今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。   作:漣@クロメちゃん狂信者

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2017/11/05 改稿しました。



廻る

タツミside____

 

…あの忌々しい日から3日が経った。あの日のことを俺はきっと、一生忘れない。忘れられない。

あの日の翌日、ナイトレイドの奴らは本当に2人の遺体を持ってきてくれて、埋葬の手伝いまでしてくれた。オレはそれからずっと2人の小さな墓の前にいる。

 

【私達3人、死ぬ時は同じと誓わん!】

【おう!帝都で出世して金稼ぎだ!】

【俺達でこの貧乏故郷を救うんだ!!】

 

…とか言ってたのによ

 

「俺…一人になっちまったじゃねぇか……」

 

2人の前でしんみりしていると不意に頭に落とされた柔らかなモノ…。驚き飛び退くと、そこに居たのはあのおっぱい女。

 

「おおおおお!?いきなり何すんだよ!!」

 

「いつまでもウジウジしない!あれからもう3日だ。私達ナイトレイドの仲間になる決心はついた?」

 

…いやいやいやいや!?だから俺は、帝都で仕官して金稼ぎをしなきゃいけないんだって!そう思って反論しようとしたが、横から抱きつかれ不発に終わる。

 

「アンタ殺しの素質あると思うよー?お姉ーさんが保証してあげる♡」

 

「…素質うんぬんで迷ってるんじゃなくて…」

 

だってなぁ。殺し屋なんていきなり言われても…そんなすぐに踏ん切りがつくかよ…。すると、急に首に腕を回され、引きずられる。なんかデジャヴ!?

 

「ま、とにかく今日はアジトを案内してやるよ!」

 

「ちょ、首がっ!」

 

「ちなみにココは帝都から北に約10kmの山の中だ」

 

殺し屋なんだよな!?そんなオープンな感じでいいのか!?ツッコミたいところは山ほどあるが、とにかく頼むから首をホールドしている腕を何とかしてくれ!

 

 

~会議室にて~

 

「…え?まだ仲間に入る決心ついてなかったんですか?」

 

まず、最初に来たのは会議室。大きな机の一席についていた眼鏡の女が俺にそう問う。

 

「そうなんだよ、シェーレ。何かコイツに暖かい言葉をかけてやってくれ。」

 

眼鏡の女はシェーレという名前らしい。彼女はうーんと少し考えて…

 

「…そもそもアジトの位置を知った以上、仲間にならないと殺されちゃいますよ?」

 

…暖かすぎて涙が出るぜ。

よく考えた方がいいと助言するなり、彼女は手元の本に目線を戻す。何の本を読んでいるのかとチラッと表紙を覗いてみると、そのタイトルは【天然ボケを治す100の方法】。…やっぱ変人の集まりなのか。

謎の納得を感じるなり、丁度ピンクの服を着た少女が部屋に入って来た。

 

「あーっ!ちょっとレオーネ!なんでソイツ、アジトに入れてんの!?」

 

「だって仲間だし」

 

「まだ仲間じゃないでしょ!ボスの許可も下りてないんだから!」

 

クワッと苛立ちを隠しもせずにおっぱ…じゃない、レオーネ(?)さんに噛みつくピンクの少女。するといきなり、ギロッとこっちを睨むように見てきた。

じーっと眺められること数秒、少女はため息を吐くように話し出した。

 

「不合格ね。とてもプロフェッショナルなアタシ達と仕事出来る雰囲気じゃないわ…顔立ちからして。」

 

「なっ!?何だと手前ぇ!」

 

…何故ほぼ初対面の少女に全否定されなければいけないのか。苛立つまま、少女に怒声を向ける。

 

「気にするなよ、少年。マインは誰にでもこうなんだ…アイツ以外にはな。」

 

「フンッ!」

 

…このムカつくピンクはマインというらしい。それよりもアイツとは誰のことだろうかと一瞬気になったが、次に行くぞと言うレオーネさんの声で俺は後に聞くことにした。

 

