壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

76 / 91
書いていて背中が痒く……!


次も早めに投稿できればと思います。

すみませんが、ちょっと推敲が甘いので、誤字や文章ミスがあるかもしれません。



蹂躙のミリア

「万全を期して扱い、私欲のために使うことは決してないわ。私の名とパプニカの神に誓ってもいい。分かってくれるわね?」

 

レオナが三賢者と議論を始めて数十分。

未だ、話は終わらずにいた。

 

「ぐっ……しかし、それでも! 邪悪なちからというものは、正しい心をも歪ませるのです。邪悪なものとは存在自体が危険で、許されないものなのです!」

「へぇ……?」

 

アポロがそう叫んだところで、不意に冷え冷えとした声が周囲に響いた。

互いに譲らず言葉を戦わせていた三賢者とレオナは、冷水をぶっかけられたかのように、言葉を止めて、声のほうを振り返る。

 

「そうなんだぁ」

 

ミリアは静かに怒っていた。

邪悪とされる、というだけで無条件に全否定することは、ミリアが大事にしている物を、排斥するも同じだった。

 

アポロの発言はミリアの地雷を踏み抜いてしまっていた。

 

「……もういいや」

「「「え?」」」

「これ以上、話し合っても無駄だよレオナ」

「ミ、ミリア……?」

 

「ねえ三賢者さん。邪悪なちからなんかに頼らなくても自分達がいるから、パプニカは何も心配ないってことなんだよね?」

「え、ええ」

「そ、そうなのです。我ら三賢者がパプニカにいるかぎりそのような邪道は不要です」

 

「ふぅーん」

 

断言する言葉を聞いて、目を細めたミリアは面白くなさそうに呟く。

 

「ふふ。じゃあさ……私くらい倒せるよね?」

 

ミリアは酷薄な笑みを浮かべて三賢者に言い放ち、手招きをしてみせた。

 

「やってみせてよ」

 

ミリアは、腕の中に抱えている影夫のねこぐるみをゆっくりと撫でた後、肩の上にちょこんと乗せると、三賢者に満面の笑みを向ける。

 

「え……あ……っ」

 

その様子を見てゾクリと、マリンの身体に怖気が走る。

他の二人も雰囲気に飲まれてしまっている。

 

「な、何故そのようなことをっ」

「勇者さまと戦う意味はありません」

 

「ふぅん……これでも?」

「ミ、ミリア……?」

 

『ごめんレオナ。バロンさんから頼まれたことを済ませちゃうよ。ちょっと痛いけど怪我しないようにするから我慢してね。お兄ちゃん、フォローお願いね?』

『ああ』

 

「え……な、なにっ?」

 

ゆっくりとレオナに近づいたミリアは軽く耳打ちをすると、そのまま両手をレオナの首に添えた。

 

「あっ、がぁっ……!?」

 

ミリアがゆっくりと両手を掲げるように持ち上げると、レオナの身体は宙に浮いてしまう。

 

ミリアの両腕からは暗黒闘気が靄となってうっすらと溢れでており、苦悶に歪むレオナの表情の悲痛さと首吊りのような体勢もあって、禍々しさを演出していた。

 

「がはっ……!」

 

加減されているとはいえ、首吊りに近い状態では本当に苦しいため、ミリアの手に指をかけて逃れようともがく。

 

迫真のというより本気の苦悶の様子に、三賢者は慌てふためく。

 

「な、何をなさるのです!?」

「姫様を離してっ!」

 

「戦わないと、レオナを殺すよ」

「「「なぁっ!?」」

 

「ねぇ、三賢者さん。自分達の力に自信があるんでしょう? 邪道に頼らず正道を貫けるほどに! 正面から理不尽を跳ね除けられるんでしょ?」

「あぐっ……はっ……」

 

「早く決めなよ。首が折れるか窒息で、レオナが死んじゃうよぉ? さあっ。さあさあさぁっ!!」

「わ、分かったっ、戦うから離してくれっ!!」

 

