今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。   作:漣@クロメちゃん狂信者

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2017/10/30 改稿しました。
作業BGMは「マダラカルト」でお送りしました。



離反と嫌疑

事はチェルシーを拾う数日前に遡る。

帝国の兵舎に薬を届けに行くだいたいの周期も決まり、同時にナジェンダねーさんや、ロクゴウさん、……極々稀にブドー大将軍殿の来店の周期も定着しつつあった。

 

なのにも関わらず、彼女はいきなり店にやってきた。それも、深刻な面持ちで。

 

「ラザールはいるか?」

 

「おぉ、ナジェではないか!久方ぶり…でもないか。」

 

「…あぁ、カンザシか。済まないが、ラザールを呼んできてくれないか?話したいことがあってな…出来れば静かに話せるよう、一部屋借りたい。すぐ終わるが、如何せん、大事な話でな…」

 

「……うむ、了解したぞ。取り敢えず、主を呼んでこよう。」

 

「悪いな、頼む。」

 

 

周期を無視したナジェンダの来店、カンザシは嫌な予感を覚えていた。

 

元々、カンザシが覚える『嫌な予感』は“自身に起こる事”にのみ発動する一種の予知能力であった。が、ラザールに忠誠を誓い、ラザールに従い、ラザールの性格や好き嫌いをある程度理解するようになってからは、“ラザールと自分の双方にとって嫌な事”が起こる時に発動するようになっていた。

 

「(ふむ、ナジェンダが来てから感じた悪寒…ほぼ間違いなく…)」

 

___主にとって嫌な事が起こる。

 

 

「ともかく主に話さねば…と、丁度良い。主!」

 

運良く部屋から出てきたラザールをカンザシは呼び止めた。

 

「カンザシ?どうしたの?」

 

「主、ナジェンダが来た。」

 

「うん。…え、だから何?いつもの事……じゃないのか。何したの?」

 

「察しが良くて助かる。ナジェンダが来たのは別に良い。…が、同時に悪寒を連れてきた。」

 

「…はぁ。何か厄介な事が起こる予兆か。」

 

「溜め息を吐くのも分かるが、それよりも、ナジェンダが主に重要な話があると言っておる。…何の話かは分からんが、主にとって良い話で無いだろう事は確かだ。気をつけよ。」

 

「はぁぁ、了解。ありがと、カンザシ。じゃ、リビングででもお話伺いますかね…」

 

心底めんどくさそうな顔をして店頭に向かうラザール。

 

「…ろくな話じゃ無いだろうな…なんとなくだけど」

 

 

 

ラザールside____

 

「あぁ、ラザール。悪いな、いきなり。」

 

店の薬棚の前にいたナジェンダが僕を見つけるなり、こちらに来た。

 

「いらっしゃい。…で、話があるんだって?取り敢えず、家のリビングででも話そうか?」

 

「本当にすまん。」

 

「いえいえ、お得意様ですから、たまには話くらい聞いて差し上げますよ~♪」

 

ナジェンダを店の奥…僕の住まいに入れ、カンザシに店番を頼む。

 

リビングに入ると、既にお茶とお菓子の用意がしてあった。さすがカンザシ。仕事が早い。リビングに入るなり足元にすり寄ってきたニャルを抱き上げ、背中を撫でてやりながらナジェンダねーさんを席に勧める。

 

「改めて言わせてもらう。急に来てしまい、本当にすまない。」

 

「大丈夫だよー。…それで、話って?」

 

「…ラザールは…今の帝国について、どう思っている?私が将軍だとか、そう言うのは無視していい。お前自身の意見を、聞かせて欲しい。」

 

…何ソレ、心底どうでもいいんですけど。

 

「…んー…それはさ、医者としての僕に聞いてる?それとも僕自身、ただのラザール個人として聞いてる?」

 

「すべてを踏まえた上で、お前自身に聞いている。」

 

「ふーん…」

 

「…で、どうなんだ?」

 

