壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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arcadiaで本当に大好きだった作品が引っ越してこられて、しかも別ルートとか……もうテンションあがってやる気が溢れたので投下!

さくさく投下ですみません。嗚呼、今私は幸せです。




ランカークスにて

「はぐあむんぐほむっ」

 

リンガイアを発ったミリア一行は翌日、ランカークス村へときていた。

目的の場所はジャンクの武器屋だが、到着した時にはもう夜。

 

まずはと急いで宿屋を取り、食事を取っていた。

 

「そほくはへほ、おいひいっ!」

「がつがつがつ……!」

「すまないが、追加の料理をお願いする。ひとまず5人前ほど。メニューはオススメで頼む」

 

アキームは、猛烈な勢いで食事を食べていくミリアと猫ぐるみモードの影夫の食事風景にもなれた様子で、びっくりしている宿の従業員に追加の料理をオーダーしている。

 

「は、はい……どんどんお持ちいたします!」

「あっ、アキームさんも遠慮しなくていいよ。どんどん食べちゃって!」

「ええ、自分も充分にいただいております」

 

「ぷはぁっ~おいし」

「お嬢ちゃん、いい飲みっぷりたべっぷりだねぇー」

 

テーブルの上の料理すべてを平らげたミリア果実汁入りのジョッキを勢いよく傾けてごくごく飲み干す。

 

ものすごい大食いの後、腰に手を当てて背をそらせて一気飲みという男前な姿に、周囲の中年男性客がはやし立てた。

ピューピューと口笛をふいているのもいる。

楽しげな酔っ払いたちなので悪意はなさそうである。

 

「ありがと。奢ってくれたらもっと見せてあげてもいいよ?」

「……あー、邪魔して悪かった」

 

面白そうだからからかった程度の酔客達には、大金を払ってまで構い続ける度胸はなかった。

100Gを軽く超えそうなだけのそれもしょうがないだろう。

 

「しっかしあしらい方もなれたもんだなあ」

「もうなれちゃったよ」

 

気球船の旅とは言っても、野営して雑魚寝では疲れは完全に取れないし、食事も貧相になってしまうため、極力宿を見つけたらそっちに泊まるようにしないといけない。

 

ベンガーナを発ってから、何回宿に泊まったことか。

影夫はもう数えてないが、ミリアが食事をすると大抵は見た目そぐわぬ大食いに、毎回周囲は驚き、面白がって何かしら絡まれることになる。

 

とはいえ悪気がある輩は殆どいないし、娯楽に餓えてて面白そうなネタに群がっているというくらいで害はない人達なので問題はない。

 

「一期一会ってことで、お大尽でもやって、皆でわいわいしてもいいと思うけど……ミリアは女の子だし変態がいるかもしれないし、危ないかぁ」

「別に平気ー。でも知ってる人といるほうが楽しいかな?」

 

「おまたせしました。お皿さげますねー」

「おねがいしますっ」

 

複数の女性店員によって大皿に乗った大量の料理が運ばれてきて、テーブルの上にどんどんと並べられていく。

周囲の酔客達はチラチラとミリアのほうを見て再びびっくりしているが、奢らされては困ると思っているのか声は掛けてこない。

それでも『見ろよまだ食うぞ。スゲー』『大食い少女あらわる!』とかなんとか聞こえてくるので、話のネタにして盛り上がっているようだ。

 

「それではごゆっくり。追加注文あればドンドン言っておくれよ」

 

最後に肉料理を持ってきた恰幅のいい女将さんが、ホクホク顔で笑いかけて去っていった。

 

「あむあぐんぐっ。そういえば、この村って妙に豊かじゃない? 食べ物が豊富で美味しいのはいいんだけど、何でだろ」

 

ミリアが食べ続けながら、テーブルにずらりと並んだ料理の数々を見て首をかしげる。

豪快な肉料理に山盛りサラダ。炒めもの、揚げ物に蒸し料理、多様な料理が並んでいる。ミリアは飲めないがお酒の種類も豊富だ。

 

更に言うとこの村には宿が複数あって、気球船を預けられるほどの広い馬車置き場まであったりする。夜に飛び込みで宿泊出来るのも、人の出入りの多さや宿泊施設の余裕を感じさせる。

 

総合的に見て、ランカークス村は発展していて豊かであるようだ。

原作でポップが言っていたような何もない田舎の村っていうのはただの憎まれ口だったのだろうか?

