今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。   作:漣@クロメちゃん狂信者

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2017/11/10 改稿しました。
課題終わんねぇ…ほうじ茶ラテェ、ほうじ茶ラテが足りない…


譲れないもの

タツミside____

 

夢を見た。靄のかかった真っ白い空間に…サヨとイエヤスがいた。だから楽しい夢なんだと…あの頃に戻ったんじゃないかと、一瞬淡い期待を寄せた。でも二人はオレを置いて離れて行った。何度呼び止めても…何度二人の名前を叫んでも…消えた二人が戻って来ることはなかった。

 

「…切ねぇ夢だったな……。」

 

アジトの自室で目覚めたオレは、先ほど見た夢を思い出すと…情けないことに少し泣きたくなった。沈んでいたオレだったがふと布団に重みを感じて横を見ると…オレのベッドにもたれて眠るシェーレの姿があった。

 

「ムニャムニャ…タツミ…タツミは今日から私の部下になるそうです…よろしくですぅ…ムニャ…」

 

……て、天然上司キタ…!…大丈夫なんだろうか。少しの不安を抱きつつも、タツミはシェーレを起こしにかかることにした。

 

 

 

~会議室にて~

 

「んーーっ…シェーレさんが上司で大丈夫かな」

 

シャクリとリンゴを囓りながらラバックは不安を口にした。何せシェーレは予想の斜め上を行くドジっ子である。戦闘時には頼れる仲間であるが、それ以外では役立たz…ゴホンゴホン、ちょっと抜けている彼女なのだ。不安にもなる。

 

「大丈夫だろ。シェーレはタツミを気に入るだろうし」

 

ナジェンダはそんなラバックに対して、何の不安もないとばかりに呑気にリンゴを囓りつつあっさりと返事をした。

 

「その心は?」

 

「タツミは年上受けがいいんだよ」

 

「ハイハーイ、次は私の部下って予約したぞーっ!」

 

「な?これも才能だよ」

 

「なんだよそれ!ズッリイなぁぁぁ!」

 

突如として会話に入ってきたレオーネの発言を聞いてラバックは羨ましいとばかりに叫んだ。そして…

 

「ふふ…殺し屋だけに年上キラー……どうだ!うまいこと言ったろ?」

 

凍りつく会議室。ラバックもレオーネも固まったまま冷や汗を流し動かない。

 

「………そうでもないか」

 

その空気に本人も気づいたのか、ナジェンダがボソリとそう呟いて誤魔化したことは言うまでもない。

 

 

 

~河原にて~

 

会議室が凍りついていた頃、タツミとシェーレは河原にて鍛錬をしていた。タツミがしていたのは鎧泳ぎという暗殺者育成用プログラムにも記された鍛錬法らしく、その名の通り、鎧を着て水の中を泳ぐというものだった。

 

「ところで…シェーレはなんでこの稼業に?」

 

先ほどからのシェーレの少々行き過ぎたドジっ子度合いに耐えきれずタツミが聞いた。

 

「ええっと……遡って説明しますと…」

 

 

シェーレside____

 

帝都の下町で生まれ育った私。幼い頃から何をしてもドジばかりだった私は、怒られからかわれの生活をしていました。しかし、そんな私にも親友がいて、その親友は決して私を馬鹿にするようなことはありませんでした。そんな親友との時間が私にとって唯一の幸福だったのです…。しかし、ある時その親友の元の彼氏がふられたことを逆恨みして家に殴り込んできました。そして、親友の首を私の目の前で絞め始めたんです。麻薬でおかしくなっているその男から、親友を助けなければと思った私は台所から包丁を持ち出し、驚く程冷静にその男を刺し殺しました。男は呆気なく死に、親友は震えていましたが、私の頭の中は寧ろクリアでした。その一件は正当防衛で片がつきましたが、しかし、親友と会うことは二度とありませんでした。

