今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。   作:漣@クロメちゃん狂信者

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2017/10/28 改稿しました。
作業BGMは「フィクサー」でお送りしました。


まさかの襲来

誰か…誰でもいいです。本当に。この際危険種でも動物でも何でもいいです。なので、頼むから!

 

「…夢だと言ってください。」

 

「ふむ、ここか。ナジェンダ将軍とロクゴウ将軍御用達の店は。まさか、店主が10代半ばだとは思わなかったが…良い目をしているな、少年よ。」

 

「……え、あ、はい。ありがとうございます。そして、いらっしゃいませ…?」

 

「何故疑問符を付ける。今日は客として来ている。気にするな。」

 

いや、気にするでしょ、普通。逆にどうして気にならないと思っているのか…。分からない…何考えてるのか分からない!将軍ってこんな人ばっかりか!

 

「えっと…取り敢えず…本日は何をお求めですか、ブドー将軍殿…。」

 

そうです。本日のゲストはこちら、帝国代表と言っても過言ではないこの方、ブドー将軍がいらっしゃっております。待って、待って。この人、確か軍でも一、二を争う実力者だよね…?(震え声)こんな「ちょっと雑貨屋行ってくるー」くらいの軽いノリでいきなり来られても困るんだけど!?

 

「うむ、ナジェンダ将軍にここの薬がよく効くと聞いてな。しかも、我が軍の医務官にも見放されたロクゴウ将軍の腕を後遺症も残さず治したと言うではないか。最近始まった異民族との戦で兵士たちの傷も絶えないのでな…丁度早く治せる薬を探していたのだ。」

 

「さ、左様ですか…では、傷薬をお買い求めで?」

 

「あぁ、頼む。出来れば小分けにして大量に欲しい。ナジェンダ将軍も言っていたが各兵団に配りたいのでな。」

 

「了解しました。城の方にお届けすれば宜しいですか?」

 

「あぁ、頼む。」

 

「か、畏まりました。」

 

思わず軽く敬礼した自分はおかしくは無いはず…。何というかこの方は威圧感が凄い。ただそこにいるだけでも緊張する。存在感が半端ない。

てか、紹介したのナジェンダねーさんかよ…。よし、次来たときシバこう。いつも迷惑被っているし、たまにはやり返してもいいよね!これで僕の帝具をバラすとか冗談でも言って来たら、その時は遠慮なく見切りつけれるしね!うん、それで行こう!

 

【おい…】

 

なぁに、ジェミニ?何か文句でも?

 

【…ナンデモナイデス(悪魔かこいつ…)】

 

 

 

「あと、ついでに傷の手当てを頼む。先日、エスデス将軍と手合わせをしたときに腕を怪我してしまってな…医務官にも手当てを頼んだのだが、なかなかに治らん。ナジェンダ将軍を信じてお主にも頼んで見るとしよう。」

 

「…唐突に来ますね。まぁ、仕事ですしやりますけど…。中へどうぞ。」

 

…ぷ、プレッシャー!!……これ、結果出せなきゃ僕の首が物理的に危ない!!

いつも通りカンザシに店番を任せて、ブドー将軍を個室へ案内する。椅子に座るように促して、着席したのを見届けてから、ふぅと一つ深呼吸。

 

「では傷を見せていただけますか?」

 

「…!(空気が変わった、か。面白い。)あぁ、これだ。」

 

そう言って将軍は、肩から腕にかけて巻かれていた包帯を取る。これは…凍傷?まるで雪山か凍土で怪我をしたかのような…抉られたような傷。エスデス将軍と手合わせって言ってたよな…エスデス将軍何者だよ。

 

【エスデス将軍とやらは氷か冷気か、そういったもんにまつわる何かがあるみたいだな。】

 

(そうだね。傷の形状的に…レイピアとかの刺突武器だね。帝具かな?)

 

【かもな。怖ぇ女だな。】

 

(敵になったら厄介かもね。)

 

さて、ブドー将軍の傷だけど…うん、結構深いし、困ったときのナノマシンだよね!ってことでいつもの通りに。

 

「ブドー将軍殿、結構なお値段を取りますが傷痕も一切残さず30秒で完治する薬とそこそこなお値段で1日前後で普通に治る薬、安くて3日ほどで治す薬、さ、どれがお好みです?

因みに安い奴は塗り薬、他のは注射です。ついでに、30秒の奴だとかなり痛いです。」

 

「ほぅ…?ではお手並み拝見と言うことで30秒で治るものにしてみるとしよう。金はあるしな。」

 

「……ロクゴウ将軍といいブドー将軍殿殿といい、どうして痛いの選ぶんです…?」

 

M?Mなの?僕、悪いけどそういう趣味はないからね?

