今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。   作:漣@クロメちゃん狂信者

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2017/11/05 改稿しました。
作業BGMは「天才ロック」でお送りしました。

原作開始です。


始動
明と暗


タツミside____

 

「畜生…あの女ァァァ!!」

 

最悪だ!手っ取り早く仕官出来るって言うから金を渡したのに…金の持ち逃げとか!オレの村じゃ、そんな嘘つく奴いねーぞ…クソ!

 

オレは今日、この帝都に来た。が、帝都の兵舎へ向かい仕官するも、始めるならば一等兵からだと言われ追い返された。それで落ち込んでいた所に話しかけてきた(胸のデカい)女に、手っ取り早く仕官出来るコネがあると言われたオレはほぼ全財産を託し、女は金を持って去って行った。…持ち逃げしやがったことに気づいたのは、女と別れたずっと後だった。この帝都では騙される方が悪いのが常識だと教えられた瞬間だった。

金は盗られたが、諦める訳にはいかねぇ。帝都で出世して稼ぎまくって、あのド田舎なオレの村を救うって決めてんだ!それに、途中で別れたサヨとイエヤスも探さなきゃいけねぇ…

 

「まぁいいや。今日は野宿!何処でだって寝られるしな!」

 

帝都の路上の隅に腰を下ろし、背負う袋からコートを出す。明日はどうしようかな…いや、とりあえず今は寝よう。朝から土竜狩ったし、何よりもあのおっぱい女のせいで精神的に疲れた。

 

「ねぇ、アナタ地方から来たの?」

 

寝る体勢に入っていたオレに突如として声がかけられた。顔を上げるといかにもなお嬢様。

 

「もし泊まるアテが無いんだったら、私の家に来ない?」

 

お嬢様っぽいソイツはオレにそう提案してきた。確かに魅力的な話だが……

 

「…オレ、金持ってねーぞ…」

 

俺はさっき騙されたばかりだ。ここは慎重に…疑心暗鬼になるのも致し方ないよな。

 

「クスッ、持ってたらこんな所で寝ないわね。」

 

「アリアお嬢様はお前のような奴を放って置けないんだ。」

 

「お言葉に甘えておけよ。」

 

お嬢様だけでなく、護衛官?の人たちもそう言う始末だ。

 

「まぁ、野宿するよりゃいいけどよ…」

 

「じゃあ決まりね!」

 

そうしてやってきたアリアさんの家。優しい家主さん達に、一目で強いとわかる護衛官達…貴族であるアリアさんの父親が、オレの仕官のために口添えと、サヨとイエヤスの捜索も手伝ってくれるそうだ!すごくありがたい!なんだ…いるんじゃないか、帝都にもこんな優しい人たちが!結局オレはアリアさんの家にお邪魔している間、アリアさんの護衛を手伝うことになった。宿泊費分は働かねぇと!

ついてる。最後に良い人たちに助けられた。後はサヨとイエヤスだな。二人とも無事に帝都に着いてるといいんだけど、イエヤスに至っては方向音痴だしなぁ…。若干の不安を覚えつつも、オレは目を閉じ、眠りについた。

 

 

 

 

 

次の日、オレと護衛官はアリアさんの買い物の付き添いをしていた。そう、付き添いをしていたはず…なんだけど…

 

「お、お嬢様の買い物って凄いんですね…もうなんか量が面白くなってますよ」

 

「お嬢様に限らず女ってのは皆あんな感じだ。」

 

サヨはすぐに着物はすぐ選ぶんだけどなあ…そう思うオレの視線の先には山積みの買い物袋や箱が鎮座している。また別の店に向かったアリアさん達を眺めていると再び隣からかけられた声。

 

「それより、上見てみろ」

 

疑問に思いつつも見ると、あったのは高く聳え立つ巨大な城。

 

「で…でっけぇ!」

 

「あれが帝都の中心、宮殿だ。」

 

「へぇ!あれが国を動かす皇帝様のいる所ですか!?」

 

「…いや……」

 

すると顔を近づけて小声で話す体勢にしてきた護衛官。何だ何だ?護衛官に倣ってオレも顔を少し近づける。

 

