「よし!ここらで相手になってやるぜ!」
戦場から三百メートルほど離れたところでサザンとレナードは踵を返しイェーガーに襲いかかってきた。
レナードはナイフ、サザンは斧を構えて突っ込んでくる。
・・・なにが狙いだ?
イェーガー達のいるエルガイアで伝えられているサザンとレナードは狡猾さと大胆さ二つを備え兼ねた人物だ。なんの意味もなく突っ込んでくるとはイェーガーには思えなかった。
ええい!やるしかないか!
イェーガーは迷いを捨てダンデルガを振る。
「うぉら!」
サザンがレナードより前に飛び出しダンデルガを斧で受け止めた。イェーガーの動きが止まった隙をついてレナードが二本のナイフを繰り出す。
イェーガーはそのナイフを避けようとしたがダンデルガがサザンにより止められていて動けなかった。
しまった!
ナイフがイェーガーに触れるかと言う時、一本の矢がレナードを襲った。
「うおっ!危な!」
レナードはそう言って慌てて下がり矢を避けたが避けきれず矢はレナードの左腕を貫いた。
レナードが悲鳴をあげサザンが動揺した隙をついてイェーガーは後ろに下がり体勢を立て直す。
どこから!?
イェーガーが矢の飛んできた方を見るとそこには次の矢をつがえたティグルがいた。
おいおいおいおい!ここからあそこまで三百メートルぐらいあるぞ!それを当てるって・・・あいつはラリオかロクスかよ!
ラリオとロクスはグランガイアの英雄の一人で両者ともに優れた弓の使い手であり神々に立ち向かった。今のティグルはそれに匹敵するほどの実力を見せたのだ。
「いてぇ!いてぇよ!」
レナードがそう叫ぶ。矢が刺さった左腕からは血が溢れている。
あの分なら左腕は使い物にならないな。
「てめぇ!」
サザンが怒りの表情を浮かべて襲いかかってくる。だが、一対一ならイェーガーに分があった。
振り下ろされる斧をダンデルガで弾きその勢いのままに斬りつけた。ダンデルガはサザンを二つに切り裂いた。
サザンの死体はその場に崩れ落ち光に包まれ消え去った。
倒されたユニットは光となって消え去るが消滅したわけではなく再び呼び出すことは可能だ。
ただし、少しの時間がかかるため一度倒されると再召喚はすぐにとはいかない。
少なくともここで倒しておけば、少しはマシになるはずだ!
イェーガーはそう考えレナードがいた方を見るとすでにレナードの姿はなかった。
「倒せた?・・・いや、逃げたな。」
イェーガーは誰にいうわけでもなくそう独りごちる。
何はともあれ・・・ティグルに助けられたな。
イェーガーは静かに戦場に目をやると野盗達はジスタート兵の奇襲にあい算を乱して敗走するところであった。
・・・今のサザンやレナードといいこの間のダリマオンといい何故あれほど強力になっているんだ。さっぱりわからん。
イェーガーはそう考えながら味方と合流した。
「何か言いたい事はありますか?」
その日の野営の時、イェーガーは幕舎でリムアリーシャにそう詰問されていた。幕舎には二人のほかにティグルもおり三人は机越しに向かい合っていた。
「いや、その・・・」
「その・・・ではありません。全く、軍を飛び出し単騎で挑むなど無謀なことを。」
リムアリーシャは詰問の声に若干の呆れを混じらせながらそう言う。
「まあまあリム。イェーガーも少しは懲りただろうからそのへんにしておいてやってくれないか?」
「・・・ティグルヴルムド卿がそうおっしゃられるなら。」
リムアリーシャは不服そうだがティグルの穏やかな声音に負け引き下がった。
イェーガーはティグルに向きなおりこう言った。
「ティグル・・・。今日は助けてくれてありがとな。」
「別に大したことじゃないさ。」
いや、大いに大したことあるよ!
イェーガーは内心でそう突っ込んだ。
「けど、イェーガー。君はもう少し周りに頼ってもいいんじゃないか?」
ティグルがそう言ったのを聞きイェーガーはティグルを見る。
赤髪の青年は真摯な響きを込めてイェーガーに話を続けた。
「俺は君とあってまだ日は浅いけど、なんとなく君が多くの物をひとりで背負っているように見えるんだ。」
「・・・どういうことだ?」
「例えば、この間の魔神の話をした時、君は自分以外では相手にならないといった。」
それがなんだというのだろう?
「確かにそうかもしれない。だけど、それと他の―えーっと、ユニット?との戦いなら俺たちでも手を出せるんじゃないか?」
・・・間違いではない。
「今日の戦闘も君はユニットをなんとかしようとしたのはわかる。だけど、そのためだけに自分を危険に晒すような真似はしないでくれ。」
そこでイェーガーは以前にも同じような話をある老召喚師に言われたことを思い出した。
・・・自己満足な自己犠牲はやめろ・・・か。
イェーガーは今日の戦いを振り返る。
確かにティグルならば、あの弓の技量ならばなんとかなるかもしれない。仲間を頼れ・・・か。以前セリアにいったことが自分に返ってくるとはな。
「約束しよう。これからはなるべく周りにも頼って戦うよ。」
「そうか。・・・わかってくれてありがたいよ。」
ティグルは安堵したようにそう言う。リムアリーシャはイェーガーを見る。
・・・先ほどよりも心なしか晴れ晴れした表情のなった気します。
「では、軍議に移りましょう。」
それでも、リムアリーシャは冷静にそう言った。
その野営地点からかなり離れたヴォージュ山脈の野盗の隠れ家にて。
「・・・つまりサザンは倒されたと?」
「ああ。すまねえな。」
野党の首領であるドナルベインは白髪で赤い目をした長身痩躯の若い男にそう言う。
「だけどな、レイブンの旦那。やはりテナルディエの旦那が言ったように相手は手ごわいぜ?何か手はねえのか?」
するとレイブンと呼ばれた若い男は少し考え込む仕草をしこう言う。
「では新たなユニットを呼び出そう。その力を使いジスタート軍もろとも召喚師を葬るのだ。」
「・・・具体的にはどうやって?」
するとレイブンは赤い目に冷たい輝きを帯させドナルベインを睨む。
「人間風情が・・・。そんな事も考えられんのか?」
その圧倒的ともよべる覇気に押されドナルベインは顔を青くして謝る。
「す、すまねえ!だから許してくれ!」
「・・・フン。」
レイブンは鼻であしらうと後ろを向き唱えた。
『強大な虚無の力よ。死を司る者よ。我が前に現れ生命を刈り取る鎌を振るうがよい。』
「顕現せよ。●●●●●●●●!」
すると召喚陣から鎌を持つ死神が姿を現す。
「ヒイ・・・。」
その姿を見たドナルベインは恐怖のあまり腰を抜かした。レイブンは興味なさげに目をやるとこういった。
「このユニットも貴様の命に従い動く。好きに使うが良い。・・・だが不甲斐ない戦いをすると貴様と仲間の命はないと思え。」
レイブンはそう言うと闇に溶けて消え去った。