今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。   作:漣@クロメちゃん狂信者

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2017/11/03 改稿しました。
3連休なんてないんや…(´・ω・`)

クロメちゃん登場回。


運命

「薬を作って欲しいんです。」

 

「頭が高い。やり直し。」

 

「私、貴方の上司…」

 

「は?」

 

「いえ、何でもありません。」

 

ある日、僕は大臣の元へ呼び出された。急に呼ばれて何事かと思い、いつもより少し早く行動して来てみれば言われたのはそんな一言。思わず言い返した僕は悪くない。

そんな大臣の今回の依頼であるが…はぁ?の一言に尽きる。

 

「ここだけの話ですが。数年前…特務機関・暗殺部隊の設立にあたり、100人の子供達を各地から集め、殺しの資質を確かめた後、上位7人は暗殺者としての英才教育を施し任務へ。その他の生き残った下位の者には薬物による能力の底上げを施した後、任務への投入を図る…という裏で大規模に行われたイベントがありまして。」

 

「…それ、イベントって言うの?実験の間違いじゃね?え、これ僕おかしくないよね?」

 

「まぁ、それは置いといて。普通、下位の者は利用価値無しと判断されれば口封じも兼ねて殺すことになっています。ですが、一部の下位メンバーは今もなお薬での底上げを行いつつ、暗殺部隊で働いています。それに最近問題が。その下位メンバー達が体調不良…要するに薬の副作用によってバタバタと倒れているのですよ。まぁ、原因は最近開発された肉体強化用の劇薬を摂取させていることによるものだそうですが。利用価値無し…と判断して殺してしまっても良いのですが、中には帝具の保持者もいて迷っていたのですよ。そしたら、どうせだったら賭でもしてみようという案がでまして。」

 

「…賭け?」

 

「今回アナタに依頼するのはそのための薬の制作です。…適応出来れば副作用もなく肉体強化の効果だけ残る。適応出来なければ死ぬ。そんな薬を作れませんか?」

 

「その劇薬作ってる科学者は何してるのさ?薬品開発なめてんの?」

 

作るだけ作って放棄ですか?責任て単語知ってます?ふざけないでほしいなぁ。

同時にこんな依頼をよりにもよって僕にしてくる大臣にも苛立ちが募る。

 

「ねぇ、大臣。僕は科学者じゃない、医者なんだよ。摂取する人間の事も考えずただただ強化薬作ればいいなんて言う格下の尻拭いを、この僕が!どうしてしないといけないのかな?」

 

「なかなか痛いところを突いてきますね…。貴方は何を怒ってるんです?」

 

「こんな使えない薬しか作れない科学者共にだよ!」

 

「ほう?それはどういう意味でしょう?参考までに教えてくれますか?」

 

「…そもそも薬のコンセプトがおかしいよね。強化して体調不良に陥る奴が大量にいるんじゃ、生産者にとっても被験者にとっても効率が悪すぎる。特に被験者側からすれば、いくら任務ではアドレナリン過多で問題なくても、任務終了後には緊張も切れてプツンと倒れてしまうでしょう。で、倒れたらまた薬を飲んで任務まで待機。馬鹿じゃないの?無駄が多すぎる。本人たちのモチベーション的にも非効率としか言いようがないね。」

 

「ふむふむ、では貴方ならどうしたと?」

 

「…被験体を厳選に厳選を重ねて、少数精鋭の部隊として発足。個人個人のバイタルを監査してその個人にあった強化薬を製造するかな。」

 

「その心は?」

 

「有能な人材を長く使うために決まってんでしょ。今のシステムじゃ使い捨ても使い捨て。一々新しい人材を補充して再教育だなんて時間と金と資源の無駄。なら最初から少数精鋭にしてしまって、数年に一度同じく厳選された新人を数人ずつ追加していく方が手間にならないし、最終的な質も上でしょ。経験っていうアドバンテージを持つ人も増えるだろうしね。」

 

「ふむ…一理ありますね。」

 

「で、結局僕はそのくだらないことに貴重な労力を費やさないといけないわけ?」

 

大臣相手に無謀なとか無礼なとか言われようが、僕個人として譲れないこともあるのだ。無礼とか今更だし、徹底抗戦させてもらう。いくら手綱が取り辛くても、僕の利用価値はまだ高いから。生死を問わず僕を失って得るデメリットが大きすぎるが故、大臣は僕を殺せない。ならそれすらも利用して手札に加えておかなければ。手札の効力が切れる前に。

 

「……いえ、依頼を変えましょう。改めて命じます。………」

 

 

 

 

 

 

 

「なんじゃ、主?その変な依頼は。」

 

結局大臣の依頼を受け(させられ)、王宮内自室に戻るとベッドの上に腰掛ける。元の姿に戻り甘えてきたカンザシを撫でつつ、例の朝の大臣の要件を話すと返ってきたのはそんな答えだった。まぁ、普通にそうだろう…

 