アポロの悲痛な声を聞いたミリアは、そのままレオナを地面にゆっくりと下ろした。

レオナの首筋にはミリアの指跡がついており、影夫は慌てて駆け寄り、ホイミで治療する。

 

「げほっげほっげほっ……ッ!」

 

咳き込みながらもレオナは事情があることを察して声を出さずに、それでも非難の目をミリアに向ける。

 

(いくらなんでも、やり方ってもんがあるでしょうがっ……ミリア……あとでおぼえておきなさいよ……)

「悪いレオナ……」

「いいわ、後で訳は聞かせてもらうから。もういいからミリアのトコに戻っときなさい」

「すまない」

 

レオナに促された影夫は、すばやくまたミリアの肩の上へと駆け戻っていった。

 

「……いきなり主を殺されかけて、有無を言わさず戦いに巻き込まれる……理不尽だよね」

「力を選り好みしたいなら、力を示せってことだ……俺達に勝てるならキラーマシンはいらない。だよなレオナ?」

「そ、そうね。真っ当な手段で万事問題なければ私に異論はないわ。三賢者が勇者ミリアに勝てるならキラーマシンの保有はとりやめます」

 

「…………」

 

その場でただ一人バロンは無言のまま、お手並み拝見と言った様子で様子見に徹していた。

 

「そうまで言われては我らも黙ってはおれません」

「そうよっ!」

「ね、姉さん、アポロ……」

 

「いいよ。あそんであげる」

 

三賢者は構えるが、ミリアはただ微笑を浮かべて突っ立ったまま。

 

「舐めるもいい加減にしてもらおうっ! 火炎呪文<メラゾーマ>!」

「火炎呪文<メラミ>!」

「火炎呪文<メラミ>ッ!」

 

巨大な火の玉が3つミリアに直撃し、激しく炎上する。

 

「…………」

 

炎の中の人影は動きを見せず、なす術もなく炎に巻かれているように見えた。

 

「や、やったの……?」

「まだだっ、手を緩めるな! 氷系呪文<ヒャダイン>!」

「氷系呪文<ヒャダルコ>!」

「氷系呪文<ヒャダルコ>!」

 

激しい3つ吹雪が炎に包まれるミリアを襲う。

激しい炎と吹雪の温度差は並の人間なら耐えられそうにないように見えた……が。

 

「……効かないね」

 

ミリアは、身じろぎもせずにその場に無傷で佇んでいた。

その身に紫色の霧をまとって。

 

「……うそっ、無傷!?」

「どうする? あなた達じゃマトリフししょーみたいに魔法の霧を吹き飛ばすなんて無理じゃないかな?」

「……マホステか。あらゆる呪文の効果を無効化する呪文だ!」

「大正解。さすがは三賢者のまとめ役だね」

「そんな、それじゃあどうしようもないじゃない……」

 

その反則的効果にエイミとマリンが動揺するが、アポロは知っていたようだ。

 

「この呪文は賢者殺しって言ってもいい性能なんだよねえ。相手の呪文は無効にしつつ、一方的に攻撃できる! こんな風に……ベギラマッ!」

 

「くっ、閃熱呪文<ベギラマ>!」

「閃熱呪文<ギラ>!」

「閃熱呪文<ギラ>!」

 

アポロとミリアの閃熱呪文の打ち合いは一瞬の拮抗するも、マリンとエイミの加勢により、三賢者に軍配があがる。

 

「へぇ。やるね」

 

押し込まれてきた閃熱はミリアの元にぶつかって爆発を起こした。

しかしマホステに守られたミリアはかわらず無傷で、圧倒的に有利な状況は変わっていない。

 

「でも、痛くもかゆくもないよ。降参かな?」

 

「エイミ、マリン、俺に合わせてくれ! ぬぉぉおおお……中級爆裂呪文<イオラ>!」

「中級爆裂呪文<イオラ>!」

「中級爆裂呪文<イオラ>!」

 

