今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。 作:漣@クロメちゃん狂信者
雨が降っています。見るのは好きですが、お外には出たくないです。
タツミside____
ザンクに遊ばれている自覚はあるんだ…何度切りかかっても避けられる。…全てかわされる!くっそ!!心読むとか反則だろ!
「うっ!」
「愉快愉快。我ながら程よい傷を負わせたな」
ニンマリと口角を上げるザンクに、背筋が冷えるのを感じた。
サヨだと思っていたのはザンクだった。ザンクの帝具は額に付けられた目のようなモノ…“スペクテッド”と言うらしい。五つの能力があるらしく、その内の一つ、“幻視”とかいうヤツでオレはサヨの幻覚を見せられ、まんまとアカメと引き離されたわけだ。
既にオレの全身は傷だらけ。スタミナも切れてきたし正直ヤバい。けど、オレは諦めねえ、アカメは絶対に来る!それまでのせめて時間稼ぎくらい…!
ザンクが命ごいをしてみろと言う。時間稼ぎにはなるかも知れないぞと言ってくる。……ナメんじゃねぇ…そんな言葉に屈するほど弱かねぇんだよ!
「……ふざけんな!手前ぇみてぇな首を斬るしかねえ腐れ溝鼠に…命ごいなんかするわけねぇだろ!」
流石にイラッとしたらしい…ザンクの動きが固まった。安い挑発に乗りやがって…へへっ!…心が読まれてんなら、いっそシンプルに。この一撃に全てを懸けることにした。剣を一振りして、構える。
「傷が痛いだろうに。首斬りの達人が介錯してやろう」
「やれるもんなら…やってみろ!!行 く ぞ !」
何も考えずに、オレのもてる全力の力でザンクの懐に入り、剣をふる。振り返ると、ザンクの頬に入った切り傷が目に入る。今までは全部避けられていたが、初めてヤツに一太刀入れた…
「へっ、一発入れてやったぜ!何が首斬りの達人だ…斬り損なってんじゃねえか…笑わせんな、ヘボ野郎」
ザンクの一閃はオレの背中に走っていた。首じゃねえ。へへっ、ざまあみろ!オレの一言は奴のプライドをひどく傷つけたらしい…ヤツはオレに向かって来た。しかし、あいつは忘れている。俺には頼りになる仲間がいるんだってことをな!
その瞬間、オレとザンクの間に、空から見覚えのある刀が降ってきて地面に突き刺さる。急なことにザンクは走りを止める。上を見やれば、頼もしい少女の姿が見えた。神はまだオレを見捨てていない!
「良い悪態だ。精神的にはお前の勝ちだな」
「アカメ…!」
「ようやく見つけたぞ…待っていろ。すぐに終わらせて、手当てしてやる」
アカメの体から殺気が溢れ出した。
「ふん、悪名高いアカメと妖刀村雨…愉快愉快、会いたかったぞ」
アカメを見て本気で行くべきだと判断したらしい。ザンクが着ていたコートを脱ぎ捨てた。
「私も会いたかった。任務だからな」
アカメも刀を構える。次の瞬間、二人の刃がぶつかった。斬撃の応酬。剣戟の嵐。互いに引くことのない、どちらも速く強く…拮抗した戦い。ただ剣と刀がぶつかり合う音だけが辺りに響く。アカメが傷を負ったのを俺は初めて見た。普段の鍛錬でアカメの強さは知っている…これが、帝具使い同士の戦闘…!
ふと二人が攻撃の手を止めた。
ザンクは語る。今まで殺してきた人間たちの怨みの声が聞こえて止まない、早く地獄に来いと言う沢山の声が頭に反響し続けている、と。
「なぁ、アカメ。お前にも聞こえているだろう?オレは喋って誤魔化しているが、お前はどうしている?」
人を殺してきた二人…やっぱアカメも聞こえてんのかな…オレもいつか聞こえるようになるんだろうか…?
「聞こえない。」
しかし、アカメははっきりとそう言った。
「私には…そんな声は聞こえない」
「…なんと。お前ほどの殺し屋ならこの悩み、分かち合えると思ったんだが…悲しいねぇ!」
ザンクがそう言ったと同時に、アカメは目を見開き固まった。
「………クロメ?」
どうしたんだアカメ!呆然と目を見開くアカメ。まさか…あの時のオレみたいに幻覚を…!?