思えばここが全ての分岐だったのだろう。これで察してしまった。…お得意様のナジェンダおねーさんはもう来ない。でも彼女は僕という医者に価値を見出している。彼女にとって僕は“何としても味方につけたい存在”。だからこそ自分の意見を言うわけではなく、僕の意思から聞き出そうとしている。僕を相手に発言を間違えられないから。

そこまで考えたところで僕は、ナジェンダという一個人として、彼女に嫌気がさした。もう駄目だと思った。

 

「どうでもいいよ。」

 

「…それはどういう意味だ?」

 

「そのまんまの意味だよ?興味がない。それだけ。」

 

「い、今の帝国に疑問や不安は無いというのか!?」

 

「ないと言えば嘘になる。でも、あまり思うところがあるわけでもない。」

 

「それは何故だ?」

 

彼女はもう…僕の知る彼女じゃ無くなる。

 

「正直ね、僕に影響がなければ何でもいいんだ。」

 

「…なんだと?」

 

「僕は幼少時代を虐げられて生きてきた。その原因は大臣のせいじゃなくて、僕自身に関わることだ。だからこそ、この世の中は強くないと…実力がないと生きていけないことを知っている。僕はこの帝都に来て、この診療所を建てた。実力を見せた僕を誰も避けてこないことに歓喜さえ覚えたよ。……そもそも僕は良い奴じゃない。むしろどちらかと言えば悪い奴だ。貴女のレッテルを僕に貼り付けるな!」

 

「!!し、しかし!」

 

「さっきの問いに答えようか。…医者としての僕は“酷い病気、怪我、扱いを与えているなんて最低だ。”とか“悪政をしいているなんて無能かな?お馬鹿かな?”ってところかな」

 

「そ、そうか!なら「でも」…」

 

「ただの僕自身に聞いてるなら…僕はこう答える。“僕の生活さえ、乱さないなら、勝手にどうぞ?”、“アンタらのお陰で、平和に過ごせているよ。”、“幸せをくれてありがとう。”ってさ。」

 

それを聞いてナジェンダさんは茫然とした。有り得ないとでも思っていそうな…そんな顔。脳内お花畑な君らはいいよね…本当の不幸を知らないんだから。幸せを知っているんだから。ホント…綺麗事ばっかり並べやがって、ムカつくなぁ。

 

【ふっ…ククク…ナジェンダの奴も、思っていたより大した奴じゃなかったってことだな】

 

(まったく、見当違いも甚だしかったよ。)

 

 

 

 

「どうして、そう思うんだ?」

 

やっと声を出したと思えばそんなこと。…激しく面倒そうな気配。

 

「…だって、ズルいじゃない。皆、“幸せ”を知ってて、ズルい。」

 

「は?何を言って…「ナジェンダさんには分からないよね。」…は?」

 

「分かんないよ。貴女には一生、僕のことを理解なんて出来ない。出来てたまるか…何も知らない貴女に、僕の…僕らの苦しみが、悲しみが、葛藤が、痛みが、決心が!…理解なんて出来ない。させてもやらない!僕は、僕らはここに来て、やっと…いや、初めて、『平穏』ってものを知った!『日常』を知った、『幸せ』を知った!それを、壊すなんてことは許さない。」

 

「…お前は、ここに来るまで、一体どんな生活をしていた?きっと凄く貧しい生活をしていたのだろう?その原因こそが、元凶こそが、この「五月蝿い!」おい、私の話を!」

 

「もう帰って?アンタになんて言われても___僕は革命軍に手を貸すことなんてしない。」

 

「!!??」

 

話の核心を突いたであろう僕の言葉に彼女は驚き、目を見開いた。やっぱりそれが目的だったんだ…大方、僕の能力目当てだろうな。僕の帝具があれば、凄く有利になれるだろうから。

 

 

「ナジェンダねーさん、僕貴女のことは嫌いでは無かったんだけど…残念です。」

 

「っ!…今日は帰ろう。だが、私はお前を諦めはしない。お前の力が私たちには必要だ。…また来る。」

 

「…説得以外での来店は歓迎ですが、説得の為の来店でしたら追い返しますから。」

 

「~っ!また来る!」

 

椅子から立ち上がった彼女はリビングを出て帰っていった。

 

 

