「のどかだなあ」
「ここが竜の神殿の湖なんだね……」
テランへ向かったミリアは静かな湖畔の草原で寝そべっていた。彼女の傍らでは影夫も猫ぐるみすがたでだらしなく寝転んでいる。
「静か、だね……」
「だな」
テランの人口が少ない故か周囲には人気がなく、鳥のさえずりや風の音などが微かに周囲から聞こえる程度。
「何もないね……」
「自然があるんだ。森に草に緑がいっぱいだろ……」
「なんだか、おちつくね」
「そうだなあ。人間も動物で自然の一種だもんなぁ。海が母なら森は父だ。宇宙船地球号なんだよ」
「ふぁ……なんかねむくなっちゃった」
「寝るか……」
「うん」
お日様と草と湖の匂いと温もりに包まれるふたりは心地よい気持ちで転寝をするのだった……
数時間後。気球船の縁にもたれたミリアが眼下に広がる雄大な自然を眺めながら、肩に乗っている猫ぐるみの影夫に声をかける。
「テランってなんていうか、時間がゆっくり流れてるって感じだね」
「そうだな。すろーらいふだなぁ」
テラン滞在中の行動はゆったりしたものだった。
豊富な自然と緑。人々は節度をもっていて、自然にしたがうというかありのままという感じであり、時間やお金に追われて、あくせくしている人はいない。
「郷に入りては郷に従え……ってね」
その中で自分達だけがあくせくする気もなれない。
テランに来てからふたりは心の張りが解れるような、リラックスした時間を過ごしている。
「アキームさん、王城へはあとどのくらい?」
「このまま1時間ほどでつけるかと思います。到着後テラン王に謁見の申し込みを行ってきます」
「それまでのんびり遊覧飛行といくかぁー」
「あっ、みてみて鳥の群れだよ」
「おっ、熊の親子が歩いてるぞ……」
「かわいいねー」
パプニカとはまた違った風光明媚さがいい。
なんというか、森と湖の国って感じである。元世界では北欧とかのイメージに近い?気がする、と影夫はひとりごちる。
いつか、ベンガーナが発展の末に人々が疲れてきたのならばテランは、魂の静養地として人気が出そうだ。
元現代人として都会で汲々としていると自然の多い田舎で晴耕雨読な生活を送りたいと思ってしまう気持ちが影夫にはよく分かる。
「まぁそれもいいところばかりじゃあないんだろうけど」
「何事もほどほどってこと?」
「さあなあ。いいところどりがしたいもんだねぇ」
質素で素朴でスローライフなのはいいことだが、時にはそれが命取りになることもあるだろう。
事故や病気、食料不足などの緊急事態が起これば、物資と技術が不足していてなすすべがないこともあるだろう。
テランの人々は、生も死もあるがままで受け入れるらしいが、影夫は自らの俗さを知っているので、到底そこまで超然とはできないだろうなと思う。
「所詮は俗物の俺なんかに悟りは開けそうにもないなぁ。わかってたけど」
その後、テランの王城に着いたはいいものの、テラン王は病身ゆえに謁見は出来なかった。まぁそれはしょうがないだろう。
国内では好きに動いて構わないそうなので、ふたりは2、3日かけてのんびり骨休みのテラン観光を楽しむのだった。