壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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捜索

 

「……みんないないね」

「行っちまったな」

 

翌朝。影夫とミリアが起きたらでろりん達はいなかった。

 

別に逃げたのではない。

宿に残されていた書き置きには、師匠の元へ戻り、今度こそ修行をやり通してくる、とあった。

 

投げ出して、逃げ出した過去に直面するのは新しく何かをするよりもきっと辛い。

それでも、彼らは決着をつけにもどったのだ。

 

(がんばれよ……)

 

影夫としてもそれがいいと思う。修行に実戦、格上相手の死闘を経て、彼らは確実に強くなっている。

とはいえやはり一部の基礎が固まりきっていない部分があるし、受けていない教えもある。それらはきっと成長が伸び悩んだころに技術面でも精神面でも大きな壁となってしまうだろう。

 

 

「……ほっほっほ。でろりん達は行ったか」

「ってまぞっほ師匠、なんでここにいるんだ?」

 

影夫がしんみりしていると、いきなり宿の扉を開けてまぞっほが入ってきた。

思わずぽかんと口をあけた影夫に、まぞっほは笑いかける。

 

「ワシの師匠はとっくに他界しておるんじゃよ。代わりにマトリフ兄者に教えを乞おうと思ったんじゃが、どこにいるか検討もつかん。未来視でわからんかとおもうての」

 

「ああ、そっか。マトリフさんの居場所ならなら大体分かるぞ。えっと、パプニカのバルジ島付近のどこかの島。そこの洞窟の中だな……」

 

影夫は原作を思い出しながらそう伝える。

 

「えらく具体的にわかるんじゃのう」

「そりゃぁ大魔道士マトリフは、勇者一行のへぼ魔法使いを世界一の天才大魔道士にまで育て上げた人だからな。それに、超威力のオリジナル呪文やらも編み出していたし、凄い人だから有名なのさ」

 

「……そうか。いや、勇者アバンとともに世界を救ったくらいじゃし、あの兄者ならその程度は出来て当然か」

 

何故かどこか懐かしさと悲しさの入り混じる声でぼそりともらす。

 

「丁度いいや。俺らもマトリフさんに会いたいと思ってたんだけど、いきなり行っても怪しまれるだろうし、困ってたんだよ。さっさとルーラとトベルーラ覚えないと不便でしょうがない」

「ふむ……古文書ではみつけられなかったからのぅ。師匠のところで教えておった呪文じゃが、ワシには使えん。契約だけはすましてあるが……」

 

とんでもない爆弾発言をしてくるまぞっほ。

契約済みだったとは影夫も思ってもみなかった。

 

「なんだよ!? それなら契約の魔法陣わかるんじゃないのか? はやくいってくれよ」

「ワシは修行途中で逃げたんじゃぞ? まだ教えてもらっておらんわい」

 

「まぁそれならしゃーないか。とりあえず王宮に向かおう」

「なんで王宮?」

 

きょとんとミリアが首をかしげる。

普通なら、海路でパプニカだろう。

 

しかしバルジの大渦のあたりは船で近寄るのは不向きというか危険なのだ。

パプニカでレオナのコネを利用して……はミリアの友達を露骨に利用するようで気がひけた。少なくともどうにもならなくなってから泣きつくべきだろう。

 

「困ったら何でも言え、ワシに任せよって王様言ってたからな。気球貸してもらおうぜ!」

「気球!? やったぁ! 早く乗りたい!!」

「うんうん。実は俺も乗ってみたかったんだよな」

 

「おぬしら……礼儀正しいのか厚かましいのかようわからんやつじゃな」

 

まぞっほに呆れられながら、ベンガーナの王宮へと向かうのだった。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

数時間、3人はベンガーナの所有する気球船にのって空の旅に出ていた。

 

「すごいすごい! 見て見て、ベンガーナの街があんなにちっちゃくなっちゃった!」

「すごいのう。空から眺めると案外王都も小さなものじゃな」

 

「あ、知ってるよ! 見ろ、人がゴミのようだ! って奴だね」

「いや、それは違うぞミリア……」

「そうなの?」

 

「それよりミリア。気をつけないと落ちちゃうぞ」

「はぁーい」

 

