推敲を重ねてもどうにも会話シーンが上手く書けないのは困ったものです。
次もなるべく早めに投下できればと思います。
……賊の一団の退治の話はそのうち外伝で投下するかもしれません。
パプニカを後にした影夫とミリアは、特に問題なくリンガイア王宮へと着いていた。
リンガイア領に入ってすぐ、性質の悪い賊の一団を見かけて、叩きのめして捕縛したが、特筆すべき出来事はその程度だった。
リンガイア王との謁見もスムーズに進み、捕縛した賊の引き渡して報告をし、褒美の言葉と報償金を授けられた。
さらに、リンガイア国内での活動の許可を得た上に、バウスン将軍率いるリンガイア戦士団の紹介までしてもらうことが出来た。
リンガイアに来た目的はルーラ登録とバウスン将軍およびノヴァと会っておくことなので、これでほぼ目的は達成できたことになる。
(ってわけで、後はまぁ観光モードで。と言ったのは俺だけど……)
「はむむぐっ、黒パンとチーズとソーセージの相性が最高っ、牛乳との相性も抜群だね!」
リンガイア王との謁見を終えたミリアは、リンガイア戦士団からの迎えが来るまで、貴賓室で軽食を食べさせてもらいながらくつろいでいた。
「はい、どれもリンガイアを代表する食材ですから」
「あんぐんぐっ。おかわり!」
「くすっ、今お持ちいたしますね」
小さく笑ったメイドさんが、追加オーダーを頼みに部屋を出て行く。
「まぁ、ほどほどにしておこうな……」
「なんで?」
「正式に招待された食事の場じゃないし、来てすぐに厚かましいのはほら……」
ベンガーナ王みたいに、仲良くなれば遠慮がなくなる影夫であるが、さすがに会ったばかりの王様にドカ食いの経費を押し付けるのは気が引けた。
「んー、そう? いっぱい食べるのを喜んでくれそうな王様に見えたけど?」
「まぁ、そうだけどな……」
たしかに、ミリアの言うとおりではあった。
原作でほぼ出てこなかったリンガイアは、城塞王国といわれているだけあって、岩山をくり貫いて作ったような、堅牢なつくりの軍事都市である。
要塞の中に街が入っているという感じだ。
リンガイア王はまさに質実剛健といった佇まいで、歴戦の老戦士のような迫力があった。
配下の者達はもちろん、民も何らかの武道を学んでいるものが多いらしく、尚武の気風が溢れている国だった。
金属資源が豊富なのか、武器も良質な物が多く、はがねの装備品が多く出回っていた。
もっとも、ミリア達が装備するには弱いものなので購入はしなかったが。
「じゃあ、王都でリンガイア料理を食べ歩くならいいよね? 自腹だし」
「そのほうが色々食べられると思うし、それがいいと思うぞ」
とそこで、ドアが数度ノックされる。
「リンガイア戦士団より、勇者ミリア殿をお迎えに上がりました!」
「あ、どうぞ~」
リンガイア戦士団の迎えというとバウスン将軍かノヴァが来るのかなと思っていた影夫だが、意外な人物が入室してきた。
「よう。久しぶりだな、ふたりとも」
「あっ。へろへろししょー!」
「へ、へろへろ!? なんでここに?」
「俺の師匠はバウスン将軍だからな」
「うぉ。マジかぁ! なーんか、俺らが行く先々にみんながいるなぁ」
「そうなのか?」
「ああ。まぞっほはバルジ島の近くの島にいる。でろりんは、ロモスのネイル村で会って、ずるぼんはパプニカの王宮で会ったぞ」
「ほう……みんな元気だったか?」
「うんっ! みんなすっごい元気だよ。がんばってだいししょーの下で修行してたよ!」
「それは何よりだ」
「しっかしみんな、師匠がビックネームばっかだよなぁ。そんな人らから認められてるし……すごいよな」
「いや、俺らだけじゃ腐ってたままだったからな……」
「へろへろ兄さん! 勇者殿は……この方は?」
そこに、ノヴァが入室してきて、ぬいぐるみを抱えたミリアを見て首をかしげる。
「ここにいるのが、勇者ミリアと伝説の生きる武具クロスだ」
「へ? この女の子と……猫のぬいぐるみが……?」
「ああ。クロスは形を変えられる生きる武具だからな、今はこうだが戦いのときはミリアと一体になって闘うんだ」
「へえ、すごいんですね。それにしてもこんな子が……でも、底知れぬ力を感じます。こう、威圧感のようなものがありますね」
ノヴァはじっとミリアを見つめていたが、その力を感じて、納得したように頷いた。
「あ、紹介が遅れました。ぼくはリンガイア戦士団のノヴァと言います」
「えっと、よろしくねノヴァさん」
「よろしくな!」
「はい! おふたりは兄さんの恩人で戦友で凄腕だとか。よろしくお願いします!」
ミリアと影夫の手をとって、握手しては頭を下げるノヴァ。
影夫にとって予想外なことに、ノヴァはかなり感じが良く腰の低い少年だった。
原作での壮絶に自己中心的な勇者という感じは一切なかった。
(ねぇお兄ちゃん。話で聞いてた感じと違うね。もっと嫌な感じの人じゃなかったっけ?)
