壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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破邪の洞窟の詳細はすっとばします。

後で外伝的に、ぽつぽつ入れることがあるかもしれません。




仕込みと修行の終わり

ミリアと影夫が、でろりん達とともに破邪の洞窟の攻略を開始してから、3年近くの月日が経っていた。

魔王軍侵攻開始まで残り半年あまり。

 

「「「「「「かんぱ~い!」」」」」」

 

ミリアとでろりん達一行はルイーダの酒場にある宴会用の個室の中でジョッキを打ち合わせ、一気に果実酒を煽っていた。

 

「「「「「「んぐんぐんぐ……っ!」」」」」」

 

影夫はねこぐるみ姿ながらビールをにくきゅうハンドで器用に掴んで、ぐびぐびと飲み干している。

ミリアだけはまだ14歳なのでお酒ではなく果実汁であるが、腰に手をあてて美味しそうに一気に煽っていた。

 

「ぷはぁッ、うめええっ!」

「おいしーね!」

「そりゃあ良かった。うちは酒場が本職なんだ、存分に味わっていっておくれよ」

 

カウンターにいるルイーダが声をかけたタイミングで、セクシーなバニーガールたちによってご馳走が運ばれ、テーブルの上に所狭しと並べられていく。

 

「うーんさすがルイーダさんのお店はレベルが違うなぁ」

「ぴっちぴちのぼいーん、だな」

「ぷりっとしたお尻もかわいいのぅ」

「くぅー、腰をくねっくねってして歩くのがいいよな!」

「うへへへ……っ」

 

「いやぁねえ……男ってほんとにもう」

「フケツだよ!」

 

鼻の下を伸ばす男性陣にじとっとした視線を送るミリアとずるぼん。

 

うっ、と言葉に詰まった男性陣はお互いに顔を見合わせてあーいやーそのーとうろたえて、女性陣の顔色を窺い……みなの目線が交差したところで――

 

「「「「「「ははははは」」」」」

 

6人は、肩を組んでいっせいに笑いあった。

 

「これだよなぁー。俺らはこういうノリが合ってるっての! いやあここ数年ずーっと真面目面で似合わねえことしてからな」

 

「んぐっおぐっ。ほぉーはへ、はぐはむむっ」

「ふまいっ、ふまいっ……あむあむあむむっ」

「ふたりとも相変わらずの食べっぷりねぇ。変わらないただ一つの光景ってやつかしら」

 

2年とおよそ9ヶ月あまり。6人は今まで破邪の洞窟の攻略に掛かりきりだった。

集団で挑む場合同時に入れるのは4人までという制限があったので、でろりん組とミリア組に別れて、それぞれ攻略に挑んできたのだが――

 

「まぁ、何はともあれ本当に、お疲れさんだ」

「ほんとにね……もう二度とあそこには入りたくないわ」

「あれを作った神様って、きっとすごく意地悪で嫌な人に違いないよ!」

 

遠い目でしみじみと言ったでろりんに、ずるぼんは深く頷き、ミリアは猛然と吼える。

なかばトラウマになるくらい、破邪の洞窟での攻略の日々は大変だった。

 

25階を越えた時から魔界のモンスターが出現を始め、

50階を越えた時には、上位種のモンスターに変化し、

100階を越えるともはや想像を絶するとしかいえないような最上位種のモンスターが山と出る上にトラップは凶悪なものとなり、

200階を越えたらもう、1階を潜り抜けるだけで幾度も死線をくぐるようなハメになった。

 

それに、手ごわかったのは何もモンスターだけではない。

 

あまりにも広大で複雑な大迷宮の中で、水や食料が尽きて倒れかけたり。

聖水が効かないフロアで野営できずに過労で倒れかけたり。

難解で意地悪な謎解きの数々で立ち往生をくらったり。

リレミトの使えない洞窟内部で回復手段を切らしてしまい、死にそうなった仲間を抱えて必死に地上にもどったり。

死ぬ思いで踏破した瞬間、50階以上前に戻される罠で心が折られかけたり。

モンスターハウスのど真ん中で進退窮まったり。

ボスモンスターとの連戦につぐ連戦で死力も尽き掛けたり。

 

といった具合で、筆舌に尽くしがたいほど破邪の洞窟攻略は困難を極めた。

全員が口をそろえて、たった1人で挑んだ上に3ヶ月足らずで150階踏破したアバンは人間じゃねえよ! と喚いたほどだ。

 

「でもその甲斐はあったよな。でろりん達、もう歴戦の勇者って感じだぞ」

 

影夫の言うとおり、でろりん達4人は、屈強かつ雰囲気が滲むような強者然とした面構えになっていた。

 

「褒めすぎると良くない。俺たちは調子に乗りやすいからな」

 

身体付きも精強そのものになっていて、特にへろへろなんかは鎧を脱ぐと筋肉ダルマとでも言いたくなるほどだ。

どれほどのパワーを秘めているのか、想像もつかないほどで、少なくとも現時点の人間の中で最も肉体的な力があると思われた。

 

