今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。   作:漣@クロメちゃん狂信者

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2018/10/30 改稿しました。
作業BGMは「彗星ハネムーン」でお送りしました。


拾い者

???side_____

 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………

どのくらい走り続けているだろうか。森の中を私は駆ける。逃げなきゃ、私はまだ死ねない。死にたくない。森の中は木の根や岩が多くて、足場が悪い。枝や葉に時折引っかかって、肌が傷ついていくのが分かるが、今は気にしていられない。疲労の蓄積した足はもう感覚すらないが、止められない。止めてしまえば私は…!

 

「とにかく少しでも休まなきゃ…どこか場所は…!」

 

目についた、大木の陰に隠れるようにして一度立ち止まる。荒い息を必死に整えようとするけど、整うことはなく、むしろ悪化していく。

 

「どこだ!こっちか?」

 

「チッ!ちょこまかしやがって」

 

追っ手の声が近い。やり過ごせるか…

 

「あそこだ!いたぞ、逃がすな!」

 

!!見つかった!逃げなきゃ、なんとしても、逃げなきゃ…私はまだ、こんな所でなんて死にたくない!

 

 

 

 

_____元々、今回の任務は無謀だった。

 

 

-----「…は?敵地への潜入及びその殲滅!?い、いくら私が帝具持ちでもそれは…!」

 

-----「言うことが聞けないのか!?これは上層部での決定事項だ!決行だ、なんとしても成功させろ!」

 

-----「で、ですが、私の帝具は戦闘向きでは…」

 

-----「そんなことはどうだっていい!とにかく、今回のこの作戦は必要なのだ!つべこべ言わずに従っていろ!この国を直す為だ!人数は隊を組める最低限の人数で行け!いいな!」

 

 

あの無能な一部の上層部のせいで私の隊は私を残して全滅。敵もまだ残っている。しかもこの作戦…本当の目的はここから南に数百キロ先の帝国軍拠点の撃破。私達がしていたのは、帝国軍が応援要請をするであろう、傭兵のアジトの破壊。傭兵は、クライアントの為に殺しをする奴ら…帝国軍の奴らなんかよりも身体能力が高い。

 

私達の隊は、囮だった。

 

世直しをするために、今まで頑張って来たのに。世直し後の権力に目を輝かせている上層部は、部下の死など気にかけない。帝国となんら変わりないじゃない…。

 

「私は、捨て駒じゃない。負け犬になんてなってやるものか!」

 

だから、私は生きる。上層部の思惑通りに死んでなんかやらない!

 

しかし、現実は非情だ。ヒュッと何かが飛来する音がして、次の瞬間、私の足に走る激痛。

 

「あ゙……っっっ、が、ガイアファンデーション!!!!!!」

 

丁度運良く森の中。私は痛みを耐え、精神的に最後であろう気力を振り絞り、相棒の名前を叫ぶ。とっさにマーグパンサーの子供に変化し、木の洞の中に隠れる。

 

「いねぇ…チッ!逃がした!」

 

「まぁ、刺さったのは毒矢だ。その内死ぬさ。」

 

「情報が届く前に死ねばいいが…」

 

「ま、もう終わりだ終わり。アジトに戻ろうぜ。」

 

「そのアジトが今半壊してるけどな」

 

「ちげぇねぇや。」

 

豪快な笑い声を辺りに響かせながら、傭兵達は去っていく。同時に知った、私の足に刺さった異物。毒矢か。解毒薬…持ってないや。そう思ったところで変化が解ける。もう限界らしい。

 

あはは…私、ここで死んじゃうのかな…ヤダな…もっと生きたかったのに…。

涙が零れ落ちてくる。

死にたくない、死にたくない!なんで私が、どうして私が!あの無能が生きているのに、私がこんなことになっているのは何故!?あぁ、憎い。恨めしい、許せない。

 

憎悪に反して、体から力が抜けていく。重力に従って私の体はふらりと地面に倒れた。同時に瞼が重くなる。

 

“サヨナラ、世界。来世があるなら願わくば…”

 

幸せな世界を。

 

瞼が閉じる直前に目の前に誰かが居た気がした。埋葬位はしてくれるといいな。それを最後に私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラザールside_____

