今宵、紅月の夜のお話ひとつ致しましょう。   作:漣@クロメちゃん狂信者

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2017/10/29 改稿しました。
作業BGMは「ライアーダンス」でお送りしました。


急募:ドジっ子の対処法

どうも、こんにちは。先日の買い物が、ツンデレ少女マインちゃんの襲来(リンチ被害)によって未遂に終わったので、また休みを取りました。しかし、今日は今日で問題が発生しています。

 

「カンザシ…なんで出かけちゃうかなぁ」

 

【昨日のうちにカンザシに伝えなかったオマエが悪い。まったく…ラザールはいつもどっか抜けるから困る。】

 

はぁという大きな溜め息が聞こえる。そんなに呆れないでよ…

そう、今朝カンザシに買い物の同伴をお願いしようと思ったら、彼女は既に家に居なかった。手伝って貰おう(適当に決めて貰おう)という僕の目論見は失敗してしまった。それにもかかわらず、この悪魔(ジェミニ)は、

【服、買いに行け。異論は認めない。いいから行け。とにかく行け。絶対行け。】

と仰せになりました。暴君ですね、ありえません。滅びの呪文を唱えたい。

 

「この悪魔め…」

 

【何か言ったか】

 

ジェミニさん怖いです。

 

「いや、何も」

 

【そうか。因みに言っておくが、ボクが悪魔ならお前は魔王だからな。】

 

「………」

 

【さっさと買いに出ろや。足を動かせ。行くぞ。】

 

「…御意~」

 

僕がジェミニに口で勝てるのはもう少し先になりそうだ。

 

 

 

 

 

「…こんなんでいっか。会計してさっさと帰ろ」

 

【早っ!?】

 

メインストリートに繰り出して5分、近くの服屋に入り、ジェミニの意見を聞きつつテキトーに服を購入。所要時間10分。うん、なんか面倒になったんで直感と好みとノリで選びました。

 

【オマエ…黒と紺しか無いじゃん。】

 

「悪い?僕の銀髪を考慮した上で、好きな色をセレクトしたんだけど?」

 

【目をかっぴらくな、怖ぇよ。寒色でいいからさぁ、もっとこう明るい色を着ろよ。水色とか灰色とかさぁ。ボクが言うのもなんだけど、顔は悪くないんだから…】

 

「……ジェミニって俺様口調のクセに一人称ボクだよね。」

 

【は?なんだよいきなり。…“俺”に変えてみるか?】

 

「そんな微妙な声出さないでよ。別にふと思っただけだし。なんて言ったっけ…今流行りのアレ、……あぁ、ギャップ萌?でいいんじゃね?」

 

【…オマエ適当過ぎねえ?】

 

「はっ、ジェミニの僕に対する通常運転がこれですけど?」

 

【…いつもゴメンナサイ】

 

「まぁ、いいや。さっさと帰ろ」

 

【帰った後どうするんだ?】

 

「昨日ちょっと思いついた毒配合してみようかと」

 

【……飲用?塗布?散布?】

 

「散布。神経型。」

 

《…オマエって案外狂ってるよな。》

 

「ジェミニもね。」

 

【いやいやいや、お前よりはマシだろ!?お前みたいに“ピー”を“バキューン”するような奴作ったり“ピチューン”を“ドッカーン”したりするようなことはやってねえもん!】

 

※過激な表現が含まれていましたので、加工してお送りしました。

 

「えー?あれはジェミニも大概ノリノリだったじゃん。それに、ジェミニだって“パーン”を“ドーン”して“チュド-ン”して笑ってたじゃない。」

 

※過激な表現((以下略

 

【…そうだったっけ?】

 

おい。なかったことにしようとしてるぞコイツ。

結論:同じ穴の狢。

 

という、会話を脳内でしつつ、帰路に着いていた時だった。

 

「あ痛!?」

 

僕より何歳か年上っぽい少女が目の前の何もないところで転けていた。取り敢えず、彼女が持っていた買い物袋からいくつか零れ落ちた物がこちらに転がってきたので、拾いあげてやる。近づいて声を掛けると、その少女は吃驚したような顔でこちらを見た。

 

「大丈夫ですか…?」

 

「あ、すみません…」

 

「いえいえ…あ、眼鏡どうぞ。」

 

「あ、道理で見えないと思いました…ありがとうございます。」

 

律儀にペコリと礼をする彼女。…が、腕に買い物袋を抱えそのまま礼をしたせいで、バラバラゴロゴロと再び物が転がり出てくる。

 

「あぁ!!また、落としてしまいました…すみません、本当にすみません…」

 

「あはは…」

 

…ドジっ子か。ツンデレに続き、これまた濃い人に出会ったものだ。僕が買い物の予定を作った日はよく人に会うなぁとしみじみ思う。

再び荷物を拾うのを手伝っていると、ふと彼女から漂ってきた香り。僕にとって馴染み深い、とても嗅ぎなれたこれは……

 

「あの…怪我とかは無いですか?」

 

「えぇ、大丈夫ですよー?どうかされました?」

 

「いえ…貴方から血の匂いがしたような気がして。気のせいだったらすみません、女性に失礼なことを聞きました。」

 

分かりやすく体が硬直した彼女。そう、彼女から血の匂いがするのだ。彼女の血の匂いもするが、それよりも多くの、他人の血。…失礼な話、はじめは女性特有の月のものかとも思った。しかし、今の反応で確信する。きっと、彼女は人を殺している。

 

どこか纏うオーラの変わった彼女は問う。

 

「…貴方は、どちら様でしょう。」

 

「しがない医者です。血の匂いには敏感なんですよ。」

 

そう言うとジッと僕を見つめるが、彼女の中で何か納得したのだろう、気を抜いてため息をつく。纏うオーラも元に戻っていた。

 

「そうですか。…良かったです。実は腕と膝を怪我していまして。膝はよく転ぶのでいつものことなんですが、腕は昨日料理を手伝おうとしたら包丁を落としてしまって。なかなか血が止まらなかったので、多分その匂いではないかと。」

 

「なるほど。不躾にすみませんでした。職業柄見逃せなくて……良かったらコレ、どうぞ。お代は今日はサービスです。」

 

そう言って、塗り薬を渡す。

 

「え、良いのですか?…あ、ありがとう、ございます。」

 

キョトンとした顔で、若干戸惑いながら受け取った彼女。なんだか、妹のようだとちょっと失礼なことを思う。

 

「いえいえ♪…では、僕は失礼しますね。気をつけてお帰り下さい。」

 

「…シェーレです、私の名前。今度お礼しに伺います。お店の場所、教えてくれますか?」

 

正直驚いた。名前とか、一応人殺してるかもしれない人が言うと思わなかったし、殺し屋とか暗殺者ではないってことかな…?

 

「あぁ、この通りを真っ直ぐ交差点2つ分行った右手側です。僕はラザール。お礼はいいので良ければ今後ご贔屓に。」

 

そう言うと、小さくクスリと笑ったシェーレさん。

 

「分かりました。今後薬を買う際はそちらに伺いますね。では、また。」

 

「はい。また。」 

 

そう言って互いに背を向けて歩き出す。

一瞬、妹のようだと思ったけど、彼女はやっぱり姉かもしれないと少し思ったのは秘密である。

 

 

「あ痛!」

 

 

 

・・・歩き出して、すぐに後ろで誰かが転けた音なんて僕は聞いていない。


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