 

【ナチュラルサイコパスが何を言う…】

 

ジェミニが何か言っているが、気のせいだろう。

 

「ロクゴウ将軍も何か選んだのか?」

 

「えぇ、痛まない代わりに2日かかる奴と激痛の代わりに2時間で治す奴とで、後者をセレクトしましたね。」

 

「くっ…ははははは!!あやつらしいな。」

 

「ふふふ、では少々お待ち下さい。薬を取ってきます。」

 

カーテンの奥、薬棚の前へ。はぁ、やれやれ。ま、さっさと終わらせようか。

 

「オペレメディカル、再生薬、ディスポ3ml」

 

薬の入った注射器を持ってブドー将軍のもとへ戻る。

 

「お待たせしましたー。じゃあ、ちゃちゃっとやってしまいますね。」

 

…無言は肯定かな?んじゃ、遠慮なく♪

 

腕の傷の近くに針を刺し、薬を入れる。…はい、終わり。カウント開始。

 

「…!?くっ、なかなかに痛いな。」

 

「ですよねぇ…作っておいて難ですけど、正直これを選ぶ人の気が知れないです。でも、不思議と軍人さんや鍛冶師の方々には人気なんですよねー」

 

「ほう?鍛冶師にもか?」

 

「えぇ、何でも鍛冶は時間と気合、集中力が命だとか。怪我なんかで時間を費やすのは惜しいということらしいです。よく分かんないですけど。」

 

「はっはっはっはっは!!その武器鍛冶は面白い人物だな!」

 

「普段は気難しいおじさんなんですけどねー、何故か怪我するとハイテンションになるっぽくて…ダッシュでここに駆け込んできますよ。結構この薬高いんですけど、ちゃんと儲かっているのかな?」

 

…そんなこんなで会話をしていればそろそろ30秒。…3、2、1、ほいっ♪

 

「治療終了です♪お疲れさまでした。この薬で叫ぶどころか顔色一つ変えない人は初めて見ましたよ。」

 

「…すごいな。正直眉唾か、誇張されているものと思っていたのだが…傷痕一つなし、か…。」

 

そこにあるのは怪我する前と変わらないであろう腕。注射器を片付けながら、チラリとブドー将軍の顔を見ると、…うん、無表情。ん?あ、でも目がちょっとだけ大きくなっているかも?一応驚いているのかもしれない。

 

「医者、名はなんという?」

 

「…ラザールと言います。…僕何かしました?」

 

怖い!無表情の人がいきなり名前を聞いてくるって超怖い!僕何かした!?冷静な声を心がけたが内心は大混乱中である。そしてこの流れ、前もどこかで別の人とやった記憶があるぞ…。そう、あれは忘れもしないナジェンダねーさんを初めて治療したあの時…確かあの時は……。…ふふふ、次の展開が読めた、読めてしまった。いや、まだワンチャンある、あるはず…

 

「ふっ、ラザールか…覚えておこう。……と言うことで、軍の医務官にならないか?」

 

 

オ マ エ も か !

 

何が「と言うことで」なんですかねぇ!?何処をどう思っての勧誘なんです!?

分かった、分かったよ!これで完璧に理解した!やっぱり将軍と名の付く人は過程を創り出す能力に欠如している!確かにね、結果は大事だよ?出さないと意味ないよ?でもね、過程だって大事なんです!!数学でいう途中計算です。大事なものなんですよ(大事な事なので2回言いました)

途中計算というもの(越権行為)は、凡才(臣下や国民)が抜かして良いものじゃないんです。途中計算(越権行為)抜いて(働いて)良いのは天才(王様)だけなんですよ!!

はぁ、はぁ…よし、一度落ち着こう。

 

「すみません…大変喜ばしい提案ではあるのですが、その、お断りさせていただきます。ナジェンダ将軍やロクゴウ将軍にも誘われてはいますが…やはり、もう少し此処で頑張りたいのです。」

 

当たり障りのない回答を返す。実際、ここは自分で契約して、自分で建てた家であり、診療所だ。簡単には手放したくない。まぁ、今以上の平穏があるならば考えるが、どう考えてもそれはない。「軍の医務官=宮仕え」「宮仕え=厄介事」である。しかも最近は反乱軍とかいうものが出来たというし、もし医務官になってその人たちに「有能な大臣派閥の人物」だと目をつけられでもしたら…想像に難くない。ここは全力で拒否する。

 

「…そうか。では、今日の所は諦めておこう。」

 

「申し訳ありません。」

 

ヘコリと腰から深く礼をする。

 

…って、“今日の所は”?

 

「諦めはしない。その実力、いづれ確実に帝国に生かして貰う。」

 

返ってきたのは恐ろしい答えでした

 

「………気が向きましたなら。」

 

「必ずだ。」

 

「………」

 

何も言えねぇ…

 

【ナジェンダ以上に強烈な人だね…ボクも吃驚だよ】

 

(ジェミニィィィィ!!体代わって!僕もう無理!無理ぃぃぃ!)

 

【え、無理。てか、ヤダ。…ま、気に入られて良かったね、ラザール】

 

(お、鬼ィィィィ!!)

 

【悪魔が何を言うか。馬鹿め、ボクはしばらく表に出ないからな!】

 

「何を一人で百面相している。兎も角、今日は引くが、その内必ずその力、帝国の為に役立てて貰うぞ。代はここに置いておく。では、失礼する。」

 

「…あ、ありがとうございまし…た…」

 

 

や、厄日だ…。僕が何をしたって言うんだ…。

 

…よし、とりあえず次にナジェンダねーさんが店に来た時、確実に絞める。誰が何と言おうと絞める。僕の気苦労を思い知るがいい!!

 

 

 

 

 

 

その後、診療所のお得意様にブドー将軍を含む軍人さん方が更に増加したことは言うまでもない。そして、また別のある日、診療所から苦し気な女性の声が聞こえたという。

 

 




ブドー将軍とロクゴウ将軍の口調が分かりません(∀`*ゞ)テヘッ
違ってたらごめんなさい。

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