 

今日は臨時休暇をとって、少し遠出をしている。薬草や毒草の採集が主であるが、僕やカンザシのストレス発散も兼ねている。

 

 

「オペレメディカル!“クーパー”、“メッツェン”、80IN(インチ)!!!」

 

紋章から自分の身長とかわらない大きさのそれらを取り出し、ヤツ…三級危険種メランザーナに向かってダッシュ。そのまま、メランザーナを部位ごとに細胞単位で刻んでいく。葉、茎、根、そして口のついた花弁。緑色の体液を撒き散らしながら、バラバラに解体されていくメランザーナ。これほど派手にやっておきながら、僕には返り血…血か?まぁいいや。それが一切ない。この力にもだいぶ慣れたな。

 

「食人植物か…役にも立たん。そしてキモい。」

 

「主の薬にもならん癖に生意気な…」

 

「しかも所詮三級。雑魚いし…」

 

「当たり前じゃろう…主に勝てる危険種などおるものか。」

 

【いざというときはテイムすりゃ良いしな】

 

「うわー、改めて聞くと僕って結構ぶっ飛んでるよね。」

 

【今更だな】

 

メランザーナに辛口な評価を下すカンザシはどこか黒い笑みを浮かべ、地に散らばるメランザーナの残骸を足蹴にする。僕もどこか物足りなさを感じつつも、出した器具を紋章に戻す。メランザーナに火をつけて後処理をすると、僕たちは帝都への帰路につくことにした。

 

 

 

問題が起きたのはその帰り道だった。

 

「主、血の匂いがするぞ。それと……死の香りも。」

 

「…人の死体でも落ちてるの?」

 

「いや、まだ生きてはおるが、これではもうじき死ぬな。出血も多そうじゃし。」

 

「ふーん…まだ生きてんだ…じゃ、助けてみるか。カンザシ、匂いはどこから?」

 

「こっちじゃ!」

 

カンザシの鼻が察知した瀕死人を探し進む。そして、すぐに…

 

「居ったぞ!」

 

流石カンザシ。素晴らしいね。向かうと確かに地面に誰かが倒れている。

 

「わぉ。これはなかなか…全身打撲に切り傷擦り傷、おまけに足に毒矢。女の子にサービスし過ぎでしょ。…ま、治すけど。」

 

倒れていたのは、女の子。おそらくシェーレさんと同じ位の歳だと思われる。まぁ、それは後でで良い。処置が先だ。

まず彼女の足に刺さっていた矢を抜き、矢尻を舐め、毒を確認する。そして、オペレメディカルを発動。包帯を出し、彼女の足の傷を縛りつつ、輸液と先ほど体内に摂取したことで自動生成された解毒薬を出す。彼女に輸血を施しつつ、解毒薬を投与して、応急処置は一旦完了。

 

「カンザシ、空間転移お願い。診療所へ。」

 

「承知。」

 

 

僕らのまわりの景色が一瞬で変わる。変わった先は見慣れたいつもの白い壁。彼女を抱え、ベットに寝かせ、カンザシに彼女の体を拭いてもらいながら、細かい傷の処置をする。

 

「カンザシ、彼女の着替えお願いね。」

 

「了解じゃ。…あ、そうじゃ、主!コレはどうするべきかの?」

 

カンザシが見せてきたのは…これは、化粧箱?

 

「彼女のかな?取り敢えず預かっとくよ。」

 

カンザシからそれを受け取り、自室に戻る。少し疲れた。

一呼吸おいてジェミニの発言。

 

【その化粧品箱…帝具だな。】

 

わぉ、マジか。

 

「ってことは彼女、もしかして軍役してる?」

 

【いや、恐らく…】

 

軍役じゃないってことは…

 

「反乱軍?」

 

【多分な】

 

はぁ、また面倒そうなの拾っちゃったな…

 

【だが、まわりに仲間の姿がなかった。おそらく何かわけありだな。ま、気長に彼女の目覚めを待つしかないな。】

 

「そうだね…」

 

化粧品箱の帝具を机に置き、僕はベットへダイブ。

そして僕は眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

???side____

 

ハッと気がつくと、そこは真っ暗な闇だった。足場もないここに私は浮かんでいる。ここは、死後の世界?

