「では。改めて自己紹介といこう。」
少女がそう言う。
戦いを終えたイェーガー達はひとまずセレスタの入口に集まり馬上のままで話を始めた。
今その場にいるのはイェーガーを含めて4人だった。
「まずは私からだ。」
なぜか得意げな様子で銀髪の少女がそう言う。その背後ティグルともう一人、別の女性がいた。
女性は端整な顔立ちで長い金髪をサイドポニーテールで整えていた。女性は無表情でイェーガーを睨んでいた。
・・・俺何かしたか?
困惑するイェーガーをよそに少女が自己紹介を始める。
「私はエレオノーラ=ヴィルターリア。七戦姫の一人で『銀閃』アリファールが主だ。」
その紹介を聞きイェーガーは少し驚いた。
この子が戦姫?何かイメージと違うな・・・。
「ティグルヴルムド=ヴォルンだ。一応アルサスの領主だが今はエレン・・・エレオノーラの捕虜だ。」
ティグルがそう言う。
うーん・・・。名前が長いな・・・。
「エレオノーラ様の副官を勤めています。リムアリーシャです。」
女性がそう言うとイェーガーは一歩前に出て名乗った。
「俺の名前はイェーガー。一応旅人です。」
イェーガーがそう言うとエレオノーラが意味ありげな視線を投げかけた。
「・・・なんですか。」
視線に耐え切れずイェーガーがそう尋ねるとエレオノーラがこういった。
「一介の旅人と言うのは嘘だろう?本当のことを話したらどうだ?」
・・・あそこまで嘘と言い切るのもすごいな。まあ嘘だが。
「話せません。話しても信じてもらえないでしょうから」
するとティグルが困ったように笑いながらこういった。
「それでもいいから話してくれないか?」
・・・こいつは馬鹿なのか?それともドがつくほどのお人好しなのか?
《試しに話してみれば?いざって時は俺を呼べばいいんだし》
ヴァルガスがそう言う。
うーん・・・だがなぁ、やはりそれは無茶だろう。さて。どうしたものか。
イェーガーが言いづらそうにしているとティグルが助け船を出した。
「わかった。話せると信用してくれたら話してくれ。」
「・・・すみません。」
イェーガーの話題が終わると次はテナルディエ軍についてだった。
「イェーガー殿が討ち取った敵兵が300。我らの手勢が討ち倒したのが200ですのでテナルディエ軍の残りの手勢は2500。我々は100騎をこの街の守備に置いていくので動かせるのは900騎です。」
リムアリーシャが淡々とした調子でいう。
・・・やはり戦うしかないのだろう。曲がりなりにも貴族の兵を殺したのだから。
「約3倍か・・・。敵はどこに逃げるのだろうか?」
イェーガーはそう尋ねる。
彼がヴァルガスを呼び出しともに戦えば2500の兵くらいならばすぐに全滅するだろう。だが、正体を隠している今それは進言できない。
その問にティグルが答えた。
「おそらく。モルザイム平原だろう。ザイアンは俺たちが追って来ることを予想しているはず。だから騎士の力を最大限に発揮できる場所に陣をしくはずだ。」
《間違いないだろう。俺も一時アグニの騎士団にいたからな。騎兵の強さならある程度わかる。》
ヴァルガスが同調する声が聞こえる。
「私とティグルで400を率いる。リムお前が残りを率いろ。」
「・・・イェーガー殿は如何しましょう?」
「お前が面倒見てやれ。」
リムアリーシャがそう尋ねるとエレオノーラは事もなげにそう言った。
「・・・承知しました。」
リムアリーシャは不承不承といった様子で頷いた。
「あと、必要な物は?」
「そうですね・・・。ロープが欲しいですね。細い物でも束ねればいいのでできるだけ多く。」
「替え馬はどうするんだ?」
ティグルが尋ねる。
替え馬とはエレオノーラ達が連れてきた予備の馬たちだ。
「セレスタの町に置いていきますが何か問題でも?」
「思いついたことがあるんだ」
それから半刻後。
両軍はモルザイム平原で対峙した。
「始まったようですね。」
エレオノーラ達の軍とテナルディエ軍が激突してから約5分後。
別働隊で行動しているリムアリーシャの軍にいるイェーガーはテナルディエの第一陣が瓦解したのを見てそう言う。
「ええ。我々も動きましょう。進撃開始。」
リムアリーシャは淡々とした調子でそう言うと馬を走らせた。イェーガーも慌てて走らせる。
リムアリーシャの軍勢は大きく迂回しテナルディエ軍第二陣の側面をついた。
イェーガーは目の前の騎兵に向かいダンデルガを振り下ろした。
ダンデルガは兵士の身体をなぎ払い周りの敵兵も巻き込んだ。
「イェーガー殿。別働隊が来ました。手はず通り下がりますよ。」
「了解!」
イェーガーは最後のひと振りを敵に放つとリムアリーシャとともに撤退を開始した。
抵抗は散発的なものにとどめ小高い丘へと逃げていく。
異変が起こったのは斜面の半ばにさしかかった時だった。
テナルディエの騎兵が一斉に転倒したのだ。
うまく引っかかった!
リムアリーシャが用意したロープを彼らは地面に泥だらけにして張り罠を仕掛けていたのだ。
それを見たリムアリーシャの軍は一斉に反転。テナルディエ軍を掃討しようとした時だった。
イェーガーの背筋にゾクリと嫌なものが漂った。
「止まれ!」
イェーガーが叫ぶ。
「どうしたのですか?」
リムアリーシャが尋ねるのも気にかけずイェーガーは空を見つめた。
黒く曇っている空に突然魔法陣のようなものが浮かび上がった。
「召喚陣!?」
イェーガーがそう言う。
召喚陣とは召喚師や神がユニットを呼び出すために作り出す擬似ゲートのようなものでその陣を通してユニットはこの世に顕現するのだ。
誰が呼び出しやがった・・・!
イェーガーが召喚者を探そうとした時、召喚陣から一体の赤い竜が赤い目に暴力の色を帯びて現れた。
「竜・・・!」
リムアリーシャの目が大きく見開かれる。
「創炎竜・・・ダリマオン!」
イェーガーが睨みながら呟いた。
「GYAOOOOOOOO!」
ダリマオンが咆哮を上げ口から火を噴いた。
ゲヘナブレス―ダリマオンが使う炎のブレスは鋼鉄をも一瞬で焼き尽くす。
ブレスは辺り一面を火の海にしテナルディエ兵を襲った。彼らは悲鳴を上げる間もなく燃え尽きた。
「なっ・・・!」
そのあまりの強さにリムアリーシャ達が絶句した時ダリマオンがイェーガーたちを睨んだ。
イェーガーは馬から降りてダンデルガを構えた。
そして、不敵に笑うとこういった。
「いいぜ。相手になってやんよ!」