今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。   作:漣@クロメちゃん狂信者

33 / 46
2017/11/13 改稿しました。




帝都

~某所にて~

 

帝都に建つ立派な屋敷…その中でその館の主、薬の密売を手がけていたチブルという男が死んでいた。

 

 

「チブルって標的、用心深いにも程があったわ」

 

「でも無事に片づいて何よりです」

 

タツミとレオーネの別動隊としてチブルを暗殺すること。それがマインとシェーレの今回の仕事だった。2人は無事にチブルを殺し、見つかる前にと夜の公園を走っていた。

しかし、公園の半ばまで来た頃、急に2人は上からの殺気を感じ横に跳ぶ。今までの経験と、勘と本能によるとっさの判断。それが2人を謎の攻撃から救った。

 

「(何コイツ…気づかなかったわ…!)」

 

「(気配丸出しの警備隊員とは違うようですね…)」

 

上からの攻撃は警備隊員と思われる女からの強烈な蹴りだった。2人は体制を立て直し、戦闘態勢をとる。彼女がただ者ではないことをその雰囲気から感じとった。

不意に彼女は懐から折り畳まれた紙を取り出し、広げる。

 

「…やはり。顔が手配書と一致…ナイトレイドのシェーレと断定!…所持している帝具から連れの女もナイトレイドの可能性大…否、ほぼ確定だな…。夜毎身を潜め待っていた甲斐があった…。やっと…やっっっっっと巡り会えたなナイトレイド!」

 

帝都警備隊の彼女からの殺気が増していく。彼女の目は見開かれ、口は歪んだ弧を描いていた。

 

「私は、帝都警備隊、セリュー・ユビキタス!絶対正義の名の下に悪を此処で断罪する!」

 

セリューのとなりに立つ犬のような存在が牙を剥き出し唸りをあげる…まぎれもなく帝具ヘカトンケイルである。

 

帝具同士の激突は、その威力故に確実に“死”を呼び込む。この戦いもまた例外ではない。3人の直ぐ側に聳える時計台の針の音が響く。束の間の静寂だった。

 

 

 

 

 

「…正体がバレた以上、来てもらうか死んでもらうしか無い訳なんだけど…」

 

マインが問うように呟くが、セリューの目の色は変わらない。

 

「賊の生死は問わず…ならば私が断罪する!!手配書のシェーレは抹殺、もう一人は捕縛が望ましいが…二人死んでも構わない。逃がすよりは確実に処刑する!…パパは凶賊と戦い殉職した。そして、お前らナイトレイドは私の師である隊長を殺した…!絶対に許さない!」

 

「殺る気満々て訳ね…なら…先手必勝!」

 

マインはトリガーに手を掛けそして銃を連射する。しかし、セリューは避ける気配がなかった。するとマインとセリューの間に割り込んできた小さな影。

 

「キュアーッ!」

 

セリューを庇うように立ちはだかるが人の脛程の丈しか無いソレに何が出来るのか。マインは仕留めたと思った。いや、思っていた。土煙が晴れたその先には牙を剥いた巨大なソレがいた。マインの撃った弾は全て、巨大になったソレ…ヘカトンケイルの腹に当たっていたのがその弾痕から判断できる。しかし、その弾痕も驚異的な再生力ですぐに消えてしまった。

 

「!マイン、やはりアレは帝具です!」

 

「みたいね…しかも生物型ってやつか」

 

気を再度切り替えたマインとシェーレ。セリューはしかし、それを確認するでもなく腰のホルスターから旋棍銃(トンファガン)を抜き、連射する。しかし、2人も腕の立つ殺し屋である。難なくそれを避け、戦闘態勢を崩さない。瞬時にセリューはマイン達とのこの距離で戦っても効果が薄いと判断し、ヘカトンケイルに指示をくだした。

 

「コロ!捕食!」

 

牙がズラリと並んだ口を大きく開け、ヘカトンケイルはシェーレに向かって跳んだ。シェーレは動かなかった。ただ、自分に向かってくるヘカトンケイルにエクスタスの刃を開き、タイミングを合わせて両断する。

 

「すいません。」

 

無表情にシェーレは呟き、エクスタスについた血を払う。そしてセリューに向かって歩を進めようとしたが、背後から感じた強烈な気配に立ち止まり振り向く。そこには、パチパチと音を立てて再生していくヘカトンケイルが立っていた。再生を終えたヘカトンケイルが再びシェーレに向かおうとした。しかし、マインがヘカトンケイルの背後から急襲し、セリューの立つ位置まで飛ばす。

 

「文献に書いてあったでしょ、シェーレ!生物型は体の何処かにある核を砕かない限り再生し続けるって」

 

マインがシェーレに忠告する。心臓が無い故にアカメの村雨も効かない。なかなかに面倒な相手である。その上、今ここにはその帝具の所有者がいる。帝具の力はこれだけではないはずだとマインは気を引き締めた。