「…本当にね。何を考えているんだか…僕に()()()()()()()()()()()()()だなんて。」

 

「…前に宮廷で、薬の匂いが染み付いておる者共を遠目に見かけた。そやつらかもしれんな。」

 

「…へぇ!面白そうな子はいた?」

 

「いや、妾は主の元へ急いでおったし………いや、1人おったかもな。まぁ、その1人しか見ておらんが…気持ちの良い禍々しさを放つ刀を持った、主より少し下くらいの年頃の女童が。」

 

「女童…って女の子?」

 

女の子を面白いと言ったカンザシ。珍しいこともあるものだ。それに、カンザシが心地よいと言った刀…恐らくは妖刀の類。もしかしたら帝具かもしれないね。カンザシは祠に祀られていたと言う二対の大脇差を武器の一つとして持っている。だからだろうか、カンザシは妖刀など所謂曰く付きのものに敏感だ。しかもカンザシのもつ妖刀は本当に禍々しいオーラを持つ。つまり、“カンザシが好む禍々しさ”=“たちの悪い・エグい・強い”の三拍子。要するに“最恐”だ。おぉ怖…まぁ、オペレメディカルの奥の手も、ある意味“最凶”かもしれないけれど。…あぁ、話が逸れてしまった。

 

「というか…大臣は阿呆か?普通、そんな都合の良いことができるわけあるまいに。確かに主であれば薬を作ることなど造作もないことであり、薬を使えばそのようなことは容易く成し遂げられることであろうが…」

 

「ふふふ…信頼されてんのかねぇ…。僕が作れることを否定しなかったから、依頼したんだろうし、利用された感があるのは否めないけど。ま、大臣には一応作ってみるとだけ返したし、気楽に行こう。そういう系統の薬は何年か前に制作済みだから、それを改良すればイケるし、楽勝楽勝♪」

 

「……偶に主がすごく恐いと思うのは妾だけじゃろうか。」

 

何かをポソリと呟いた彼女の声はバッチリ聞こえていたけど、敢えて聞かなかったことにした。…さて、改良改良♪僕は早速作業に取りかかった。

 

 

 

 

 

クロメside____

 

 

『暗殺部隊全メンバーに通達。帝都に至急戻られたし。後、次の命令まで待機せよ。』

 

いきなりそんな通達が来て、私たちは帝都・王宮に召集された。この前も来たばかりなんだけどなぁ…こんなにすぐ再び召集が掛かるだなんて何かあったのかなぁ?まぁ、それ私たちには関係のないこと。私は死ぬ気はないけど、私たちは代えの利く駒に相違ないのだから。最近私に渡された薬入りのお菓子。他の子にも何か渡していたし、それ関連の新薬投与か何かだろうと思っていた。

 

…けれど、私達が“あの部屋”に連れて行かれることはなくて。むしろ少し自由に過ごしていて良いと言われた。とうとう処分されるのかなとも思ったけど、それにしては様子がおかしい。科学者たちがどこか不機嫌そう。おもちゃを奪われた子供のような、隠す気のない苛立ちが顕著に顔に出ている。でも、もしそれが気のせいで、ホントに処分されるのだとしても、私はお姉ちゃんを斬るまでは死ねない。何としても生き残るまでのことだ。

 

 

そして改めて数日後。再び通達が来た。

 

『帝下直属医療部隊の医務室へ行かれたし。』

 

通達を受けた私達は騒然となった。“何故?”それしか頭には浮かんで来ない。私達暗殺部隊は、基本医者のいる医務室ではなく、科学者のいる研究室へと連れて行かれる。怪我だろうが何だろうがそれが変わることはなかった。なのに“医務室”。しかも皇帝“直属”の医療部隊。…ワケが分からないよ。しかし、通達は通達。私達に拒否権は無い。疑問と少しの不安を抱えつつも、私達は医務室へ向かった。

 

 

「ハーイ、いらっさーい♪」

 

死すら覚悟して医務室の扉を開けたその矢先、かけられたのはそんな言葉。勿論全員が瞠目、そして混乱。驚きの余り私たちは何も言えず、貝のように閉口してしまう。けれど、それも気にせずに白衣を着た少年は言葉を続けた。

 

(…え、少年?)

 

声の主を見つめる。初発の感想は綺麗な子。しかし、何度見ても、何度目をこすっても、年の頃がどう見ても私と同じかそれより少し上なくらいだった。

 

「ま、リラックスしてよ。ここには僕しかいないし。質問もあるなら今なら聞くよ?自由に発言していいですよー。」

 

「「「「「…………」」」」」

 

確かに周りを見渡しても彼と私達以外に人はいない。それを聞いて、少し余裕の出来たらしい暗殺部隊の一人が彼に問いかけた。

 

「あの…アナタは?それに、オレらは今日、何故ここに来させられたのでしょうか?」

 

「あー、自己紹介してなかったね!僕はラザール。少し前にここに就任した医療部隊隊長だよ。」

 

先ほどとはまた別の意味で驚愕した。彼は今確かに“隊長”と言った…?私と同年代であろう彼。どれほど高い実力があっての地位なのだろうか?