原作の絵を見る限り、村とはいっても、ネイル村などよりもかなり立派な建物が並ぶ村だったようだし。

 

「たしかにな。ネイル村に比べると全然違うよなぁ。建物もレンガ造りで立派だし。ギルドメイン山脈の麓なんて僻地だろうに何でだろう?」

「それはですね、付近に鉱山があって、周囲の森林が豊富だからです。この町は資源採取と輸送のための拠点になっているのです」

 

ミリアが飲み干した果実汁のお代わりをピッチャーから注ぎながら、アキームがふたりに教えてくれる。

なるほど。資源が豊富で人が集まるなら、職人や商人も集まってきて発展するのは当然の流れだ。

 

「それとギルドメイン山脈に入るにはここを経由する必要がありますから狩人や旅人も多いのですよ」

「へぇ~納得。ジャンクのおやっさんがここに店を構えたのも分かるな」

 

この村は鍛冶屋をするにはいい場所のように思えた。

材料や燃料、鍛冶道具の入手が容易で、需要も多いのだから。

 

「ごちそうさまでした!」

「俺もごちそうさま。んじゃ腹ごなしに中庭でも借りて運動でもするか。アキームさんはどうする?」

「ぜひともお願いします。一足先に準備をしてお待ちしておきますので、失礼!」

 

影夫の誘いに顔を輝かせたアキームが、脱兎のごとく席をたって、女将に支払いを済ませて中庭を借りる交渉を始めている。

生粋の武人であるアキームには、強い勇者であるミリアとの手合わせや鍛錬の時間が殊の外楽しいらしく、とても楽しそうな様子だ。

 

「いい人だねアキームさん」

「ああ。その上、能力面でも、交渉ごとから気球船の操縦からメンテに簡単な修理。野営時の設営や食料調達、炊事洗濯もお手の物。空気を読めて周囲に心配りもできるとかすごい人だよ」

 

アキームいわく、すべて一人前の騎士には必須のことなのでこのくらい当然らしいが。

 

長旅に付き合せてしまった上に、従者のように仕事をさせてしまうことに罪悪感をもっている影夫だが、本人が心から楽しそうにしてくれているのが救いだった。

 

 

 

 

翌朝。教会の鐘で起き出したミリアは、猫ぐるみ状態の影夫を抱えて、いの一番にジャンクの武器屋に向かった。

 

ちなみにアキームとは別行動である。自由に過ごしていいと伝えてあるが、実直で勤勉である彼は、鍛錬か気球船の手入れでもしていることだろう。

 

「あっ、ここだね」

 

さっそく店内に入る。

 

「らっしゃー……い」

「こんにちは」

 

ミリアが店に入ると、黒髪の少年がぽかんとした様子で、眺めてきた。

 

(ねえお兄ちゃん、あの子がポップ?)

(だな。そっくりだ)

 

「? なあに?」

「あ、な、なんでもねえ!」

 

(ははぁ……ポップはませてるなあ)

(どういうこと?)

