「あれが、キキーモラの館です。」
リムアリーシャがそう言って指さしたのは荒野の丘にぽつんと建つ黒い建物だった。
「へぇ。あれが、別荘か。ところで、どうしてキキーモラって呼ばれてるんだ?」
ティグルがそう尋ねるとリムアリーシャは表情一つ変えずに答えた。
「キキーモラとは我が国に伝わる妖精の名前で善人の家の安全を守ると言われています。それゆえ、凝った名前でも付けない限り別荘にはこの妖精の名前が冠されます。」
「へぇ・・・。じゃあもし俺が別荘を建ててもイェーガーの別荘では無くキキーモラの館って呼ばれるのか?」
イェーガーがそう言うとリムアリーシャは答えた。
「はい。イェーガー殿がそう呼べとおっしゃらない限りは。」
そんな他愛のない話をしているうちに三人は館についた。
館の屋根は黒く館の大きさはティグルの屋敷と同じ位であった。
「結構デカイな・・・。」
そうつぶやくイェーガーを横目にリムアリーシャは勝手知ったる様子で館に足を踏み入れると厩舎へ向かいホッとした様子で呟いた。
「エレオノーラ様は既に到着なされているようです。」
そう言うリムアリーシャの視線の先には一頭の馬がいた。恐らく、エレオノーラが乗ってきたものだろう
三人は手早く馬の世話を終えると厩舎を出て入り口の扉の前に立った。
リムアリーシャ扉をノックすると程なくエレオノーラが顔を出した。青を基調とした服装で腰には銀閃、アリファールを佩いている。
「来たか。」
エレオノーラは無邪気とも取れるような笑顔を浮かべてそう言う。彼女は三人を館に招き入れた。
ティグルはテリトアールから担いできた袋を見てエレオノーラが感心したような声をあげた。
「ずいぶん大きな土産だな。」
「土産というほどの物ではありませんがぜひ見ていただきたくてお持ちしました。」
「そいつは楽しみだ。」
エレオノーラがそう言った時、三人の間をふわりと優しい風が通り抜けた。
・・・アリファールの起こした風か?
「こいつも一人前におかえりと言いたいらしい。」
エレオノーラがそう言った時、イェーガーは予測があたった事を知った。
「では、再会を祝して。乾杯といこうか。」
四人でテーブルを囲むとエレオノーラは葡萄酒の瓶を開け、用意した四つのグラスに注ぐ。四人はグラスを重ね合わせ、乾杯と言う響きが重なった。
「ところで・・・どうして俺まで呼んだんだ?一応一介の旅人なんだが・・・。」
イェーガーが疑問をぶつけるとエレオノーラは答えた。
「リムからの手紙で知ったが、お前は私の兵達を死神のようなものから守ってくれたらしいじゃないか。それに関して一応礼を言いたくてな。」
ディリウスの事か・・・。結果的にあれはティグルが仕留めたが?
イェーガーがそう思った時、エレオノーラはイタズラっ子のような笑みを浮かべそれにと付け加えた。
「お前の住んでる世界についても知りたい。」
そうきたか・・・。まあ、隠すほどのもんじゃ無いな。
イェーガーはそう思い、葡萄酒を一口飲むと答えた。
「俺の住む世界。エルガイアは元々グランガイアと言う大陸に住んでいた人間が逃げ延びた土地だ。」
そう言うとティグルが尋ねた。
「逃げ延びた・・・って何から?」
「神だ。」
イェーガーはこともなげにそう言ったがエレオノーラ達はキョトンとした。
「イェーガー殿・・・。神とは・・・そのままの意味ですか?」
「そうだ。俺たちの世界では昔人間と神々は争いあっていたんだ。」
「何故争いあっていたんだ?」
ティグルが尋ねる。
「理由は様々だが、恐らく人間の中で神々に逆らった者が出たからだろう。」
イェーガーはコホンと咳払いを入れると続けた。
「結果的に俺たちは神々との戦に敗れある英雄と神の導きを得て逃げ延びた。」
「何?神は敵では無かったのか?」
エレオノーラが尋ねる。イェーガーは首を横に振り答えた。
「神の中でも都合というものはある。全滅の憂き目にあった人間を救い出したんだ。後は・・・わかるな?」
イェーガーがそう言うとティグルが納得したような表情になった。
「その神が人間の信頼を得て自分だけが信仰される世界が出来るって訳か。」
「そういうこと。」
イェーガーが肯定するとエレオノーラは不快そうに呟いた。
「・・・果汁水のまずくなるような話だな。」
全くだ。
イェーガーは心の中で同意すると続けた。
「ま、そんな経緯があり俺達は今の世界ーエルガイアに辿り着いたんだ。」
「じゃあ、召喚術もその助けてくれた神が与えたのか?」
ティグルが尋ねるとイェーガーは首を振り答えた。
「いや、その神の企みを快く思わない神が俺たちに与えた。・・・その神を倒させるためにな。」