最初にアポロが、少し遅れてマリン姉妹が、イオラの光球をその手の中に作りあげていく。

 

「爆発でマホステを吹き飛ばそうってこと?」

 

アポロの発想はミリアにも理解できた。

マトリフのところで修行中、彼女も同じ発想をしたことがあったからだ。

 

だが、その試みは無駄でしかなかった。

 

仮に極大呪文であるイオナズンの爆発やバギクロスの竜巻で霧を吹き飛ばそうとしても無駄なのである。

 

マホステの霧はそもそも『呪文そのもの』を受け付けないのだから。

さすがに、大魔王バーン級の呪文なら話は変わるのだが、三賢者がその域に達しているはずもない。

 

「その余裕がいつまでも続くと思わないことだ!」

 

三賢者が掌に作り上げたイオラの光球が放たれて、ミリアの元へと飛翔していく。

 

「その手は私も試したよ。三賢者と名乗っておいて、私と同じ程度なの?」

 

ミリアは微動だにせずその場で見下したように悠然と立ち続ける。

 

「ふっ、霧そのものを物理的に吹き飛ばせばいいだけだ!」

 

三賢者の放ったイオラは、ミリア本人ではなく彼女の足元に叩き込まれた。

 

「なっ!?」

 

地面に炸裂して生じた爆風と衝撃で、固い床は割れ削れて、塵が巻き上がり周囲を覆っていく。

 

「あたたっ、知らなかったなぁ。賢き者って伊達じゃないんだね!」

 

舞い上がった粉塵が収まった時、ミリアを覆っていた紫霧は消え去っており、砕けた地面の破片および呪文の余波でミリアの手足は軽く傷を負っていた。

 

「ミリア殿! あなたの奥の手は破られました。どうかそれ以上怪我しないうちに降参なさってください!」

 

「……すげえな三賢者、マホステを破っちまった」

「あはは。そうじゃなくっちゃ。でも降参はまだしてあげられないね」

 

ミリアはここまで、あえて呪文という三賢者の得意分野に付き合ってきた。

 

それは、彼らの力と意思を確かめる為の試しであったが、彼らはミリアとクロスの想定を超え、賢き者の証を見せた。

 

「ここからは、本気でいくから――」

 

ミリアは暗黒闘気の使用を解禁する。

途端に邪悪な気配を放つ黒いオーラがミリアの身体からゆらりと立ち昇り始める。

 

「躊躇してたら――死ぬよ?」

「っ!」

 

血を流すミリアを見て、一旦は躊躇う様子を見せたアポロ達だったが、本気の殺気を感じて侮りを捨てる。

 

「お兄ちゃん、手伝って」

「ああ、アレをやるのか?」

「うん」

 

影夫はねこぐるみボディから抜き出すと、ミリアの体内へともぐりこんでいき、自らの身体をミリアへと委ねた。

ミリアは自分で練り上げた暗黒闘気と、影夫の身体の暗黒闘気を、両の手に集めていく。

 

「はぁぁぁぁ……っ」

 

みるみるうちに、ミリアの掌の中の暗黒闘気の球は大きくなっていく。

 

「あれは、まずい! ふたりとも、一点集中だ! 俺に合わせて呪文を重ねろっ……ベギラマ!」

「ベギラマ!」

「ギラ!」

 

唯一回復呪文を得意とするマリンだけはギラでそれ以外のふたりがベギラマで、ミリアの腹部という一点目掛けて3本の熱線が飛んでくる。

 

その精度、息の合い方はまさに三賢者の名に恥じないものだった。

 

「「「いけぇぇーーーっ!」」」

 

3つの呪文は、重なり合うことによって、ベギラゴンクラスの威力となっていた。

 

「くっ、ぐぅっ……抑えっ、きれない……!?」

 

ミリアは迫り来る極大の閃熱を両手の暗黒闘気で呪文を受け止め、堪えようとする。

しかし。

 

「「「うおぉぉおおおっーーー!」」」

 