 

ミリアは可愛い少女である。

綺麗でつややかな長い黒髪、つぶらな瞳は綺麗で潤みを帯びていて、柔らかそうで小ぶりな唇も綺麗な形をしている。

 

体型そのものは歳相応に小柄な少女であるが決して貧相なわけでない。

鍛えられた身体はしなやかで柔軟性に富んでいて、モデルのような造形を作り上げており身に纏っている赤い厚手のドレスがその魅力をさらに引き出している。

 

柔らかい筋肉が生み出す所作は綺麗で優雅な印象を与えているが、その割に言動は天真爛漫なので近寄りがたいこともない。

戦う姿はまったく別だが、非戦闘モードのミリアは綺麗で可憐な美少女なのだ。

 

加えて、ポップとミリアは同年代。

ませてるポップ少年がミリアに見惚れてしまったのも無理はなかろう。

 

「えっと、武器みてもいい?」

「あ、ああいいぜ! 武器でも防具でも案内するよ!」

 

「強い武器はあるかな?」

「えっと、ナイフはこっちだ!」

「それじゃなくて、大人用の強い武器で!」

「えぇっ?」

「あっ。わたしが弱いって思ったでしょ!」

 

ミリアは腰に手をあててぷくっと頬を膨らませて抱き抱えているぬいぐるみに力を込める。

武器屋に行くたびに毎度の反応とやりとりではあるが、強さに自信を持っている彼女は弱いと思われるのが嫌いである。

 

「大人用のやつね。ほら、こんなの」

 

ミリアはそう言って、傍らにおいてあったバトルアックスを片手で持ち上げてぶんぶんと振ってみせる。

 

「はえぇっ……!?」

 

ポップ少年は、あんぐりと口を開いてしばたたかせた後、自分もバトルアックスを持ち上げようとし始めたが、ビクともしなかった。

 

「……ちょ、ちょっと待っといてくれ! おやじーっ!」

 

常識外の客の出現に、手に負えないと思ったのか、ポップが店の奥に引っ込んでいった。

 

「しょうがねえなあ、俺らで探すか」

「うん。見た目はちょっと不気味で、魔族っぽいデザインだっけ?」

「俺が知ってる奴はそうだな。あとはなんか凄みを感じるらしいとかくらいしか分からん」

 

猫ぐるみ影夫は、ミリアに抱かれたまま、ふたりで店内の武器を物色していく。

 

(やっぱり時期的にまだみたいだな)

(ざんねん……みたかったなあ)

 

ふたりしてがっくりと肩を落とす。

魔界の名工と呼ばれた人物の武器を一度手にしてみたくて楽しみにしていたのだ。

 

(せっかくだし他の武器も見ていこう、オリジナル武器とか置いてるかもしれないし)

 

ロン・ベルクと思われる剣はまだなかったため、しょうがなく、物色を続けるが変わった武器といえばどたまかなづきがある程度だった。

 

(ミリア、どた……)

(ぜったい、やだ!)

 

影夫がからかおうとした矢先、言葉をさえぎって却下される。ぷくっと頬を膨らませたミリアはぎゅっと猫ぐるみボディを締め付けてくる。

 

(ぎぶぎぶ。悪かったって)

(もう……)

 

そうこうしているうちに、いかつい中年の男がのっそりと姿を見せる。

ポップの父親ジャンクである。

 

「嬢ちゃん。強い武器を探してるとか?」

「剣でも斧でもいいけどね、特別製の武器とかある?」

「うちの店じゃ精々バトルアックスだな」

「んーこんな剣みたいなのとかは?」

 

ミリアはとんとんと背中に背負っている大きな剣の鞘を叩く。

もろはのつるぎが中に収められている。

 

パプニカ滞在時に王家御用達のベテラン職人に作ってもらった特注の封印の鞘で、

パプニカ銀と特殊な法術により、鞘の中に邪気を封じ込めるように作られている。

 

(のろい武器だとバレてないみたいだね)

(パプニカの職人芸は大したもんだな)

 

そのおかげで街中や城の中にも、邪気を放つもろはのつるぎを持っていけるようになっているのだ。

 

パッと見たかぎり、パプニカ銀の美しさとその意匠により、聖なる剣に見えてしまうくらいだ。

影夫は気に入っているのだが……

 

(私はあまり好きじゃないんだけどなぁ。次に鞘を作る時はわたしがデザインするからね!)

