壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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再び影夫とミリアの状況に戻ります。


世界へ旅立つ

影夫とミリアがマトリフの元で修行を始めて3ヶ月ほどが経っていた。

 

マトリフが知る限りの呪文の契約を済ませ、まぞっほを交えて魔法力の扱いの修行や瞑想、呪文を使っての実戦訓練等をこなす日々を送っていたのだが。

ある日唐突にマトリフに呼びつけられたミリアと影夫は、今日で卒業だと唐突に告げられていた。

 

「え? もう終わりなの?」

「まだ3ヶ月くらいしか見てもらってないんだけど……」

 

「教えてやれるモンは全部教えた。あとは毎日基礎鍛錬をすりゃいい」

 

たしかに、ふたりはマトリフから、実戦での立ち回りや心構えについてといった事柄のような直接魔法に関わらないような、教えまでも受けていた。

 

「でもでもっ、メドローア使いたいよっ。すっごい威力で、すごいんだもん。覚えたほうがいいよねぇお兄ちゃん」

「あれはすごい切り札になるからな。ミリアが覚えられるなら是非とも欲しい」

「でしょ! やっぱり修行は続けなきゃ!」

 

「てめえにゃあ無理だって何度も言っただろうが」

 

やっぱりソレか、とでも言いたげにマトリフが顔を顰めて、ギロリとふたりを睨む。

 

「いいか。これは向き不向きの問題なんだよ。てめえは細かい呪文の制御にむいてねえ。反面魔法力の放出や増幅なんかは得意だろ?」

「うん。難しくてややこしいことって嫌い! 呪文はやっぱり、ぶわっ、ぎゅいーんっ、どかーんッて一気にやりたいもん」

「そういう奴にはメドローアは難しい。そこを努力で乗り越えるには時間が掛かる。何十年と費やせば分からねえが、んな余裕なんざねえだろうが」

 

「えー……むぅぅ……!」

 

なおも渋るミリアは諦め切れないのか、右手に火炎呪文を出して、左手から氷系呪文を出そうと試し始めた。

が、うんうん唸って難しい顔をしているだけで、どうも両手同時に別の呪文を出すのは無理なようだ。氷系呪文が出れば炎系呪文が消えてしまう。

頭の中でごちゃごちゃになっているんだろう。

それを見ていると影夫も、メドローア習得はやはり諦めたほうが良さそうだと悟るしかない。

ここ3ヶ月隙を見ては練習を続けて、上達の気配がないのだ。

呪文の破壊力は順調に上がっているが、呪文行使の器用さはミリアにはないらしい。

 

「まあ、元々魔法は専門じゃないし、しょうがないか」

「あっ。そっか……剣の方も修行しなきゃ強くなれないよね。暗黒闘気もちゃんと使ってあげなきゃ可哀想だしね」

「剣やら闘気の修行はアバンが適任なんだがな。ロカの野郎でも悪くないんだが……あいつはもう長くねえ」

 

「じゃあ、ロン・ベルクさんは? すっごい剣の達人なんだよね、お兄ちゃん」

「ああ。大魔王がスカウトするほどの凄さだしな」

「それにうまくいけば新武器も作ってもらえるかも!」

「でもなあ。『最近知り合った』って言ってたからな。まだジャンクと出会ってないんじゃないか? 参ったな……」

 

話が行き詰まった様子を見て、マトリフが古ぼけた世界地図を持ってきて、テーブルの上に広げ、カール王国を指差して見せた。

 

「まぁそっちは行って確かめるしかねえな。他には危険だが手っ取り早く効果抜群な、実戦経験を積むって手もある。たとえば、『破邪の洞窟』とかでな」

「うわぁ。ダンジョン攻略! 洞窟探検! 楽しそうっ! ロン・ベルクさんを探しにいくかどっちがいいかなぁ。迷っちゃうね!」

「そうだな。滅んでないカール王国に行っておくべきかも。ついでに破邪の洞窟の使用許可貰ったり、アバンの書を見せてもらったりしとく方がいいか。そのほうが後ででろりん達も助かるだろうし……うぅーん」

 

影夫は悩む。

地上で人間が力をつける上で、破邪の洞窟への挑戦は絶対に外せない。

本来の目的である破邪の呪文にはほぼ用はないが、深層階には失伝呪文に秘呪文の数々に、破邪の秘法を始めとする技術、使えるアイテムなどが手に入り、さらには強力なモンスターとの死闘による経験も積めるという最高の場所なのだ。

 

ミリアだけでなくでろりん達も間違いなく挑むことになるだろう場所だ。

でろりん達が忙しいうちにこっちで先に場所を押さえておくと色々と助かるだろう。

 

「ルーラ覚えてよかったぁ。皆を連れてってあげられるねー」

「そうか、ルーラ先の問題もあったな。今のうちに世界中にルーラで行けるようにしとくべきか。問題が起こってからじゃ遅いし、ピラァオブバーン対策に必須だしな。ミリアもそれでいいか?」

「うんいいよっ。ダンジョン攻略は皆で競争しながらしたほうが楽しそうだしね!」

 

「決まったようだな。ちょっと待っとけ……」

 

影夫が方針を決めたところで、マトリフが、羽ペンでさらさらと手紙のようなものをいくつか書いてよこしてきた。

ちらりと見る限り、マトリフの署名が入った紹介状らしい。

世界的に名を知られている上にアバンに近い人達と面識があるだけに彼の紹介は正直かなり助かる。

 

「持っていけ。何かの役には立つだろ」

「サンキュー、マトリフさん、助かります! そうと決まれば、ベンガーナの王宮へイッパツ頼むぜミリア!」

「りょ~かいっ。ルーラ!!」

 

紹介状を受け取るなり、影夫はミリアが片手で抱いていた猫ぐるみボディの中へ入ると、ミリアとともに洞窟の外へ走り出て、そのままルーラで飛び立った。

 

 

影夫とミリアが旅立った後。

マトリフは、洞窟の中に引っ込んで、机に向かっていた。

 

「破邪の洞窟を腰すえて攻略……か。境目を越えちまうな。ったく手間かけさせやがる」

 

一冊の古めかしい古文書を睨みつけながら、茶渋の染み込んだ粗い紙の束にさらさらとペンを走らせていくマトリフは、作業に没頭していくのだった。

 




世界旅行編に入りました。

気球船でのんびり世界を巡ります。
原作でダイ達が訪れた各地を観光旅行。

なるべくサクサク進めます。
脇道にそれるような話については、後々、余裕が出たら追加エピを後から入れるとかそういう形も検討しつつ進めていきます。

しかし、原作前の平和な時代ゆえにしょうがないですが、早く原作に入って、魔王軍と戦うシーンが書きたい……。

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