「だめ、きゃああああーーー!!?」

 

ベギラゴン級の呪文を握り潰すなどできず、眩い光の中に飲み込まれた――と誰もが思った。

 

「……な~んてね、ざぁんねんでした♪」

 

「どうなっている!?」

「なによそれ……」

「な……な……」

 

信じられない光景に、三賢者たちは三者三様の反応で呆然としてしまう。

 

「受け止めただけだよ」

 

ミリアは濃密な暗黒闘気でベギラゴンを包み受け止めていた。

 

閃熱呪文は効果を発揮することなく、闇の霧の中で行き場を失い、球状になって紫電を放ちながら暴れるように震えている。

 

「マホステじゃ、ない? マホカンタ!?」

「違うわ、あれは即時反射のはずだし、呪文の威力も落ちるはずよ!」

「でも、あれは呪文が増幅されていっている……!」

 

そう。マリンの言うとおり、少しずつ閃熱の球は大きくなって増幅されていっている。

 

「あはっ……おおきくなぁーれ、おおきくなぁーれ♪」

 

これは原作でミストバーンが使っていた、暗黒闘気で呪文を包み、増幅して打ち返すという技であった。

それを今、ミリアは見事に再現しきっていた。

 

(まぁ、実戦向きじゃない技なんだけどね)

 

マトリフやまぞっほとの修行の中で見につけた新技であるが、現時点では制限も多い。

ミストバーンの暗黒闘気とは量質に違いがあるため、ミリアと影夫が全力をあわせて集中しないと使えず、呪文の増幅にも時間が掛かる。

 

その上、受け止める呪文の威力にも上限があり、本気のマトリフやバーンが相手だと無理という具合に、欠点が多い。

 

それでも、並のベギラゴン程度は受け止めることは可能であり、魔法使いや賢者にとっては悪夢のような技となっていた。

 

「いっくよっーえいっ!」

「くっ、防御光幕呪文<フバーハ>!」

 

ミリアがバレーボールを打ち出すみたいに増幅した閃熱球をアポロ達に向けて討ち放つと、回避が間に合わぬとみたアポロは咄嗟にフバーハを展開する。

 

 

「ぐああああっ!」

「くぅううううっ!?」

「きゃあああああっーー!?」

 

光の微粒子を結晶化されたバリアはガラスが割るように突破されてしまい、

並のベギラゴン以上の呪文を受けて、三賢者は閃熱に焦がされながら吹き飛ばされ地面を転がっていく。

 

「ぐ……」

「……」

 

服をあちこちを焦がされ切りさかれた3人はすでに満身創痍だった。

フバーハで減衰したとはいえ、受けたダメージは大きく、アポロとマリンなどは倒れこんだまま動くこともできない。

 

「ね、姉さん! しっかりして……ベホイミ」

 

唯一エイミだけはふらつきながらも近くで倒れるマリンにかけよって回復を試みる。

咄嗟に庇われたおかげで、一番の軽症であったのだ。

 

「させると思う?」

「ひっ……っ」

 

だが、そんなことが黙って見過ごされるはずはない。

エイミはアイアンクローで顔面を掴まれて、暗黒闘気の奔流を叩きこまれてしまう。

 

「きゃああああああああああああぁぁっっ!!」

「やりすぎよっミリア!!」

 

焼かれるような激しい痛みにエイミは絶叫しながら痙攣するようにビクビクと身を震わせる。

 

「やめなさいミリア!」

 

その痛ましさにレオナは見ていられずに駆け寄って、ミリアに縋りつく。

 

「…………」

「ああぁっーーーーー! ぅっ……ぁ……」

 

だが、怒鳴られてもミリアは暗黒闘気を止めなかった。

そのうちに、エイミは息を吐きつくしたのか、全身の力をだらりと脱力させてしまう。

 

「ォオオオオオオッーーーー!!」

「お願いだからもうやめてよミリア!!」

 