 

「コロ!腕!」

 

「キュウウウ…」

 

案の定、セリューの指示でヘカトンケイルの両腕が長く、筋肉質なものになっていく。

 

「何アレ…気持ち悪い!」

 

「コロ!粉砕!」

 

セリューはマイン達を指し示してヘカトンケイルに命じる。ヘカトンケイルは元の待機状態の可愛らしさとはかけ離れた声をあげて、2人へと向かって突進してくる。物凄い速さで避ける隙など与えないとばかりに、その巨大な拳を何度も振り上げ振り下ろす。シェーレがエクスタスの硬度を利用してその拳を耐えるが、その拳は重く、防御が長くは持たないのが明白だった。

 

ピィィィィィ!

そして、甲高い音が鳴る。帝都警備隊が持つ呼び笛を吹かれ、援軍を呼ばれた。

 

「嵐のような攻撃…援軍も呼ばれた…これはまさに…ピンチ!!」

 

マインの使う帝具パンプキンは使用者の精神エネルギーを元に撃ち出す。そして一番の威力が発揮されるのはピンチに陥った時だ。マインは高く跳躍し、ヘカトンケイルの上から威力の増したパンプキンを撃ち放つ。急な火力の上昇にセリューは驚く。ヘカトンケイルも既に再生を始めてはいるものの、先ほどよりも再生に時間を要するのは明らかだった。

 

「もう再生を始めてる…なんて生命力よ!」

 

「ハッ…帝具の耐久性をナメるな…!」

 

辺りにはパンプキンの一撃によって土煙が充満していた。そしてセリューはマインとコロに注目していた。だからこそ、シェーレの接近に気が付かなかった。

 

「帝具は道具…使い手さえ仕留めればすぐに止まります!」

 

その声でセリューはようやく始めから自分が狙いであったことに気づく。その好機をシェーレは見逃さない。

 

「エクスタス!!」

 

エクスタスの奥の手を発動したシェーレは、その発光に乗じて一気に距離を詰める。しかし、セリューは帝具を手に入れても自身の鍛錬を怠ったことは無かった。それすなわち、彼女自身も決して弱くはないということ。エクスタスの奥の手である金属発光をくらい、目が霞んでいる状況でも尚、セリューはシェーレの攻撃を防ぎ続ける。

 

己の主人が攻撃され、更に押され気味であることに気づいたヘカトンケイルがセリューに加勢しようとそちらに向かおうとするが、こちらはマインが逃がさない。ピンチではなくなってきたことで倒しきることは無理でも、それでも十分に足止めは可能だ。そう判断したマインは、ヘカトンケイルを牽制し続ける。

 

マインがヘカトンケイルの注意を引いていたその頃、シェーレはセリューの両腕を切り落としていた。腕を捨てて致命傷を避けたことにシェーレは驚愕するが、腕を失ったことでセリューの体勢は崩れていた。次で仕留めんとシェーレがセリューに向かって駆ける。しかし、戦いはタダでは終わらない。

 

「正義は…必ず勝ぁぁぁつ!!」

 

腕の切断面から現れた銃口…それはセリューが警備隊隊長であったオーガから与えられた切り札だった。人体改造。それが彼女には施されていた。辺りに銃声が響く。

しかし、シェーレはそれを冷静に防ぎ、セリューの腕から覗く銃口を切り飛ばす。勝負は見えたと、そう思われた。

 

正義は絶対正しいはずだった。でも、彼に言われて疑問ができて、考えたこともなかった正しいはずの自分の正義を、初めて見つめ直した。考えて考えて…何度も悩んで。自分の中で何かが変わった。でもいくら正義の定義を考えても、変わらないことがただ一つだけある。正義は負けない、その思いだけは自分の中で変わらない。

 

(だから、正義の私は負けられない!私の負けは、自分の正義の否定になるから…!たとえ私が死んでも、正義だけは貫き通す!)

 

だから、今だけはただ自分の為だけに戦う。父と恩師の仇討ちのため、そして、自分のプライドを守るため。セリューは叫ぶ。

 

「コロ!狂化《奥の手》!」

 

その言葉に呼応し、赤く染まっていく毛並み、更に巨大になった図体。そして、放たれた耳が潰れそうになる程の咆哮。マインとシェーレはその咆哮の大きさに思わず動きを止めて耳を塞ぐ。

 

それが間違いだった。

 

その隙をヘカトンケイルは見逃さない。

ヘカトンケイルの巨大な手にマインは捕らえられた。

 

「しまっ…、」

 

「マイン!」

 

シェーレが慌ててマインを助けに向かうが、状況は止まってはくれない。

 

「コロ!握りつぶせぇ!」

 