 

パタパタパタ……

 

背後で誰かの走る足音がした。振り返るとそこにいたのは…私?…いや、違う。そこにあったのは過去の情景とも言うべきモノだった。

 

幼い頃の私。両親と勉強している私。あの腐った太守に仕えていた私。太守を殺した時の私。革命軍に入った私。仲間と任務をこなす私。そして、……捨て駒にされたと気づいた時の私。

 

楽しむ私、怒った私、悲しむ私、喜ぶ私…いろんな私がそこにはいた。

 

それをみて湧き上がってきたのは、

 

“愛しさ”と“憎悪”

 

いや、もしかしたらソレよりももっとドロドロとして真っ黒な思いかもしれない。

 

 

 

____帝国が嫌いだった。

 

この腐った国が嫌だった。だから、私は革命軍に入った。世直しをするために、自分で決断したことだった。…でも、同士だと信じていた奴らに裏切られた。結果、仲間も私も死んだ。今でも鮮明に思い出せる…同じチームの皆が、斬り殺され、撃ち殺され、人によっては犯され、弄ばれたその瞬間が。あの時上がった皆の悲鳴だって耳から離れない。

 

………憎い。

帝国は確かに嫌い。でも、今はそんなのよりも革命軍の奴らが憎い!必要な犠牲だったのなら別にいいの。でも、今回のコレは!必要な犠牲なんかじゃなかった!許せない!

 

「帝国の前に…正すべきは革命軍内部だよ…ね」

 

あは…あはは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは

 

「もしも、私が生まれ変わったのなら…その時は必ず…!」

 

“この世のすべてに報復を!”

 

全ては私の幸せのために…穏やかな日々のために!

そして、私の視界は暗転した。

 

 

「……んぅ?」

 

体が…痛い。それで私は目を開けた。その瞬間戦慄する。自分は生きているのか、と。何故?どうやって?まさか、あの状態で生きれる筈が…。頭を疑問で覆い尽くして、漸く自分がベッドで寝ていることに気がついた。周りは白い壁で囲われている。ここは、病院?

本当に何故、生きているのだろう?後ろ向きな考えとかではなく、事実として、私は死ぬはずだった。生きられる状況なわけがなかった。でも、今私が感じているこの痛みや風の流れ、薬の匂い、ベッドの感触…全てが私が生きている証拠で。私の視界に映るこれらは間違いなく現実で。

 

「私…生き…て…?」

 

発した声だって、酷く掠れてはいるが間違いなく私のものだ。取り敢えず、誰かいないか探しに行こう。痛みを覚悟してベッドで上体を起こしてみる。…が、

 

「あ、れ?」

 

私の怪我は一つや二つじゃなかった。足は勿論、腕やら脇腹やらも結構重傷だったはず。なのに、あれ?腕にも脇腹にも傷が無い。痛むのはあの時酷使したであろう筋肉だけ。足にも包帯は巻いてあるが、痛くない。毒矢が刺さったのだからそんな簡単に治るはずはない。まさか、足の傷が塞がるまで長く眠ってた!?だとしたら、あれから何日たってるんだろう?

 

「呑気にしてる場合じゃない!早く人を探して…」

 

そう言って立ち上がろうとしたとき、目の前のドアが開いた。

 

「おぉ、やっと起きよったか。」

 

…どちら様?

 

「…なんじゃその奇っ怪なものを見る目は!妾と主がお主を見つけねば、お主は死んでおったのじゃぞ!妾はともかく主には後で感謝せよ。」

 

「え、あの?あなたが助けてくれたんですか?」

 

「妾は見つけただけじゃ。治したのは主である。」

 

彼女が私の第一発見者らしい。で、彼女が仕えている人が私を治したと。

 

「ありがとうございました、見つけてくれて。」

 

正直内心“見つけなくて良かったのに”と思う自分がいる。だって、今の私は何にも出来ないから。自分にできるのは密偵や暗殺、潜入くらい。実際に正面きって戦う力なんて持っていない。今の私が生きていた所で…私は何も変えられない。国も革命軍も。それにきっと革命軍は私に死んでいて欲しいだろう。軍の仲間を捨て駒にしたとなれば、この件を知らない人…特に下っ端達はあの無能上司に牙を剥く。アイツらはそれを避けたい筈。……今、私に生きる意味はあるのだろうか。

 

「…気に入らん。」

 

「…へ?」

 

気に入らんって、初対面の人にしつれいじゃないかな?ん?さすがの私も怒っちゃうよ?……私何かいけないことしたかな?

