今回はほんの繋ぎ回です。
サブタイはノリです。
次は殆ど出来ているので、早めに投稿できるかと。
「何もいないダンジョンっていうのも不気味よね……幽霊でも出てきそう」
「あーあ。モンスターでも出たら実戦テストできるのにっ」
レオナはミリアと影夫、バロンとずるぼんを引き連れて地底魔城跡に来ていた。
その目的は、影夫とずるぼんの協力で早期に稼動が可能になったキラーマシンの動作テストのためだ。
わざわざバロンの自宅から大型馬車の中に隠して、ここまで運んで来てあり、今バロンが中にはいって搭乗していた。
「いや、実戦はまだ出来ない。こうして歩かせてるだけでも不安定だからな。戦闘機動は
まだ不可能だな……」
よくみれば、バロンが操るキラーマシンの歩きは少しぎこちない。
ときおりバランスを欠いてふらふらとするし、足の動きもきしんでいるような、奇妙な動きだ。
そんな動きを数度続けたかと思うと、ゆっくりとキラーマシンは動きをとめてその場にへたり込んだ。
「ううむ、やはりバランスの制御には――」
「いや、魔法力の伝達の方式が――」
「たしかに、改良の余地は、しかし――」
キラーマシンの肩部には影夫がねこぐるみ姿でへばりついており、ああでもないこうでもないとバロンと言葉を交わしている。
「むしろ操縦者の技量が――」
「うーん。今度、まぞっほ師匠を連れてくるよ。マトリフさんの弟弟子でさ。こういうの向いてると思うから」
「それはありがたい!」
「ああ。今はとりあえず動けるように応急処置をしないとな。原因は。っと……」
「ううむ。これは動力の方に問題があるのかも知れないな」
そしてそのままふたりは熱中しきって、メカ弄りを始めてしまった。
「ほんと、男ってああいうの好きよねえ」
「……むぅ。難しい話はよくわかんないよ!」
影夫が自分を放ってキラーマシンに夢中でいるのが面白くないのか、ぷくっと頬を膨らませたミリアがふてくされる。
「ま、細かいことは任せておけばいいのよ。ん~でも時間かかりそう。ちょっと休憩しましょうか……はい、ミリア」
「うん!」
レオナは、さっとその場に敷き物をひくと、ミリアの手を引いて座り込み、焼き菓子と飲み物を用意し始めるのだった。
★★★
ともあれその後一行は、マシントラブルの度に休憩を挟みつつも、ところどころ壁や天井が崩れているダンジョンを奥へと進んでいく。
「んー? 誰かずっとついてきてるよね。モンスターじゃないみたいだけど」
「はぁーっ。こんな所まで……もういい加減勘弁してほしいわ」
「えっ。レオナすとーかーされてるの!?」
「すとーかーってのは知らないけど……たぶん違うわよ。ついてきてるのは三賢者」
「さんけんじゃ……あっ、お兄ちゃんが話してた、人達? たしか名前が、ア、アポ……なんとかさん?」
聞いたことがあるなぁと、ミリアは唸って頭を捻った後、影夫から聞いた未来の話を思い出した。
「あら、ベンガーナでも名が売れてきてるの? アポロ、マリン、エイミの三人の賢者よ」
「ああ、そうそう! その人達!」
「キラーマシンの保有などはおやめください! って、もうしつっこくて困っちゃうのよ」
「ふぅん。でも断ったんでしょ?」
メカ談義に夢中になりながら、前を行く影夫とバロンを指差すミリア。
たしかに、三賢者の主張が認められていればあの光景はないであろう。
「そうなんだけど、諦めてくれなくてさぁ。魔王軍の遺物など絶対に邪悪だと決めて掛かってるから、話になんないのよ」
「分からず屋で迷惑してるなら、私が『お話』してあげよっか?」
「そこまではね……彼らの気持ちも分かるのよ。どんな力も使いようってのは、実際にミリアやクロスを見るまで実感できなかったしね」
「……レオナがいいならいいよ。私に絡んでくるわけじゃないし」
ミリアが、少し眉を顰めて後ろを振り返る。
レオナ達の少し後ろに、レミーラの光に照らされた三賢者がついてきている。
「なんか、弱そう」
