予告編
こんなはずじゃ無かった。
俺は薄れゆく意識の中でそう思う。
こんなはずじゃ無かった。俺は、最強で誰にも負けない。
そう思っていた。・・・アレに遭遇するまでは。
くそ・・・。ここまでかよ・・・。
その思いを最後に俺の意識は途切れた。
「逆らう者には死あるのみだ!容赦するな!」
褐色の肌をした軽装備の兵士が叫ぶ。他の兵士達も声をあげ略奪を欲しいままにする。
ここはアニエス地方。ブリューヌ王国の南部で大国ムオジネルとの国境にあたる場所だ。ブリューヌ国内にて内乱が勃発してからはや3ヶ月。ブリューヌ内部の混乱に乗じてムオジネルは行動を開始。アニエス地方への侵略ーーつまり、ブリューヌへの侵攻を開始した。自国の混乱のスキを突かれた国境守備部隊はなす術なく敗走。後にはムオジネル軍からの略奪が待つばかりであった。
「おい!女がいたぞ!」
一人のムオジネル兵が嬉々としてそう叫ぶ。
ムオジネルでは奴隷文化がある。だからムオジネルの略奪対象は作物や物のみならず人も含まれるのだ。
ムオジネル兵に見つかったのはまだ10にも満たない少女とその両親だ。少女の両親は互いに顔を見合わせると一心不乱にムオジネル兵に組み付いた。
「ーー早く逃げるのよ!」
娘の名を呼びながら母親は叫ぶ。
ーーおかあさん!!
「ーー早く行くんだ!ここは私達が食い止める!」
少女の叫びに対して父親が叫ぶ。ムオジネル兵といえど二人に組みつかれては動けなかった。
「くっ!応援を頼む!早くしろ!ガキが逃げるぞ!」
ムオジネル兵が叫ぶ。
少女は涙を流しながらその場を逃れる。
少女は走った。見知った道も薄暗い路地裏も昨日まで友達との遊び場になってた道も走り抜けた。
その後ろからはムオジネル兵が迫る。
逃げなきゃ。逃げなきゃ。
少女はそう思いながら走る。だがついに路地裏に追い込まれてしまった。
「ケッ!このクソガキが!手間取らせんな!親見てぇにぶち殺されたいのか!?」
ムオジネル語を知らない少女にその言葉の意味がわかるはずが無かった。だが少女は全てを悟りその場にひざから崩れ落ちる。
ムオジネル兵が少女ににじり寄る。
ーー助けて。
少女の口から言葉が溢れる。ただ一つの切実な願い。
ーー助けてよ・・・。おかあさん、おとうさん・・・。
ムオジネル兵がまた一歩近づき手を伸ばす。少女は叫んだ。
ーー誰か助けてよぉ!
その時だった。
空に光り輝く陣が形成されそこから光が落ちてくる。
「ぐわあああ!」
ムオジネル兵が吹き飛ぶ。が、光で少女には何も見えなかった。
光が見え晴れた時そこには槍と剣を担ぎ白い服を着た目つきの悪い男が立っていた。
「あ''?なんだここは?」
男は不機嫌そうに言う。
「ク、クソガキィィィ!」
吹き飛ばされたムオジネル兵が起き上がり少女に襲いかかる。男は鬱陶しそうにムオジネル兵を見ると無造作に槍を振るう。
槍は正確にムオジネル兵を襲い槍に殴られたムオジネル兵は吹き飛び壁に叩き付けられた。
叩き付けられた兵士はカエルのような声を上げると気を失い動かなくなった。男は自分の背後にいる少女に気付くと不機嫌そうに尋ねた。
「おい、そこの。ここはどこだ?」