「…少し違う。皇帝はいるが今は子供だ…その皇帝を陰で動かす大臣こそがこの国を腐らせる元凶だ…おっと、変な声を出すなよ?聞かれれば打ち首だ。」

 

「!?」

 

思わず叫びそうになったのをすんでのところで止められる。…ふぅ。一つ深呼吸をして、周囲に気をつけて問いかける。

 

「…じゃあ、オレの村が重税で苦しんでいるのも…?」

 

「帝都の常識だ。…他にもあんな連中もいるぞ」

 

そう言った彼が指差したのは壁に貼られた数枚の手配書。

 

「…ナイトレイド?」

 

「近年帝都を震え上がらせている殺し屋集団だ。名前の通り標的に夜襲を仕掛け、帝都の重役達や富裕層の人間を狙う…一応覚悟はしておけよ」

 

殺し屋集団か。強いんだろうな…だけど、俺はアリアさんを守るだけだ!

 

「ハイ!」

 

そんな思いを込めて返事をした。

 

「あぁ、後…この帝都で数少なく信じられるものの一つが…ほら、あの店の店主の腕だ」

 

「店主、ではなく店主の腕ですか?」

 

「あぁ。」

 

指差された店は“Eli”と書かれた看板を下げていた。

 

「あの店は診療所だ。店主は凄腕でな…治せないものは無いんじゃないかって噂だ。元々は人としても素晴らしい奴だったんだが、その噂が祟って軍に徴収されてな…」

 

「あぁ、なるほど。それで簡単に信じられなくなったと言うことですか…」

 

「そう言うこった。まぁ、対応は前と全然変わってないし、警戒する意味はあるか分からんがな。ちなみに店主のことを陰では、帝都最後の良心なんて呼ぶ奴もいるぜ。金の無い奴の怪我もツケにして治してくれたり、スラムのガキ共に気まぐれに薬やったりな。本当、いい奴なんだ…薬とかもすげぇ効くしな。その辺のとは全然違うぜ。」

 

護衛官達が皆で頷き合っている。すげー人望だ。たしかに店の前には人がたくさんいる。帝都の中でも人気の店なんだろう。

 

「…って、あれ?軍に徴収されたんですよね。ならなんで店開いてるんですか?」

 

「あー…それがな…噂じゃあの大臣に交換条件出したらしいぜ。確かに強かで掴めねえガキだとは思ってたがまさかここまでとは思ってなくて、店に戻ってきた時はみんなして驚いたもんだ。今は5日に1~2回店に戻ってきて店やってるぜ。」

 

ちょ!?ちょっと待て…

 

「……ガキ?」

 

「あぁ、店主はお前と同い年かそれより少し年上って位か?」

 

「えーっ!?」

 

思わず叫ぶ。周りからなんだこいつという視線を一気にもらったが、話が衝撃的過ぎて気にならなかった。

 

「はははっ、やっぱり最初は驚くよな!けど冗談抜きで本当に凄い奴だから自然と信用されてったんだ。治療費も他と比べて圧倒的に安いからダメ元で試そうって奴も結構いてな。結果ソイツら皆店の常連になっちまった。」

 

「へ、へぇー」

 

話聞く限りじゃすげー奴みたいだ。薬か…必要となる機会も増えるだろうし、覚えておこう。そのうち行ってみようかな。

 

「ま、話はこれくらいにして…とりあえずアレ、何とかしてこい。」

 

アリアさんの方を見ると…ズモモォォォという効果音が聞こえそうな程に高く大きくなった買い物の箱。

 

「なんの修業ですか!?」

 

思わずツッコんだオレは悪くない…はず。

 

 

 

 

 

 

 

 

no side____

 

その晩、真夜中にも関わらず廊下を歩くアリアの母。手には日記帳がある。その表紙を眺めつつ、彼女は笑う。

 

「さぁて、今日も日記をつけようかしら…。ふふっ、やめられないわね…この趣味は…」

 

そんな彼女の背後に迫る影。その影に気づかない彼女は次の瞬間、

 

「え…?」

 

「すいません」

 

巨大なハサミによって真っ二つに切断されていた。

 

ハサミを操っていた女はハサミを振って付着していた血をはらう。人を殺したにも関わらず、その顔には何の色も浮かんではいなかった。

 