 

~訓練所にて~

 

「どりゃああああ!!でやでやでやでやっ!!」

 

訓練所の区画に着くなり聞こえてきた声。な、なんか凄そうだ…

 

「ここは訓練所と言う名のストレス発散所だ。んで…ほら、あそこにいる見るからに汗臭そうなのがブラートだ。」

 

スゲェ槍捌きだと驚いたのもつかの間、訓練に一段落ついたらしいブラートさん(?)が俺達に気づいた。

 

「ふぅーっ、…お?何だ、レオーネじゃん!と、そこの少年は…あぁ、この間のヤツか!」

 

…なんで俺のことを知ってんだ?昨日会った中にこんな人いたっけか?疑問に思い聞いてみると、どうやら彼はあの日鎧に包まれてた人らしい。納得。

 

「ブラートだ!ヨロシクな!」

 

「ド…ドモ」

 

雰囲気に流されるまま握手をする。すると…

 

「気をつけろ、そいつホモだぞ♪」

 

…慌ててバッと離れる。

 

「オイオイ……誤解されちまうだろ?なぁ?」

 

否定はしないんですね…否定こそして欲しかった…。

 

 

~水浴び場にて~

 

水浴び場から少し離れた崖の上に彼はいた。どうやら、本来はレオーネさんの水浴びの時間らしい。所以、“覗き”と呼ばれる行為を彼は決行しようとしていたようだが…その対象である彼女は彼の後ろにいるのだ。そして次の瞬間ボキッという音をたてて彼の指は逝った。(殺られたとも言う。)やったのは勿論姉さん。…バカじゃなかろうか。

 

「懲りないなー、ラバ」

 

「クソッ、まだいける!どこまでも!」

 

「じゃあ次は腕一本な。…という訳で、このバカはラバックな!」

 

彼の腕を本来ながら行かないであろう方向に曲げつつ、姉さんは彼を俺に紹介する。…やっぱバカなのか。確かに腕を殺られそうになりながらも、コレはコレでアリかと豪語する彼はかなり残念な人だと思う。

 

「んじゃ、次は…河原かな?」

 

 

~河原にて~

 

「なんかもうお腹いっぱいなんだが…」

 

トボトボとした足どりで姉さんの隣を歩く。姉さん曰わく、次は美少女だから期待しておけ…との事。

 

「ホラ、あそこにいるのがアカメ。可愛いだろ?」

 

姉さんの指差す方を見る。…が、そこにいたのは

 

ゴリッ ベキッ バキッ

 

むしゃりと肉をむさぼり食う少女だった。しかも…

 

「!アイツが食ってんのエビルバード!?一人で殺ったのか!?」

 

エビルバード…一度村を襲えば、村を丸ごと食べてしまうほどの大食漢である鳥型危険種…。しかもエビルバードは特級危険種だ。危険種の中でも強い部類に入る。それを1人で…。感嘆なのか驚きなのか自分でもよく分からないため息が零れる。

 

「アカメはアレで野生児だからな!」

 

「レオーネも食え」

 

ポイッと姉さんに向けて投げられた肉。そして俺をじーっと見つめてきた。…なんだ?

 

「お前、仲間になったのか?」

 

「いや…」

 

「じゃあまだこの肉をやる訳にはいかない」

 

キリッとした決め顔で言い切ったアカメ。ぶっちゃけいらねえ…。つか、コイツ…俺を二度も殺そうとした…苦手だぜ。

 

「それにしても今日は奮発してないか?」

 

「ボスが帰ってきてる」

 

目線を横にズラす。するとそこにいたのは右腕が義手の女の人。そこからはまぁ…レオーネさんが土産をねだったり、姉さんが作戦時間オーバーで怒られてボスさんの義手がギリギリいったり、レオーネさんが俺をボスさんに推挙したり……って、全部レオーネさんじゃん!?つか、勝手に推挙すんな!

