魔弾の王と召喚師   作:先導光

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暗雲の起こり

気絶してから約5時間後、イェーガーは目を覚ました。

全く。短期間に二度も気絶するとは俺もヤキが回ったか?

そう苦笑しながらイェーガーは周りを見る。イェーガーが寝かされていたのは幕舎の一つのようであまり広くはなかった。イェーガーは立ち上がり体に異常がないか確かめると近くに横たえられていたダンデルガを背負い幕舎を出た。

 

「あ、お目覚めですか?」

 

外に出ると幕舎の警備をしていた若い兵士にそう声をかけられる。

 

「ああ。・・・あれからどれほどの時がたった?」

「約5刻ほどです。」

 

イェーガーはそうかと短く返すとあたりを見渡した。

軍全体の戦闘の傷はイェーガーが想定したより深くはなく負傷者は多いが死者は少ないようだ。

 

「あの・・・もうしばらく休まれては?」

 

若い兵士はためらいがちにそう言う。

イェーガーはフッ、と笑みをこぼすと言った。

 

「大丈夫だ。それよりもリーちゃ・・・リムアリーシャ殿とティグルは?」

「お二人なら現在中央の幕舎にて軍議をしております。」

「そうか。ありがとう。」

 

イェーガーは礼を言うと二人のいる幕舎に向かい歩き出した。

ティグルには聞かなきゃならないことがある。

 

 

 

「イェーガー殿!あの時はありがとうございました!おかげでこのルーリック、一命を取り留めました!」

「・・・。」

 

イェーガーは困惑し目の前の禿頭の騎士を見た。

幕舎に向かおうとしてすぐにルーリックに出会いすぐにルーリックから溢れんばかりの賛辞を聞かされていたからだ。

・・・確かコイツって俺のこと悪く思ってなかったか?―まあ、俺の思い込みってのはあるが。

イェーガーはそう思いながら言った。

 

「いや・・・俺は大したことをしてないが?」

「何をおっしゃいます!あの光で我々をお助けくださってくれたではありませんか!」

「いや、あれはだな・・・」

 

イェーガーが戸惑って言葉を探しているとルーリックは神妙な声音になり言った。

 

「実は私、騎士でありながら上官の言葉を疑っていました。イェーガー殿に不思議な力があるはずなどない、そう思っておりました。」

 

いや、その反応は正しいぞ。

イェーガーがそう言う間もなくルーリックは話し続ける。

 

「ですがイェーガー殿は私の疑いを晴らしてくれたばかりかあまつさえ命まで助けてくださって・・・!このルーリック、誠に感服いたしました!」

「・・・お、おう。そうか・・・。」

 

うーん・・・困ったなぁ。これでは先に進めん。

イェーガーがそう思った時ルーリックの背後から二人の男女が歩いてくるのが見えた。

 

「イェーガー殿、目を覚まされましたか。」

 

ルーリックの背後からリムアリーシャがイェーガーにそう言う。そのそばにはティグルもいた。

ルーリックはリムアリーシャの声を聞き慌てて二人の間を避けた。

 

「ああ。なんとかな。」

 

イェーガーは内心でホッとしながらそう言う。

 

「無事でなによりだ。」

 

ティグルがそう言う。イェーガーはくすんだ赤い髪の青年に目を向けた。

 

「ティグル―」

 

聞きたいことがあると続けようとした時リムアリーシャが遮ってこういった。

 

「立ち話もなんですからあちらへ。」

 

そう言って幕舎へと歩き出した。

イェーガーもそのあとに続く。

 

 

 

 

その場所からかなり離れた土地、テナルディエ公爵の領地ネメタクムのテナルディエ邸にて。

 

「・・・やはりドナルベインでは小僧の相手にもならぬか。」

 

大柄な体躯を豪奢な絹服に身を包んだ黒ひげの男―テナルディエ公爵は私室で部下から報告を受けていた。

テナルディエ公爵は怒りを表情ににじませた後その部下を下がらせた。

 

「・・・あのユニットとかいうものはドナルベインごときでは使えぬということか。」

 

テナルディエ公爵がそういった時私室の暗がりに隠れていた男―レイブンにそう言う。

 

「いかにも。だが、テナルディエよ。それは汝にも言えることだ。」

「・・・ふん。ならば貴様が使えば良いだろう。だが、ユニットは我らにとって切り札となる。お前には我らの指揮下に入ってもらうぞ。」

「・・・思いあがるな人間。貴様ら下等な猿ごときが我ら神々を操れる訳が無かろう。」

 

レイブンは真紅の目に怒りをにじませながらそう言う。

本来ならレイブンはテナルディエだけでなく人間に力を貸すことなど望んでいなかった。

 

「そのようなことをすれば、貴様に命令を下したアルトニクス様は黙っておらんだろう?」

「・・・。」

 

レイブンは無言で肩をすくめた後尋ねた。

 

「策はあるのか?」

 

するとテナルディエは思案顔となり答えた。

 

「小僧にはもったいないが『七鎖(セラシュ)』を使おう。そして―」

 

テナルディエはここで言葉をきると書状を準備しながら答えた。

 

「戦姫には戦姫だ。」


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