 

「捕虜……」

 

『そう、これから一緒に宮殿に来てもらう。まぁ貴重なナイトレイドのメンバーだ。すぐには殺されないと思うけど、情報を出し渋るようなら拷問も覚悟しておけ?』

 

……意趣返しのつもりかよ…。

 

「分かった。飲む」

 

『素直でよろしい。じゃあとりあえず帝具を出してカルマちゃんに渡して?』

 

俺は腰からクローステールを外し、「せっかく勝てたのに…」とブツブツ言ってるカルマに手渡す。

 

『はい、じゃあ次。よっと』

 

そう言うとミソギは俺の肩に手を乗せた。

 

「?」

 

『オールフィクション』

 

!こいつ!

 

「…旦那?何してんだ?」

 

『いやーラバ君の帝具は糸だからね。ラバ君の体に仕込んである糸をなかったことにしたんだ。まぁなかったら別に問題ないんだけどさ』

 

「抜かりねぇなぁ〜」

 

くっ、そこまで見破られてるとは……だが今はどうしようもない。マインちゃんの命が先決だ。

 

『よし!じゃあ約束通り……』

 

ミソギがマインちゃんに近づき、手を伸ばす。

 

『オールフィクション』

 

瞬間、マインちゃんの傷はなくなり、服に染み込んだ血液も無くなった。

 

「マインちゃ「おっと」」

 

カルマに襟首を掴まれる。

 

「どこ行く気だよ。お前はもう私達の捕虜なんだ。自由行動は慎んでもらう」

 

「……分かった」

 

「よし、じゃあ縛り上げるから大人しくしてろ?」

 

『マインちゃんは見つかりにくいところに隠してくるね?』

 

そう言うとミソギは森の奥の方へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、来た来たおーい』

 

「イェーガーズのセリュー・ユビキタス&コロです……ってミソギ君!?」

 

『セリューちゃんが来てくれたんだ?久しぶりだねぇ。元気してた?そっちの金髪の人もイェーガーズかな?』

 

「はい、ランと言います。セリューさん、知り合いですか?」

 

「ええ、私がDr.の件で気落ちしてた時に励ましてくださった人なんです」

 

セリュー・ユビキタス……シェーレさんを殺した奴……!

 

「まさか大臣直属の部下になってるとは……お勤めご苦労様です!」

 

……最悪だ。宮殿に着く前に殺されるかな……これは。

 

「こいつがナイトレイドですね?はっ!悪人面してますね!」

 

お前に言われたくねぇよ。

 

『うん、でも殺さないでね?大臣に捉えられるようなら捉えるように言われてるから』

 

「分かりました!では私とランさんで警護します!そちらの赤髪の方も同僚さんですか?」

 

「……あぁ、カルマです。よろしく」

 

「はい!よろしくお願いします!では、参りましょう!」

 

……マインちゃんはバレてねぇみたいだな。そしてチクる気も無さそうだ。良かった。これでマインちゃんは助かる。

俺は……絶望的かな?仕込み糸もなかったことにされたし、こりゃ尋問されまくって殺されるな。こんなことならナジェンダさんに告っとくべきだった……な……

 

あれ?……このセリフどこかで……

 

 

「何をしてる、さっさと歩け、悪党が」

 

「ぐっ!」

 

そういえばミソギが俺の目について何か言ってなかったか?彼女……とか……

何か引っかかるな……何か大事なことを忘れてるような……

 

 

 

 

 

 

「なぁ旦那?何であの桃髪の女助けたんだ?別に殺しても良かったじゃねぇか」

 

私は帰り道、イェーガーズの2人が緑髪野郎を連れている後ろでミソギの旦那にヒソヒソ聞いてみる。

 

『彼女を殺しちゃうとラバ君が相打ち覚悟で君や僕と心中する可能性があった。そうなっても困るからね』

 

「んーでも殺した後でオールフィクションを使えば良かったんじゃ?」

 

『その場合ラバ君が仲間の為に名誉ある死を遂げた、とか考えてるとにオールフィクションが発動しない事がある。人の死をなかったことにするのは案外失敗する事が多いんだよ』

 

「ふーん……」

 

せっかく奥の手まで使ったのに……少し不満だな。

 

『それに心配しなくてもマインちゃんはさらなる地獄を味わうことになるよ』

 

「?なんで?あぁ、結果的に仲間を殺すことになるからか……」

 

『それもそうだけど、彼女はPTSDになってる可能性があるからねぇ』

 

PTSD?……心的外傷後ストレス障害……のことだっけか?