そして、後日。道を歩いていると男たちがいきなり襲ってきました。あの男の仲間だったらしい彼らは、「お前の親はさっき殺しておいた。あとはお前だ。」と言っていました。親が殺された…そう言われたのに私は驚く程平常心で。護身用として持っていたナイフで次々と男たちを殺していきました。

 

「そして、男たちを全員殺した時、私は確信したんです」

 

タツミにこんな話をして良いのかは躊躇われます…が、いつかは知ること…ですよね。私の生い立ちをジッと聞いているタツミを一別して、私は話します。

 

「…ネジが外れているからこそ殺しの才能がある。───社会のゴミが掃除できる。役に立てることが一つだけある───と。」

 

「…そんな事が……。思ったより重い話だった……」

 

「そうですか?」

 

「あぁ。…で、革命軍にはいつ?」

 

「そうですね…その一件以後、帝都で暗殺稼業をしていたところをスカウトされた…んでしたっけ?」

 

「いや、オレに聞かれても…」

 

「…ああ!そう言えば丁度その頃ですね。」

 

「何が?」

 

「えーっと、マインやレオーネから聞いていませんか?帝都一の医者の話。」

 

「えっと、ラザールさんのこと?」

 

「そうですそうです。丁度1人で暗殺稼業をしていた頃に彼に出会って…以後革命軍に入って指名手配されるまでは私も彼の店をよく利用していました。私はこの通りドジなんでよく転んで傷を作ってましたから…」

 

「ラザールさん、マジで顔広ぇな……」

 

「そうですね…おそらくアカメとブラート以外の人とは面識あると思いますよ?」

 

「え!?」

 

そんなに驚くことでしょうか…ですが、確かに彼は色んな意味で規格外ですよね。

 

「ですからタツミ。ラザールの前で口をスベらせないで下さいね?」

 

「オレがナイトレイドだってことをか?」

 

「全部です。彼はひどく頭の切れる人です。誰か一人でもバレれば芋づる式にメンバーが割れる可能性だってあり得ます。しかも、彼は今や軍属している身…バレれば大臣にもバレることと同義です。ですので…」

 

「き、気をつけるぜ……」

 

本当に大変です。…ラザール、私はいつかあなたとも戦わなくてはならないのでしょうか…

 

 

 

 

 

ラザールside____

 

「キリク、遅い。」

 

「は、はいぃぃぃ!」

 

「アルエット女医、散らかすな。」

 

「え?……あれ!?す、すみません!」

 

「カンザシ、なんでお菓子食べてんの?」

 

「んんん!?す、すまぬ、主!」

 

「はああああ……お前らいい加減にしろ」

 

思わず長いため息をつく。ホントなんなのさ…。キリクは書類出さないし、アルエット女医は部屋をいつの間にか散らかすし、カンザシは隣で呑気にクッキーつまんでるし…僕が真面目にやってるのが馬鹿みたいじゃん…。

 

「はああああ……((ボソッ真面目に仕事しない奴なんて、一回【放送禁止】して【モザイク】して【聞かせられないよ★】されればいいんだ…」

 

((コソコソ

「おい、ちょっとカンザシさん、隊長どうしちゃったワケ?!」

「隊長があんなになるの久々よ?…まさか!」

「そのまさかじゃ。またあのストーカー女から勧誘の手紙が来てのぅ…」

「ナルホド…そこに俺のサボリと…」

「私の散らかし癖と…」

「妾のおやつタイムが重なったからあぁなっておる」

 

「ねぇ、ちょっとそこの3人。何コソコソ話してんの?さっさと仕事しろ!」

 

「「「YES!Sir!」」」

 

はぁ…僕はいつになったらコイツらを仕事中に叱らなくてすむようになるんだろうか。畜生…全部全部ナジェンダさんのせいだ!!