 

ミリアの好みとは異なる見た目になったのは、周囲への印象を考えた影夫がそのように発注したためだ。

知らないうちに嫌いなデザインに決まったということで、彼女は未だにご立腹である。

 

(わかったよ……持ち歩けるか心配だなあ)

 

間違いなく、凶悪なデザインになることは間違いない。

下手をすれば人骨で構成された鞘とかそんなことになりかねない。持ち歩くのは不可能になるだろう。

 

「剣か……ちょっとまってな」

 

(お! あるのかな?)

(たのしみだね!)

 

「この店最強の剣だ」

 

期待して待つこと数分。ジャンクが持ってきた剣をしゃらんと鞘から抜いて見せてくれる。

 

刃の部分がのこぎり状になっている……これはデパートでみたことがあるのこぎりがたなだ。

 

「これって……でもちょっと違うみたい」

 

刃の部分は緩く湾曲しており、ギザギザの刀身部分はよりスマートでシャープなデザインになっており、浅く溝が刻まれている等違いがある。

 

「のこぎりがたなを改良したもんだ。鋼をこれでもかって鍛えぬいて、色々と工夫してみた」

 

凄みは感じないが、精悍さを感じる。

まちがいなくそこらのはがねの剣よりも強そうだ。

 

「試してみるかい?」

「うんっ」

 

……

…………

………………

 

ジャンクの家の庭の一角を借りて、藁束で試し斬りをさせてもらったミリア。

 

「切味が段違い。刃の形状のおかげで切り口が抉れてダメージが大きくなるね」

 

デパートにも売っていた普通ののこぎりがたなや、はがねのつるぎとも比較してみたが、1.5倍から2倍ほどの攻撃力がありそうだ。

さすがの腕と言ったところだろうが、すでにこれ以上の武器があるので必要性は薄い。

もろはのつるぎが手に入る前なら活躍しただろうだけに惜しい逸品だった。

 

(これ欲しい! 強いし格好いいし!)

(でもミリアは使わないしな。ああそうだアキームにあげるか)

(うーん、たしかにお世話になってるし……この子も血を吸ったほうが輝きも増すよね!)

 

「これ買うよ!」

「毎度あり! あんたいい買い物したぜ!」

「うん」

 

ポップがはしゃぎながらミリアの手を掴んでぶんぶんと振り回す。

 

「じゃ、じゃあさ、この後俺と……」

「とっとと金を貰え!」

「いでぇ! わぁったよ。えっとこれって……いくらだろ?」

「5000Gだって前に教えたろうが!」

「5000Gになりまーす!」

 

ゴンゴンとゲンコツを喰らって泣き笑いしつつも、ポップが笑顔で値段を告げる。

 

(なんか、面白い子だね?)

(あー……そうだな)

 

「ちょっとまってね……ひいふうみぃ……はい、これでいい?」

「お、OKOK! まいどあり~! じゃああらためて! あのさっ」

「ポップ、お金を母さんに渡してこい」

 

「えーー? そりゃねえよ。これから」

「いいからいけ!」

「はひぃっ……ま、また後で会おうぜ!」

 

ひらひらと手を振りながら、調子よく言うとばたばたと家の奥へ走っていった。

 

(なんなんだろ?)

(さてな……)

 

ポップにアプローチされそうになっていることに欠片も気付かないミリアは不思議そうにポップを見つめていたがやがて、ジャンクの方に向き直る。

本題に戻るようだ。

 

「もっと強い武器の心当たりとかないかな? ふぶきのつるぎを超えるようなのとか」

「そりゃあ伝説級の武器じゃないか。こんな村にあるような代物じゃないぞ」

「でもほら、ジャンクさんって、ベンガーナで凄腕鍛冶屋してたんだよね?」

 

「物知りだな……」

「ゆうわくの剣を注文したからね。キャンセルになっちゃったけど」

「……すまねえんだがあれなら作れない。デパートのツテがないと希少な魔宝玉や魔法金属が手に入らないからな」

 

