一段落着いたので更新再開します。
今回大鎌を持つ女性が出ますがヴァレンティナではありません。
「マスハス卿?どちらにいらっしゃいますか?」
その言葉に反応しマスハスが返事をする。
「ティグル。わしはここじゃ。」
すると少ししてティグルが屋敷から出てきた。
「マスハス卿、ここにいらっしゃいました・・・。」
ティグルの言葉は戸惑いによって途中で終わった。
ああ、そういえばリーちゃんとマスハス様の間ではまだギクシャクとした空気が流れてるからな。
「戻ったか、ティグル。無事で何より・・・言いたいところじゃが、おぬしに聞きたいことがある。この屋敷に旅人とティッタやポーラ以外の女性がいるというのは、非常に珍しいことじゃのう?」
ポーラとは、近所に住む五十代の主婦だ。ティグルの父ウルスが存命だった頃に侍女として働いてこともあり、今でも忙しい時期に手伝いに来ることがあった。
「それも、旅人は異世界の人間とやらで、もう一方はジスタートの方でアルサスの代官というではないか。詳しい話を是非おぬしの口から聞かせてもらえんかな?」
ティグルはイェーガーとリムアリーシャ、そしてヴァルガスにも目をやったがイェーガーは苦笑いをし、リムアリーシャはいつもと変わらぬ無愛想な表情でヴァルガスは事態が飲み込めたのか静かにしている。
ティグル・・・がんばれ!
イェーガーは心の中でそう言った。
「ふむ・・・。つまり隙を突くのは難しいと言うことかな?」
「御意。」
セレスタから少し離れた所で、二つの影が話していた。
「イェーガーは封神ルシアスを倒しただけのことはあり、迂闊に隙を見せませぬ。」
「ふむ・・・。」
影の一つが考え込む仕草をしこういう。
「では、ユニットを用いて彼を討て。もしくはあの貴族に討たせれば良い。」
「御意。」
そういうと影の一つが消えた。
「・・・くくくく。さて、イェーガー君はどう出るかな?」
残った影はそう言って高らかに笑うと後ろに大鎌を持つ黒髪の少女を引き連れて去っていた。
「リムアリーシャ殿、イェーガー殿、まずお主らを疑った事をお詫びしたい。」
手を膝について頭を下げるマスハスにイェーガーが慌てる一方でリムアリーシャは冷静に答えた。
「仕方の無いことです。こちらも、礼を失したことをお詫びします。」
「一体俺たちが帰ってくるまでに何があったんだ?あと、そちらの方は?」
ティグルがヴァルガスを見て尋ねる。
「ああ。お前と会うのは初めてだな。俺はヴァルガス。旅の剣士で今はイェーガーの助っ人だ。」
「ああ、ティグルこいつは・・・。」
イェーガーがヴァルガスの紹介に重ねて自分の呼び出したユニットであることを説明した。
「へぇ・・・。話には聞いていたが実際に見るのは初めてだな。ところで制限みたいなものはあるのか?」
「ああ。召喚師が呼び出したユニットには制限時間があってなこれぐらいなら後15分は大丈夫だ。」
「へぇ、制限時間があるのか?」
ティグルが感心した時マスハスが咳払いをした。
「ティグルヴルムド卿。」
リムアリーシャも話に脱線に気づき静かに呼びかける。
「すまない。」
「・・・ところで、リムアリーシャ殿、イェーガー殿。あなた方にお尋ねしたい。」
マスハスがヒゲを撫でながらイェーガーたちを見て質問する。
「あなた方は何故ティグルを助けたのだ?」
「エレオノーラ様は義を重んじ、情に厚い方ですので。」
「ただ、義と情だけで動いてくださったと?」
「契約も重んじます。ラジカストの名にかけて。」
ラジカストとはブリューヌとジスタートで信仰されている神でこの神の名を用いた約束事は非常に思いとされている。
リムアリーシャとマスハスが話し終わるとマスハスはイェーガーに目を向けた。
「うーん・・・俺の場合は単なる偶然ですね。」
「偶然・・・とは?」
マスハスに尋ねられイェーガーはバツの悪い表情をしてテナルディエの私兵と戦った経緯を話した。
「つまりですね、俺はそもそもアルサスを守るためではなく、自衛のために戦っただけ、というわけですよ。」
「・・・ではあなたはこの後その召喚院とやらに戻られるのか?」
「いえ・・・そうもいかないんですよ。」
イェーガーはテナルディエとの戦いで感じた魔神の気配について話した。
「魔神・・・本当にそのような者が存在するのか・・・?」
マスハスが厳しい表情でイェーガーに尋ねる。
「それは間違いないです。俺の力を凌ぐ魔神が一体か二体はこの地に存在しています。」
「・・・ではあなたはどう動かれるのです?」
「俺はティグルヴルムドきょ・・・!」
ちゃんと名を呼ぼうとしてイェーガーは失敗し舌をかんだ。
その様子をティグルが半ば呆れながら見つめリムアリーシャが冷たい視線を送った。
「おいおいイェーガー・・・。肝心なとこでかむなよ・・・。」
ヴァルガスがそう呟いた時ヴァルガスが光となって消えた。制限時間が来たのだ。
「消えた・・・!」
ティグルが驚きに満ちた目でヴァルガスのいた空間を見る。
「・・・俺はティグルと共に動きます。」
イェーガーが気を取り直してそう言って続けた。
「おそらく、魔神はテナルディエに対し何らかのつながりを持っています。ということはテナルディエを叩けば魔神も出てくる可能性は大いにあるでしょう。」
「・・・イェーガー殿、魔神とやらは強力な敵なのか?」
「間違いなく。おそらく俺以外では相手にできないでしょう。」
イェーガーは確信を持ってそう言った。
事実、召喚師の力は召喚術のない世界では一国の軍隊を遥かに凌駕するだろう。それを超える魔神の強さは生半可なものではない。おそらく、戦姫でも勝ち目はないだろう。
「・・・よくわかった。ならば、今一度ティグルに力を貸してやってくれ。」
「もちろんです。」
イェーガーはそう答えた。