今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。 作:漣@クロメちゃん狂信者
シュークリーム食べたい。カフェオレと一緒に。
ナジェンダside____
マインからシェーレの訃報を聞き、会議室にシェーレを除いた全メンバーを集めた。こういう時は皆でいた方がパニックにならずに済む。案の定、各々怪我の手当てをしながら落ち着く時間ができたからだろう、割り切れなくとも少しは気持ちの整理が出来たようだった。
それにしても。
「何か引っかかるな…」
「どうした?ボス」
「いや、何か見落としていることがあるような…」
「「「「「「???」」」」」」
……マインが戻って来た直後には気づかなかったが、少し落ち着きを取り戻し始めた今、何かが腑に落ちない。何だ?私は何を見落としている?
「…それにしても、ラザールの薬はやっぱりよく効くわね。酷い怪我だったのに、もう血が止まったわ。傷痕もこれなら残らないかも!」
「そうだな~、これなら思ったより早めに治るりそうだ!早く治せよ、マイン」
「えぇ!手当てありがとう、レオーネ」
「ふっふ~、どういたしまして。」
……それだ。
自分の体から血の気が引いていくのが分かる。震え出しそうな指先を必死で抑え込むが、冷や汗が止まらない。
「どうして気づかなかった!?……これはかなりマズい!」
「?何がですか、ボス?」
「…ナイトレイドのメンバーが、バレた可能性がある。」
「「「「「「!!??」」」」」」
「どっ、どういうことよ、ボス!」
「そうだぜ、ナジェンダさん!俺らがバレた?今回のでマインちゃんの面は割れただろうが、まだ俺とレオーネ姉さん、タツミはバレてねぇハズだろ?」
「……お前ら、今まで誰と一緒に“Eli”に行ったことがある?」
「……まさか!!」
アカメは気づいたようだ。他のみんなはまだそこまで頭が回っていないのか、不思議そうに首を傾げている。
「…ラザールだ。クソっ!そこまで気が回っていなかった…私の失態だ!マイン、お前は誰と一緒に行動しているとき、ラザールに会った!?」
「え、えっと?レオーネとタツミ…って、あっ!!」
「ラバックは!?」
「お、俺は…えーと、レオーネ姉さんとだな…。…あぁっ!?」
「えっ、何!?どういうことだよ!」
タツミはまだまだ未熟だな。アカメに説明してやれと目配せする。
「タツミ、今回マインの面が割れたのは分かるな。そのマインが行動を共にしていた人間となるとそれはどういった間柄だ?」
「…あっ!?」
「やっと分かったか…」
そうだ。今回、マインが見つかったことで連鎖的にメンバーが割れた。ラザールがこれに気づかないワケがない。マズい、これはかなりマズい。ラザールは無理やりとはいえ大臣の膝元にいる。報告の義務のもと、これが大臣に知られれば…私達はかなり不利になる。革命軍にも多大な被害が及ぶだろう。
「……なんとかしなければ…。」
「…とりあえず、あたしが明日帝都を見てくるよ。大丈夫そうだったら、ついでにEliの様子も見てくる。」
「レオーネが適任か…頼んだぞ。」
「勿論!」
私達は気づかない。机の裏に巣を張っている一匹の蜘蛛がいたことを。
私達は知らない。この蜘蛛がとある危険種の支配下にあるということを。
私達が…知るわけがない。たかが蜘蛛としか思わない存在が、彼に情報を伝える手駒だったなど。
私達には、何も知る由もなかった。
~帝都王宮地下・拷問階~
表向きは静寂を保つ王宮。しかし、唯一常に騒がしい所がある。
“地下拷問階”
大臣に逆らった者やそれに関する大罪を犯した者が落とされる、巨大な“拷問部屋”である。男も女も関係ない。目を抉られ、四肢を潰され、肉を削がれ、爪を剥がされ、胴を貫かれ…その非道なまでの行いは言い出せばきりがなく、悲鳴が止むことはない。だというのに、最近とある医師の研究の副産物として大量の種類の毒薬、媚薬、麻薬などが卸され拷問はより最悪・凶悪なモノとなりつつあった。