「ま、せいぜい贋作レベルを極限まで上げたってとこだな!」

 

でろりんはぱっと見た目では分かりづらいが、柔軟な筋肉が全身をくまなく覆っていて、俊敏でありつつ力強さとスタミナが十二分に発揮される肉体になっている。

言動は以前と変わらぬものながら、相対していると重厚な迫力を覚える。

 

「とはいえ、力は確かについておるよ。もうヒドラでも何でも来いじゃの」

 

まぞっほは老人ゆえに筋肉のボリュームは以前とあまり変わっていないものの、一般人を遥かに凌ぐ身体能力を持ち、老成した雰囲気と風格は賢き魔法使いといった風で、黙っていれば威厳すら感じる。

 

「実際、レベルも60超えだものねぇ。話半分だとして、本物換算だと30半ばちょいってとこでしょうけどね」

 

ずるぼんは、しなやかで柔らかい筋肉に覆われた俊敏な豹のような肉付きになっていた。

均整の取れた筋肉がついたおかげで、ウエスト、バスト、ヒップのラインも美しく、女性的な魅力も増している。

 

彼女が口を開かず顔芸もしなければ、どんな男をも魅了せずにはいられないだろうと思わせるほどだ。

 

「「「そりゃあ言えてる!」」」

 

自虐的なずるぼんの物言いに、三人が同調する。

相変わらず、妙なところで自己評価の低いでろりん達であった。

 

「いやいや。タイマンでも軍団長クラスには勝てるだろ?」

「ねえって! お前らなら余裕だろうけどなー」

 

でろりんはひらひらと手の平を振りながら、表情をコミカルに崩してぐびぐびとジョッキを傾ける。

 

4人は確実に、すごく強くなった。

だというのに、まったく前と変わらない普段通りの様子。

これが彼らの持ち味だろうなあと、影夫はしみじみと思った。

 

「ミリアにクロスもすっかりツワモノって感じだもんな」

 

でろりんの言うとおり、たしかにふたりも強くなった。

新しい呪文も新技も習得し、身体能力も、闘気もはるかに強靭になっている。

 

「自分じゃそこまで実感ないけど」

「いやー段違いだぜ?」

 

影夫は暗黒闘気の肉体ゆえに筋肉やらはないが、暗黒闘気の総量は増しており、その色はより黒く濃密になっている。

普通の人間なら精神に変調をきたしそうに思えるが、彼の精神に変調はなかった。

 

「でも……私……」

 

ミリアが悲しげに自らの胸に手を当てる。

すかっすかっ、つるぺったん。とでも効果音がつきそうな程、彼女の手は抵抗を受けずに胸とお腹を行き来した。

 

「これじゃあ……ママみたいな淑女になれないよ……」

 

胸に当てた手を下ろして、しょんぼりとした様子で呟く。

 

背丈もほぼ変わらず、胸の膨らみもほぼ変化なしだ。

いっぱい食べて運動して、肉体の成長にはこれ以上ない環境だったと思うのだが、何が原因なのか、背は伸びないまま。

 

ミリアが思い描いていたような『背はスラリと。胸はボンと豊満で。くびれはキュっと。お尻は可愛くぷりっとしてる』という理想の身体にならなかった。

 

「俺はありのままのミリアが好きだけどさ、成長しないのは暗黒闘気のせいなのかな? ごめんなミリア。俺の所為かも」

「そんなことない! この力を捨てるくらいならちびっこいままでいいもんっ」

 

ぷくっと頬を膨らませたミリアの頭をぽんぽんと撫でつつ、でろりんは影夫に向き直った。

 

「……いよいよ動くのか?」

「ああ、予定通りにな。でろりん達は?」

「お前らに同行するつもりだがよ。敵がいつ来るのか、細かい日時はわからねーんだよな?」

「ああ、およそ半年後くらいって程度なんだ。最悪一ヶ月程度の誤差はあるかもしれない」

「俺らは用事で抜けることもあるからな……一月を切ったらいつでも連絡取れるようにしておかないか? 何か会った時の集合場所と伝言はこの店でどうだ?」

「分かった」

 

とそこに、ルイーダ自身が料理の載った大皿を抱えてテーブルまで運んできた。

 

「あいよ、追加の料理お待ち。酒もこれからじゃんじゃん持ってくるからね!」

 

素早い動きでバニーガール達が空になった食器をさげると、空いたスペースにルイーダがドデンと大皿を置く。

 

「お肉ももっといっぱいよろしく~!」

「了解したよ、お嬢ちゃん。食べきれないほどもってきてやるさ」

 

「まーあれだ。みんなで焦らずぼちぼちやってこーぜ」

「「「「「意義な~~し!」」」」」

 

でろりんの気の抜ける掛け声に、一同は運ばれてきた酒とジュースのジョッキを打ち合わせて、賛同の声を上げた。

 

6人の酒盛りは続き、夜はふけていくのだった……

 


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