マインを捕らえる手に力が込められる。ボキリと嫌な音を立てて骨が折れる音がした。それでも手に込められる力が緩まることは有り得なかった。もうダメかとマインは思った。しかしその瞬間、マインは急な浮遊感を感じ落下した。

 

「間に合いました!」

 

シェーレがマインを捕らえていたヘカトンケイルの腕を切り落としていた。

 

「シェーレ!」

 

マインは安堵と感謝を込めて相方の名を呼んだ。しかし、次の瞬間にはその笑顔は凍りつく。

 

 

 

 

音もなく、シェーレの胸に華が咲いた。

 

真っ赤な真っ赤な嫌な色。嫌なほどに嗅ぎなれた、鉄臭い匂いを辺りに振り撒いてその胸元は赤に染まる。まぎれもない、マインには見慣れた銃痕だった。銃の撃たれた先に目を向ける。予想通り、いるのは警備隊の女。その口から覗く銃口。彼女の人体改造は、腕だけではなかった。すべては正義のために。

 

「体が…動かな…い」

 

「正義…執行!」

 

動けずにいるシェーレに巨大な口が向かっていた。

牙がズラリと並ぶヘカトンケイルは無情にもシェーレの体を食いちぎった。

 

「しぇ…シェーレェェェェェ!!」

 

マインは睨んだ。満足感で満ちた目をして微笑むセリューを真っ直ぐに、ただ憎悪の光を宿して、歯を食いしばって睨んだ。不意にたくさんの足音が聞こえてくる。セリューの呼んだ警備隊が到着したことを理解した。

 

「マイン…逃げ…て下さい…!」

 

「シェーレ!?」

 

「逃げて…マイン!エクスタス!!」

 

上半身になっても尚動いたシェーレは奥の手を再度発動した。

 

(…マインだけは絶対に逃がす!)

 

躊躇うマインにシェーレはただ微笑んだ。マインとシェーレの付き合いは長い。マインにはそれで十分だった。マインはシェーレに背を向け駆け出した。涙で前など見えていない。それでもマインは足を止めることはなかった。

 

自分に背を向け逃げるマインを見てシェーレはただ一言呟いた。

 

「最後に…お役に立てて良かったです…」

 

「コロ!早くトドメを!」

 

セリューが発光に目を眩ませつつも叫んで命じる。

 

ナイトレイド…私の居場所。楽しかったなぁ…。すいません、タツミ…そしてラザール。もう貴方たちに…

 

シェーレは笑った。涙を零し、少しの申し訳なさを込めて天を仰いで…笑っていた。ここで私は終わる(死ぬ)

 

…そう、思っていたのに。どうしてあなたがここにいるんですか…?

 

「ラ、ザ……、ル…?」

 

「申し訳ないと思うなら…今からでもいいよ?僕に尽くして。」

 

「……え…?」

 

「カンザシ、シェーレお姉さんの下半身持ってきて。」

 

「うむ。」

 

シェーレの意識はそこで途絶えた。

 

さいごに見えたのは、地に気を失って倒れるセリューと向かってくる大量の警備隊員。そして、闇の中でも輝く白銀の髪を持つ男の姿だった。

 

 

 

~ナイトレイドアジト~

 

タツミside____

 

シェーレが死んだ。

 

任務から姉さんと一緒に帰ってきたオレ。アジトで皆でマインとシェーレの帰りを待っていた。でも、帰ってきたのは満身創痍のマインだけだった。頭に血が上り、冷静じゃなくなったオレは仇討ちを考えた。兄貴の蹴りをくらい正気に戻ったが、胸にくすぶりだしたこの感情は深くなるばかり。よく見るとメンバーの皆が皆、拳を握りしめ耐えているのが分かった。皆悲しいんだ。皆憤ってるんだ。でも我慢してる。オレも今は…我慢するしかない。

 

「アイツは任務で…私たちのこれは報い…そんなことは分かってるわ…。だけどアイツはシェーレを殺した。そしてこれからも私たちを狙う…。だから、アタシが殺る。セリュー・ユビキタス…アイツはアタシが必ず…必ず撃ち抜く!」

 

涙を流しながらもマインの目は決意に満ちていた。

 

「シェーレの死は決して無駄ではない。これで帝国も分かった筈だ。やはり帝具には帝具だと。これからは帝具使いとの戦いが増えてくる。逆に言えば集めるチャンスだ!更なる死闘の始まりだ!全員、心に火を灯せ!私達は必ず…革命を成し遂げる!」

 

 

「「「「「「おう!」」」」」」

 

 

 

 

~帝都外壁外~

 

帝都の外壁からいくらか離れた岩山の上…飛竜に乗った4つの人影があった。

 

「ただいま、帝都」

 

蒼い長髪をたなびかせ彼女は呟いた。

 

帝都を見据えるその目には、愉悦と期待が入り混じっていた。

 

 

 




原作改竄…テヘ(*'-')

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。