 

 

コンコン

 

不意に響いたノック音。入室を促すと、入ってきたのは文官の人。

 

「失礼します!ラザール医療隊長殿はいらっしゃいますでしょうか?」

 

「はいはい、いますよー。何のご用ですかー?」

 

全く…今度は何ですかね…

 

「オネスト大臣がお呼びです!参上願います!」

 

「……りょーかい…」

 

あのクソ大臣…今度は何の用だ…いい加減僕の堪忍袋も限界なんだけどな。

 

「あー…怒ってる怒ってる……」

「隊長…お可哀想に…」

「主…妾達は仕事するぞ。頑張るぞ。だから主…生きて戻ってくるのじゃ…」

 

…他人事か。何か腹立つな。よし、カンザシは明日一日中皇帝に貸し出しの刑だね。

 

「はあ…行ってきまーす。」

 

「「お疲れ様です」」

「気を付けてゆくのじゃよ~」

 

 

 

~大臣私室にて~

 

「失礼しまーす。大臣殿ー、今度は何のご用ですかー?僕今スッゴい疲れてるんですどー?主にアナタの体調管理とか体調管理とかアナタからの依頼の情報収集とかのせいで。」

 

入室早々それかよ的な顔をされたが、何を言っても無駄だと判断されたのかため息一つで流される。今の僕には何を言っても無駄だと判断したのだろう。段々僕の性格が分かってきたようで何より。そのまま僕を怒らせないように励んでほしいものだ。

 

「すみませんねぇ…。ま、どうぞ座ってお茶でも。」

 

「お茶はいいので本題を。僕は早く寝たいんで。」

 

「………相変わらず生意気ですねぇ…本来なら打ち首事ですよ?」

 

「…ふふ、可笑しなことを言う。打ち首…ねぇ?僕の利用価値は高い。だからアナタはまだ僕を手放す気はない…殺せないでしょう?そう思っての行動ですよ。僕、馬鹿じゃないので。それに、もし本当に僕を殺したいなら、それこそ口外することなくいきなり羅刹四鬼でも使って問答無用で殺しに来るでしょう?大臣はそういうタイプだと思ってたんだけどな?」

 

「…分かっててやっている辺り、貴方も相当だとはおもいますがねぇ。」

 

「いえいえ、アナタには及びませんよ?……それで、本題は?」

 

早くしてほしい。僕は早く寝たい。だって5徹だよ?いくら眠気覚ましを使っていても、そろそろ限界なのだ。いい加減そろそろ寝たい。

 

「そうですね…まずは先日のスペクテッドの回収ありがとうございました。」

 

「どういたしまして。」

 

「呼んだのは単に伝えておこうかと思ったことがあっただけなのですが…そこまで言うならまた後日でもいいですよ?」

 

「…折角来たのに骨折り損とか嫌なんで。手短にお願いします。」

 

「そうですか、なら手短に。近いうちに…エスデス将軍を呼び戻すことになるやもしれません。」

 

「……わお。何故?」

 

「最近少々思うところありまして…あくまでももしかしたらですが、一応です。」

 

「……ってことは僕巻き込まれるんだ?」

 

「さあ?そこは貴方次第といったところですかね。しかし、彼女は少々予想外の行動をとることもありますからなぁ…私からは何とも。」

 

「そう…。」

 

「話は以上です。まぁ、貴方は基本自由にしていて構いませんが…私の邪魔にならない程度に動いて下さいね?」

 

「ん、りょーかいですよ、大臣殿?それでは、失礼しまーす。」

 

 

大臣の私室を出て、早足で自室に向かう。

 

(オロチの情報だと…確かナカキド将軍とヘミ将軍がちょっと怪しいって言ってたな…少々思うところっていうのはそれの事かな?そして、最近活発に動くナイトレイド…)

 

【確実に呼び戻すことになるだろうな…。何か手打つなら今の内だぞ、ラザール。】

 

(分かってるよ、ジェミニ。…とりあえずイエヤスの帰りを待つか。チェルシーにも一応手紙を書いて…)

 

 

全く厄介なことになってきた…けどこちらもめげるわけにいかない。

 

「思い通りになると思うなよ。」

 

全ては僕らの平穏のために。

 

 


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