壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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書き溜めが尽きたので、なるべくがんばりますが、今週からおそらく更新ペースが落ちます。



表明

 

「ふぁぁーあ、最近暇だなあ」

「ったくせっかくの新装備も出番がなくて泣いてるよな」

 

宿の男部屋に集まった影夫やでろりん達6人はグダグダとくだをまいていた。

とにかく暇でしょうがないのだ。

 

「そろそろ、この街から出るほうがいいかもしれないわね」

「そうだな」

 

戦車部隊と模擬戦をしてから1週間。

相変わらず強敵を倒すような依頼はない。

 

古文書の類もデパートにあった分はおろか、露天や市場のものも買いあさり、闇市にも足しげく通って解読し尽くした感がある。

なので、門外不出の古文書とか極度の稀少本とか伝説レベルの古書以外は大体読んでしまっただろう。

少数ながら写本があるようなものは大体読んでいたと自負していた。何冊もダブりが出るくらいには。

影夫とまぞっほが景気よく買うので、古い本に見せかけた偽書や紛い物を売り出す店も出る始末で、そろそろ解読作業はダメそうだ。

信頼できる店に未所持の貴重書を探しておいて貰うようには伝えているが入荷がいつになるかなんてわかりやしない。

 

ちなみに、読み終えた本は解読時につかったメモをつけてベンガーナ王に献上した。

これで少しでもベンガーナの力が増強されればいいのだが。

 

ちなみに念のため手元には、古文書から要点を抜き出した自作の本を残してある。読んだ本の数が多いので最低限にまとめたものの分厚い本5冊分ほどになってしまって微妙にかさ張っていたりする。

 

(しっかし、世界の中心とまで言われるほどになったベンガーナに何ヶ月もいたのにアバンとは会えなかったな)

 

影夫はひそかにアバンとの再会を期待していたのだが、まったくダメだった。王にもルイーダにもアバンの足取りを追えそうな情報はなかった。影夫としては大変残念である。

 

足跡を残さないようにしているというか、身分を隠して放浪している感じなのだろうか。いざ会おうと思うと全然会えないからとても困る。

というか何故そんなことをする必要があるのか疑問でもある。結果的に世界をすくう弟子とは会えているがカールで塾や学校でも開いて世界から生徒を募った方が効率は良さそうなのに……。フローラ女王がよっぽど結婚を迫ったから逃げたんだろうか?

 

謎である。

 

「でろりん達はこの先の予定はあるのか?」

「俺らは、特に目的も定めずに各国をうろうろしながらボチボチ魔物の討伐やらをしていくよ。お前らはどうするんだ?」

 

そう、それが問題だ。以前、ルイーダにハドラーが倒された時期を聞いてみたことがあった。

さすがにこういった時間情報に正確であるようで、11年と6ヶ月と3日が経っているのだと教えてくれた。

 

(ハドラーが死んでから15年でバーン襲来。覚えておいてよかったぁ)

 

そうなるとバーンが攻めてくるまで残りは大体3年と6ヶ月だ。季節や暦の概念がない世界らしいので、確実にはいえないが、そのあたりにはくることはほぼ確実といえる。

 

この期間で世界中をまわりながら少しでも実力をつけ装備を整えるようにしなくてはいけない。

 

 

「そうか。俺らは世界各地をまわりながら力をつけるよ」

「おぬしらまだ強くなる気か? 魔王はすでにおらぬというのに……何故じゃ?」

 

「いや、魔王が倒されたっていっても、いつ別の奴が出てきてもおかしくないだろ。また強い奴がきてから慌てるのかよ? 大体どの国も平和ボケがすぎるんだよ。何かあってから慌てても遅いんだぞ!」

 

まぞっほが怪訝そうに探りを入れてくるが、影夫は危惧だけを語って詳細は言わない。

今後行動をともにする一蓮托生の仲になるならともかく迂闊に吹聴もできない。でろりん達なら教えても大丈夫だとは思うが……いやおうなしに巻き込むことになってしまう。

 

「まぁそりゃあたしかにな。しゃーねえな。俺らもボチボチ鍛えておくか」

「弟子に置いてけぼりにされるのは嫌じゃしのう」

「ちょっとでろりん。それならクロス達についていけばいいじゃない? 別に行く宛てもないんでしょ?」

 

「……それは止めた方がいいな」

 

ずるぼんが名案とばかりに提案したが、影夫としてそれは賛同しかねる。おそらく魔王軍との抗争に彼らを巻き込んでしまうからだ。

 

「はぁ? なんでよ? 何か後ろめたいことでもあるわけ? 今更遠慮してるわけでもないんでしょ?」

「…………」

「なんとか言いなさいよ!」

 

ずるぼんが詰め寄るが、影夫は無言だ。ミリアも何も言わない。気持ちは同じなのだ。

 

「……クロスよ、そろそろ話してはどうじゃ。おぬしは何か重大なことを知っておるのじゃろう? ワシらを巻き込みたくないから話さず遠ざけようとしておる、といったところかの? 隠し事があるのはわかっておるぞ」

 

前々から節々に感じてたのだろう。まぞっほが諭すように言ってくる。影夫は迷う。

言ってしまって巻き込んでもいいのだろうか。だけど黙って白を切りとおせるほど影夫は強くはない。心は弱くて優柔不断、本音は助けが欲しい仲間が欲しい。だから口を開いてしまう。

 

