今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。 作:漣@クロメちゃん狂信者
今回は2人の不憫コックが頑張る話。
タツミside____
サヨ…イエヤス…俺、料理出来るようになってて良かったよ。おかげで…
「「「「「おかわり」」」」」
すっかりコック扱いだけどな…。
「くっそ!殺し屋なのに来る日も来る日も炊事かよ。」
手元のリンゴの皮を包丁で器用に剥きながら愚痴る。
「仕方ない。私はアジトでは炊事担当だからな。」
私についてるお前も当然炊事担当になるとパクパク葡萄を口に放り込みながら答えるアカメ。うん、成る程。味見や試食が無限だから炊事なんだな。試しに聞くと、そんなことないと返ってきたが、同時に再び口に葡萄を放り込んだ。…説得力ねえよ。
「やっぱり新入りにはその姿が一番サマになってるわね」
…ムカつくピンク女、マインが言う。思わず手に持っていたリンゴを握り潰してしまった。マインの方を向くとマイン以外にも何人かいた。なんでもこれから帝都で任務らしい。ボスにもこの前聞いたな…確かナイトレイドは表向き、帝都民からの依頼で暗殺をこなす組織で通ってるとかどうとか。
「ま、そういうことだから。あんたはアカメとお留守番!大人しくキュウリのヘタでも落としてなさい!」
マインが高笑いしながらそう言うが…コイツはなんでいつも必要以上に威圧的なんだよ。音符が付きそうなほどにご機嫌な様子で出かけて行ったマインたち。くっそ悔しい!
「よし!じゃあ、次は私達も命を奪いに行こうか」
アカメが言う。あぁ、炊事の狩りってオチですね分かります。
「ほう、それで?結局タツミが捕まえたのは二匹と…初めてにしては上出来じゃないか。」
「服脱ぎ捨てて“上等!”って言ったんだって?」
夕飯の時刻、ボスとレオーネ姉さんに今日の狩りについて弄られた。ボスには褒められた(?)が、アカメはそれに対してまだまだだと言う。アカメは俺を全然認めねぇ。いっつも何考えてるかわかんねえし…やっぱ苦手だぜ!
「レオーネ」
するとボスが箸をテーブルに置き、真剣な顔でレオーネ姉さんに問う。
「数日前帝都で受けた依頼を話してくれ」
依頼!レオーネ姉さん、いつの間に…。
話を聞くと、標的は帝都警備隊のオーガという男と油屋のガマルという男らしい。なんでもオーガはガマルから大量の賄賂を貰っており、ガマルが悪事を働く度にオーガが代理の犯罪者をでっち上げ、その冤罪人を死刑にする事で、今までにいくつもの罪を隠して来たとか。今回その冤罪人として依頼人の婚約者が濡れ衣を着せられ、殺されたらしい。つまり、依頼はオーガとガマルの暗殺。晴らせぬ恨みをどうか…ってやつか。
「って、ワケだ。コレはその時の依頼金。」
ジャラッという重い音をたてて、大金の入った袋がテーブルに置かれた。
「その人よくこんなに貯めたな…」
袋を見て思わずそんな言葉が出た。
「性病の匂いがした…体を売り続けて稼いだんだろうな。」
そんなことって…。背筋に冷たいものが走った。事実確認としてレオーネ姉さんが油屋の屋根裏から有罪を断定済み。この依頼は今正式に受理された。
「悪逆無道のクズ共は新しい国に要らん。天罰を下してやろう。」
「ガマルを殺るのは容易だが、オーガはなかなかの難敵だぞ。」
『鬼のオーガ』。鬼と呼ばれるだけあり、その剣は犯罪者達から恐怖の対象とされている。普段は多くの部下と見回りに出ており、それ以外は警備隊の詰め所で過ごす。非番の日は役目柄詰め所を離れるわけにもいかず、宮殿付近のメインストリートで飲んでいる。
鬼…か。説明を聞く限りじゃ実行はソイツの非番の日にしか無理そうだ。それにボス曰わく、宮殿付近の警備は厳重らしく、指名手配中のアカメに頼むのは危険とのこと。マイン達を待つのが一番ベストな筈だが、アイツらが帰ってくる日は未定…。だったら…
「だったら、俺達だけでやり遂げようぜ!」
テーブルに手を叩きつけて椅子から立ち上がり、提言してみる。
「………ほう。お前がオーガを倒すと言うのか。」
…え?
