今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。   作:漣@クロメちゃん狂信者

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2017/11/13 改稿しました。
時間空いちゃってすみません。課題が…課題が押し寄せてくるんや…同時に中間試験が始まるんや…。私の骨を誰かは拾ってくれると信じています。


決意

ラザールside____

 

ある日のこと、帝都宮殿・謁見の間にて将軍、文官たちに緊急招集がかかった。

 

「申し上げます!ナカキド将軍、ヘミ将軍の両将が離反。反乱軍に合流した模様です!」

 

その報告を受けて官吏たちがざわめく。

 

「うろたえるでないっ!所詮は南端にある勢力…いつでも対応できる!反乱分子は集めるだけ集めて掃除した方が効率が良い!…で良いのであろう大臣?」

 

「ヌフフ…さすがは陛下、落ち着いたモノでございます。遠くの反乱軍より近くの賊。今の問題はコレにつきます。帝都警備隊長は暗殺される。私の縁者のイヲカルは殺される。やられたい放題…!!悲しみで体重が増えてしまいますっ…!!

…仕方がありません。先日北を制圧したエスデス将軍を帝都に呼び戻します。ブドー大将軍が賊狩りなど彼のプライドが許さないはず。しかし、彼女はそのブドー大将軍とも並ぶ英傑。異民族40万人を生き埋め処刑にした氷の女です。安心でしょう。それまでは無能な警備隊に活を入れなさい!最早生死は問いません。一匹でも多く、賊を狩りだし始末するのです!」

 

 

それを僕はオロチの影を通じて聞いていた。距離に制限はあるが、この王宮内なら何の問題もない。一人の文官の影にオロチを潜らせ、僕の影とオロチの潜伏している影を繋げる。オロチがここ最近で出来るようになった能力だ。変異種の名は伊達じゃないってね。

 

部屋で会話を聞きながら、僕は一人静かに口角を上げた。予定通り。

でもなぁ…確かに予定通りだけどさぁ…やっぱり帰って来ちゃうのか…噂の彼女。そっかぁ……ははっ、また仕事が増えるなぁ……クッソがぁ!!

 

サヨナラ、僕の束の間の平穏ライフ。ま、しょうがないね…所詮仮初めの平穏だもの。そろそろ高をくくって、本腰入れて未来の平穏を確保しに行きますか。

 

「カンザシ、お前にもそろそろ動いてもらうよ。」

 

「ふふふ、やっとか。待ちくたびれたぞ。」

 

「えー、ご主人、アタイはまだー?カンザシ姉さんだけー?」

 

「勿論、キノにも働いてもらうよー?…ここから始まるのは、本気でホントの総力戦なんだから。」

 

さて、取りあえずは…僕がいないからって肉を食べて会議に出ていた大臣にお説教するところから始めようか!僕の仕事を増やす馬鹿にはお仕置きが必要だよね?

 

 

 

タツミside____

 

オレは今、レオーネ姉さんと一緒にスラム街を歩いている。色々な店の人が姉さんに話しかけて来るのに驚いた。しかもみんな顔が生き生きしているんだ!姉さんは雑草魂って言ってる。まぁ、確かに生まれた頃から酷い貧乏なら逞しくもなるってもんか。

 

「にしても姉さん凄い人気だな…」

 

「私の生まれ育った場所だからな!ホームだホーム!これでもマッサージ師として腕がいいと評判…」

 

姉さんが喋っている途中から何かが走ってくる音が後ろから近づいてくる。ふと、後ろを振り返った。…10人程、顔の怖い男達がもの凄い速さでこちらに向かって走っていた。

 

「いたぞっ、レオーネだ!」

「溜まったツケを払ってくれ!」

「博打で負けた金精算しろ!」

「兄貴からちょろまかした金返せゴルァ!」

「いい加減覚悟しろ!」

「ウチから借りた金返せ!」

「利子ついてえらいことになっとんぞ!」

「さっさと払え!」

 

「そしてこれ以上……」

 

「「「「「「「ラザール(さん)には迷惑を掛けさせねぇぞ!」」」」」」」

 

え!?ちょっと姉さんこれどういうこと…って居ない!?って、あ!もう逃げてるし!待てよ姉さん!走って姉さんに追いつき、並んで逃げる。

 

「どーだ、面白い所だろ?」

 

逃げながらも笑顔で言ってくる姉さん。

 

「姉さんが殺しの標的にならないかが心配だよ!」

 

洒落にならないぜ…そのうち本当に姉さんの暗殺依頼が来そうだ…。

後ろの男達が加速した。ヤバい。捕まったら殺られる気がする!わき目もふらず逃げる逃げる。

 

 

しばらくして後ろの足音も止み、撒いたと思う。しかし…

 

「ヤバい…はぐれたー…そして道も分からない!」

 

夜には仕事もある!帰れないのはマズイ!困惑と焦りのあまりオロオロと怪しい動きをしてしまう。どうしよう…どうすればいいんだ!

 

「ややっ?私の正義センサーに反応有り!そこな君!何かお困りですかな?」

 

後ろからかけられた声。あ、この人に道を聞けば!後ろを振り返る。…その服、どっかで見たような?

 

「帝都警備隊セリュー!正義の味方です!」

 

ビシッとした敬礼までされた。…警備隊か。オーガが率いていた奴だよな…?