「…スパイ欲しいなぁ…探すか。」

 

【嵐が去ったと思えば、また嵐の予兆か…】

 

「まったく…カンザシの勘はよく当たるな…。」

 

【ボクの出番もこれから増えそうだ…】

 

「その時は頼むよ、ジェミニ」

 

【勿論。ま、表は任せるぞ、ラザール】

 

「分かってる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして案の定、ナジェンダねーさんは離反。僕も動くか。

 

「チェルシー、君には悪いけど、革命軍に戻れるかい?」

 

「それが、貴方の望みなら」

 

「スパイ活動をお願い。幸いにも僕は医者だ。帝都内なら会っても疑われない。だから、革命軍の動向を僕に教えて欲しい。」

 

「かしこまりました。すべてはあなたの望みの通りに。」

 

「ありがとう。」

 

側に控える彼女の頬をなぞり、キスを一つ落とす。身長は既に僕の方が高いから苦では無い。真っ赤になった彼女は少しキョドりつつも嬉しそうにはにかみ、笑った。

 

「お願いね。」

 

「はい!」

 

「これを、渡しとく。」

 

「ピアス…?」

 

「僕の、片割れ。右に付けといてよ。それが、君の守りになるように。」

 

「~っ!ありがとうございます!」

 

幸せそうに笑うチェルシー。頭を撫でてやりつつ、考える。

 

けど、その時、

 

「失礼致します。ここの店主はいらっしゃいますでしょうか?」

 

 

既に歯車は軋んだ音をたてて回っていた。

 

 

「……チェルシー、行って。裏口に気配はない。そっちからなら出れるはず。」

 

「でも!」

 

「僕らは大丈夫だから。お願い、ね?」

 

チェルシーの頭をゆっくりと撫でる。すると彼女も絆されてくれたのか、少しを顔を歪めつつも頷いた。

 

「…分かりました。行って参ります。では、御武運を、マスター!」

 

「別に戦う訳ではないけど…うん、まぁ、ありがとう。気をつけてね。ヤバくなったら離脱して良いから!」

 

「はい!」

 

裏口のドアがパタリと閉まる。よし、チェルシーは行かせた。これで革命軍の方は大丈夫っと。じゃ、たった今生じた問題を片しますかね…カンザシが必死になって時間稼ぎをしてくれていたことだし、少し頑張るとしよう。

 

「はいはーい、僕ならいますよー♪」

 

と言いつつ、店頭に続く扉を開ける。

 

「…失礼ですが、本当に貴方が店主ですか?」

 

「…君達の新しい傷薬、支給してんの僕だよー?そこ疑っちゃう?警備隊なら普通、その辺しっかり確認してから来ない?」

 

「…それは、失礼しました。ですが、私は間違いがないか確認をしたいと思っているだけでして…」

 

ブチッ…

 

あー、ジェミニのこと怒らせちゃったー…

 

「……ボクがてめぇよりガキだからって舐めてんじゃねぇよ…そんなに不安なら、薬の受け取り係してる奴か…なんならブドー大将軍にでも確認してみるか?この馬鹿が…」

 

【ちょっとジェミニ~?急に勝手に出ないでよ~】

 

(あぁ、悪ぃ…今返す)

 

 

(まったくもう、久しぶりにびっくりした)

 

【だから、悪かったって。ほら、警備隊の奴らボクの殺気にビビって、まごついてんぜー、ふふふ…】

 

「…分かりました。あの、本題を話しても?」

 

「はい、どうぞ?」

 

先ほどの豹変した僕に驚いていたであろう、警備隊がやっと息を吹き返した。元に戻ったと感じたのか、ほっとした様子で本題を述べる。

 

「………」

 

 

_____貴方に反逆の疑いがかけられています。ご同行、願えますでしょうか?

 

 

…あー、こういう時ばっかりは、この察しの良さが嫌になる。はいはい、そういうことね…クソが!!

 

ナジェンダは最後にとんでもない置きみやげを残して行きました…

 

____反逆罪の嫌疑です。

 

 




ナジェンダ将軍離反~(*・ω・)ノシバイバイ

お礼↓
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