ミリアは小さくなっていくベンガーナの街を見下ろしながら大はしゃぎ。

気球船の縁に乗りかかって身を乗り出すようにしているので、あわてて影夫が注意する。

 

ミリアが落ちたら猫ぐるみに入って彼女の肩に座っている彼も一緒に落下してしまう。

 

「せかいってこんなにひろくて大きいんだね!」

「本当に絶景じゃのぅ……」

 

この世界では空を飛んだことがある人間は一握りであるし、高層建築もあまりないために、空の高みから見下ろすというのはなかなか体験できるものではない。それだけに感動もひとしおのようだ。

 

「トベルーラが使えれば自力で見れたはずの光景か……胸にくるものがあるわい……」

「しっかし、気球なんてよく貸してくれたよな。人員つきで」

 

そう、気球の操縦は影夫達には出来ない。

そのためベンガーナの人間が乗っているのだ。

 

「ぬしばかり働かせてすまんの」

「はっ、自分は勇者様方の助力になれて光栄であります!」

 

そういってきびきびと動いているのは、アキームであった。

この時代はまだ隊長の身分ではないようだが、彼の頭はこの時点から輝いて光を放っていた。

 

 

 

そんなこんなで影夫達が空のたびを満喫して過ごしていると、眼下に群島が見えてくる。

 

「ご報告いたします。このあたりがバルジ島周辺の群島地帯になります!」

 

「うぉーすごいな! あっという間にパプニカか」

「便利なものじゃな」

「もっといっぱい作ればいいのに! 毎日でも乗って動かせばたのしいと思う!」

「金がかかるんじゃろ……船に比べて物も人も少ししか積めんようじゃし」

「なるほどなぁ」

 

楽しい空のたびは数時間で終わり、さっそくマトリフ捜索が始まった。

 

「さぁてすぐに見つかればいいけど、この島の数じゃ結構骨だな……」

 

眼下に見える島の数は多い。

しかもここに見えている島はバルジ島周辺諸島のごく一部だ。

 

「兄者は洞窟の中に住んでるんじゃろ? それならば島の1つ1つをしらみつぶしにするしかないのう」

「何日掛かるやら。一日も早くルーラおぼえたいのになぁ」

 

影夫は思案にくれる。下手をすると数週間。捜索のためだけに費やすのは無駄が多い。

それに、時間が掛かってしまうと何度もベンガーナに補給に戻る必要が出てさらに面倒だし王宮にも大きな負担をかけてしまう。

 

何か手はないかと、思案にくれる影夫だったが、ミリアがあっ。と手を叩いた。

 

「じゃあじゃあ! 洞窟から出てきてもらえるように騒いでみるってどうかな?」

「名案かもな。大声で呼べば……まぞっほ師匠の声に反応して出てきてくれるかも」

 

名案、だとミリアの頭を撫で撫でする影夫だったが、どうやら腹案がまだあるらしい。

得意げな顔で、両手を振り上げて、手の平に爆裂呪文を作り出した。

 

「それもあるけど……こうすればもっとはやいよ……イオ、イオッ!」

「ぅおおおい、何してんだ!?」

 

ミリアが放った爆裂呪文は、眼下にあった島の1つにぶち当たって派手な炸裂音をあげて小さく地面を揺らした。

 

「爆裂呪文を島に打ち込みまくる! そうすれば絶対気づくし何事だろって出てくるよ! イオイオイオッ!」

「む、無茶苦茶じゃ! あ、兄者が怒ったらどうする!? いや絶対に怒るわい。やめるんじゃミリア!」

 

「そうだあぶないからやめなさい! 洞窟が崩れたらマトリフさんが生き埋めになるだろ!?」

 

「大丈夫! 威力は抑えてるし、地面ねらってるから! マトリフって人はすっごい大魔道士なんだよね? 魔法を使いまくってたら、絶対に気づくと思う! イオイオッ!」

 

「そ、そりゃあまぁ。一理、あるが……」

 

たしかにミリアが言うとおり、片っ端から見えた島に呪文を撃ち込めば効率がいい。

 

