今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。   作:漣@クロメちゃん狂信者

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2017/10/27 改稿しました。
作業BGMは「このピアノでお前を8759632145回ぶん殴る」でお送りしました。


医師としての僕
現在


朝、カーテン越しに差し込む日の光に目を覚ます。

 

あぁ、懐かしい夢を見た。丁度旅に出て、帝具を手にいれた頃の夢。学ぶことが楽しくて楽しくて仕方なかったあの頃の自分。

 

拝啓、過去の僕らへ。今僕は…

 

「主!おはようなのだ!今日も良い天気じゃぞ」

 

「おはよ…カンザシ。時間は?」

 

「まだ、大丈夫じゃ。ご飯を食べてからでも十分間に合う。」

 

「ん。分かった。じゃ、今日も頑張ろっか。」

 

ちゃんと医者をしています。

 

 

 

 

 

僕はラザール。年齢は現在15歳。職業は医者。数年前までは旅をしながら薬師をしていたけれど、ここ帝都に来てからは、旅を止め、医師としてメインストリートで活動している。白兎の名前は健在。商人たちからの信頼厚く、都民の皆さんから愛される診療所として、その地位を確立させている。安めな上に腕がいいと、かなり売れているんじゃないだろうか。

 

 

最近、お得意様が出来た。

ナジェンダというかっこいい女性の将軍さん。洞察力が鋭く、高をくくって油断していた時に、僕が帝具持ちだという事を知られてしまった。さらに僕の帝具が医療においてとても役に立つことが分かると、「軍の医務官にならないか」と誘われるようになった。薬の値段をサービスする事で、国に帝具持ちであることを黙っていてもらっているが…少々強引な気があって、正直しつこい。もちろん口には出さないが。

 

 

テイムした危険種も増えた。以前より2匹増えての計7匹が現在の数だ。カンザシには普段から店を手伝ってもらっているが、たまにオロチやニャルも店に出てくる事がある。ニャルはともかくとしても、オロチの方は、お客さんに初めは怖がられた。でも、大人しいことや外見が白蛇であったこともあり、今では御利益のありそうなこの店のマスコットペットとして受け入れられている。カンザシに至っては、半獣半人形態を我慢し、ちゃんと人に化けているため、もはや看板娘である。先日は34回目の告白を受けて、情け容赦のない「ごめんなさい」が炸裂していた。美少女に化けるのは構わないが、自重してくれ。

 

現状報告としてはその位である。

 

 

 

 

なんて、誰に話すでもなく寝ぼけた頭の中を整理していると、

 

「主~!!ナジェンダが来たぞ~!!彼氏連れでな!」

 

「んなっ!?おい、カンザシ、コイツは彼氏なんかじゃっ///」

 

「およおよ、ナジェよ、顔が赤いぞー?」

 

「カンザシ!!」

 

なんと言うか、正体を知っている身としてはシュールだとしか言いようのない構図である。タイトル:超級危険種に弄ばれる将軍、である。何も知らない人がタイトルを聞けば、その字の通り、劣勢の中血生臭い戦場で激しい戦いを繰り広げる将軍を思い浮かべるであろう。しかし、今の情景は、普通に女同士のじゃれ合い…恋バナである。何ということでしょう。こうして考えるとカンザシの変化能力は本当に恐ろしい。人語を解せる以上に賢い、一国を容易く葬れる生物が、人に溶け込めるのだから。内側からの崩壊だなんて笑えない冗談だ。

 

まぁ、今考えることでもないか。

 

「おはよう。そしていらっしゃい、ナジェンダおねーさん。そちらの人は?」

 

僕が問いかけるたことで、本来の目的を思い出したのか、ゴホンと咳払いをするナジェンダさん。正直今更取り繕っても、手遅れだと思う…。しかし、本人的には切り替えられたのか、改めてこちらを見て言う。

 

「あぁ、おはよう。今日は頼みがあってな。こいつは私の同僚で飲み仲間の…」

 

「ロクゴウだ!初めまして。」

 

「どうも。ラザールです。医者をやっています。」

 

「カンザシと申す!主の助手じゃ!」

 

「おお、よろしくな!」

 

紹介されたので、とりあえず適当に挨拶を交わす。快活そうな気のいいお兄さんって感じの印象を受ける人だ。

 

「…ナジェンダおねーさん。今日のご用は何かな?」

 

