今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。 作:漣@クロメちゃん狂信者
タツミside____
俺らにも、田舎者として帝都に憧れを抱いていた時期があった────。
「憧れていた帝都もこうして見回してみると表情暗い人多いなー…」
つい先日、オーガ暗殺を成功させアカメと和解したオレ。しかし、その次に待っていたのはあのムカつくピンクとのパートナー生活だった。
「そりゃこの不景気と恐怖政治じゃね。」
そのムカつくピンク少女、マインとオレは今帝都メインストリートを歩いている。
「日中こうも堂々と歩いて平気なのか?」
ふと疑問に思ったことを聞いてみる。
「え、だって……顔割れてんのアイツ等4人だけだし。」
スッと壁に貼られた手配書を指差して示すマイン。上はアカメ、左はボス、右がシェーレなのは分かるけど……
「真ん中の奴誰だ?」
「ブラートよ。」
間髪を入れずに返ってきた答え。驚かずにはいられなかった。マインに聞くとイメチェンをしたらしい。史上最悪のビフォーアフターだ…。
「って訳だから、堂々歩けるアタシ達はここで任務よ。」
「…上等だ!そのためにオレを連れてきたんだろ?」
「よしっ!帝都の市勢調査開始っ!!」
「なんだか分かんないけど、おうっ!!」
こうしてオレらの市勢調査は始まった。……これから始まるオレの地獄を知らずに。
それからマインとオレは店を巡った。巡りに巡った。メインストリート中を縦横無尽に歩き回った。ウィンドウショッピングに始まり、小物屋、服屋、アクセサリーショップ…時に女性用の下着屋にも付き合わされ…
「ふーっ買った買った。やっぱり春はピンクの服が映えるわね!」
「…そうだね。」
「オフの時位羽根をのばさないとね♪」
「ソウダネ」
この“市勢調査”が始まってもう何時間経っただろうか。既に日は傾き始めていた。やっと買い物を止め、カフェに入ったと思えば、マインが言ったのはそんなこと。そして…
「よしっ!任務達成!」
「これただのショッピングじゃねえかあ!!」
ビシィッと鋭いツッコミをいれるオレ。朝から荷物持ちしながらコイツの買い物に付き合い、試着に感想を求められ、女性用下着の店にまで入る羽目になったオレの苦労は何だったんだ!!いい笑顔で「任務達成!」じゃねえよ!…が、
「頭が高い」
「おぶぅ!?」
何故かオレは平手打ちを喰らう。解せぬ…
「アタシが上でアンタが下!部下が口答えすんな!荷物持ちになれただけでもありがたいと思いなさい!」
平手打ちを喰らって椅子から落ちたオレを足蹴にしつつマインは言う。痛ぇ!苛立ちを覚えるものの、一応現時点で上司ではあるので我慢する。そんな時、カフェの外が騒がしいことに気づいた。
「なんの騒ぎだ?」
「帝国に逆らった人間の公開処刑でしょ…帝都ではよくあることよ。」
そこを見ると、まだ生きている人間が胸を釘で打たれた状態で十字架に吊られていた。五体満足の人なんて1人もいない。夥しい量の出血で辺りは血の匂いで充満している。生きている彼らの呻き声が辺りに響いていた。彼らの表情は絶望、悲哀、そして悔恨の念に満ちていた。
「な…なんて非道いことを…」
「ああいうことを平気でやるのが大臣…世継ぎ争いで今の幼い皇帝を勝たせた切れ者よ。…アタシは、あんな風にはならないわ…。必ず生き延びて、勝ち組になってやる!」
マインの暗い、しかし決意に満ち溢れた目をオレは見た。大臣か…一体どんな奴なんだ!?
「…アレ?マインちゃん?」
「ん?おお、マインか。久しいな!」
すると後ろから聞こえたマインを呼ぶ声。2人で振り返るといたのは、超絶美人な男の人と大和撫子風な美少女。マインの知り合いか…誰だ?
「ラ…ラザール!?」
やぁと片手をひらひらと振りながら近づいてくる2人。マインの方をチラリと見ると、それはもう見たこともないような笑顔だった。え、誰だよお前!?そんな顔のマイン、ボス相手にも見たことねぇぞ!?
