魔弾の王と召喚師   作:先導光

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病の戦姫

 一方同時刻レグニーツァにて。

 

セリアは一つの部屋へと通された。その部屋は公宮の一室というには簡素でほとんど最低限の家具しか置かれていない部屋だった。部屋の壁にとりつけられた暖炉が赤々と燃え数少ない彩りを放っていた。

その部屋の中央にあるベッドに体を起こしている黒い短髪の女性がいた。女性はどこかはかなげな雰囲気を放ちながらもその目からは確かな強い意志の輝きが見て取れた。そして、手元には二振りの赤い短剣が置かれているがそれが不思議な安心感を与えていた。

女性はセリアを微笑みながらむかえいれた。

 

「はじめまして。レグニーツァの主にして七戦姫が一人のアレクサンドラ=アルシャーヴィンです。」

「ええ…っと…。」

 

セリアは戸惑っていた。今まで少し問題はあるが愛すべき女神や強力な神と話す時、彼女は決まっていつもの口調だったからだ。と言うのも、神々とは敵対することの方が多かったと言うことがあるからだ。だが、目の前のアレクサンドラと名乗る女性の言葉には敵意が無くどこか優しさが含まれているからだ。

セリアが戸惑っているとアレクサンドラは続けた。

 

「私の事は気軽にサーシャとよんでくださいね。」

 

その一言でセリアはハッと我に返り慌てて名乗った。

 

「セリアです。ええと…サーシャ様?」

 

少し緊張気味のセリアを見てサーシャはクスリと静かに微笑むと続けた。

 

「では、セリアさん。一つお願いがございます。」

「な、なんでしょう!?」

 

セリアが身構えるとサーシャは微笑んだまま続けた。

 

「…できれば親しい友人と話す時のような口調で話さないかい?堅苦しい会話は少し疲れると思うんだ。」

 

セリアは一瞬面食らった。が、既に砕いた口調の彼女を見てそれに続く事にした。

 

「え、ええ。そうしてもらえると助かるわ。」

 

セリアがそう答えるとサーシャは頷いた。

 

「では、改めてようこそ。レグニーツァへ。早速で悪いんだけれど何で君が公宮の庭で倒れていたのかを聞きたいのだけどいいかな?」

 

サーシャがそう尋ねるとセリアは少し困った顔をした。

その表情を見てサーシャは首を傾げる。

 

「どうしたんだい?」

 

セリアは少し考えた末にこう答えた。

 

「もし私が他の世界からやってきたって言ったら信じる?」

「・・・にわかに信じられないね。」

 

サーシャは一瞬呆気にとられた顔をしたが少し顔をしかめて答えた。セリアはその答えを予想していた。

やっぱり・・・。ここはこの世界の人間って事で乗り切るしか・・・。

セリアは素早くそう判断するとさっきの言葉は冗談と続けようとした。だが、それより早くにサーシャが続けた。

 

「けど君の言ってることは嘘とは断定できないね。じゃなかったらそんなこと口にしないだろうしね。」

「え!?じゃ、じゃあ信じるの?」

 

セリアが驚きながらそう尋ねるとサーシャは苦笑しながらこう言った。

 

「勿論、無条件で信じる訳じゃないよ。ただ、何か事情があっての事なんだと思うから今はこれで納得するよ。」

「そ、そう・・・。」

 

セリアは内心安堵の息を吐いた。そして、尋ねた。

 

「あなたは何か病気なの?」

「うん。まあ、ちょっと治すのが難しい病気なだけだよ。」

 

サーシャはなんてことはないかのようにそう言ったが実際はそんなに単純な物ではない。

血の病ーーサーシャの一族の女性が持つある意味では呪いのような病。発症するまでの潜伏期間も症状も一切不明。発症してからも死亡するまでの時間は人それぞれだが、治療法が無い為発症すると死ぬことになると言う病だ。

 

「ええと、大丈夫なの?」

 

セリアがそう尋ねるとサーシャはクスっと笑い頷いた。

 

「今は大丈夫だよ。多分、ね。」

 

その時、扉が慌ただしいく叩かれた。

サーシャが許可を出すとセリアをここまで案内した侍従が入って来た。

 

「どうかしたの?」

 

その慌てぶりを見てサーシャが尋ねる。侍従は息も絶え絶えに答える。

 

「大変です!竜が、竜が城下町に現れました!!」

 

その言葉を聞いた時サーシャは一瞬怪訝な表情をしたがすぐに表情を引き締め答えた。

 

「部隊を展開して竜を包囲して!警備隊は住人の避難を最優先に、正規の部隊は竜の気を引きつけて!」

 

そう言うとサーシャは立ち上がろうとした。セリアが慌てて尋ねる。

 

「ちょっと!どうするつもりなの?」

 

サーシャは先ほどとは異なるーー戦姫にふさわしい凜とした表情でセリアに答える。

 

「僕が行く。竜が出たなら僕が戦わなきゃ・・・!」

「戦うってそんな状態で?無茶よ!」

「でも他に手は無いよ。」

 

サーシャがそう答えた時セリアは微笑んで答えた。

 

「あるじゃ無い。手なら。」

 

サーシャが怪訝な表情を浮かべてセリアを見てその言葉の意味を推し量った時、呆れた表情を浮かべて答えた。

 

「君が戦うの?それこそ無茶だよ。」

「まあ、見てて。」

 

セリアはそう言うと素早く外へと飛び出す。廊下を駆け抜け一気にバルコニーへと飛び出す。街を見渡せるバルコニーから見えた町は美しかった。こんな状況でなければ長く見惚れていただろう。だが、町には一体の茶褐色の竜が居た。そしてそれは眼下に広がる街に攻撃を仕掛けようとしていた。

 

「させないわ!」

 

セリアはそう叫ぶと詠唱した。

 

『大空は貴女の世界。紅き翼翻し、害なす敵を焼き尽くせ!』

「出番よ!創竜姫神アーシャ!」

 

空に紅い召喚陣が展開される。そこからひときわ強い光が放たれると紅い竜に乗った紅い鎧の女性騎士が姿を表す。

創竜姫神アーシャーーグランガイアで初めての竜騎士にして神々に抗った英雄。竜との連携より放たれる攻撃は如何なる敵をも打ち倒したと言われてる。

セリアは大剣を構え竜に飛び乗る。

 

「さあ、行くわよ!」

 

今、紅き鬼神の焔が放たれる。


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