翌朝、ティグル達はオルミュッツ軍がタトラ山に籠城したと聞いて驚いていた。
「まさか・・・本当にこうなるとは。」
エレンも思わず感嘆の声を漏らす。
というのも昨晩、グラ爺はこういったのだ。
「恐らくあの軍は近くの砦に籠るはずじゃ。そこが狙い目じゃよ。」
「なんだと?」
エレンが訝しげにグラデンスに尋ねる。グラデンスは自信たっぷりに言い切った。
「うむ。間違いないじゃろうな。少なくともワシならそうするわい。」
「どういう事です?」
リムアリーシャが尋ねる。グラデンスは笑いながら言った。
「かの軍勢はどうにもお主らの軍よりも動きが鈍そうでのう。恐らく、白兵戦ではいくらルジーナがおったとしてもかなりの被害が出るじゃろう。だがあの軍勢の動きが鈍いのは鍛えておらぬからではない。彼らが守りの軍勢じゃからじゃ。」
「守りの・・・軍勢。そういえばイェーガー殿もそう申されてました。」
リムアリーシャがそう呟く。
「なるほど。だから籠城戦に持ち込むのか。」
「確かに・・・。あいつの考えそうな事だな。籠城するという意見には納得いったがそこが狙い目とはどういう事だ?」
エレンが尋ねる。
「うむ。籠城戦になるという事は、じゃ。逆にイェーガーの位置を把握し易いのじゃよ。そこで提案じゃ。ワシが考えた策は派手な陽動作戦じゃよ。」
「陽動作戦・・・ですか?」
リムアリーシャが尋ねる。グラデンスは頷く。
「うむ。まず、エレオノーラ殿とリムアリーシャ殿、お二人には兵を率いて敵の砦に前で派手に戦って欲しい。じゃが、なるべく味方への被害を少なくな。ーーお二人が戦っとる間にワシとティグル殿で敵の砦に忍び込みイェーガーを救い出す。簡単な策じゃろ?」
「砦に忍び込む・・・ってかなり危険な策じゃないか?」
ティグルが尋ねるとグラデンスは答えた。
「うむ。たしかにかなりの危険を伴う。じゃがの、この策はかなり効果的じゃぞ。少なくとも真正面から敵を打ち破るよりかはの。」
「一つ尋ねたいのですが。どうしてティグルヴルムド卿なのです?ティグルヴルムド卿が戦場にいなくてはかえって敵が疑問に思うのでは?」
リムアリーシャが尋ねるとグラデンスは頷き言った。
「うむ。じゃが、ティグル殿はオルミュッツの戦姫殿と面識はあるがお主らより浅い。故の決断じゃよ。」
グラデンスはそう言う。
リムアリーシャは確かにと理解はした。だが、納得した訳では無かった。
イェーガー殿は・・・モルザイム平原の時もロドニークの時も私を助けてくださっていた。このまま恩を返せなくては私は・・・!!
「・・・。グラよ、頼みがあるのだがーー。」
「フォッ?」
グラデンスが意外な声をあげるとエレンは答えた。
「私の事なら大丈夫だ。だから、リムも一緒に連れて行って欲しい。」
「エレオノーラ様!?」
リムアリーシャが驚きに声をあげる。
グラデンスは静かにエレンに目をやると尋ねた。
「理由を尋ねても良いかの?」
「理由はさっきも言った通りだ。私なら一人でも大丈夫だしそれに潜入する時の不測の事態に備えて連れて行けば問題なかろう?」
それは理由にしては根拠が弱すぎた。
潜入するなら人数は少ない方が良いしエレンが一人で大丈夫であるという保証は絶対にない。
「エレン!それはーー。」
無茶だとティグルが続けようとした時ティグルはエレンの目を見てエレンのやろうとしていることを悟った。
エレンはリムアリーシャの意を汲んだのだ。自分の大切な副官、その部下の想いを汲んだのだ。
グラデンスは目を閉じて少し考えると言った。
「ふむ。そこまで言うのならば連れて行こう。じゃが、エレオノーラ殿。くれぐれも無茶はするでないぞ。」
エレンは力強く頷いた。