「私も顔バレはしていないが、今の発言の責任はとって欲しいよなぁ…」
…ちょっと待ってくれ。ボスも姉さんもどうしてそんな楽しそうなものを見る目でニヤニヤとこちらに視線を向ける…
だが、
「今のお前には無理だ。」
アカメのヒドい言いようにカチンと来たオレは自分の意見を述べた。こうしている間にも濡れ衣を着せられ、殺される人がいるかも知れない…だったらオレはやる、と。大切な人が理不尽に奪われる…そんな思い、もう誰にもさせたくねぇ…!
「分かった。お前の決意、汲み取ろう。お前がオーガを消せ。」
「よく言ったタツミ!気持ちのいい覚悟だ!」
「…きちんと任務を遂行し、報告を終えて初めて立派と言える。この時点でいい気になっていては死ぬぞ。」
…言ったなアカメ!畜生…絶対成功してオレを認めさせてやる!
~同時刻~
ラザールside____
「さぁ、作れ!僕らの夕飯!」
「ざけんな!なんで俺だよ!」
「キリク…隊長の命令は絶対、ですよ。」
「いくらお前の頼みと言えども聞けねぇ!」
「主の命令を聞かぬことなど有り得ん!」
「知るか!」
「「「うっさい、作れ!」」」
「なんでだよ!」
反抗しつつも料理の手を緩めない辺り、なんだかんだで優しいよね。でも、今回のは当然だよ。だってキリクの書類手伝ってたせいで夕飯の時刻過ぎちゃったんだから。定時にもあがれないし。まったく…次からは何かペナルティー考えとかなきゃ。
「そもそも、キリク。アナタが書類を溜め込んでおくからこうなったんです!自業自得だわ!」
珍しくアルエット女医も少し怒り気味。
「口を動かす暇があるなら手を動かせ、怠け者が!」
カンザシはなんかスゴい攻撃的だね…どうしたの?まぁ、良いけどさ。
「あーあー、すんませんでしたー!はい、どーぞ!作ったんだから不味くても文句言うなよ!文句言うなら食うなよ!」
4人で囲んだテーブルに置かれたのは餡掛けチャーハン。だが…
「へぇ…!」
「まぁ…!」
「………!」
「どうだ!キリク特製No.6“餡掛けチャーハン・海の幸”!」
うん、めっちゃ美味しそう。餡の具はイカ、小エビ、揚げ鱈、木耳、玉ねぎ、人参、白菜とシンプルだが、そこら辺の下手な料理屋よりも断然美味しそう。
ということで
「「「いただきます」」」「流石俺!」
(※約一名フライング)
「…うん、美味しい」
え、めっちゃ美味しいんだけど何コレすげぇ!…あ、カンザシすごい悔しそうな顔してる。眉間に皺寄ってるぞ…大丈夫か?
「くっ…まさかキリクがここまで料理上手だったとは……!あ、私もちゃんと人並みには作れますからね、隊長!」
「チッ…旨いが同時にヒドく腹が立つのはなんでだ…!和食…和食なら負けんぞ!」
…うん、女性陣がなんか凄い闘志燃やしてるけど気にしない。
「ふぅ、ご馳走様でした」
「ご馳走様です。」
「……でした。」
「おー、お気に召したようで何よりでした」
あー、女性陣がキリクのニヤリ顔見てイラッとしてらっしゃる…。まぁ、腹立つわな…。
「じゃ、部屋に戻るね。キリクご馳走様でした。お休みー。」
「また明日ね。」
「ではのー」
「はいはい。」
食後のお茶をいただいて、一息ついてキリクの部屋を出る。アルエット女医とも廊下で別れ、僕もカンザシも部屋へと戻った。
あー、書類疲れた。キリクめ…次やったら本気でペナルティーだな…何にしようかな…。んー…まず拷問ルートと被検体ルートを作って…うん。明日にしよう。
そう脳内で自己完結しつつ、ベッドにダイブ。うん、眠い。おやすみなさい。
…あ、一応言っとくけど、僕だってお菓子作りなら負けないからね!
美味しいご飯が食べたい。あぁ、また体重が…。