今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。   作:漣@クロメちゃん狂信者

28 / 46
2017/11/07 改稿しました。
最近のマイブームはほうじ茶ラテ。
お茶漬け食べたい。梅がいいな、紫蘇多めで。


首斬り

タツミside____

 

「今回の標的は帝都で噂の連続通り魔だ。深夜無差別に現れ首を切り取っていく。数日前からもう何十人殺されたかわからん。」

 

新しい標的がボスの口から話された。殺された人の三割は帝都警備隊員だというから驚く。今回のも手強い相手になりそうだ。

 

「間違いなくあの“首斬りザンク”だろうね」

 

ラバックが言うが…首斬りザンク?なんだソレ?

 

首斬りザンク。

元は帝都最大の監獄で働く首斬り役人だったそう。でも、大臣のせいで処刑する人数が多くて…毎日毎日、繰り返し繰り返し、命乞いする人間の首を斬り落としていた。それを男は何年も続けるうちに、もう首を斬るのがクセになってしまい、監獄で斬ってるだけでは物足りなくなり終いに辻斬りになってしまったのだという。当時国から討伐隊が組織されたものの、それを察知したのか直後に姿を消していたその男が、今回この帝都に再び現れたのだという。

 

「危険な奴だな!探し出して倒そうぜ!」

 

拳を握って言う。そんな奴を野放しには出来ないからな!すると、兄貴がオレの頭に手を乗せて言う。

 

「待てタツミ。ザンクは獄長の持っていた帝具を盗み、辻斬りになったんだ。二人一組で行動しねぇと…お前危ないぜ?」

 

そしてそこからの顎クイ。今別の意味で危ない気がするのは気のせいじゃないはず。

暗殺は今夜に決定した。よし!やってやるぜ!

 

 

 

 

ラザールside____

 

「そちらは順調?」

 

暗い路地裏の中、今僕の目の前には最近噂の首斬りさんがいる。何故と思うかもしれないが、ちゃんと理由がある。

数日前、大臣の依頼で首切りに関する情報を店で集めるよう頼まれた。…のだが、正直面倒くさいことこの上ない。よって、本人に直接聞いて取引することにしたのだ。結果、少々ひと悶着あったものの利害の一致で交渉成立。今に至るというわけだ。

今日は、お昼のうちに話したいことがあったから、オロチに頼んで見つけてもらった。

 

「ひひ、順調だ。ありがとよぉ、おかげで毎日楽しいぜ。…ところで、前から聞きたかったんだがいいのかぃ?帝国の軍医とあろう者がこんなことをして」

 

「ううん、ダメだよ?本来ならね。だから内緒って言ったでしょ?」

 

「…俺がもし口を滑らせたらどうすんだ?」

 

「あはははは、変なことを聞くね!もし()()()()口を滑らせちゃったとしても大丈夫だよ。… 信 じ る 奴 な ん て 一 人 も い な い か ら 。」

 

「…いいだろう。ああ、実に愉快愉快。」

 

僕は彼に取引を持ちかけた。僕が殺して欲しい人間の居場所を教える。首斬りさんはその人を殺し、あとは自由に殺しまわる。首斬りさんは殺し甲斐のある人の首を斬るために、僕は僕の平穏を邪魔しそうな奴を摘むために。お互いにメリットのあるこの取引は概ね順調。あとは…

 

「ナイトレイドは多分今夜あたり来るだろうね。気をつけてね?」

 

「分かった。ああ、今から楽しみだなぁ」

 

そう言って去っていく首斬りザンク。楽しみなのはこっちだよ。ふふ、だって、()()()()()()()()()()()()()!!僕を殺そうと企んでいたんだよね?知ってるよ、あの子が教えてくれたからね!

 

「主。」

 

すると、いきなり僕の後ろから聞こえた声。

 

「カンザシか。どうしたの?空間転移使ってまで急いで。」

 

「例のアレ、出来上がったぞ。」

 

「本当?早いね!じゃあ、夜から早速練習してみようかなぁ♪」

 

「ふふ、しかし主は本当にすごいな。妾達がいるのに、自身もしっかり鍛えておる。」

 

「カンザシ、あのね?これは当たり前のことなんだよ?何事も一発で上手くいけば世話無いの。大事なのは一発を外した場合の二発目、三発目をどうするかなんだよ?僕にとっての一発目は駒達。二発目はチェルシーやイエヤス、カンザシ達。三発目は僕自身だ。大事な三発目の僕が弱かったらダメでしょ?」

 

「…そうか。まぁともかく、無理はするでないぞ。妾達はそれだけが心配じゃ…」

 

「その辺は大丈夫♪…ところで、彼女は?」

 

「うむ、やる気満々じゃ。さすが妾の親友といったところか?」

 

「そっか、ならいいや。今日はカンザシも着いて行くんでしょ?」

 