「…あぁ。えっとだな…とりあえずいつもの傷薬が欲しいのと…あと、このロクゴウの怪我を診て欲しいんだ。」

 

 

店番をカンザシに頼み、診療所の中の個室に2人を招く。椅子に座るよう促して、話の続きを聞くことにする。

 

…聞くことにしたんだが。ことの顛末を聞いて僕は呆然とするしかなかった。

 

「ロクゴウが意地っ張りだったんだ。ここまでとは思っていなかったんだ。ラザール、どうかこの馬鹿の傷を見てくれ…そして出来れば直してほしい。軍属の医者は皆匙を投げてしまった。もう頼れるのはお前くらいなんだ。どうか頼む、この通りだ!」

 

そう言って頭を下げるナジェンダさんとロクゴウさん。

……これは何と反応すればいいんだろうか。

 

「…えーっと、つまりまとめると…先日あった賊の討伐作戦中に、ロクゴウ将軍が腕を怪我した。しかし厄介な事に、賊の使っていた武器に毒が塗ってあった。直ぐに手当てを受ければ、そこまで悪化しなかったものを、部下の前だからとロクゴウさんがやせ我慢して傷を隠していた。帰還途中で流石に毒が回って倒れ、高熱を出して生死をさまよったが、何とか命は助かった。しかし、傷と毒を長時間放置していた影響で腕が動かなくなり、さすがの軍の医務官たちもお手上げ…という解釈であっていますか?」

 

「「……その通りだ。」」

 

「はぁ…」

 

「ラザール君、みなまで言うな。俺も流石にやらかしたとは思っているさ。でも命を懸ける場で、将が情けない姿を見せれば士気にかかわる。反省はしているが…後悔はしていないよ。言うなれば自業自得という奴だ。無理はしなくていい。」

 

「まったくですよ…ロクゴウ将軍、失礼を承知で言わせてもらいますが…本当にバカですね。」

 

「ゔ…」

 

「いや、「ゔ」じゃありませんよ。情けない将は確かに問題あるでしょうが、将が死んだら兵士はどうすればいいんですか?余計混乱しますよ。まったく…敵の武器に塗ってある武器が、自己回復でどうにかなるなんて優しいものでは無いことくらい、あなただって分かるでしょう?」

 

「まったくだ…もっと言ってやれ、ラザール。」

 

「いや、まったくです、返す言葉もございません…。ホントすいませんでした…」

 

「…ま、治しますけど。」

 

「「は…」」

 

「とりあえず腕を診せて下さい。ナジェンダおねーさんはカンザシとお話しでもして待ってて下さい。」

 

「は、え…!?わ、分かった!この馬鹿…ロクゴウを頼む!」

 

「ほらロクゴウさん、早く腕出して。」

 

「あ、あぁ、悪いな…頼むわ。」

 

ロクゴウさんの向かいに座り、腕を診せてもらう。…冷たい。硬い。日焼けした肌だから目立っていないけど、肌からも血の気がない。

 

「…ホントにバカですね。」

 

「あは、はは~」

 

酷い状態の腕。バカかと聞くと、空笑いをしつつ目をそらす。

 

「はぁ、今日来て良かったですね。あと少し遅かったら、腕切断からの義手接続になっていましたよ」

 

「…そうか…やっぱり無理…………おい、今なんつった。」

 

「まだ、治せますよ。」

 

「…マジか?」

 

「はい。」

 

軍の優秀な医務官たちに諦めろと言われたのだ。一介の町医者である僕の言うことなんて簡単には信じられないだろう。

だから、僕はまた口にする。あぁ、こんなこと言うのも久しぶりだな。

 

「試しに僕に治療させて下さい。そうですね…僕が治療して2日。2日で腕が動かないようでしたら…僕のこと、殺しても構いませんよ。人を守る軍人の腕です。そのくらいの担保はあって然るべきでしょう?」

 

この発言には流石に驚いたらしい。まぁ、治らないと思っていた上に急に命がどうのって言われるんだもの、そりゃ驚くよね。まぁ、それで動揺してもらうのが狙いなんだけど。

 

「…分かった。頼むよ。あぁ、でも治らなくても死なんでいいぞ。どうせ、一度治らないと言われたのだ。今更気になどしない。自業自得だしな。その時のことはその時考えるさ。」

 

…良識派か。ナジェンダさんと同じ。この人は敵になるかな?ま、なんだろうと仕事はちゃんとしないとね。

 