「ほらっ、お兄ちゃんもはやく! バギでもいいから打ち込んだら気づいてもらえるよ!」

「まぁそうだよな。信号弾の代わりと思えば合理的か……バギッ!!」

 

「あ、あああ……な、なにを」

 

影夫までもが呪文を島々へと放ちだした頃にようやく、唖然として硬直していたアキームが青い顔で影夫達を止めようとする。

しかし。

 

「ま、ままま、待たんかおぬしらぁぁ!」

「俺はバギしかつかえんから、まぞっほ師匠もイオつかってくれよ。責任は俺がとるからさ。バギバギィー!」

 

「こ、こうなりゃやけじゃ! イオ、イオっ!」

「きゃははっ! イオッ、イオッ!」

「バギ、バギッ!」

 

「お、おやめ……あぁぁぁ……!?」

 

必死に影夫をとめようとしたまぞっほまで呪文を島へと打ち始める始末。

 

アキームは止めようとするも、3人は初級呪文を手当たり次第に群島に向かって放っており、眼下の島が呪文の爆撃に晒されていっていた。

 

「もう、終わりだ……」

 

ベンガーナの気球がパプニカの所有する島(無人島であろうが領土は領土)に呪文による無差別爆撃を加えてしまったのだ。

初級呪文であり、殺傷や施設への損害を与えてはいないとはいえ、れっきとした軍事行動として取られるだろう。

 

これが露見すれば、外交問題になりかねない。

下手をすればベンガーナの軍備増強傾向とリンクされて、他の国も口を出してきて大きな国際問題になってしまうかもしれない。

その際に責任を問われるのは、アキームだろう。

 

「す、すまないみんな……」

 

アキームの脳裏にまだ小さい弟や、自分のベンガーナ王軍入りを祝ってくれた両親の姿が浮かんではきえた。

死罪にはならないだろうが、目指していた隊長の座にはもうつけないだろう。一平卒の給料では家族を養うのは苦労しそうだ。

 

 

「てめえら、何しやがる!!」

 

絶望するアキームをさらに絶望させたのは、怒り心頭のマトリフの姿であった。

普段マトリフが漁場にしている場所が呪文の被害を受けていたのだ。

仕掛けた罠や網も全部無茶苦茶だろう。

 

「あ、兄者!? お、おおお、怒ってるぞ! クロス、一体どうしてくれるんじゃ!」

「まぞっほも一緒になってやったじゃないか!」

「マトリフって人、すぐに見つかってよかったねー」

 

 

慌てふためくまぞっほと影夫。

ミリアは、どこ吹く風といったところで、目的を果たして満足していた。

 

「そこを動くんじゃねーぞ!」

 

杖を握ったマトリフが気球に向けて、猛然とかっとんでくる。

遠距離から魔力光線が飛んできていたら気球は撃墜だろうが、それをしないのはマトリフの優しさではない。

 

そんなもんで済ましてやる気がないということだ。

とっ捕まえて甚振ってやる気なのだ。

 

逃げようとしたら呪文を打ち込んででも止めてやる。そう言わんばかりに握った杖には強い魔法力が込められていた。

 

「あああ……マ、マトリフってまさ、まさか……」

 

アキームの頭が真っ白になる。

名前とすさまじい魔法力から推測するに……あの老人はかの有名な大魔道士なのではないか、と。

そうだとすれば、そんな大人物を怒らせ、敵対した自分はもう完全に終わった。

左遷どころの話ではない。軍どころか国からの追放処分もありえる。

 

いや、それどころかマトリフという人物は偏屈で気難しい人間であるというし、怒らせた以上、生きて帰れるかすら分からない。

 

 

「覚悟できてんだろうなぁオイ!」

 

「ま、まぞっほ師匠、なんとか説得してくれー!」

「ひ、ひぃぃっ!? ワシはしらん、何もしらん!」

「きゃははっ、こんなに揺れて動くなんて、じぇっとこーすたーみたいだね!」

 

気球の床に身を隠しておびえるまぞっほ達は、マトリフによって気球ごと引き摺り下ろされ、島へと手荒く上陸させられることになるのだった。

 




効率的な捜索方法で1日と掛からず見つかりました。

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