「無駄だ…一人にしか効かぬが催眠効果は絶大。愛しき者の幻影を視ながら…死ね!アカメ!」
どんな強いヤツだって…最愛の人を殺すことは出来ねえ。だから…もうダメだと思った。
だけど…アカメは、刀を振った。
最愛の者に容赦なく殺しかかったアカメにザンクは驚愕の叫びを上げる。何故だと問う。
「最愛だからこそ…早く
その意味は、オレには理解出来なかった。あんなアカメの目を…悲しみと決意に揺れる目を、オレは初めて見た。…今の攻撃でザンクの武器には亀裂が入った。あと数撃でザンクの剣は折れる。アカメがここぞとばかりにザンクに向かって行く。ザンクも死んでたまるかと鋭い殺気を放つ。互いに斬り合う二人。未来を読んでいるからかアカメに傷が増えていくが、どれも殺すに至らないものばかり。
そして、バキリと嫌な音をたてて、ザンクの剣はとうとう砕けた。
「葬る」
アカメがトドメとばかりに刀を構える。しかし、
ゴキュキッ!
ザンクは死んだ。だけどアカメの攻撃でではなく…
「わぁ!凄いすごーい!ナイスだよ、エンサ!」
謎の第三者の介入によって。
危ないと判断したらしいアカメはザンクに向けていた攻撃を中止し、飛び退いた。
ドサリとザンクの体が倒れた。ドクドクとその死体からは血が流れる。ゴキリゴキリと骨の砕ける音がする。何が…起きた?目の前にいる巨大な蜘蛛とその頭に乗る幼い子供は…一体何なんだ!?思考を必死に巡らせる間にも骨の砕ける音…大蜘蛛の咀嚼音が響く。
____ザンクの死体に首はなかった。
カンザシside____
ザンクを殺せ
それが今回主から受けた命令じゃ。エンサ…妾の親友の力試しと、帝具の回収を兼ねてとお願いされた。首斬りにはアカメを殺したいと言っていたが、実際はどちらでも良いらしい。邪魔者は一つ一つ確実に消していかねば。
【クロメちゃんが殺したがっているからねぇ…。アカメ、邪魔だからさっさと退場はして欲しいんだけど…んー…だから、今はいいや。時間切れってことで処刑!】
全く、我が主は気に入った人間にはとことん甘いな…まぁ、それはさて置き。その様な事情によって妾は今ここにおる…幼女の姿でな!妾は狐じゃ。化けることなど造作もない!普段の人間の姿はタツミとやらに見られておるからな…口調を変えて、幼子の姿でいるならバレぬだろう。
「エンサー、てーぐは壊しちゃ、めっ!だからね!」
『ぶっ…クククッ、了解ー…ブハッ!ごめんやっぱ無理、その口調マジウケるんだけど!!アハハハハ!』
エンサ、後で覚悟しておれよ。アカメたちに聞こえていない念話だからといって調子に乗りおって!…おっと、アカメとやらからの殺気がウザイのう…。少し…威嚇してやるか。ふっとアカメに目を向け、僅かに微笑んでやると同時に殺気を飛ばす。
『あーあ、可哀想に。あの少年、すっかり怯えてるよー?少女の方も結構苦しそう。…何割飛ばしたの?』
「んー?アハハ!そこのお二人さーん!もしかして私のこと怖い?怖い?アハハハハ♪……まだまだ、こんなの序の口だよ?」
最後だけ声のトーンを落として言ってみる。
『カンザシ姉さん、怖い怖い!アタシまでゾクッと来ちゃったよ!』
嘘吐け。妾の親友がこの程度でビビるものか。
「お前…何者だ?その蜘蛛は…危険種か?」
アカメがようやく口を開いた。…けどのぅ
「……さぁね、自分たちで探してごらんよ♪んじゃ、帝具はもらってくね!ご主人様からの命令だし!バイバーイ♪……エンサ、帰るよ。急ご?」
『りょー』
エンサは長い8本の足を動かし音もなく動き始める。アカメを殺すのは命令されてないからな、退却して構わん。
「待て!」
「バイバイッ♪」
アカメに笑顔で手を振ると、妾達は路地裏に入り闇に消えた。まぁ、正確に言えば、夜の闇に溶け込むように、音もなく、ものすごい速さで、民家の屋根や壁を移動しているだけなのだが、ヤツらにはさも消えたかのように見えたじゃろう。
アカメが追ってくる気配はない。
『あのアカメとかいう女…深追いしてくるほど馬鹿じゃないみたいだね?』
走りながらエンサが言う。
「そのようじゃな…あの殺気を受けて相手の力量を測り、相手が攻撃してこないようだと知るや、負傷した仲間と得た情報を死守…三十六計逃げるに如かずとはこのことか。クロメがもてはやすから賢いヤツだと思っておったが…思った以上であったな。流石元暗殺部隊エースといったところか。」
『そうねぇ…。ま、それはいいや。早く帰ろー!アタシ、早く名前欲しい!』
「ククッ…そうじゃのう。妾も主に褒めてもらって、毛並みを整えて貰うのじゃ!よし、急げ!エンサ!」
『急ぐ!』
サカサカと足の動きが急加速する。こうして二匹の危険種は突風のごとく、しかし静かに気配を残さず、街を駆け抜けていった。
補足
エンサはキノの昔の名前です。カンザシでいうクズハがそれです。