雄叫びをあげたミリアは、力尽きたエイミを地面に放り捨て、レオナをひきずったまま、アポロとマリンのほうへと駆け出していく。

 

「あ……ぁ」

「う……」

 

絶望がアポロとマリンを襲っていた。

三賢者にとってミリアは強い、あまりにも圧倒的で強過ぎた。

「さあ、エイミさんと同じにしてあげるね……」

「あがっ!?」

「がはっ!!」

 

アポロとマリンは、同時に首を掴まれる。

小さなミリアの手だが、強い膂力で食い込んでくる指に苦悶の声が漏れる。

 

「もういいのミリア! これ以上やる意味はないわ!」

「……ダメだよ。こいつらはレオナに力を選り好みしろって言ったんだよ? じゃあ見せてもらわないとダメだよね」

 

狂笑を浮かべて、ニタリとアポロとマリンに笑いかける。

 

「資格と覚悟をさぁ!!」

「ひ……ぐあああああああっっ!!」

「いや……きゃああああああああ!!」

 

ふたりは訪れるであろう激痛と恐怖に、絞りだすように悲鳴を上げる。

 

「きゃはははははっ!!」

 

ミリアの手からは力が込められて、ふたりの顔を焼き尽す暗黒闘気が……放たれなかった。

 

「はいおしまい。これ以上したらレオナに怒られちゃうからね。さっきまでのはただのお芝居。安心してね♪」

「「え……?」」

 

事態の急変に呆然としていたレオナだが、慌てて、地面に倒れ付しているエイミのもとへ駆け出していく。

 

「もう怒ってるわよ!」

 

レオナは地面に倒れたまま痛みに悶え苦しんでいるエイミの容態がとにかく心配だった。

 

「エイミ動かないで今回復を……ベホイミ」

「あぐ……あぁぁ……」

 

顔を押さえて、苦悶し続けているエイミに慌ててレオナが回復呪文をかける。

 

「う、うそ!? 呪文が効かない……!?」

 

だが変化はない。それは当然であった。

暗黒闘気とはそういう性質のものだ。

 

「エイミ、あなた。か、顔が……」

 

必死に回復呪文をかけながらレオナはエイミの顔の悲惨な状態に絶句する。

 

彼女の顔は、ミリアの指の形に焼かれたかのように、暗黒闘気の醜い跡が残ってしまっている。

 

「うそでしょっ……!? 何がお芝居よミリア! クロスも何で止めてくれないの!? こんな、意味のない残虐な行為!」

「意味はある。痛みで呪文を封じる戦術なんだよ」

「うん、私は殺す気で向かってくる相手のつもりで戦っただけだよ?」

 

「魔王軍ならばこれくらい楽しみながら平気でやるぞ。それとも戦いで、敵の慈悲や理性に期待するのか?」

 

レオナとしても、ミリアとクロスが言うことは分からないでもない。

でも、レオナは到底納得できなかった。

 

「レオナ、あの三人が迷惑だって言ってたよね? だから現実を教えてあげただけだよ」

 

ミリアなりにレオナを思ってした事なのも分かる。

だけど、こんな取り返しの付かないことをして欲しくなかった。

 

「でもこんな……なにもっ……ここまで……!」

 

レオナは半泣きになって震えている。

 

「私のせいでっ、エイミが……!」

 

自分の不用意な言動がきっかけとなって、エイミの顔に一生消えない大きな傷をつけてしまった。

そう思うとレオナは震えが止まらなかった。

 

「不測の事態とか、理不尽ってね。いつだって圧倒的で、屈服を迫ってくるの。私のときもそうだった。お兄ちゃんに会えなかったらそのまま死ぬしかなかったから」

 

 

「いやはや素晴らしい。よくぞやってくださいました! 勇者ミリアどの」

 

ここまで、沈黙を保っていたバロンは拍手とともに、倒れこんでいるアポロに歩み寄る。

 

「お前達は、理想を唱えたが力で屈服させられた。これで分かっただろう。力を選り好みするような贅沢は今のパプニカにはできない」

 