「じゃあ、ロクゴウ将軍。」

 

「ん?なんだ?」

 

「めっちゃ痛いのと、そんなに痛くないのとどっちがいいです?」

 

「は?痛くないに越したことはないだろうが…何が違うんだ?」

 

「完治するまでの時間ですかね。成長痛くらいの痛みで2日掛けて治すのと、めっちゃ痛いけど2時間くらいで治るのと、どっちがお好みです?」

 

「…そんなすぐに治んのか?どうやって…?」

 

「まぁ、ぼかして言えば、解毒薬と身体再生を促すお薬をちょちょいのちょいと配合して出来た薬を打つだけですね。薬については企業秘密ですが、安心安全、清廉潔白、怪しくない真っ当なものです。例え怪しく聞こえたとしても、うちで売ってる傷薬にも配合されてる成分なので今までのうちの評判聞いていれば安全性は納得は出来るかと。…どうします?やめます?」

 

「…だぁぁ!!男は度胸だ!痛くてもいいから一発で治せ!」

 

「承りましたー。…じゃあ、激痛との戦闘頑張って下さいね…ふふふ。お薬持ってきまーす。」

 

「…おう。(ヤバいちょっと早まったかも)」

 

席を立ち、薬棚がある…ということにしているカーテンの奥に行く。手袋を外して作るのは…

 

「オペレメディカル…解毒・再生ナノ、ディスポ5ml」

 

ボソリと呟き、紋章から薬入りの注射器を出す。調合したのは身体細胞を超再生させるナノマシンと()()()()使()()()()()()()()()()。問題ないのを確認して再び手袋をする。そして、注射器を持って、ロクゴウ将軍のもとへ。

 

「じゃあ、逝きますよ~。」

 

「え、いきなり!?つか、いくの字おかしくね…ってわあーーー!?」

 

五月蝿いので話してる途中で、ササッとアルコールを染み込ませた脱脂綿で腕を拭き、注射器を刺す。ゆっくりと薬を入れていき…

 

「うん、よしOK。あ、ロクゴウさん、猿轡要ります?多分冗談じゃなく痛いので…舌噛んだらヤバいですし、一応タオル置いておきますね。遠慮なく使ってください。」

 

「お、おう。」

 

「じゃ、暴れているのを見られるのも嫌でしょうし…僕はナジェンダおねーさんに報告してきますね。また、2時間後。」

 

「分かった。……っっっ!!!???」

 

後ろで何か聞こえたが、容赦なく部屋を出て、鍵を閉める。報告のためにカンザシと談話しているであろう彼女のもとへ向かう。

 

「ん?あ、ラザール!どうだ?あいつの腕は治りそうか?」

 

「うん。今日で治します~。…あ、多分そろそろ五月蝿くなるんで。多分2時間程。」

 

「は?それはどういう…」

 

ドンドンドンドン!!!!

 

いきなりの強打音にびっくりする2人。始まった始まった。まぁ、あの部屋には壊されて困るものはないし、静かになるまで放置だね、うん。

 

【お前ってホントドSっていうか…容赦ないよな。極端っつーか…】

 

お黙り、ジェミニ!

 

 

 

2時間後、僕とカンザシとナジェンダさんは、無事復活したロクゴウさんと昼食をとっていた。

 

「…まさか本当に治るとは……ありがとうな、ラザール君。」

 

「いえいえ、その代わりにお代をがっぽりもらいますから~。」

 

「なぁ、ラザール君、キミ、軍の医務官に…「なりません。」そんな即答しなくても…」

 

とまぁ、先ほどからずっとこんな感じだ。ロクゴウさんの腕は全快。ロクゴウさんはそれに感謝を述べつつ、僕を軍に誘う…の繰り返しである。

 

「本当にありがとう、ラザール。お前にはもう足を向けて眠れないな…mgmg」

 

「いいえー。それが仕事ですからー。mgmg」

 

「ふふん、主は凄いのじゃ!やっとナジェも理解しおったか!mgmg」

 

「なぁ、ラザール君ー!やっぱり軍に…mgmg」

 

「あーもう、しつこいんだよっ!」

 

騒がしい昼食だった…

そして、食べ終わると、ナジェンダがロクゴウを引きずって帰って行った。さて、僕らも午後の商売を開始するとしよう。

 

「「いらっしゃいませ。」」

 

 

 

 

 

 


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