 

 

 

 

その頃、部屋で眠っていたタツミは殺気に気づき目を覚ました。

 

「なんだ…?殺気!?」

 

側に置いていた剣を手に取り慌てて部屋を出る。廊下を走り出した彼が頭の中で思い出すのは今日のあの会話。

 

【帝都を震え上がらせている殺し屋集団】

 

まさか…!思い当たった彼がハッと気づき、窓の外を見ると、そこには5人の人影。

 

「ナイトレイド!!富裕層だからって此処も狙うのか!?」

 

青ざめつつも窓から下をみると、走り回る護衛官達の姿が見えた。加勢に行くか護衛に行くかを考えていると、ナイトレイドが動きだした。

 

黒い長髪の赤い目の少女と全身に鎧を纏った男が護衛官3人の前に降り立つ。

 

「…いいか、あの刀に少しでも触れるなよ」

 

少女の持つ刀を警戒しつつも、少女らに向かい襲いかかった護衛官達だったが、少女は一瞬にして先頭の男の首を斬った。鎧の男も手に持っていた槍を別の男に投げ、仕留める。残った一人の護衛官は少女と男に背を向け逃げ出すも、上にいた桃色の少女に銃で頭を撃ち抜かれ絶命した。

 

その間、ほんの数秒。

 

強いと認めていた護衛官達を一瞬で全滅させた少女達に本格的に危機感を抱いたタツミはアリアの元へ向かい走り出した。

 

「せめて、アリアさんは守らないと!」

 

 

 

 

同時刻、館内別室にて、アリアの父は獣のような女に首を締め上げられていた。

 

「助けてくれ…娘が…娘がいるんだ…!!」

 

「安心しろ。すぐ向こうで会える。」

 

「娘まで…情けは無いのか!?」

 

「情け…?意味不明だな。」

 

自身と娘の助命を請った男だったが女は手を緩めることなく非情に言葉を返す。男は次の瞬間には首を折られて絶命した。

 

 

 

 

館内に静寂が満ちた頃、館外、庭にて

 

「お嬢様、早くこちらに!」

 

「どうなってるの!?」

 

「とにかく離れの倉庫へ!あそこなら安心です!」

 

護衛官に手を引かれ、走るアリアの姿があった。

 

「見つけた!アリアさん!!」

 

そこにアリアを探していたタツミが合流する。ナイトレイドのことを話そうとしたタツミを遮り、護衛官は警備兵が来るまでの時間稼ぎをタツミに命じた。その無茶ぶりにギョッとしたタツミだったが、赤い目の少女が現れたことで、気を引き締めざるを得なくなり、少女に向き合い剣を抜く。

 

「くそっ、こうなったらやるしかねぇ!」

 

「…標的ではない。」

 

そう呟いた少女はしかし、タツミの肩を踏み台に背後にいる2人に向かっていった。…タツミを斬ることなく。それに驚いたタツミだったが、少女は気にも止めず2人に向かっていく。こちらに来たことに慌てた護衛官は手に持っていた銃を乱射するが、それを避けて接近した少女は護衛官の胴をその刀で一閃した。目の前で人を殺され、腰の抜けたアリア。アリアの前に立った少女は一言、ただ一言だけ発した。

 

「葬る。」

 

「待ちやがれ!」

 

その言葉と同時に少女に剣を振り下ろしたタツミ。その一撃は軽々と避けられたが、アリアはまだ斬られていない。やってきたタツミに対し、少女は言う。

 

「お前は標的ではない…斬る必要はない。」

 

「でもこの娘は斬るつもりなんだろ!?」

 

「うん。」

 

「うん!!?」

 

コクリと頷いた少女に驚き呆れたタツミ。そんなリアクションの激しい彼に少女は言った。

 

「邪魔すると斬るが?」

 

「だからって逃げられるか!」

 

「そうか……では、葬る。」

 

強い殺気と共に言われたその言葉に冷や汗が背筋に伝った。逃げ出したくなる衝動を抑えながらも、タツミは覚悟を決める。

 

「(少なくとも今のオレに勝てる相手じゃない…けど、そんなこと気にしてられない!そもそも、女の子一人救えない奴が…村を救える訳がない!!)」

 

同時に走り出したタツミと少女。激しく斬り合い、互いに剣を流すのを繰り返していた2人だったが…

 

ドッ!!