「うむ、女童にでも化けて行こうかと思っておる。」

 

「いいんじゃない?…ま、とりあえず一回帰ろっか」

 

「じゃな。周りの人間に見られると厄介じゃ、さっさと帰ろうぞ。」

 

そう言ってカンザシは転移を行使する。ああ、今晩が楽しみだ。診療所で待っていた“彼女”が大きな体を揺らし、クツクツと笑った。

 

 

 

 

タツミside____

 

夜になった。オレは今回アカメとペアで行動している。受け持った区画を見回るが、帝都住民は辻斬り怖さか誰一人外に出てこない。逆にやりやすい…とは思ったが、帝都警備隊はいつにも増して活発に動いているし同じか。

さて、ところでだが…

 

「アカメ、探す前に一つ聞いてもいいか?」

 

「?…!安心しろ、携帯食料は持ってきた」

 

なんだその万事解決!みたいな顔と立てられた親指は。

 

「いや、そうじゃなくて…帝具って何?」

 

「……こういうのだ」

 

チャッと自分の刀を見せてきたアカメ。うん、分かりません。オレの様子を見て、ハァと一息つくとアカメは話し出した。アカメの言うことを要約するとこうだ。

 

約千年前、大帝国を築いた始皇帝は悩んでいた。この国を永遠に守っていきたい…だが、自分はいずれ死んでしまう。結果、始皇帝は自国の全兵士と世界各地から最高の職人達を呼び寄せ、命じた。“国を不滅にするために叡智を結集させた兵器を作り上げろ”と。伝説と言われた超級危険種の素材、オリハルコンなどのレアメタル…兵士達はそういったものを集め、それらを使って職人達は作り出した。現代では到底製造できない48の兵器を。それを始皇帝は【帝具】と名付けた。帝具の能力はどれも強力で、中には一騎当千の力を持つものもある。しかし、五百年前の内乱によってその半分近くは各地に姿を消した。

 

「…つまり、皆が持っている武器も帝具なんだな?」

 

「ああ、ボス以外全員そうだ。」

 

アカメの帝具“一斬必殺”『村雨』。この妖刀に斬られれば傷口から呪毒が入り即座に死に至る。解毒方法もないとされている。

レオーネの帝具“百獣王化”『ライオネル』。ベルト型の帝具で、自身が獣化する。身体能力や嗅覚、視覚、聴覚が飛躍的に向上し、接近戦から索敵まで可能な帝具。

マインの帝具“浪漫砲台”『パンプキン』。精神エネルギーを衝撃波として打ち出す銃の帝具で、その破壊力は使用者がピンチになる程増していくという。

ブラートの帝具“悪鬼纏身”『インクルシオ』。鉄壁の防御力を誇る鎧の帝具だが、装着者に多大な負担がかかるため、並みの人間が身に着ければ死亡すると言われている。

ラバックの帝具“千変万化”『クローステール』。強靭な糸の帝具で、張り巡らせて罠や結界にもでき、拘束や切断も可能。異名通り千変万化な帝具。

シェーレの帝具“万物両断”『エクスタス』。大型鋏の帝具で、世界のどんな物でも必ず両断できる。その硬度故、防御の面でも高い優位性を示す。

 

「…また、奥の手を持つ帝具もある。例えばブラートのインクルシオは、素材に使われた危険種の特質を活かし、しばしの間その姿を透明化できる。」

 

「お、奥の手…強烈だな!」

 

「そうだ、強烈なんだ。故に、帝具を知る者ぞ知る、古来から続く一つの鉄則がある。」

 

「鉄則?それってどういう…?」

 

「帝具はその性能故に殺意を持ってぶつかれば例外なく犠牲者が出てきた。つまり、“帝具使い同士が戦えば必ずどちらが死ぬ”。これが鉄則だ。今回標的のザンクは帝具持ち…遭遇すれば相打ちはあっても両者生存の可能性は無い!…タツミ、気を引き締めろ。」

 

踵を返し、再び辺りに気を向けるアカメ。俺と歳も近いだろうに…アカメは今までどれだけの修羅場をくぐってきたんだろうか。

 

 

 

No Side___

 

帝都時計塔の上に首斬りザンクは立っていた。

 

「んーっ、辻斬りに加えて殺し屋も現れたと来たもんだ。全く物騒な街だねえ…愉快愉快♡」

 

帝具の能力でザンクは三手に分かれていたすべてのナイトレイドメンバー達を、すでに見つけていた。それらを眺め、何かを考えるザンク。

 

「さぁて…どの首から斬っていこうかなぁ。…と言ってももう決まっているんだが。それがあの軍医との取引だしなぁ…。でも、アイツと俺の目的が一緒で良かった良かった♡」

 