…と、私が思うのと同時に、暗殺部隊の一部の子達の目の色が変わった。…その目に映るのは“憎悪”と“嫉妬”。きっとその一部の子達は「自分たちが苦しんでいるときにコイツは…」とでも思っているのだろう。私も全く思っていないワケじゃない。でも、間違いなく…彼は“強者”だ。それを理解している私は、彼は“比較的まともだ”と判断する。

 

私達が医務室に入った時、彼は私達全員を瞬時に見渡していた。そこで彼は測ったのだろう、私達を。そして彼は“大丈夫”だと判断した。…そう、彼は“自分一人で十分潰せるから『大丈夫』だ”と、判断したのだ。ほぼ直感だが、遠からず当たっていると思う。現に彼は私達を警戒していない。警戒せずとも、向かってくれば殺せると。そう、暗に示している気がした。

 

「さて、ふざけるのはここまでにして、真面目に話そうか。今日君達がここに来たのは…まぁ、御察しの通り薬物投与のためです。」

 

暗殺部隊のみんなが処分じゃなかったことに安堵の顔をした。…けど、私にはそうは思えない。嫌な予感がする。そして、その予感は当たることになる。

 

「皆さんには、この薬を投与します。」

 

そう言って、彼は透明な液体の入った注射器を私たちに見せる。変に色が付いてないせいか、いつものよりも安全には見える。

 

「これは…そうだな、簡単に言えば皆さんがもう苦しまずに済むお薬です。これを今から全員に摂取してもらいます♪」

 

「それはつまり、オレらの体の副作用とかいったものが消えるということか!?」

 

「んー…まぁ、はい。そうですね。」

 

暗殺部隊の皆の顔が喜色に染まった…私と数人の子達以外は。

彼の言った言葉…『苦しまずに済む』…それは本当に助かるもの?私たちはそれを摂取して本当に()()()()()()()()

予感は的中。私達は次の彼の発言に一気に震えることになる。

 

「えぇ、苦しまずに済みます…ちょっと過激な運試し、ですけどね」

 

彼の顔は始めと変わらず、ただずっと微笑んでいた。一気に静まった室内。その顔は“不安”と“恐怖”に上塗りされた。

 

「あ、あの、運試し…って、どういうことですか?」

 

「ん?そのまんまだよ?運試しは運試し。全ては君達次第、運次第ってこと♪」

 

「え…だって、今苦しまずに済むって…」

 

「え?だって…副作用が消えても死んでも、どちらにせよ苦しみからは解放されるでしょ?」

 

 

彼の言葉にやっぱり…と納得。今回投与されるあの薬は…私たちを殺す薬!

 

「お、オレらを騙したのか!?」

 

「えー、何言ってるの?薬の詳しい説明する前に、アンタらが勝手に喜んだだけだし。過度な期待は厳禁ってね。」

 

憤りを露わにする暗殺部隊の皆にむかって彼はあっけらかんと言い放った。確かにその通り。彼の説明の途中で質問なんかするからこう。騙された気になるなんて被害妄想甚だしいよね。それに…本当に彼の言う通りなら…

 

「…その薬に適応出来れば…生きられる?」

 

「えぇ、勿論♪」

 

その回答に少し安心する。完全に信じたわけではないけど、言質は取った。私は死ぬわけにはいかない。お姉ちゃんと一緒にいるために、私は生きて…そしてお姉ちゃんを斬らないといけないんだ。副作用が消えるかもしれない薬……でも同時に、死ぬかもしれない薬…か。そして、彼は中断していた説明を再開する。

 

「じゃあ説明を再開するね?この薬は、君たちを厳選するために作られた薬だ。君たちの命の残量、筋力、実力、精神力、生きる意志…そういった君たちの“強さ”を計り、規定値以下の人間を殺す、そんな薬だ。皆さんの未来を…運命を測定する薬と言っても過言ではないね。で、この薬の効果だけど…説明は君たちが生き残ってからにしようか。生き残らないと説明する意味もないことだしね。まぁ、生き残ったところで悪い効果はないに等しいから安心して。この僕が誓うよ。何なら僕の命も賭けよう。」

 

どの道、この薬を投与されるのは決定事項。避けられないことだ。それに、私は死なない。絶対に!だから、この程度の薬を投与されることなんて、何も怖いことなんかじゃない。

 

 

でも…

 

「な、何言ってんだよ!そんなの…そんなのおかしいだろ!?お前何言ってんだよ!皆も何納得しかけてるんだ!お前が…お前らが殺しておいて…お前らが虐げ、殺しておいて!のうのうと何言ってんだよ!コイツは、この医者面した奴は!ふざけた持論を語って、自分を正当化するクソヤロウじゃねぇか!」

 

馬鹿はどこにでも湧くものだ。

 

 

 


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