(うーん。へろへろとかなり親しそうだし、何かあったのかもな……?)
「えっと。さっきから気になってたんだけど、ふたりは兄弟なの?」
「あ、いえ。これはぼくが勝手にそう呼んでるだけで……」
「俺は本当の弟のように思ってるぞ」
「に、兄さん。はずかしいじゃないか……」
「はは、すまん」
「おぉーへろへろがなんか頼れるお兄さんって感じだ! でろりん達といると、もうちょっとゆるい感じなんだけどなー」
そういいえばアニメでは、ゴメちゃんの真似をして、ぴっぴーっ! とかしてた事を思い出す影夫。
本物の勇者になったからか、ギャグっぽい場面はまだ見てないけど、見てみたいなあと思うのであった。
「勇者さま、お食事をお持ち……あら」
「む。食事中だったのか」
「みんなも一緒に食べようよ!」
そこへ、メイドさんが大量の食事を運んできて、4人は食卓を囲むことになるのだった。
★★★
その後、へろへろとノヴァに連れられて、リンガイア戦士団とバウスン将軍にあいさつをしたミリアと影夫は早速手合わせをしていた。
「ノーザンッ、グランッ! ブレードォォ!!」
「はぁあああああ……暗黒、両断撃!」
跳躍して噴出した闘気剣を大上段から振り下ろすノヴァ。
対するミリアは、濃密な暗黒闘気を纏ったもろはのつるぎを思い切り振り上げて斬りつける。
命中の瞬間、闘気が激突して爆発する。
「うわあああ!」
闘気のぶつかり合いが収まった時、勝敗は決していた。
ノヴァの闘気剣が折れてしまっており、彼自身も吹き飛ばされて地面に転がっている。
「くっ……やはり通じない。兄さん相手でもダメだったし、この技は問題が多いかな……」
「ん~。威力はあるけど……同格以上の相手には通じないかな。隙が大きいのと狙いがバレバレなのがまずいと思うよ。防御なり迎撃なりされちゃうから。誰かがひきつけてる間に背後からぶち込んだら効くと思うけどね」
「ありがとう。とても参考になりました……もっと工夫してみます」
「オリハルコン粉砕を目指して頑張ってね!」
「ええっ!? は、はい……」
ノヴァは、肩を落としつつ、ブツブツと独り言をもらして難しい顔をし始める。
ミリアの激励は無茶振りもいいところであるが、実現できれれば、かませっぽい扱いから脱却できるかもしれない。
「ところでミリア、それ新技か?」
「うん。両断撃はね、当てる瞬間に闘気をどばって流し込んで、爆発させてるの」
「命中の瞬間にのみ力を爆発させることで無駄を省く、か。考えることは同じだな」
「ってことは……?」
「ああ。ノヴァの必殺技に触発されてな。俺も作ってみた」
「ねえねえ! その技名前決まってるの?」
「いや、まだだが」
「じゃあわたしが考えてあげる!」
「それは構わないが、お手柔らかに頼む」
「ふふふ、安心してよ! お兄ちゃんとも相談して、ばっちり格好いいのにしてあげるからね!」
「あ、ああ……」
その後リンガイア戦士団の元で1週間ほど滞在し、へろへろやノヴァと試合をしたり、技の開発に精を出した後、出国するのだった。