 

「ふん、まぁ良い。…主を呼んでくる。寝て待っとれ。」

 

 

 

パタンと音をたてて彼女は部屋を出ていった。

 

「…気に入らん、か。私も、私が気に入らないよ。」

 

ポソリと呟いた言葉は白い壁に吸い込まれる。ベッドの上で膝を抱えるようにして座る。…主ってどんな人かな。取り敢えずお礼は言う。けど今の国に感化された腐った奴じゃなきゃいいな。でも、こんな酔狂なことをする奴なんて今時知れてる。

 

そんなことを考えているウチに人が近づいてくる気配がした。やっとお出ましみたいだ。

コンコンとドアを叩いた音の後、扉は開いた。

さて、どんなゲテモノ親父が来るのかな…と顔を上げたその時。私は心の底から思った。本気で思った。………ごめんなさい。と。

 

彼は膝よりも長い白衣を翻して颯爽と部屋に入ってきた。そして恐ろしく整った顔に陶磁器のように白く綺麗な肌。さらにはまるで宝石のような…でも鷹のように鋭い、闇に近い紫と優しい紫苑色のオッドアイ。それは少し長めの睫で美しく縁取られている。銀色の綺麗な長髪を左サイドで緩く結わえ、その口に薄く笑みを浮かべる彼。多分年下だけど、纏うオーラはそんなことを感じさせない。だからか、少年の筈なのに、まるで青年に少年の名残があるかのように感じられる。

 

…彼がゲテモノ?あり得ない。彼がゲテモノならこの世の中、皆ゲテモノだ。中身はまだ知らないけど、間違いなく外見は…天使。醜さとは対極の存在。美しさの体現。

本当に全身全霊で謝罪したい。

 

「…いきなり聞くけど、状況把握は出来ている?」

 

はっ!声を掛けられるまでたっぷり数秒、完璧見惚れてた…。大人なのに、恥ずかしいな。…声まで良いとか…反則だよ?とにかく、まずはお礼と返事を返さないと。

 

「え、えーっと…」

 

「…カンザシ?説明頼まなかったっけ?」

 

「う…す、すまぬ、主。」

 

「はぁ、まぁいいや。取り敢えず名前教えてくれます?おねーさん♪」

 

やっぱり年下か、と思いつつ私は彼に向き合った。

 

「チェルシーよ。助けてくれてありがとう。」

 

「ふーん。じゃ、チェルシーさん。今から状況説明するから一発で頭に叩き込んでね?」

 

はい?ちょ、唐突すきない!?

 

「僕はラザール。医者だよ。こっちはカンザシ。助手的な子ね。チェルシーさんを見つけた経緯としては、僕たちがたまたま薬草を取りに森へ行って、その帰り道でカンザシがチェルシーさんを発見。そこで僕が応急処置をして、ここに連れてきた。ここは帝都にある僕の店。一応診療所。今日はチェルシーさんを見つけて2日目。以上。何か質問は?」

 

ちょ、この子鬼畜!?端的かつアバウトに説明アリガトウ…無駄にわかりやすくて助かるわ。それにしても、まさかここが帝都だとは思わなかった。

 

「えーっと、はい。なんとなくは把握。強いて聞くなら、たった2日で私の傷が跡形もなく消えてるのは何故?ってことくらいかな。」

 

「それは…」

 

「それは…?」

 

「僕が天才だから☆」

 

…ウインク付きで返された。けど、気持ち悪さを感じないから恐ろしいよね。…コレがイケメンパワーか。若干誤魔化された感じはあるけど、嘘では無いんだろう。彼の顔には自信がありありと浮かんでいた。

 

 

…さて、身辺把握もしたところで。これからどうしようか。

 

 

 




伸ばしました。

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