 

とうとう少女がタツミの肩に蹴りを当てた。それによって体勢の崩れたタツミ。その隙を見逃す少女ではなく、タツミの胸に少女の刀が立てられた倒れたタツミ。しかし、少女は彼に近寄らない。

 

「チッ…油断して近づいても来ねえのかよ。」

 

「手応えが人体ではなかった。」

 

「へへっ、村の連中が守ってくれたのさ」

 

タツミが懐から出したのは、村を出るとき村長から貰った彫刻だった。

 

「葬る。」

 

「わっ、ちょっと待って!お前ら金目当てか何かだろ!?この娘は見逃してやれよ!戦場でもないのに罪もない女の子を殺す気か!!」

 

再び向かってきた少女に呼びかけるタツミだが、少女は話を聞かない。もうダメだと思ったその時、

 

「ちょっと待った。」

 

ヒョイと少女の襟首を掴んで止めたのは獣のような耳と尾を持った黄色の女。

 

「何をする。」

 

止められたことに不満らしい少女が女に聞くが、女は笑いながら言う。

 

「まだ時間はあるだろ?この少年には借りがあるんだ。返してやろうと思ってな♪」

 

その時、その女が自身の金を持ち逃げしたあの女だと気づいたタツミが驚きと少しの怒りを露わにするが、女は気にした様子もなくあっけらかんと返す。そして…

 

「少年、お前罪もない女の子を殺すなと言ったが…」

 

アリア達が逃げ込もうとしていた倉庫に向かい扉の前に立った彼女は、その扉の鍵ごと蹴り壊し扉を開けた。

 

「これを見てもそんなことが言えるかな」

 

中には……

 

無惨に傷つけられ、殺され、薬漬けにされ、バラバラにされた人達が、吊られ、沈められ、磔にされ、檻に入れられ、瓶詰めにされて、並べられていた。

 

「見てみろ…これが、帝都の闇だ」

 

 

 

タツミside____

 

「これが、帝都の闇だ。」

 

そう言ったおっぱい女に倣い、倉庫の中を見た。…今日は満月だった。だから、真夜中でも辺りはいつもより明るくて…倉庫の中がよく見えた。いや…見えてしまった。

 

「…な…何だよ…コレ……!!」

 

「地方から来た身元不明の者達を甘い言葉で誘い込み、己の趣味である拷問に掛けて死ぬまで弄ぶ…それがこの家の人間の本性だ……」

 

その時、オレは…見つけてしまった…見てしまった…

 

「…サヨ?」

 

大切な大切な…幼馴染を。

 

「おいサヨ…サヨ─────…!」

 

全身が酷く傷だらけで…有ったはずの片足だって無くて…罪人のように吊られて…いつも豊かな表情を彩っていた顔は何も写していない。一瞬にして思考が停止した。

しかし、停止していたのも一瞬。

 

「おっと、逃げようってのは虫が良すぎるぜ、嬢ちゃん。」

 

アリア…さんは、逃げようとしていたらしい。何で逃げようとしたんだ…?でも、アリアさんはオレを助けてくれて……

 

「…本当に、この家の人間がやったのか?」

 

「そうだ。護衛達も黙っていたので同罪だ。」

 

改めて聞くも返ってきたのはそんな答え。

 

「う…ウソよ!私はこんな場所があるだなんて知らなかったわ!タツミは助けた私とコイツ等とどっちを信じるのよ!!?」

 

アリアさんが言う。

…オレは一体、どっちを信じれば……!!

 

 

「…タ……ツ、ミ?おい…タツミだろ…オレだ……」

 

聞こえた声にハッとする。聞こえてきた声。それは紛れもなくもう1人の幼なじみのもので…。恐る恐る、声のした方を見る。

 

「い…イエヤス…!?」

 

「俺とサヨはその女に声を掛けられて…メシを食ったら意識が遠くなって…気がついたらここにいた。そ…その女が…サヨをいじめ殺しやがった…!!!」

 

いたのは予想通り、イエヤスだった。けれど、イエヤスは、全身が何か…発疹?に蝕まれていて…一目で異常だと理解した。そして、イエヤスが言った、信用できる真実。泣き崩れたイエヤスは嘘なんてつく奴じゃない…。

 

サヨをいじめ殺した…?アリアさんが?

