魔弾の王と召喚師   作:先導光

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第三章凍てつきし大地
覇神帝アルトニクス


「で、どういうことか聞かせてくれないか?」

 

イェーガーはティグルにそう尋ねた。

幕舎へと移動したイェーガーはティグル、リムアリーシャと向かいあう位置に座りすぐに尋ねたのだ。

急だった事もありティグルは最初何について聞いているのか分からず呆気に取られた。

 

「何がだ?」

 

ティグルがそう尋ねるとイェーガーは答えた。

 

「あの黒弓の力だ。ありゃあ何だ?」

 

するとティグルは困ったような笑みを浮かべた。

 

「何だと言われても・・・実は俺もよくわからないんだ。前のザイアンとの戦いの時に初めて知ったきりで。」

「ザイアン?ああ、確か前に攻めてきた奴らの指揮官か。」

 

イェーガーはそう言われて後悔した。

あの時イェーガーはダリマオンとの戦いを終えすぐに気絶していたからだ。

だが・・・。イェーガーはディリウスに向かって放たれた矢を思い出す。

あの威力は尋常な物じゃなかった。あの矢は奴の『勇技』すらも蹴散らし標的を貫いていた。エレオノーラさんが持っている剣といいティグルの持っている黒弓といいこの世界は何なんだ?

 

「・・・イェーガー?」

 

考え込んでいるイェーガーにティグルが声をかける。

 

「ん?何だ?」

「俺も聞きたいことがある。・・・あの時現れたあいつもユニットって奴なのか?」

「ああ。冥界神ディリウス。話には聞いていたユニットだが実際に見るのも戦うのも初めてだった。」

「教えてくれ。ユニットってのは俺達でも使える物なのか?」

 

ティグルが真剣な表情で尋ねる。

もし自分にもあの力が使えるなら・・・人の力を遥かに凌駕するあの力が使えるならばそれを使って一つでも多くの物を守りたい。

ティグルはそう思ったのだがイェーガーの返事は冴えない物だった。

 

「・・・無理だ。」

「どうして?」

「・・・本来召喚術はある神が俺達グランガイア人が神々に抗えるように授けた力だからだ。」

 

イェーガーがそう答えるとティグルは納得しかねると言う表情になった。

 

「じゃあ、なんであいつは使えたんだ?」

 

あいつとはドナルベインのことだ。

ドナルベインはディリウスを呼び出した後その力に恐れ味方をおいて逃げていったがイェーガーはそれを知らない。

ティグルの一言にイェーガーは沈鬱な表情となった。そんなイェーガーを見てティグルとリムアリーシャは不安になった。少なくともイェーガーがここまで暗い表情を二人に見せたのははじめてだったからだ。

 

「ティグル、問題はそれなんだ。俺は少し敵を甘く見ていたのかもしれない。」

「・・・つまり?」

「相手は人に召喚術を与え使役させる事の出来る程の力を持った魔神と言うことだ。」

 

その一言を聞きティグルにはあまり実感がわかなかったのだがイェーガーの表情を見て恐ろしい相手だと思った。

 

「・・・イェーガー殿、我々に対抗する術はございますか?」

 

リムアリーシャが尋ねる。イェーガーは沈鬱な表情で考える。

・・・対して変わらないかもしれんがせめてルジーナとかがいればなあ。

 

「・・・厳しいと言わざるを得ない。」

 

イェーガーはため息混じりにそう言った。その時、ヴァルガスがイェーガーにいった。

 

《だーっ!お前はいつからそんなに弱気になったんだ!!》

 

ヴァルガス・・・。

 

《イェーガー。お前がルシアスとの最後の戦いの際にいった言葉忘れたわけじゃねえよな?》

 

・・・ああ。

 

 

それは半年前、イェーガー達を排除しようとしたルシアスとの戦いの時その圧倒的とも呼べるルシアスの力にイェーガーが諦めかけた時のことだ。

 

『諦めんな!今、お前の後ろにいるティリスやカル達を守れんのはお前だけだろうが!確かにルシアスの力は強大だ。だが、奴にはないものをお前は持っている。だから最後まで足掻いてみろ!!』

 

ヴァルガスのその言葉に奮起したイェーガーは【六英雄】すべての力を使いルシアスを倒した。

 

 

・・・そうだ。そうだったな。ヴァルガス。

イェーガーはフッと笑う。

やる前から諦めてる場合じゃない!

 

「大丈夫だ。ティグル、リーちゃん。どんな奴が来ようともぶっとばすからさ、二人はテナルディエとの戦いに集中してくれ。」

 

イェーガーは明るい声音でそう言い切る。

 

「ですが、イェーガー殿。どのようにその魔神を倒すのですか?」

「ん?ま、なんとかなるさ。人と神々の戦いは常に何が起こるかわからない。今回もうまくいくさ。」

 

その迷いを振り払ったイェーガーを見てリムアリーシャは僅かにだが安堵した。

ひとまずは元に戻った、と言うところですね。

 

「では、これからについて話し合いましょう。」

 

 

 

 

同時刻―ヴォージュ山脈より北方の土地ディナントにて。

 

「ゆ、許してくれよ旦那!」

 

ドナルベインが目に涙を浮かべて懇願した。その相手はレイブンであった。

 

「ならん。」

 

レイブンは無情にもそう言い放った。

ドナルベインは先の戦での失敗を咎められていた。

いかに予想外のことがあったとはいえこの下等な生物にこれ以上情状酌量の余地はない。

 

「消え去れ。」

 

レイブンはそう言うと左手を掲げる。左手から黒い球が生み出される。

 

「ひいぃぃぃぃぃぃ!お助けぇ!」

 

ドナルベインがそう叫ぶ。レイブンが球を投げつけようとした時だ。

 

「待て。」

 

静かな―だが威厳のこもった声がした。その声を聞きレイブンははっとして跪く。

そのレイブンの背後から中肉中背で血のように朱い髪をした碧眼の男が現れた。

 

「アルトニクス様!どうしてこちらに?」

 

レイブンがそう尋ねる。

男―覇神帝アルトニクスはドナルベインを見ながらこういう。

覇神帝とはアルトニクスの神々における異名だ

 

「火急の用事が出来たのでな。」

 

ドナルベインは目の前の男から発せられる覇気と恐怖により逃げる事も叫ぶ事もできずにいた。

アルトニクスはそんなドナルベインを見てこういった。

 

「人間よ、お前に最後のチャンスをやろう。我が授けるユニットを用いてこの地に新たに現れた三人の召喚師を葬れ。」

 

ドナルベインはあまりの恐怖の為頷くしかできなかった。アルトニクスはニヤリと笑うと術式を展開した・・・。


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