 

「見込みはあるのか?」

 

「ありますよ。…ってことで、とにかくやってみろってな!」

 

「時給も高い」

 

「バイトかよっ!」

 

思わずつっこんだ俺は悪くない。

 

「アカメ…会議室に全員集めろ。この少年の件を含め、前作戦の結果を詳しく聞きたい。」

 

…そして俺はまだまだ解放されないらしい。

 

 

 

「…成る程。」

 

会議室に戻り、集まったナイトレイド一味とオレ。ボスの名前はナジェンダさんと言うらしい。事情聴取を受け、大体のことを説明した。

 

「事情は全て把握した。タツミ…ナイトレイドに加わる気はないか?」

 

「断ったらあの世行きなんだろ?」

 

「いやそれはない。だが帰すわけにもいかないからな、我々の工房で作業員として働いて貰うことになる。」

 

…殺されはしないのか。でも…でも俺は…

 

「とにかく断っても死にはせん。それを踏まえた上で…どうだ?」

 

「……俺は…帝都へ出て、出世して、貧困に苦しむ村を救うつもりだったんだ。ところが、その帝都まで腐ってんじゃねぇか!」

 

「中央が腐ってるから地方が貧乏で辛いんだよ。その腐ってる根源を取っ払いたくねぇか?男として!」

 

ブラートさんが俺にそう言った。ナジェンダさんの話を聞くところによると、どうやらブラートさんは元々は優秀な帝国軍人だったらしい。帝都の腐敗を知り、仲間になったんだとか。

 

「俺らの仕事は帝都の悪人を始末する事だ。腐った連中の下で働くよりずっと良い。」

 

「でも、悪い奴をボチボチ殺していったところで世の中大きく変わらないんじゃないのか?」

 

それじゃあ、辺境にある俺の故郷みたいな村は結局救われねえ…

 

「成る程。ならば余計にナイトレイドがピッタリだ。」

 

「なんでそうなるんだ?」

 

曰わく、帝都のはるか南には革命軍のアジトがあるらしい。時の流れと共に大規模な組織に成長した革命軍の情報収集や暗殺などの裏を担当する部隊…それの一つがナイトレイドなんだとか。

 

「ナイトレイドは、今こそ帝都のダニを退治しているが、軍決起の際はその混乱に乗じ……腐敗の根源たる大臣を討つ!その役目を請け負っている部隊でもあるんだ。」

 

「大臣を…討つ!?そんなこと出来るのかよ!?」

 

「勝つための策は用意してある。その時が来れば…確実にこの国は変わる!」

 

「…その新しい国は…ちゃんと民にも優しいんだろうな?」

 

「無論だ。」

 

……成る程。スゲェ!!コイツらの仲間になれば、国を変えられる!辺境の村が苦しむことも、サヨやイエヤスみたいに死ぬ奴もいなくなる!

 

「じゃあ、今の殺しも悪い奴を狙ってゴミ掃除をしてるだけで…いわゆる正義の殺し屋って奴じゃねえか!」

 

期待と少しの憧れを込めて言ってみる。…が、

 

「「「ぷっ…アハハハハハハハハハハハハハハ」」」

 

返ってきたのは皆の笑い声。な、なんでだよ!話を聞く限りはそうだろ!?

 

「はー…タツミ。」

 

笑うのを止めたレオーネ姉さん達が真面目な顔で俺に言う。

 

「どんな名目をつけようが、ウチらがやってるのは殺しなんだよ。」

 

「そこに正義なんてあるわけないですよ。」

 

「ここにいる全員、いつ報いを受けて死んでもおかしくないんだぜ。」

 

…殺し、か。

 

「戦う理由は人それぞれだが、皆覚悟は出来ている。それでも意見は変わらないか?」

 

「報酬は貰えるんだよな?」

 

「ああ。しっかり働いていけば故郷の一つは救えるだろうさ。」

 

…帝都では就職難で稼ぐのには時間がかかる。その上、あんな最低な奴らがトップにいる。…ならば。

 

「だったらやる!俺をナイトレイドに入れてくれ!そういう大きな目的の為ならサヨやイエヤスもきっとそうしてる!」

 

そう、サヨやイエヤスだってこの国を変えて欲しいはずだ!なら、やるしかねぇ!