「あれはもういいよ。今はこれを使ってるから……んしょっ。『もっつー』出ておいでー」

 

もろはのつるぎはミリアの体格だと、普通には抜けない。

そのため、暗黒闘気を注ぐことでもろはのつるぎを鞘から飛びさせて抜刀してみせた。

 

「うん、今日も元気だね」

 

飛び出たもろはのつるぎはミリアの手の中に吸い込まれるように収まり、それと同時に周囲に邪気が振り撒かれていく。

一部始終を見ていたジャンクは一瞬身構えたが、ミリアが平気な顔でニコニコしているのを見て、ぽかんと驚くばかりになった。

 

「あんたそりゃあ……正気か!?」

「『もっつー』はいい剣だよ。強いしカッコいいし、素直だしね……『もっつー』ハウス!」

 

暗黒闘気を流してミリアが命じると、名残惜しそうにカタカタと刀身が動いた後、ふらふらと鞘の中に戻っていく。

カキン、と鞘の中に刀身が全て納まると漏れ出ていた邪気は消え去った。

 

「えらいえらい。いいこだね」

 

つるぎの柄を撫でてミリアは微笑む。

ミリアは暗黒闘気という飴と鞭で、もろはのつるぎを完全に手懐けていた。

こころなしか『もっつー』も、純粋に主人に懐いているようにすら見える。

 

「呪いの武器をペット扱いする奴がいるとは信じられんよ……」

 

「あのね、武器がないなら新しいの作れる? 色々考えてきたんだ。お金はあるし、希少素材のツテもあるから考えてみてくれない?」

「面白そうだ。よし家に上がってくれ。茶も出す」

 

興味深げにうなずく客間に通されたミリアは、さっそく温めていたアイディアをジャンクに話していくのだった……

 

 

 

「どれも面白い発想だ。だがな……」

「あーどれもやっぱダメかぁ」

「やはり使い道が限定されすぎるだろう」

 

ミリアがジャンクに頼もうとした武器は全部で3つ。

 

1つ目が『りりょくのつえ』のメカニズムを応用したりりょく剣ができないかというもの。

 

戦士には魔法力がほぼない上に豊富な生命力を闘気とし使った方が良い。

魔法使いや僧侶は杖を使った方が長所を伸ばせる。

勇者ならばと魔法力の使用と闘気技の同時運用をすれば……と思うところだがそれは魔法剣と同じで人間には無理なのだ。

 

辛うじて役立ちそうな場面としては、賢者が呪文の効かない相手と戦わなければならない時に使う場合だろう。

 

三賢者がヒュンケルと戦う場合とか、炎と氷を吸収するフレイザードと戦う場合には多少役に立つと思われる。

 

しかしそもそも、賢者は剣を扱えても得意ではないので所詮は付け焼刃でしかない。

 

「チェーンソーブレードは面白そうだったのになあ。お面つけてこの剣で戦えばきっとすごいかっこいいよ」

「まともな敵は寄りつかねえだろうな……」

 

2つ目に提案した『チェーンソーブレード』は駆動機構が複雑すぎる&刃に当たる部分が頻繁に磨耗してメンテナンスの手間が掛かる&常に動かさないといけないので駆動中は魔法力を常に消費してしまう と問題点とデメリットの塊だった。

 

それに、闘気技を使う時も刃がガンガン回転しているとどうしても使いづらいと思われる。

 

結局、見た目の恐ろしさで威圧する用途とか、面白いというだけのネタ武器にしかならなさそうだ。

 

 

最後に提案した『ギロチンアクスやでっかい肉斬り包丁』は作れることは作れる。

が、特殊効果もなく、見た目が恐ろしい鉄塊のような武器になってしまう。

 

攻撃力もはがねの大剣を一回り強くした感じになる代わりに巨大かつ重過ぎて人間には使いづらい武器になってしまう。

 

「結局だめかぁ。時間取らせちゃってごめんなさい」

「いや、面白いアイディアは刺激になる。ほとんどの客は、見た目特化の儀礼用か実用特化の武器を求めるばかりでな。そんなのばかりだとどうしても頭が固くなっちまう」

 

