「死んではない・・・ってなんでそんな事がわかるんだ?」
エレンがそう尋ねるとイェーガーはあっけらかんとして答えた。
「勘だ。」
イェーガーがそう言うと辺りに呆れた空気が漂い始めた。
「勘ってお前・・・」
「イェーガー殿・・・」
エレンとリムアリーシャが半眼になりながら呟く。
「いや、マジなんだって!と言うか、この程度でお師匠様がくたばる訳がねえよ。」
「フン。それには同意だ。むしろこの程度あのジジイどもがくたばればこっちはどれくらい楽なんだっつーの。」
イェーガーの言葉にルジーナが同意する。
「けど結局の所どうするのかしら?このままでは打つ手が無いのも事実でしょう?」
気を取り直しパリスがそう言うと再び部屋に暗い空気が漂い始める。
参ったな・・・。このままじゃ、碌な案が出ないぞ。
会議はまだまだ続きそうだとイェーガーはため息をついた。
場面は変わりブリューヌ王国西方ーーザクスタンとの国境地帯。三千を超えるであろう騎兵の一軍がブリューヌとザクスタンの国境を越えようとしていた。
騎兵の一軍の正体はザクスタン軍だ。ブリューヌ王国が内乱で混乱している隙を狙い侵攻を始めたのだ。この侵攻が成功すればブリューヌ王国は壊滅状態へと陥り事実上滅亡するだろう。
そう成功すればの話だ。
国境を越え一時間。ザクスタン軍の前を別の一軍が遮るように立ちはだかる。それはブリューヌ王国騎士団の一つ精強さにおいてはブリューヌ王国随一とも称されるナヴァール騎士団だ。彼らはザクスタンとの国境警備の任について長くまさしくこの地域の守護者であった。しかしその数はザクスタン軍よりも少数であり普通であれば敗北は必至とも呼べる状況であった。しかし騎士達の顔に不安はなくそこには絶対の信頼と自信に満ち溢れた表情を浮かべていた。
騎士達の中から一人の騎士が姿を現す。その姿は全身真っ黒な鎧で覆われており搭乗している馬も黒で統一されていた。
その騎士は迫り来るザクスタン軍に叫ぶ。
「ザクスタンのネズミども!また懲りずに我らの大地を汚しにきたか!古びたチーズならくれてやる!さっさっと引きあげろ!」
その叫びは天地を揺るがす程を大きくザクスタン軍の中にはその声を聞き悲鳴のような声を上げる者もいた。
「黒騎士だ!」
「黒騎士ロランだ!もうおしまいだ!」
黒騎士ロランーー若くしてナヴァール騎士団の団長を務め王家より与えられた大剣ーー《不敗の剣》デュランダルを操る騎士。その強さはブリューヌ王国では並ぶ者が居ないとされる程であり騎士達が自信を失わないのもこの騎士の存在が大きい。
「行くぞ!」
ロランはそう号令を掛けると一目散に敵を目掛けて突っ込んだ。
ロランは恐ろしい速度でザクスタン軍の先頭に迫ると無造作に大剣を振るった。
グシャ!
嫌な音がなると同時に5人の騎馬兵達がその命を失う。5人が命を失った事を認識するよりも早く次の一振りが放たれ更に多くの騎馬兵の命が失われる。
「う、うわあああああ!」
「こ、殺せ!殺せぇええええ!」
その様子を見たザクスタン兵が口々にそう叫ぶ。しかしそうして叫ぶ間にもロランが振るうデュランダルはザクスタン兵の命を奪っていく。
「ば、化け物か!コイツは!ええい!俺がやる!」
そう言い一人の大柄な騎士がロランの前に立ちはだかる。彼は巨大な鉄製のハルバードを構えロランの一撃を受け止めようとした。
しかし、デュランダルはアッサリとハルバードを真っ二つにした。
「へ?」
大柄な騎士がそう間の抜けた声を上げると同時にその命は失われ地面に叩きつけられた。
「ひ、ひえええええ!」
「お、お助けええええ!」
そう叫びながらザクスタン兵達は算を乱して逃げ出す。その兵達をロランをはじめとするナヴァール騎士団の面々は追撃する。
追撃を始めて少し経った頃、ロランの目にある物が映った。
ーーアレは、投石機か?
ブリューヌとザクスタンの国境線沿いに巨大な投石機が設置されていた。そしてその投石機に構えられた岩はロラン達を狙っていた。
「放てぇえええええ!」
指揮官らしき男がそう叫ぶと同時に岩が恐ろしい速度で打ち出される。
人間相手に投石機を持ち出すとはな・・・。
ロランは内心そう苦笑するとデュランダルを両手で構えた。
そしてーー
「!!」
その場にいたザクスタン兵達は目を疑った。岩は寸分の狙いを違わずロランに放たれた。しかし、ロランはその岩をデュランダルで切り裂きそしてーー粉々に打ち砕いた。
「笑止!この様なもので俺を止められると思ったか!ザクスタンのネズミどもよ!」
ロランは何事も無かったかのように叫びながら迫ってくる。
ザクスタン兵達はその黒騎士に戦慄を覚えざるを得なかった。
「う、うわああああああ!」
ザクスタン兵達は再び算を乱して逃げ出す。
結局ロランの追跡はザクスタン軍が国境を越えザクスタンへと戻るまで続いた。