 

「村には大手を振って帰れなくなるかもよ?」

 

ピンク女…マインが挑発するように聞いてくるが…

 

「いいさ、それで村の皆が幸せになるなら」

 

「…フン」

 

「決まりだな…。修羅の道へようこそ、タツミ」

 

もう後には退けない。けど、後悔はしない。これが俺の選んだ道だ!

 

 

 

 

 

イエヤスside____

 

俺は真っ暗な空間に居た。ここはどこだろう?

 

…いや、あぁ、そうだった。俺は死んだんだ…。憧れの帝都は、夢見たような所ではなかった。あそこは悪魔の巣窟だった。それを知らなかった俺とサヨは呆気なく殺された。ははっ、情けねぇ…。

しかし、そう思ったのも束の間。急に俺の意識は浮上する。

 

俺の目にまず見えたのは白い壁と白い天井。

次に感じたのは柔らかなシーツの感触と薬のにおい。

 

死んだ筈の俺に流れ込む大量の感覚情報。…おかしい。こんなのあり得ねぇ…。でも…まさか生きてるっていうのか?

 

 

「おはよう。うん。君は生きてるよ。」

 

…あぁ、そうか。

 

「おはよう、ございます。」

 

今ので全部分かった。理解した。

 

「体の調子は?」

 

「大丈夫…です。」

 

あぁ、もう大丈夫だ。

 

「だろうね…じゃあ、明日からお仕事ね?」

 

「了解ッス。……マスター。」

 

あぁ、大丈夫、大丈夫。俺はもう…死を知ったから。

 

だから、生死を与奪する彼をこそ、俺は主と認めるんだ。

 

 

 

ラザールside____

 

「…じゃ、行ってくる!」

 

「うん、行ってらっしゃい♪」

 

「おう!この俺様に任せとけ!」

 

「ふふっ、気をつけてね」

 

そう言って僕はイエヤス君を送り出した。彼に頼んだのは北方に行っている軍の皆さんに薬を届けるお仕事。届けたら直接軍部に来るように伝えてある。自称方向音痴らしいので、地図とコンパスはちゃんと持たせてこまめに確認するように言ったが、大丈夫だろうか。本当に迷子になってしまった時用に、地図には危険種たちの生息地の分布も手書きで載せておいたが…まぁ、困ったときは人に聞けと言ったし、何とかなるとは思うけど…。

 

「主、あやつは使えるのか?」

 

「うん、多分ね。」

 

「ふむ…ならば妾は何も言うまい…主に害が及ばぬのなら、あやつのことは嫌いでは無いしな。」

 

「ふふっ、ありがとう、カンザシ」

 

「べ、別に…!主へのあの口調を許した訳ではないからな!勘違いするなよ、主!」

 

「はいはい。」

 

カンザシは可愛いなぁ…。僕の成長にカンザシの変化も合わせてあるからかカンザシはいつも僕の肩辺りの身長だ。実に頭を撫でやすい位置。カンザシの毛並みには気を使っているから変化時のカンザシの髪はサラサラ。撫でていて気持ちいい質感だ。フェルやリンもだけどね。

 

「さてさて、それで?あの新入りが入ったにも関わらず、ナジェ…もといストーカー女からの手紙は止まないと。」

 

「うん。止まない。止んでない。止む気配もない。…まぁ、なるようになるよね…アハハ…」

 

「主、目が死んだ魚の様になっておるぞ!頼むから帰ってこい!」

 

はっ!いけないいけない…ちょっとトリップしてた…

 

ま、何はともあれ配達員はゲットした。あとはあのナイトレイドの新人君に見つからないように、会わせないようにしつつ強化していくだけ!新人君への切り札でもあるからね♪

 

ふふふ…面白くなってきたなぁ♪

 

 

 


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