そして……

 

「…何が悪いって言うのよ!」

 

逃げようとしていたアリアさんを抑えていたおっぱい女の手を乱暴に振りほどいて、アリアさんは叫んだ。

 

「お前たちはなんの役にも立てない地方の田舎者でしょ!?家畜と同じ!!!それをどう扱おうがアタシの勝手じゃない!!」

 

本人の口から発せられた言葉で、それが真実であることを悟った。……サヨを殺した理由までもをアリアさんは頼んでもいないのにペラペラと話す。

 

…髪がサラサラなのが生意気?そんな理由?

…念入りに責めた?それを感謝すべき?

 

ふ ざ け ん な……!!!!

 

「善人の皮を被ったサド家族か…ジャマして悪かったなアカメ……」

 

「葬る…」

 

チャキリと刀を再度構える黒髪の女…

 

「待て」

 

待て…待ってくれ。

 

「まさか…まだ庇い立てする気か?」

 

呆れたような…怪訝な顔で聞いてくる女。

違う…違う。

 

「いや、………オレが斬る。」

 

ズドッ……

 

肉と骨の断ち切られる嫌な音を立てて、オレはサヨを殺した女を斬った。血をぶちまけながらドサッと落ちた女の体。……サヨ、仇はとったぜ…。

 

 

レオーネside____

 

「ふぅん…」

 

憎い相手とはいえ躊躇わずに斬り殺したか…。その事実に若干の感嘆を抱きながら、剣を収めた少年を眺めた。

 

「へへっ、さすがタツミ…スカッとしたぜ………………!?ゴフッ!!」

 

少年の知り合いらしき少年が、吐血した。少年が近づいて見るが……ルボラ病…しかも末期か。

 

「…ソイツはもう助からない」

 

アカメが言った。その少年も分かっていたんだろう。少年に一言残して…笑って逝った。気力だけでよくもったな…賞賛の限りだよ。

 

「…どうなってるんだよ、帝都は…」

 

悲痛な声で少年は問う。それに答えず、アカメは私に帰ろうと促した。………が。

 

「あの少年、持って帰らないか?」

 

「ん?」

 

「アジトはいつだって人手不足だ。運や度胸…才能もあると思わないか?」

 

少年の襟首を掴み、引きずって連れて行く。アカメは少し考えたが頷いた。だよなだよな♪引きずられながら、2人の墓を作ると叫ぶ少年に、あとで遺体をアジトまで運んでやるからと言って、少年を抱き上げる。…お姫様だっこで。

 

「やっと戻ってきたか」

「そろそろ引き上げないとまずいぜぇ」

「遅い!何やってたのよ!…って、何よそれ」

 

マインがお姫様だっこされている少年をどこか冷たい目で見る。

 

「仲間だ」

 

「はあ!?」

 

「アレ?言ってなかったっけ?」

 

ドサッと少年を落として少年を見据える。

 

「今日から君も私たちの仲間だ!!ナイトレイドに就職おめでとう!」

 

一拍置いて現状を理解したらしい少年が、何か喚いているが気にしない気にしない♪

 

「作戦終了。帰還する!!」

 

少年をブラートに預け、私たちは家の屋根を跳んで帰路につく。ふふん、これからが楽しみだなぁ♪

…一瞬、あのルボラ病に侵されていた少年は“彼”がいたなら助かっただろうかと、らしくもなく思ったがすぐさま頭を振って切り捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…もし私たちが消えた後のあの場所に、その“彼”がいたことに気づいていたなら、未来は変わっていただろうか。

 

 

 

 

ラザールside____

 

ふふふ…見ーちゃった、見ぃちゃった♪

 

「ナイスだよ、オロチ♪」

 

そう言って僕の足元で蜷局を巻く彼の頭を撫でる。しっかし、あの男の子…

 

「レオーネさんに目を付けられるとか…ホントご愁傷様。」

 