「弱……って。そりゃま勇者と比べたらそうだろうけど」
3賢者のリーダー格であるアポロは、でろりんと同じくらいの年齢にみえる。
でも実力的にはでろりんよりも劣っているような印象をミリアは受けた。
「「「姫さま!」」」
と、そこにアポロを先頭に三賢者が、走り寄ってきて膝をついて頭をたれる。
「ふぅ……あのねあなたたち、時と場所を選びなさいよ」
嗚呼、また始まるのかと頭に手を当てて、レオナはため息を漏らす。
「「「申し訳ございません!」」」
地面に頭を擦り付けんばかりの勢いで、謝りつつも三人は強い口調で直訴を始める。
「今一度申し上げます。どうか、どうかお考えなおしください。邪悪な力に頼るなど、してはならぬことです!」
「姫さま! アポロの言うとおりです。世界を脅かしたかの魔王の遺産などを扱うなど正しいこととは思えません」
「パプニカには、鍛え上げた精鋭の兵、邪を祓う神官、そして私達のような強力な賢者達がおります! 邪悪な力など不要にございます!」
アポロを筆頭に、姉妹と思しき賢者の女性もそれに続いてレオナに必死で訴え始めた。
「アポロ、マリン、エイミ……あなたたちが訴える危惧は分かっているわ。でもね」
レオナがうんざりするほど直訴を繰り返す三賢者達だが、彼らの危惧も理解できるものなだけにレオナも対応に頭を悩ませてしまっている。
「私の答えは変わらないわ。力は使い手次第よ」
バロンが語る危惧も、三賢者が語る危惧も、まっとうな意見であり、両者ともに真にパプニカ王国を思ってのことである。
それだけに、判断を下すレオナとしてはとても難しいものがあった。
それでも――レオナはバロンの意見を採る。
「危険性は承知してるわ。だから策を講じて、検証も十二分に行っている。かの大魔道士マトリフにも助力を乞うつもりよ」
「パプニカ王はすでに十分に備えをなされております!」
レオナとて、乱れる兆しもない天下泰平の世であればキラーマシンの保有などはしなかった。
アポロが述べるとおり、パプニカ王はハドラー戦役の犠牲から多くを学んでおり、国中の教会や神殿に食料を備蓄した地下の避難所を設けたり、街はずれの森の中に避難小屋を作ったりしている。
現時点でも、万が一には備えられているのだ。
もしも魔王が復活して、パプニカが壊滅状態にされても民の多くの数が生き延びられる。
そして脅威が去り次第、逞しく復興できるであろう。
武力に頼らずに備えをした、パプニカ王の手腕はまさに賢王の施策といえた。
「ええ。父の施策は素晴らしいものよ。そこにもう一つの備えがあれば、万が一の時にさらに犠牲が減らせるわ」
今の世は、魔王が倒されて久しく、平和である。
レオナも、ミリアと出会う前までは、父のやり方だけで必要にして十分であると思っていた。
「アレを戦争とかで使うつもりはないわ。本当に、万が一に備えて秘密裏に保有しておくだけ」
レオナは将来、大魔王バーンが襲来することを知らない。
ただ、地上世界がまだ見ぬ脅威に備えようとしているかのような、舞台が整えられつつあるかのような、嫌な予感を覚えていた。
「嫌な予感がするのよ。パプニカもそれに備える必要がある……そんな気がするの」
「姫様……」
アバンに続くといわれる、勇者ミリア、勇者でろりん一行達は、皆こぞって生き急ぐように力をつけようとしているように見える。
そして、それに合わせるようにベンガーナも水面下であるが、いろいろと動いているのがレオナの耳にも入ってきている。
それらが、レオナがバロンの意見を採る決め手となっていた。
「…………(早く終わらないかなぁ)」
隣でレオナが直訴を受けている中、ミリアはそっぽを向いて知らんふりをしていた。
三賢者と会うのははじめてであるし、自分が割って入ると不愉快なことになりそうに思ったのだ。
「すみませんがミリア殿! こちらに来てもらってもよろしいですか?」
「ん、なぁに?」
キラーマシーンの頭部を開いたバロンが、ミリアを呼び寄せると何事か耳打ちをしていった――