 

「は?いやそれは旦那がなかったことにしたじゃねぇか」

 

『?僕がなかったことにしたのは外傷だけだよ?心の傷はそのままだ』

 

「!!」

 

『このままマインちゃんは今までのトラウマと仲間を殺してしまった苦しみに耐え続けなければならないんだ。あは!いつまでもつかなぁ?』

 

「……サイテーだな」

 

 

『酷いなぁ。僕なんてラバ君に二回殺されてるんだぜ?』

 

 

ーー僕は被害者だ。

 

 

……この人は最悪だ。頭がどうかしていて、この帝都の劣悪な環境でも逸脱している。ダメな方に完成している、不完全ならぬ負完全だ。

自分より下の人間なんていないと思ってた。こんなに安らぐものなのか、見下せるというのは。

人はあんたの事を非難し罵倒するだろう。100人いたら100人とも。だけど過負荷である私達は101人目なんだ。

あんたのためなら私達は死んでもいい。心からそう思えるよ。旦那。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、憂鬱だ」

 

スーさんとチェルシーがナイトレイドに加わってから約一ヶ月。過酷な状況下での修行で俺たちはかなりレベルアップできた。俺は長時間インクルシオをつけていられるようになったし、副武装のノインテーターも出せるようになった。イェーガーズと戦ってもいい勝負が出来るのではないだろうか?

そんな中しばらく暗殺の依頼もなく、今日は帝都で買い出し中だ。帝都中心になるとエスデスに見つかる可能性があるので町外れにはなるが。ここならエスデスの目も届きにくい。それはいいんだか……

 

「この量……一人で持って帰るの?」

 

目の前には荷台の上に山積みになった食料品。いつぞやのドSクソ女を思い出す。(エスデスじゃないよ?)目の赤い誰かさんが異常なほどに食されるため、こんな事になる。

近くで狩りをすればいい?いつも飴を舐めてるオシャレさんと性悪毒舌ツインテールが帝都の美味しいものが食べたいんだと。それに目の赤い野生児が便乗してきたわけだ。

ラバとマインは帝都近郊に出現した人型危険種の討伐。姐さんとボスとチェルシーは新しいアジトで作戦会議。スーさんはあまりボスから離れられない。

従って、俺がこの荷物を一人で運ばなくてはならない。……帰りてぇ。

 

「はぁ…とりあえず買い物ばっかで腹減った。なんか食べよ」

 

と、近くの喫茶店で軽く何か食べようと中へ入る。すると何やら人混みが。なんだ?

 

「おい、あの子もう34皿目だぞ!?」

「どういう胃袋してるんだ!?あの小さな体のどこに入るんだ!」

 

なんだ?フードファイターでも来てるのか?俺は人混みをかき分け前の方へ進み出る。そこには空色の髪の女の子がこの店のチャレンジメニューであるらしい、ウルトラビッグオムライスなるものをすごい勢いで平らげている。スゲェ……

 

「ふぅ、お腹いっぱい!店長!それぞれ30分以内に食べたからタダでいいんだよね?」

 

「……………そんな……こんなことが……」

 

呆然とする店長。まぁ確実に超赤字だろうからなぁ。ここでご飯食べるのは止めよう。

 

「ん?」

 

はぁ、じゃあその辺のラーメン屋にでも……この荷台運ぶの面倒クセェなあ。

 

「そこのお兄さん」

 

ん?お、さっきの女の子。なんだ?……まさか!この食料を!?ダメだこれを食べられたら俺はアジトで5回は殺される!や、やらんぞ!

 

「これはやらんぞ!」

 

「何言ってんですか。人の食べ物は取りませんよ。そうじゃなくて、このラーメン屋入るんでしょ?」

 

「え?…あぁ、まぁな」

 

「じゃあ一緒に食べませんか?ペアで食べると半額になる券を持ってるんですよ」

 

なんだ、そういうことか。ちょっと怪しいけど、まぁこんな子供に悪人はいないだろ。いやーラッキーだなー。

…………!?まだ食べるの!?

 

「い、いいけどまだ食べるの?」

 

「ええ、流石にあそこでまだ食べたらあの店に悪いと思いまして」

 

もう手遅れだろ。…まぁいいや。

 

「じゃあお言葉に甘えようかな。君名前は?俺はタ……イエヤス」

 

一応偽名をつかう。悪いな、イエヤス。

 

「名前?………名前……名前……は………ん〜」

 

………かわいい。名前を出せないほど幼くはなさそうだけども。わざとかな?あざといな。でもかわいいから許す。

 

「名前は……イートです。よろしくどうも」




イートちゃん。はい、モデルはもちろんカブトムシよりも弱いあの子です。

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