僕に似た苦労を彼もするのだと思うと若干同情する。昨日、借金取りの皆が『レオーネが金を返しに来たんだ!!』と、それはもうもの凄い幸せそうな顔で報告に来た。…『けどきっとまたすぐに借りに来るよなぁ…』って同時に落ち込んでったけど。

 

…え?なんで僕があのサド家族の家にいるかって?ふふん、オロチがナイトレイドを見つけたと教えてくれたから、急行したまで。

 

ここ数年の間、オロチとシオンにはよく働いてもらった。ナイトレイドを発見し次第、現場に隠れて急行、そして彼ら彼女らを独自に観察してきた。ナイトレイドの人数、武器、戦闘力、癖、依頼人の傾向、普段の姿、などなどそりゃあもう頑張った。…こら、そこ、ストーカーとか言わない。これは自己防衛のための正当なる行為です。情報収集と言いなさい。

まぁ、それは置いといて。オロチの力があるからこそ、これを利用してこの無茶な情報収集ができている。オロチは影を操る蛇。しかも、オロチは数少ない上位種。なんとなんと影の中に潜むことも出来るのだ。つまり、帝都の夜は彼の庭。闇一色なら無理だが、夜に適度に街灯の点く帝都は、夜でもちゃんと影が出来る。要するに、だから影から影へと自在に移動する彼は情報収集に最高の適性をもつってこと。

 

今回も同じ。影からナイトレイドを見つけたオロチが僕に知らせた。だから行ってみた。ただそれだけ。

 

「あーあ、これは酷いなぁ。」

 

倉庫の中に入り、中を見渡す。ここ数年で何度もこういうの見てきたけど…まぁ、なんて言うか。何度見ても、見ていて気分が良くなるようなものじゃないよね。

 

「さっきの子…」

 

床に寝かされている先ほどの男の子を見る。

 

「…ルボラ病末期…でも…ルボラ病は…」

 

右手の紋章から注射器を出す。

 

「…死亡から30分以内に心肺蘇生…尚且つ、僕特製ルボラ病抗生剤があれば……リン、お願い。」

 

男の子に注射を打ち、リンに電気で心肺に刺激を送り、心臓マッサージをする。

 

「蘇生は可能だったりして♪…ま、僕限定だけど♪」

 

ゴホッゴホッ……

 

先ほどまで息が無かったはずの男の子は咳を数回した後、静かな寝息をたて始めた。

 

「さすが僕。完璧♪」

 

人の蘇生まで出来ちゃうなんて、ホント僕ってオーバースペックだよね♪

檻の中にいる僅かに息のある人たちに抗生剤を投げてやる。…今見た蘇生を忘れてもらう薬も混ざってるけどね。だって死者の蘇生なんて広まったら厄介だし。僕の平穏ライフのためだし。人体には無害だし。大丈夫大丈夫♪

 

「あ、ありがとう…」

 

掠れた小さな声で言われたお礼。

 

「…いえいえ♪お大事に。」

 

それに笑顔で返し、彼らが薬で眠るのを待つ。

眠った後は、檻の中から彼と同じ位の背丈の少年の死体を引きずり出して、整骨整形。蘇生した少年と全く同じ顔にする。

 

「うん、完璧♪最早芸術だよね~♪」

 

【いいからさっさと帰るぞ。警備隊が来る。】

 

「分かってるよ、ジェミニ。じゃ、リン、またお願い。」

 

キュウと鳴いたリンの背中に跨がり、眠っている少年を抱える。リンの腹を軽く蹴り、リンは駆け出した。

さて、この少年にはいっぱい働いて貰わなきゃね。丁度欲しかったんだよね…彼みたいなタイプの配達員♪

 

【ホント、腹黒…どうしてこうなった…】

 

「んー?何か言ったぁ?」

 

【何も?】

 

まぁいいや。聞かなかったことにしといてあげます。さっさと診療所戻って彼の手当て、してあげなきゃ。

 

…え?彼を助けた理由?そんなの、ウチの薬の配達員にするためだってさっきも言ったよね?

 

 

 

 

 

 

…ま、()()()()()()()()()、あの新たなナイトレイドの少年への切り札にもなっちゃったかもしれないけど♪ふふふっ♪

 

 




原作突入。

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