 

「キュウウン キュウーン」

 

!?…セリューさんの抱いていた、ぬいぐるみだと思っていた犬みたいな奴が鳴いた。生き物なのか?

 

「コロちゃんお腹空いたの?ガマンしてね!」

 

「…あの、それは?」

 

「帝具“ヘカトンケイル”…ご心配なく!確定悪以外には無害ですから!」

 

…帝具!?よく見ればコイツ…文献に載っていたヤツだ!!

 

「ところで何を困ってたんです?」

 

「あ、いや…道に迷ってしまって。元居た酒場の名前は分かるんですが…」

 

「それは大変!パトロールがてらお送りしますよ!」

 

彼女に手を引かれて道を歩く。助かったが少し複雑な気分だ…。

その後は怪しまれないように当たり障りの無いような話題を振りながら歩いた。思っていたよりも優しい子で、なんだか心が痛い気が…いや、これは甘えだな。自分が決めた道なんだ。やった責任を押し付けちゃいけない!

 

酒場に着き、お礼を言って彼女と別れた。

 

「…帝具使いの警備隊員。ボスに報告しとこう」

 

 

 

夜になり帝都の色町に来た。今日の仕事は姉さんと二人でここの店の一つを破壊すること。その店はクスリ…麻薬の類を使って女を薬漬けにし、カラダを売らせている。クスリの売買に関わっているヤツは皆殺しだ。……まさか店への潜入方法が姉さんのライオネル強化による高速突入だとは思わなかったけど。しかも気づかれてないし…でもこれ潜入って言うのか?まあ、そんなムチャをしつつも店の屋根裏に入り込んだ。

 

「ふいーっ、到着到着!さーて、お仕事して借金返さないとね!」

 

姉さんが足下の天井板を外した。そのまま二人で下を見下ろすが……ヒドい有り様だった。

 

沢山の綺麗な女の人がいたが…真ん中に置かれた大きなお香のせいだろうか?誰も彼も目の焦点が合っておらず、筋肉が弛緩しているのかダラリと脱力している人が多かった。それなのに皆が皆、恍惚とした表情で床に転がっている。思わず口を手で覆う。

 

その時、部屋に入ってきた2人の男。コイツらは今回の暗殺のターゲット達のようだった。その二人が、床に転がっていた女の一人を殴ったのが見えた。…“壊れている、廃棄処分だ”という言葉と共に。

 

「依頼通りのヒデェ奴らだな…許せねぇ!」

 

「今殴られた子…スラムの顔なじみだ…!ムカツク…さっさとアイツ等始末しよう!」

 

「了解…オレもシェーレの話で麻薬関係には腹立ってんだ…」

 

そこからは早かった。護衛が何人かいたが、どれもとるに足らない奴らだった。ひたすら向かって来る奴を切り捨て、標的に向かう。

 

「標的は密売組織一味…お前たちも同罪だ…!」

 

姉さんも敵の急所に拳や蹴りを叩き込み、骨を砕き、中には体に風穴があいたやつもいた。助けてくれと、自分がしてきたことを棚に上げて、みっともなく命乞いをしてくる奴がいたが…興味もない。オレらが欲しいのはお前たちの命だけだ。

 

「お前ぇら、何者だ…!?」

 

密売組織のボスと見られる奴が姉さんに首を絞められながらも問う。

 

「ろくでなしさ…。だからこそ…世の中のドブさらいに適してるのさ!」

 

心臓の位置にキレイに拳と衝撃を叩き込み…胸に風穴を空けて、奴は死んだ。

 

────任務完了。

 

 

仕事が終わり、帰路につく。

 

「なぁ、壊れた女の子達…これから一体どうなるんだ?」

 

それだけが疑問だった。姉さんはそれはオレ達の領分じゃないって言うけど…でも…

 

「…スラムに元医者のじいさんが居るんだが…これがまだまだ腕がいい。事情を話して診てもらうさ。若い女の子大好きだから喜ぶだろ」

 

姉さん…!スラムの顔なじみがいたからだなんて理由付けてるけど…照れ隠しだな、うんうん。顔も耳まで真っ赤だし。

 

「助かる可能性があるに越したことはないからな!」

 

「どんな理由だっていいよ。そこに少しでも希望があるなら」

 

紛れもない本心だけど、ちょっとクサかったかな?

 

「…タツミ。前から思ってたけど…お前のそういう顔、可愛いなぁ…」

 

そしてぺろっと耳を舐められる…舐められる!?魚みたいに口をパクパクさせながらも何も言えないでいると

 

「ふふ!文字どおり、おねーさんがツバつけておいた!いい男に育てばおねーさんのモノだ!」

 

なんつー恥ずかしいことを…!

 

「ところで姉さん。壊れた女の子達、全員そのスラムのおじいさんに頼んで大丈夫なのか?結構な人数だぞ?」

 

「ふふん、何言ってるタツミ!もう一人居るだろ?帝都に凄腕の奴が!おねーさんのツバつけてある第一号でもあるがな!」

 

「……まさか」

 

「ご明察♪」

 

…ラザールさん、すみません。

 

オレはそうとしか言えなかった。

 

 

「さて、別働隊の二人も無事かな?」

 

 

 

 


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