「じゃあ最後にあと1つだけ。えっと……この聖石には魔法力を溜め込む性質があるんだ。とある天才学者がこれを加工して中に呪文を込められるアイテムを作ったんだって」

「ほう……」

「そういう仕組みを武器につけたら、魔法と剣が同時に使えるってことにならない?」

「ううむ」

 

ミリアが指に嵌めている指輪を見せると、ジャンクは考えこむ。

 

「矢の先端につけて弓で撃つか? いや、刀身に埋め込むとかすれば剣や槍でもいけるか……?」

「え? できるの!? 『もっつー』につけられないかな?」

「試行錯誤すれば、出来るかもしれないな。だが、その聖石ってのは貴重なんだろ。失敗するかもしれないぞ。無駄になるとまずいんじゃないか?」

「あー。1個しかないね」

「まぁやめとくべきだな」

 

まったく未知の素材を使って、一発で成功させるなんてことはまず不可能である。

 

「うーん、話はこれで終わりだね。あ、ついでにどくがのナイフの買い替えもしとこっと」

「そうか。武器屋のおやじとしても助かる。ありがとよ嬢ちゃん」

 

「じゃあ、俺が案内してやるよ!」

「わわ、ちょっとまって……」

 

いつのまにか部屋に戻ってきていたポップがミリアを引っ張って店のほうへ向かう。

微笑ましい光景だがポップにとって悲しいことに短い夢である。ミリアはまったく気付いていないし、脈は欠片もなさそうだ。

 

そもそも彼にはマァム(ifルートとしてメルルという線もあるかも?)という運命の人がいるわけであるし、本気でべた惚れという様子でもなく、いい感じの女の子に粉かけてるだけであろうから、いい思い出ということになるのだろうか。

 

影夫はミリアの腕に抱きしめられながら、そんなことを考えたのだった。

 

 

 

……ちなみにその後。ジャンク特製ののこぎり刀・改は、アキームにプレゼントされた。

 

ちょっとした手間賃感覚だったのだが、かの鍛冶屋ジャンクの逸品を勇者殿から頂いたということで彼は感激していた。

 

それから数年後。ミリアとの手合わせや、鍛錬によってレベルアップした上に強力な武器までを手にしたことで、彼はベンガーナ王軍で頭角を現していき、ついには世界中に知られる武人になるのだがそれはまた別の話である。

 

 




↓没会話だいじぇすと↓

ポップ「へぇ~それじゃあミリアは世界中を旅してるのか」
ミリア「うん。ここにいるお兄ちゃんと一緒にね?」
ポップ「えっ、お兄さん? この猫のぬいぐるみが?」
ミリア「うん。今はこんな姿だけど……」

ポップ「ははぁわかった! ミリアは呪いで姿を変えられたお兄さんを元に戻すために旅しているんだな。聞くも涙語るも涙の話ってわけだろ!?」
ミリア「えっ?」

ポップ(呪いを解くなら呪文がいるよな……うおお! 俺が呪いを解いてやれれば……ありがとうポップさん、大好き愛してる! なんてことになったりして。うへへ)

ポップ「よし決めた!! 俺が魔法使いになってやるよ! んで、お兄さんを元に戻してやる!!」
ミリア「え、でも……」
ポップ「いやいや遠慮すんなって! このポップ様にドーンと任せなさいっての。うーし、みてな! 今にこのポップ様の名は世界中に轟いて、世界一の魔法使いって呼ばれることになるからな!」
ミリア「あ、はい」

影夫(うぁああ空回り。勘違い乙ぅぅ! ポップくん南無だああ。でも世界一の魔法使いになるのは本当だああああ)


没理由:勘違い物を面白く書く力量のなさに気付いて。後会話を自然にいれることができなくて。後、勘違いを巡って、話がえらい脱線していって原作突入がさらに遠のくと思うので。

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