「ど、どうしてここに?今日は王宮じゃないの?」
「うん、午後から休み貰ったんだー♪そしたら、カンザシが買い物したいって言うから…荷物持ち?」
「うむ、妾の買い物に付き合って貰っておったのだ♪ありがとな、主!」
「いえいえー。」
にこやかに会話をする2人。
「タツミ覚えときなさい!コレが女性の買い物に付き合う男の正しい態度よ!」
「……ハイ。」
何も言えねえ…。ところでなんだが……
「「マイン/マインちゃん、コイツ/彼は誰?」」
…見事にタイミングが合ったな。
「はあ!?アンタ知らないの!?」
「((ボソッ 主、マインの連れじゃぞ、きっと禄でもない奴じゃ…」
あの、美少女さん?マインには聞こえなかったみたいだけどオレには聞こえてるんですが…
「いい?飾りにも等しいその耳かっぽじってよく聞きなさい!彼はラザール!この帝都で一番の医者よ!隣の女はその助手のカンザシ。性格はアレだけど腕は良いわよ!」
「おい、マイン。妾の性格が何じゃと?」
「あはは…」
おい、ラザール…さんが苦笑してるぞ。気づけマイン。
「初めまして。ラザールです。マインちゃんが言うように帝都で医者やってます。一応軍の方にもよくお手伝いに呼ばれます。よろしくね?」
「あ、オレはタツミって言います。よろしくお願いします。あの、軍って?」
軍…って、帝都の軍だよな…敵なのか?けど、正直悪い奴には見えねえし…
「ああ、ラザールは腕が良すぎて軍に目を付けられてね…軍に徴収されて強制労働強いられてるのよ。」
「いや、強制労働ではないけど…」
どっちだよ、マインの言うこと本人否定してんじゃねえか。
「主はの、ナジェンダというストーカー女のせいでナイトレイドと関わりがあるのではないかと疑われてな…。腕も良いし、監視も兼ねて軍属させられておるのじゃ。…あ、妾の名はカンザシと言う。よろしゅう頼むぞ。」
「あ、どうもご丁寧に。タツミです。よろしくお願いします。」
カンザシさんが説明してくれたので理解した。…って、ラザールさんの軍属の原因ボスかよ!?あの人何してんだよ!
「え、ボ…じゃない、あの手配書の元将軍のナジェンダがストーカー!?」
どうやらマインも知らなかったらしい…にしてもボスがストーカー、ねぇ…
「あはは…まぁいいよ、今更だしね。じゃ、僕らはそろそろ帰らなきゃ。」
「あっそう。じゃあ、またね。今度店に行くわ。」
「はいはーい、待ってるよ。じゃあ、タツミ君もまたいつか。是非ともウチの店をご贔屓に♪」
「“Eli”という診療所じゃ。良かったら来い。ではのー」
そう言って2人は去っていった。てか、Eliって…あぁ!!アリアの護衛官の人が言ってた診療所!!ラザールさんが帝都最後の良心…なるほど。初対面ではあったけど、何となくわかる気がする。
「まさか会うとは思わなかったわ…2人とも相っ変わらず万人顔負けの美貌よね~…」
「マイン、何かオレと態度違いすぎなかったか…?」
「はあ!?アンタとラザールが同列な訳がないでしょ!アンタとラザール比べてどうすんのよ、天と地よりも大きな差よ!?」
ヒドい言われようだ…。てかマインの奴、ラザールさんに甘くねえか?いつものあのツンツンはどこに…
「何してんのよ、タツミ!アタシ達も帰るわよ!」
「お、おう!」
そうしてオレ達もアジトへの帰路についた。
…マインの荷物重ぇ!!
ラザールside____
マインちゃんと例の新入り君に偶然にも出会い、王宮への帰り道。カンザシはどこかつまらなさそうな顔だった。
「ふん、話した限りでは何処にでも居そうなガキじゃったな。」
「そうだね…でも、カンザシ。」
「分かっておる。見た目に騙されるな、であろう?」
分かっているなら何より。実際僕らだって人格が変わったように切り替わるんだ。普段の顔だけで他人を信じてはいけない。
「ラザール隊長!」
王宮に戻り、部屋向かう途中、アルエット女医が息を切らして此方へと走ってくるのが見えた。
「何かあった?」
そう聞くとアルエット女医はどこか青ざめた顔で僕に言った。
「午後にあった陛下と大臣達の会議にて…内政官のショウイ殿が罪に問われ、牛裂きの刑に処されると!」
「あーらら…ショウイさんが処刑かぁ…。あの人、今時珍しい良識人だったのに…。」
「はい。しかし、今の懸念は彼と懇意にしていた私たちに被害がないかと言うことです。部下達がそれで不安がって密かに騒いでます。」
「うーん…多分大丈夫だけど、一応僕から大臣殿に確認入れてみるねー。アルエット女医は皆を落ち着かせておいて」
「はっ、了解致しました!」
カツカツとヒールの音を響かせて元来た道を戻るアルエット女医。彼女達は気付いているのだろうか。
懇意にしていた者の死を悲しむよりも先に己自身の保身を考える時点で、既に自分達がもう元には戻れない程におかしくなってしまっているということに。
「カンザシ」
「何じゃ主?」
「シオンに夜の帝都の監視を頼んでおいて。」
「夜の監視はオロチの仕事であろう?どちらにも頼むのか?」
「いや、オロチには王宮内の情報収集にまわってもらう。僕らだけじゃ限界があるからね…それにオロチなら、万が一気づかれても影から出さえしなければ殺される心配もない。」
「うむ、了解した。」
さて、これからの荒波に備えて…
「地盤を固めていこうか。」
僕らを舐めないでよね…♪
ラザール君とタツミ、初の顔合わせ。そしてマインちゃんとタツミが知ってしまったナジェンダのストーカー疑惑。きっと2人のボスへの認識が微妙なものになるに違いない(確信)そしてラバックは嫉妬に狂う(理想)