壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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推敲を繰り返しすぎてぐちゃぐちゃになってきたので見切り投稿。

主人公がぐだっとするのが嫌いな方は読み飛ばしても大丈夫です。



自覚

打ち合わせが終わった後、影夫はマトリフに一人残るように言われていた。

 

「それじゃ先に行ってるよお兄ちゃん~」

「あ、ああ。俺も話が終わったらいくよ」

 

まぞっほとミリアは、マトリフの指示で洞窟の外に自主訓練をやりに出ていった。

 

「…………」

 

しばらく、マトリフは影夫をじっとみたまま無言だったが、外のふたりに声が届かないのを確認して口を開く。

 

「でだ。てめえはどうやって強くなる気だ?」

「どうって……修行をつけてもらいたいんですが。まずは専門分野の魔法に関してをと……」

 

「そうじゃねえよ。今のままじゃてめえらは中途半端に使えねえ奴になるだろうが。その話だ」

 

「そ……そんなことはないって。俺はゆくゆくはマホイミを切り札にしようと思うし、ミリアと力を合わせれば呪い装備も扱えるし、それにもしかしたらミリアはメドローアも使えるかもしれない! そうすれば……」

 

「てめえらは魔法使いや僧侶か? 違うだろうが。闘気の話だよ」

 

じろりと睨まれ、身じろぎながら、今まで顔を背けていた問題をマトリフに突きつけられてしまう。

 

「てめえのやり方じゃ、暗黒闘気の本質は引き出せねえ。今はあのガキんちょの心がどこか壊れてるから成立してるんだ。てめえが頑張れば頑張るほど、あいつは弱くなる」

 

影夫は息を呑む。

それはずっと影夫が目を逸らしてきた問題だった。

 

「かといって光の闘気もダメだ。あのガキんちょ……ミリアは人間を信じて守りたいと思ってないし、お前は正義って言葉に胡散臭さを感じてる類の輩だろ? そんな奴らに光の闘気は扱えねえよ」

 

マトリフの言うとおり影夫達は闇がダメになったら光ということは出来ない。

彼らはヒュンケルではないのだ。

 

「責めてるわけじゃない。てめえがしてるのは善いことだ。ガキを魔道に落としたくねえって気持ちも分かる。だがな……中途半端なのはやめろ。破滅するだけだ」

 

二律背反だった。

影夫が教えられた価値観ではミリアを守り正しく導く事も、理不尽に殺される罪もない人達を守るのも、やるべき『正しい』ことだ。

だからどちらも取らなくてはいけなくて無意識に目を逸らしてきた。

 

「強くなろうなんて思わず、戦いをやめて安全地帯で引っ込んどけ。予言に沿ってすすめば最終的に勝てるって分かってんだ。後の事は、まぞっほ達に任せときゃいい」

 

「っ…………」

「いいか。皆を救って、あのガキの心も癒して、危険も避けて、強くなって、敵を倒したいなんざ虫が良すぎるんだよ」

 

そう、言われても。影夫は決められず、捨てられない。

 

「だ、だからさ。それはっ、ゆ、優先順位はミリアが最上位で、残りは出来るだけっていう感じでやる……無理はしないから……それに、闘気がダメでも、た、戦いようはあるはずだし……何とかできるって」

 

「あ? てめえ、それをマジで言ってやがんのか? ああ?」

「っ……」

 

影夫は、今まで言ってきた、どっちつかずの方針に縋りつくが、影夫の肩を強く掴んで、本気の怒気を放つマトリフの迫力に、言葉を続けられなくなる。

 

「なんで口ごもる? 思ったことを言え」

 

年上の信頼できる人間に本気で怒られている状況に直面して、影夫の建前は崩れ、影夫の弱気と本音が漏れてしまう。

 

「だ、だって、どっちもやらなきゃ……そうじゃないとダメだから……じゃなきゃ『正しく』ないから。俺は、まともであるべきで……でも……」

 

「いいから、結論を言え。お前はどうするんだ」

「……う、うぅ……マ、マトリフさん。俺は、俺は一体、ど、どうすればいいんでしょうか……?」

 

睨まれたまま決断を迫られ、影夫は決めかねた挙句に、マトリフにすがって答えを求めてしまった。

 

「馬鹿が。俺はてめえの意思を聞いてるんだ」

 

青筋をたてたマトリフが影夫の胸倉を掴む。

 

「あぐっ……」

「他人の言うとおりにしてりゃ楽だろうよ。悩まなくていいし、上手くいかなくても他人の所為にできる。上手くいきゃ褒めてもらえるもんなぁオイ」

 

影夫は心臓をわしづかみにされたような感覚を覚える。

 

良識ある大人ぶった姿という皮を剥がされ、子供の頃に刷り込まれた大人の言うことをよくきく良い子としての影夫が暴きだされてしまった。

 

「それはっ、でも……! だからって……」

「甘ったれてんじゃねえ! そんなままじゃ、いつかてめえの所為でミリアは死ぬ」

 

「っ!?」

 