「オラァ!もっといい声で鳴けやぁ!」
「オネスト様に逆らう奴はこうなるんだ!!」
筋肉隆々の大男達が口々に叫びながら、悲鳴絶叫を上げる者達に鞭打ち、休める間もなく次々と拷問をかけていく。
「何をしている…お前達を見ていると気分が悪くなる。」
不意に部屋中に一人の若い女の声が響き渡った。拷問官たちが睨むように声の主を見やる…が、直ぐにその顔は青ざめる。立っていたのは蒼い長髪を持つ美女。…拷問官なら誰もが知るエスデス将軍であった。後ろに控えるのは、彼女が率いる直属の部下であり、有能者。通称:三獣士。
それを見とめるなり次々と土下座を繰り出す拷問官たち。先ほどの威勢はどこへやらである。
「お戻りになられていたのですね!」
「お帰りなさいませ、エスデス様ぁ!」
彼女は拷問官たちの言葉に一つ頷いて返した。
「あぁ、つい先ほどな。しかし…何だコレは?拷問が下手すぎる。本当に気分が悪い。この大釜の温度はなんだ?すぐに死んでしまうだろう。」
そう言うなり、パチリと指をならす。その瞬間、温度が高いと指摘を受けた大釜の上には氷の塊が発現し、重力に従って釜の中へと落下した。
「…少し温くした。これ位が一番長く苦しむぞ」
「「「は…ははぁ!勉強になりますぅ!!」」」
再度土下座で床に頭を擦り付ける拷問官たち。その顔に浮かぶのは敬愛と憧憬、そして恐怖。拷問官たちの土下座は4人が拷問部屋から居なくなった後もしばらく続いてた。
~王宮・玉座謁見の間~
謁見の間には3人の人物がいた。幼き皇帝、跪くエスデス将軍…そして、相変わらず医師に隠れて食を貪るオネスト大臣である。
「エスデス将軍!北の制圧、見事であった。褒美として黄金一万を用意してあるぞ」
「ありがとうございます。北に備えとして残してきた部下に送ります。喜びましょう。」
その返答を聞き、うむと一つ頷いた所で皇帝が困ったように眉を寄せて続ける。
「戻ってきたばかりですまないが…仕事がある。帝都周辺にナイトレイドを始めとした凶悪な輩が蔓延っている。これらを将軍の武力で一掃して欲しいのだ。」
それを聞いたエスデス将軍は僅かにその雰囲気を変える。例えるなら、獲物を狙う猛禽類のような。その鋭く好戦的な光を隠すかのように彼女は瞳を閉じると、微笑みながら皇帝と大臣に“お願い”する。
「ご命令とあらば。しかしながら、それにあたってお願いがあります。」
「申してみよ!」
「ありがとうございます。賊の中には帝具使いが多いと聞きます。帝具には…帝具が有効。6人の帝具使いを集めて下さい。兵はそれで十分。帝具使いのみの治安維持部隊を結成します。」
「将軍には三獣士と呼ばれる帝具使いの部下がいたな…更に6人か?」
「陛下、エスデス将軍になら安心して力を預けられます。」
今まで空k…じゃなかった、傍観を貫いていた大臣が口をやっと開いた。
「手配出来そうか?」
「もちろんでございます。まことエスデス将軍は忠臣にございますな。」
ニコリと人畜無害そうな笑みを浮かべるオネスト大臣。ラザールがこの場にいたならば、ほぼ間違い無く鳥肌ものである。
「苦労をかける将軍には別の褒美も与えたいな…何か望むものはあるか?」
子供特有の無邪気な笑顔でエスデス将軍に問いかける皇帝。彼は爵位や領地を挙げたが…返ってきた答えはその斜め上を行くものだった。
「そうですね…敢えて言えば……恋をしたいと思っております。」
凍りついた。無論、彼女の帝具とは何ら関係ない。…が、文字通り凍りついた。エスデス将軍はドSである。ドS中のドSである。他人の蹂躙こそが快感のあのエスデス将軍が恋…!?呆然とするのも当たり前である。