邪魔なんだと無邪気な笑顔で言ってきた少年を頭に思い浮かべるが、それもすぐに消える。…あぁ、今日も耳鳴りが止まない。

 

「何か恨みでもあるのかねぇ?…どうでもいいか。では、早速…美味しいモノは先に頂いてしまおう」

 

そう言ったザンクの視線の先には、アカメとタツミの姿があった。

 

 

 

 

タツミside____

 

さすがにホイホイとは出てこねーか…根気よく行くしかないな。アカメと区画を見回り初めてしばらく経つが、それらしい人影は見えない。今はアカメとベンチに座って休憩中だ。隣でアカメは緊張感もなくパクパクと携帯食料を口に運んでいる。相変わらずの食欲だ…。すると、ブルリと体が震える。これは…アレだ…うん。

 

「ちょっと失礼」

 

「トイレか。」

 

「…………」

 

……アカメにはデリカシーってモンが無いのか…?

アカメに見えない程度に路地裏に入り、用を足す。ハア、緊張してんなオレ…。オレはオーガという強敵とは戦ったが、帝具持ちとは戦ったことがない。本気でやらねぇと、殺られるのはコッチだ!オレは既に何度したのかわからない深呼吸をする。改めて気を引き締めていかねぇと。

 

ザッ……

 

足音が聞こえた。驚き、少し警戒しながらそっちを見やる。

そしてオレの頭は真っ白になった。

 

 

「サヨ………?」

 

 

 

 

 

 

カンザシside____

 

「その者にとって一番大切な者が見えるとはな…なかなかにえげつないのぅ。」

 

『ククッ…それを貴方が言うのですー?神墜ちのクズハ。』

 

そう言うのは妾の故郷で唯一の親友であった女。…クズハか。妾の名がカンザシになってまだ十年程だというのに、懐かしいと思うのは何故じゃろうか。

 

「その名で呼んでくれるな。今の妾はカンザシじゃ。妾の過去を聞いて尚、妾を親愛してくれる主がつけてくれた、この大切な名が妾の真名となったのじゃ。」

 

『ふーん。ま、アタイも名前、後で貰うけどな!』

 

そうコイツ、妾を探しにこの国に来たのじゃ。何というか…追ってくるほど親友想いだったとは思わなんだわ。しかし先日、妾が人間に仕えていると知るなり、主を殺そうと主の元にやってきた。…が、まさかの主に一目惚れという妾と全く同じ経緯を辿ってテイムされた。この世の中、何があるか分からんのぅ…。

 

「ふん、またしても長い付き合いになりそうじゃの。一応よろしゅう頼むとでも言っておこうか。」

 

『ククッ…こっちこそよろしくねー、えーっと?これからはカンザシ姉さん?…クククッ。姉さん呼びも懐かしいねぇ~』

 

「そうじゃのう。」

 

そう言って目線を街に戻す。さてさて、首斬りとクロメの姉とタツミとやらは何処じゃ……んんん??

 

「『え。』」

 

た、タツミとやらが首斬りに抱きつい…!?

 

『存外気持ち悪っ!!何アレ悪趣味!あの少年まさかの男色k((「黙れ」ごめんごめん!でもアレはない。』

 

真顔の我が親友に激しく同意する。おそらくタツミとやらは、幻覚で見た大切な者に感極まって思わず抱きついたんじゃろうが、端から見れば男同士の…否、ただの変態同士の抱擁じゃ…普通に引く。

 

『お、少年が首斬り見上げて固まった。幻覚解けた?』

 

「そのようじゃの…クククッ…」

 

『ん?どうした?なんか面白いこと聞こえた?』

 

「こんばんはって…クククッ」

 

『え?何?抱きつかれてるあの状態、あの状況でこんばんは?……ぶっふぉ!何それ、マジウケるんだけど!クッ…アハハハハ!!』

 

流石親友。妾の言葉足らずな説明で理解するとは。嗚呼、これはこれは…

 

「『面白い。』」

 

主が楽しみだと言った理由が分かった気がする。さて、どっちが勝つかのう…?

 

 




以降ネタバレ(カンザシの親友ちゃんの設定です。)
読みたくない方は高速スライドで逃げて下さい。






















★キノ
・超級危険種
・カンザシと同じ東方出身で、カンザシを姉のように慕うテンション高い系女子。
・八つの赤いの目に、黒い体の巨大な女郎蜘蛛
・話すときは念話なので『』で表示。人化するかは未定だが、したら通常の「」で表示。
・吐く糸は硬度に優れ、粘着力のある糸も出せる。クローステールのように千変万化だが、火に弱く火に触れればすぐに溶けてしまう。
・カンザシが攻撃に優れているのとは逆に、体の甲殻が高い硬度を有しているため、耐久型の戦法を取る。
・子蜘蛛を体内で大量に飼っており、基本攻撃は子にさせ(食らわせ)て、数で勝つ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。