ライトメリッツ、オルミュッツ両軍はタトラ山の砦にて再び対峙した。
「ふん、所詮ぽっとでの戦姫ってとこかしら?単純な力押しで倒せるとでも思ってるのかしら?」
タトラ山の砦の城壁の上で少女ーーリュドミラ・ルリエはガムシャラに攻撃を続けるエレンを見て蔑む。
そんな方法ではこの砦は突破できないわ。
リュドミラは内心でそうほくそ笑む。
普通の砦であれば、エレンも力押しではなく『
オルミュッツ公国とライトメリッツ公国は昔から犬猿の仲で度々戦姫同士の戦闘も起こっていた。だから戦姫同士の戦闘が珍しいわけではないのだ。だが、対戦姫用の陣形でここまで効果を成した陣形は他には無かった。その事からリュドミラの母は軍略家としても一流だったと言えるだろう。
そして、それはエレンも知っていることだ。ゆえにリュドミラはエレンの事を蔑まれずいられなかった。
・・・同世代の戦姫が誕生したって聞いたときは少し期待したのにね。
リュドミラはどことなく寂寞とした思いを抱えながら先頭で剣を振るうエレンを見下ろし呟く。
「やっぱりあなたは戦姫失格よ。エレオノーラ。」
「怯むな!かかれぇ!」
エレンがそう叫ぶと兵たちはさらに奮起し全身を始める。負傷者こそ多いが死者が殆どいないのはエレオノーラ様のお陰でしょう。
ルーリックはそう思う。
ですが・・・何故このような力押しを?リムアリーシャ様やティグルヴルムド卿がいないこととも関係があるのでしょうか?
ルーリックはそう思いながら馬を前に進める。
ルーリックを始めとするライトメリッツ軍の騎士たちはイェーガー救出作戦の事を知らなかった。情報の流出を避けるためとグラデンスが誰にも伝えるなと言ったからだ。
だが、それでも彼らはエレンに続いた。それは全員が彼女を信頼しているからだ。信頼し自らの主であると認めているからだ。だがそんな中、ルーリックだけが疑問を抱いていた。
イェーガー殿が捕まりリムアリーシャ様やティグルヴルムド卿がいない・・・。何故いない?
ルーリックがその答えにたどり着くまでそう長くはかからないだろう。
エレンは内心でモヤモヤしたものを抱えていた。
それはリュドミラと戦っているからではなければテナルディエの事が気にかかっているからではない。
グラデンスのことだ。
あの老人・・・。唐突に現れイェーガー救出作戦を提案したかと思うと二人を連れて行くとはな。もっともリムに関しては私が提案したのだが・・・普通あんな提案受けるだろうか?隠密作戦を提案した人物が。
エレンはここまで考え以前イェーガーから人に化ける魔神の話を聞いたことがあったのを思い出しアッとなる。
しまった!!何故もっと早くにこの考えにたどり着かなかったんだ!何故もっと疑わなかったんだ!もしこれが本当だとするとリムが危ない!
そう思うのと同時に彼女の『竜具』ーー『銀閃』が砦の裏からの邪悪な気配を伝えた。
くそ!無事でいてくれ・・・!
「『
エレンは『
「グラ殿、一つ聞いてよろしいですか?」
異変が起こる少し前、リムアリーシャがグラデンスに尋ねる。
「フォッ?何かの?」
「・・・あなたは何者なんですか?」
グラデンスは穏やかに笑うと答えた。
「師匠じゃよ。イェーガーのな。」
「そうだったのか?」
ティグルが尋ねる。
リムアリーシャは考えていた。
確かにグラデンスという師匠がいるということはイェーガー殿から聞いています。ですが何か腑に落ちませんね・・・。もしかすると・・・。
「グラ殿、イェーガー殿が始めて倒した魔神の名をご存知ですか?」
「ム?勿論知っておるがそれがどうかしたかの?」
「よければお聞かせください。それはどのような魔神だったのですか?」
「うむ、あやつが最初に倒した魔神の名は覇妃霊メリオン、様々な疫病を操る魔神じゃよ。」
リムアリーシャは少し考えるとティグルを引っ張りグラデンスから距離をとった。
「リム?一体何を・・・?」
ティグルが戸惑いの声を上げる。リムアリーシャは素早く剣を抜き言った。
「あなたは何者です!本当の姿をみせなさい!」
「フォッ?なんじゃ突然?」
「確かにイェーガー殿が倒した魔神は疫病を操る魔神です。ですが、メリオンではありませんでした。イェーガー殿は私に教えてくれました。レデュハークであると。何故あなたがそれをご存知無いのですか?」
「・・・少し忘れておっただーー」
「召喚老と呼ばれる高位の役職につき魔神のことを忘れないあなたがですか?」
リムアリーシャがそう尋ねる。
グラデンスは少し目を閉じると不気味に笑いだした。
「クフ、クフフフフフ。まさかヒトごときに我の正体を見破られるとはな。」
「!?」
ティグルも素早く下がり弓を構える。
「あなたは・・・何者です!?」
リムアリーシャが尋ねるとグラデンスーーいや、グラデンスの形をした『ソレ』は答えた。
「我が名は礫覇神クロフォード!!貴様らをあの世に送る偉大なる神!」
するとグラデンスの形は崩れていき禍々しいオーラを放つ一つの魔物が姿を現した。
その魔物は肩が竜の頭のような形をしており左手と思しき部位には槍を、右手と思しき部位には斧を持っていた。
クロフォードはニヤリと邪悪に嗤うと言った。
「死ね!哀れな人間よ!」
クロフォード「いつからグラデンスだと思っていた?」