「…そ……そうか!そうであったか!将軍も年頃なのに独り身だしな!(恋!?ど…どうすれば!?)」
「し…しかし、将軍は慕っている者が周囲に山ほどおりましょう?(恋!?正直彼女には全然似合っていない言葉ですよ!?何をいきなり言っているんですか、この人は!!)」
内心激しくテンパっている2人であったが何とか返事を返していく。
「あれはペットです。」
しかし、彼女の答えにあえなく撃沈する。困り果てる皇帝。白目の大臣。そして、皇帝の出した答えがコレである。
「こ…この大臣などはどうだ?いい男だぞ!」
「……ちょ、陛下ぁ!?」
「お言葉ですが、大臣殿は高血圧で明日をも知れぬ命…」
「こ…これでも健康ですよ、失礼な!……ゴホン。では将軍はどのような者が好みなのですかな?」
それを聞いてエスデスは胸元から一枚の紙を取り出した。
「…ここに私の好みを書き連ねた紙があります。該当者がいれば教えて下さい。」
「わ…分かった。見ておこう。」
そうして波乱の謁見劇は幕を閉じた。
~王宮・廊下~
謁見の間を後にしたオネストとエスデスは廊下を歩いていた。
「相変わらず好き放題のようだな。」
「はい。気に食わないから殺す。食べたいから最高の肉を頂く。己の欲するままに生きることのなんと痛快なことか!」
「…本当に病気になるなよ?」
「…大丈夫ですよ…数年前から口うるさい母親のような専門医が出来ましたからね…。」
「…噂の直属医療隊の者か?」
「えぇ。そういえばエスデス将軍はまだ会ったことが無かったですね…。この機会に会ってみては?」
「そうだな…其奴のお陰で拷問の薬が充実したと聞いた。近々礼も兼ねて足を運んでみるとしよう。……しかし、妙なことだな。私が闘争と殺戮以外に興味が湧くとは。」
「生物として異性を欲するのは当然のことでしょう。その気になるのが遅過ぎる位ですよ。そんなに違和感を感じるようなら、その医療隊長に相談してみては?彼はひどく有能ですから。」
「そうか…まぁ今は賊狩りを楽しむとしよう」
「それですが。帝具使い6人は要求がドS過ぎます。」
「何とかできる範囲だろう?」
互いに獰猛な笑みを浮かべ顔を見合わせる2人。やがて、大臣の口角がつり上がり取引を持ちかける。
「揃える代わりと言っては難ですが…私、居なくなって欲しい人達がいるんですよねぇ」
「フッ…悪巧みか?」
その日の夜、王宮から出ていく三獣士の姿があった。
同時にとある部屋から、一日中何かに悩む声が聞こえていたという。
「…はぁ、彼には色々役に立ってもらっていますし、頼んでいることも多い。彼を入れるのは避けた方が……いや、しかし帝具使い6人ともなれば簡単に死なせるわけにもいきませんし……彼を入れるべきか否か…。」
ラザールside____
エスデス将軍が帰ってきた。陛下の謁見後、邪魔者を消してほしいな♡(意訳)という大臣のお願いを彼の将軍様は聞いたらしい。彼女の部下が夜中のうちにどこかへ出かけて行ったのを見た。
しかし、その大臣のお願いリストの中に、面白そうな娘を見つけた。皇拳寺皆伝の達人らしい。…うん、使えそう。
「…というわけでお願いしてもいい?オロチ。大臣からさっき許可は貰ってきたから。」
((コクリ
「ありがとー♪あと、はい、これ。もし彼らに襲いかかられたらコレ渡してね。」
シャー?
「うん。よろしくね。連れてきたらカンザシにひき渡して。状態によってはカンザシと色々やらないとだから。」
シャーシャー♪
「うん、ありがとー♪じゃあ、行ってらっしゃい。気をつけるんだよ!」
そうして影の中に入っていったオロチ。あの仔なら上手く三獣士の手をかいくぐって連れて来れるだろう。
「カンザシもよろしくね?」
「うむ、心得た。」
さて、僕も大臣に“お願い”しに行きますかねぇ…。あー、面倒!