影夫は背筋が凍りつく感覚を味わった。

ミリアが自分の所為で死ぬ? 想像して頭が真っ白になってしまう。

 

「魔王軍との戦いが始まったら今までのようにはいかねえぞ」

 

それは、そうだ。

魔王軍はこれまで影夫達が戦ってきた怪物や賊連中とは違う。

地上を消し去るという確固たる目的を持って、戦いを挑んでくるのだ。

 

「断言してやる。多数の命か、ミリアの命かどっちかを選ぶ。そんな状況になったらてめえは決断できねえ」

 

「う……あ……」

「そうだよな、今までずっとてめえ自身で決めてこなかったもんな。決めかねた挙句に、誰か助けてください教えてくださいって戦場で喚くことだろうよ」

 

そんなことはない! と影夫は言いたかった。

見ず知らずの人間とミリアなら大事なのはミリアに決まってる。過去にずるぼんに言ったし、自分でもそう思っている。

 

だけど、それは自らの価値観に背くことだ。刷り込まれたルールを自ら決断して捨てることだ。してこなかったことだ。難しいだろう。

 

「さあ言え。てめえ自身は一体どうしたい、何をどうする?」

「ぅっ……ぁぁ……」

 

影夫は胸のあたりを押さえて、小さく呻く。

頭の中を感情や思考がぐちゃぐちゃに飛び交い、まともに考えられない状態だった。

 

「ち。すぐには無理か……1日やる。答えを出しとけ」

 

マトリフは、呻き声を上げるばかりになってしまった影夫を突き飛ばすとそのまま洞窟の外で行ってしまった。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「……はぁ」

 

ぼんやりと、洞窟の入り口で影夫は器用に暗黒闘気の身体を折りたたんで体育座りをして、月を見上げていた。

 

「はぁ……」

 

マトリフが洞窟を去ってから半日。

義務や他人の教えじゃない、自分の意思。隠された心の本音。

それを探して、彼はそれらしきものを見つけていた。

 

「そりゃぁやっぱり怖いって。戦いなんか嫌だし痛い思いも辛い思いもしたくない。大体俺は努力とかしたくないんだよな。静かで乱れることがなくて苦労もしない暮らしを安全な場所で送りたいよ。原作云々は、ダイ達とでろりん達に任せておけば、原作よりも良くなるだろうし、それがいい……」

 

影夫にとって落胆すべき酷い本音であり、直視したくなかった醜い自分の本性であった。

 

自分が立派な人間とは思っていなかったが、ここまで情けないとも思っていなかった。

少しはまともなんだ、最低じゃないんだって思っていたのに、突き詰めて考えた結果炙り出されたのがこれだ。

 

影夫は心底情けなくてため息をつく。

 

「情けなくて、弱っちいなぁ……所詮俺の根っこはそんなところか。小市民以下の凡人崩れが人々を助けるとか滅びる国を救う云々とか間違ってたんだよ……」

 

 

その時。

 

「ただいまーお兄ちゃん!」

 

砲弾でも落ちてきたかのような衝撃で地面が揺れ、影夫は柔らかな人影に飛びつかれて地面に転がった。

 

「なぁ……っ!?」

 

あわてて、人影をみると身体のあちこちに切り傷やすり傷をいっぱい作った土まみれのミリアがにしし、と笑顔を浮かべていた。

 

「ど、どうしたんだ?」

「ねえ聞いて! ルーラできるようになったよ! これでお兄ちゃんの役に立てるよね?」

 

「う……」

 

純真で疑うことを知らないように見えるその無邪気な笑顔が、今の影夫にはあまりにもまぶしく直視できなかった。

自分はこんなにも情けなくて醜いのに、彼女は自分を一片も疑っていない。

そのことが居たたまれず、堪えられない。

 

「いいんだ。ミリアもう……」

「え?」

 

「ミリアは俺なんかをすごいって言ってくれるけど、そんなことなかったんだ。もう戦うのはやめよう。デルムリン島に行ってさ、住ませてもらえばいい。そこなら何も心配ない。痛くも怖くも何も無いから……」

 

「んー。お兄ちゃん? それは、私のためなの?」

 

影夫は一瞬、『ああ、ミリアが大事だからだよ』みたいなきれいな言葉を言い掛けたが、ぐっと堪えて、弱い本音を正直にさらけ出した。

 

「ち、ちがうよ。俺が弱いから、情けない俺が怖くなったからさ。ミリアの所為じゃないんだよ」

「でも、ガーナの街の人はどうするの?」

 

きょとんとした表情で首をかしげるミリア。

 

「ごめん、俺にはどうすることも出来ない。魔王軍に知られてミストバーンが来たら俺達じゃ勝てない。同族なんだ、目をつけるだろうし、そうなったらミリアも狙われる。俺には、どうしようもないんだ……」

 

「……お兄ちゃん、震えてる。怖いの?」

「え?」

 

きゅっと小さな身体で抱きしめられて、影夫はようやく自分の状態に気づいた。

影夫は脅え、震えていた。

 

