「さて、では私はそろそろ行くとしよう。」
エレオノーラが唐突に立ち上がる。イェーガーは目を丸くして尋ねた。
「どこかに行くのか?」
「ん?ああ。ジスタートの王都にな。」
エレオノーラがそう言う。
「王都?」
「陛下に事の仔細をお伝えしなければならないんだ。」
「へぇ・・・戦姫っていうのも、大変なんだな。」
「まあ、仕方のないことだ。」
エレオノーラが苦笑混じりにそう言う。
事実、戦姫はジスタート国内においては王に次ぐ程の位の高さであり世界的に見ても最重要人物でもあるのだがイェーガーはこのことを知らない。
「さて。」
イェーガーは客室で召喚院に報告するため端末を荷物から取り出した。
というのも、エレオノーラはジスタートの王都に行きティグルはティッタとともに村の見回りにいった為屋敷には彼とリムアリーシャしかいないのだ。
「面倒だが、場合によってはユニットを増やす報告をしとかなきゃなぁ・・・。」
イェーガーはそう独りごちた。
イェーガーが使用出来るユニットは何もヴァルガスだけではない。ただ、ヴァルガスはイェーガーの持つユニットの中でも最高クラスの強さを持っておりさらにイェーガーの旅が始まってからの長い付き合いなので、イェーガーはヴァルガスを重宝しているのだ。
「召喚院。こちら、イェーガーだ。応答願う。」
イェーガーは端末に呼びかける。が、端末からはノイズしか帰ってこない。
「召喚院?応答してくれ。リム。」
イェーガーは自分を先輩と呼び慕うオペレーターの名を呼んだ。が、やはり返事はなくノイズのみが帰ってくる。
「リム?応答してくれ。リム?」
やはり、ノイズしか帰ってこない。
故障でもしたのか?
イェーガーはその可能性を考えすぐに打ち消した。というのも召喚師の持つ端末は非番の時は召喚院預かりとなり預かられている間は常にメンテナンスをされているからだ。
だとすれば何故・・・?
イェーガーがそう疑問に感じた時客室のドアがあいた。
「何をしているのですか?」
淡々とした声音でリムアリーシャが入って来る。
「あれ?どうしたんですか?」
「あなたが私の名を呼ぶので。」
イェーガーはそう言われて怪訝な表情になったがすぐに合点がいった。
そういえば、この人はエレオノーラやティグルからリムと呼ばれていたな・・・。ややこしい!
「すまない。召喚院と連絡を取ろうとしてたんだ。」
「・・・それと私の名、どのような関係が?」
「ああ、それは・・・。」
イェーガーは召喚院にいるリムについて教えた。すると、リムアリーシャは表情を変えずにこういった。
「なるほど。」
いや。全然なるほどっていう表情じゃないだろう・・・。
イェーガーはそんな事を思っていたがリムアリーシャは続けた。
「連絡は取れたのですか?」
「いや・・・何故か通信―連絡が取れない。」
「その道具が壊れた、ということは?」
「ないない!これは俺の任務がない間は召喚院に管理されてて常にメンテナンスされてるんだ。だから、大丈夫だ!・・・多分。」
「め、めんてなんす?」
リムアリーシャが目を丸くしながらそういった。
その表情が新鮮だったイェーガーは思わず笑っていた。
「な、なにがおかしいのですか?」
リムアリーシャが声音に羞恥と怒気を僅かに含ませてそう言う。よく見るとその顔も僅かに赤くなっている。
「悪い悪い!あんたのそんな顔初めて見たからつい・・・。」
イェーガーは息を整えるとこういう。
「メンテナンス、ってのは簡単に言うと道具の点検ってことだ。」
「・・・なるほど。なのに連絡が取れないというのは?」
リムアリーシャがそう尋ねるとイェーガーは表情を曇らせた。
「わからない。考えられるのはゲートがしまったってことぐらいだが多分大丈夫だろう。ま、なんとかなるさ。」
イェーガはそう言うと端末を荷物の中にしまった。