「……っ」

「パプニカの中心戦力は賢者だ。そしてそれは弱点でもある。

だが、キラーマシーンがあれば呪文を封じられても対抗できる。安全には万全を期すことを約束する。それで納得してくれ」

「は、い……」

 

アポロは、現実を突きつけられて、是と答えるしかなかった。

これでもう三賢者は、レオナの判断に口を出すことはないであろう。

 

 

「三賢者さん。手荒くしちゃってごめんなさい……ちょっとやりすぎちゃったかも」

「いえ、容赦せずにと頼んだのはこの俺で、責任も俺にある。どうか気になさらずに……三賢者よ、今回の事で恨むなら俺を恨め」

「…………」

 

バロンが罪を背負う覚悟を見せると、沈痛な空気があたりに流れる。

 

「あっ。エイミさんなら後遺症も傷も残ることはないから大丈夫だよ! ねっ、お兄ちゃん」

「ああ。ちょいと失礼っ……」

 

ねこぐるみボディに戻った影夫がエイミへ駆け寄って、暗黒闘気を吸収し始めると、エイミの顔にへばりついていた黒い傷はあっけなく消え去っていった。

 

「ん、これでもう大丈夫」

 

ミリアは皮膚の表面に暗黒闘気をべっとりと塗りつけるように放射していただけなので、実際のところエイミは傷を負っていなかったのだ。

霧状の暗黒闘気によって神経を刺激されていただけである。

 

つまり、催涙ガスを浴びたような状態がイメージとしては近いだろうか。

 

「はえ? 痛くない……」

「うん、跡も残ってないね。痛かったでしょ? ごめんね」

「い、いえ……もう平気ですから」

「エイミさん。刺激感が残ってたりはしないか?」

「だ、大丈夫です……」

 

「良かっったぁぁ……! ほんとうに良かったわ!」

 

エイミが、嘘みたいに消えた痛みと傷に呆然とした様子で、顔をぺたぺたと触ると、レオナはエイミに抱きついて喜んだ。

 

「はぁーーーっ。もうっ、びっくりさせないでよ!」

「本当にごめんなさいレオナ……怒ってる?」

「怒ってるわよ! でも、私のためだったみたいだし、そもそもバロンの差し金みたいだったから、貸し1で許してあげるわ」

 

 

和やかなムードに戻ったレオナやミリア達をヨソに、バロンはアポロに回復呪文を掛けてその場に座らせると、詰問を始めていた。

 

「それでだアポロ。キラーマシンのことは誰から聞いたのか教えてもらうぞ」

「5日前にテムジン司教さまから……レオナ姫が邪悪な力に手を出そうとしている、と。あれは封印せねばならぬと言われて……」

「あの愚物か。なるほど、流刑前に仕込まれたか。今はバルジ島にいるがな」

「そんな……」

「私達、騙されてたの……?」

 

バロンの裏切りにより、すでにテムジンは暗殺と簒奪を企てた罪で、捕縛されている。

 

十分な証拠も証言もあり、処刑となるはずだったが、計画は始まったばかりであって未遂であった事から、私財没収の上バルジ島への島流しの刑となっていた。

 

だがテムジンは捕縛される前に、三賢者に情報を流して唆していたらしい。

そのあたりはさすがという他なかった。

 

「でも、あの方は清廉にして慈悲深い聖職者です! 私財を投じて孤児院を運営するほどの……!」

「ああ。その孤児院で育てた子を高値で国外に売って稼いでいたがな。王も大層ご立腹であったぞ」

 

「な……!?」

「すべては王位簒奪計画のためだ。キラーマシンを俺に預け、使わせて、姫の暗殺と簒奪を目論んでいたのだ」

「そんな……」

 

真実を知らされて、がっくりと肩を落とすところをみるとアポロは心底テムジンを信じて尊敬していたらしい。

 

「あっ」

 