「あ、れ?」

 

どうしてだろう。震えに気づくと、涙までが溢れてきた。

なんで、どういう涙なのか影夫には自分の感情が分からない。

 

これからは苦痛がない安全な場所で、家族と一緒に穏やかに暮らすのに。

それが自分の望みであるはずなのに。

 

「んしょっと……よしよし」

 

ふいにミリアが、影夫の身体をよじ登ると、頭に手を伸ばして頭を撫で始めた。

ゆっくりと優しく、安心させるようになだめるような手つきでミリアは撫で続ける。

 

「私が泣いた時こうしてくれたから、おかえしだよ」

「ぅぐ……あ……」

 

「家族は、お互いに助け合うもの。辛い時には泣いてもいいんだよ。側にいてあげるから。そう言ってくれたから……今度はわたしの番。よしよし……」

「あぐ……ぅ……ミリアぁ……」

 

小さな手のぬくもり。不覚にも影夫は涙を止められなかった。

むしろぽろぽろとこぼれて止まらない。情けない嗚咽が漏れるばかり。

 

何分くらいそうしていただろうか。不意にミリアが口を開く。

 

「お兄ちゃんは、どうしたいの?」

「おれ、は……でも……」

「私の事は気にしないで。お兄ちゃんがしたいことが、私の望みだから」

「っ……」

 

透明な声で純真に話すミリアの姿に、思わず影夫は息が詰まる。

 

「だ、だめだって……自分で決めなきゃ。俺なんかに任せずにミリア自身の意思を持っていいんだ、望んでいいんだ。何でも協力してあげるからさ……」

「違うんだよ。これはね間違いなく私の願いなの。嘘なんかじゃない本当の気持ち……」

 

小さな胸の前に手を置き、目を閉じてミリアは自分の気持ちをゆっくりと真摯に告げていく。

 

「お兄ちゃんは、全てをなくした私に、ぬくもりをくれた。側にいてくれた。家族になってくれた。だから、私はどうなってもいい。お兄ちゃんの役に立ちたい」

 

喜んで自分を捧げようとするミリアのあまりに切なく痛々しく健気な姿に、影夫はミリアを抱きしめて影夫は涙を流した。

 

「お兄ちゃん?」

「俺は……」

 

ああ、そうだ。自分はミリアのような境遇の子をこれ以上増やしたくない。

一方的な理不尽に苦しめられる事になる人達を見捨てて逃げるのが嫌だったんだ。

 

この気持ちに理屈や他人の教えは関係ない。

自分の中から自然に湧きあがってくる思いなんだから。

 

それと同時に、ミリアのことを大事に思って守りたい心を直したいとも、強く強く思っている。

 

その両方が自分の望みで願いなんだ。

 

何のことはない。ずっと前からごく自然にやってきたことだ。

それがそのまま自分の望みだった。胸を張って、それを選べばいい。

 

それだけのことだったんだ。

ミリアがそれを教えてくれた。

 

「俺は、ミリアを守りたい。でも俺は魔王軍に苦しめられる皆も救いたいんだ。ミリアに痛い思いをさせるし、辛い目もあわせると思う。ごめんミリア。でも、それでも……」

 

「いつも大事にしてくれてありがとうお兄ちゃん。大丈夫。私は壊れちゃうことになっても、死んじゃうことになっても、後悔なんてしないから」

 

ミリアはきゅっと優しく抱きついて、そう言ってくれた。

影夫は、彼女を巻き込む己の所業を自覚させられ、歯を食いしばる。

 

「ミリアだけに辛い思いはさせないさ。俺も一緒に必死に頑張るよ。家族だもんな」

「うん! 私達のちーとぱわぁーでがんばろうね!」

「ああ。そうだな! 魔王軍連中の度肝を抜いてやろうぜ!」

 

「でも、でもね……」

 

不意に声のトーンを落とし、ミリアが影夫の身体におでこをつけてうつむく。

きゅっと影夫の身体に回されていたミリアの手に力が入るのが影夫にも分かった。

 

「もしもダメだったら、死ぬときは一緒だよ」

 

最後に一言そう言ったミリアは、顔を挙げると影夫に向けて、何の濁りもない満面の笑顔を浮かべた。

 

「もちろんだ」

 

影夫は覚悟を決めた。影夫は自分で何がしたいのか分かった。

だから、やりたいようにやって、その責任を取る。

ミリアを苦しめることになる結果の責任と償いは、命と人生をかけて取ってみせると決意した。

 

「ミリア。これからもよろしくな」

「うん! わたしこそよろしくね!」

 

影夫の言葉にミリアは満面の笑顔で受け入れ、また強く抱きついてきた。

影夫がミリアの頭をなでていると……

 

「ぁいたぁっ」

「あっごめん。傷が……ホイミ」

 

自分のことでいっぱいいっぱいだった影夫はミリアの傷を癒してあげることもできていなかった。

そのことを恥ずかしく思いながら、傷を癒して土汚れを払ってあげるのだった。

 


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