その様子を眺めながら、テムジンの手際に妙な感心をしていた影夫だったが、重大なことに気付く。

 

「ちょっと待ってくれよ! やばくないか? パプニカ王や大臣達は、キラーマシン保有に反対なんだろ? テムジンが話を他にも漏らしていたら……」

 

「いや。あの俗物のことだ。キラーマシンを取り戻す為、秘密裏に進めているはず。大臣あたりに漏れれば脅威と見なされて、即座の破壊措置になるからな」

「ああ、それもそうか……」

 

「三賢者よ、キラーマシンのことは黙っていてくれ。姫が責任を持ってあずかるといっている以上、主を信じるのが臣下の勤めだろう」

「わかりました。できることがあれば協力することもお約束いたします」

「ああ、パプニカの為だ。ぜひそうしてくれ」

 

「あら? 信じるに値しない主など挿げ替えてしまおうと思っていたあなたが、臣下の心得を説くのかしら?」

「滅相もない。もしそうだとしても、もはやそんな必要はありませんよ」

 

こうして、三賢者もキラーマシン保有に関わることになり、パプニカの守りはさらに磐石となっていくのだった。

 

 

★★★

 

「本当にすまないなクロスどの」

「まぁいいよ、あんたのきもちは分かるしな……あ、ずるぼんの奴、こことここの訳間違えてるな」

「む……」

「んー駆動系統には問題なさそうだな、ネックはやっぱり制御系かぁ」

「いや、素材の問題もあるのでは。代替金属がパプニカ銀では……」

「やっぱ、まぞっほ師匠やマトリフさんに見てもらったほうがいいなこりゃ。直訳は出来ても意訳とか特殊な言い回しなんかはわからない部分もあるし、俺も所詮素人だ」

「クロス殿やミリア殿は、あのマトリフ殿に魔法を習ったのだとか?」

 

「ああ。まぞっほ師匠のツテで頼み込んでどうにかね。普通なら絶対に弟子なんか取らないといってたけど」

「ふむ……」

「あ、消耗してる部品があるみたいだぞ。こことここは補修が必要だぞ。あーそれとここ、このケーブルを介して魔力を伝達しているはずだから、接続先はこっちじゃないか?」

 

不器用な影夫が内部構造を弄るとどうなるかわからない。

本を元に構造を理解して、不具合の元の箇所を指摘したり、原因を推測するくらいしかやくには立たない。

 

「クロス殿、助かります」

「ま、メカ弄りは浪漫だしな。不器用で実際に弄くれないのは残念だけど……後でまぞっほ師匠やマトリフさんとも相談してっと――メモメモ」

 

「なにからなにまですまない」

「なぁに、対価は貰っているからいいよ」

 

ヒラヒラと古書を揺すってみせる。

そのほかにもバロンが保有する貴重なアイテムやらを複数譲り受けていた。

 

(とはいえ、古書による呪文探しもそろそろ重複が多くて微妙になってきたな……)

 

極大呪文は全て見つけてしまったし、これ以上は魔界の書物とかでもみないと新しい発見はなさそうであった。

 

 

「クロス殿、ここなのですが……」

「ん? ああ、そこはたぶん……」

 

ちなみに、ミリアとずるぼんはこの場にはいない。

影夫と別れての行動に少し不安げにしていたものの、ずるぼんやレオナと一緒ならばと、出かけていった。

 

今頃はみなで街に出向いたり、王宮で遊んでいるんだろう。

 

(ま、帰ってきたら話しを聞いてみるかー)

 

影夫は知らなかったが、実際には王都周辺の凶暴化モンスターや、盗賊を退治していたらしい。

 

姫がそんなことをするとか危険すぎてありえないのだが、ミリアが雑魚のモンスターや盗賊程度に遅れをとるはずもないし、ずるぼんもついているから大丈夫だろう。

 

レオナの行動力にミリアの実行力が加わったらとめられるものはおらず、バダックは毎日頭を抱えて、パプニカ王は苦笑するばかりの日々になるのであった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。