「……いいのか? これを知っちまったらもう後戻りはできないんだぞ」

「何言ってんのよ、水臭いこと言ってんじゃないわよ。いいからさっさと言いなさい!」

「わかった……」

 

ずるぼんの言葉にでろりん達もうなずく。言うとこうなるのに相手に判断を委ねてしまった影夫の弱さであった。

 

「俺はこのまま何もしなければ訪れる未来が見える能力がある……それはいいか?」

「ん~……そりゃあ予知、あるいは神託といったところか?」

「ああ。それの一部だけ具体的なモンだと思ってくれればいい。ってか信じてくれるのか? 証拠も何もないんだぞ」

「バカね、疑うくらいなら最初から話なんて聞かないわよ! いいから続きを話しなさい!」

「教え子の言葉を疑うほど師匠として腐っちゃいないぜ?」

「ほっほっほそういうことじゃ」

 

随分な信頼ぶりに苦笑しつつ、影夫は口を開いていく。

 

「今から3年後に魔界の神と崇められる大魔王バーンが地上を破壊しにくる」

「「「「……っ!?」」」」

 

「いいか、征服じゃない。地上の破壊、消滅させるためにくるんだ。魔界の大地に太陽をもたらすためにな。故に世界中どこへ逃げようがどうにもならないってわけだ。まさに人類に逃げ場なし、だな」

 

絶句する一同に冷徹に告げる。

 

「アバンはどうした、今度も勇者アバンが倒してくれるんだろ? そうなんだろう!?」

「アバンだけじゃないわよ、勇者パーティがいたはずでしょう? 彼らが何とかしてくれるんじゃ……!」

 

希望にすがるでろりんとずるぼんに首を横に振って応え、影夫は言葉を続ける。

 

「アバンやその仲間は実力的あるいは年齢的に問題にならない。この世で最強の存在と謳われる伝説の竜の騎士すらも軽く凌駕するんだぞ。人間の勇者や老人がきばってもかすり傷もあたえられねえだろうよ」

 

「……そ、それじゃあ世界の終わりじゃねえか!」

「あ、あと3年しか生きられないっての……!? そんな!」

 

「……まだ続きがあるんじゃろう?」

「ああ。最終的に大魔王は倒される。竜の騎士と人間のハーフである勇者ダイがバーンを倒すんだ」

「な、なんだ、おどかすなよ」

 

「だが、世界中の被害は甚大だ。すくなくともカール、リンガイア、オーザムはことごとく壊滅。パプニカも一度は廃墟になったし、ロモスも王城が攻められるほどの大被害を受けた。このベンガーナも王都が竜の軍団に蹂躙されるんだぜ?」

「バーンが倒されるまでに、一体何人が死んだことやら……軽く全人類の半数以上は死んだだろうな」

「ひっ……」

 

ダイの事を聞き安堵したでろりんらだが、世界の半分が蹂躙されるという言葉に顔を蒼白にさせる。

 

「それでおぬしはどうするつもりじゃ? まさか……?」

「さすがに大魔王バーンに直接相対するのは勇者に任せるつもりだよ。とても俺やミリアの手に負えないからな。俺達は力をつけてガーナの街やベンガーナを守りたいと思っている。できれば他の国もだけどな」

 

「せ、世界を半分滅ぼすやつらと戦って大丈夫なのかよ?」

「大魔王バーンとその幹部は反則レベルの強さだが、最初のうちのハドラーやその手下なら多少は戦いようがあるんだ。バランだけは勝ち目がないが……」

 

「「「「…………」」」」

「で、ソレを聞いても俺らと一緒に来るのか? 正直何が出てくるかわからんぞ。バーンに目をつけられでもしたら魔王軍総がかりってこともありえる。命の保障なんざあるわけがない」

 

なるべくならでろりん達を巻き込みたくない。話しておいてそんな矛盾したことを思いつつ、影夫は脅すように声を掛ける。

 

「そ、それは……でも……」

「あ、あんたらはどうするんのよ? たったふたりでそんな連中を相手にする気!?」

 

「ああ。俺とミリアは、やる……」

「馬鹿じゃないの! 何でそんな危険だって分かってて、死にに行くような真似をするのよ!? 大魔王が倒されるまで安全な場所に隠れてればいいじゃない! 世界の半分が死ぬっていっても顔も見たことがない人達のためになんで命を投げ捨てるのよ!? それもミリアを巻き込んで! 馬鹿じゃないの!?」

 

ずるぼんが涙目で掴みかかってくる。本気で心配してくれているのが伝わり、影夫は言葉に詰まる。

見知らぬ人間大多数よりも、親しい人間をとる、か。普通の人間ならそうだよな。影夫自身もそうしそう思う。

 

影夫が何も知らず、理不尽なリアルな死というものを実感できずにいたら、ずるぼんの言う通りにしていたかもしれない。

しかしすでにこの目で実際にミリアの兄が殺されるのを見て、ミリアの怒りと苦しみと慟哭を見ていた。

 

影夫は知っているし、差し出せる手もある。それなのに――

 

「……出来るわけない……わけがないんだよ」

「え……?」

 

あんな事が、大規模に世界中で行われるのだ。影夫にはそんなことは絶対に許せなかった。

 

「何もしなきゃ確実に死ぬ人間が大量にいるって分かってるのに、見てみぬ振りなんて出来るわけないだろ!? そんなの俺が殺したようなもんじゃねえか。出来ないことをしようっていうんじゃないんだ。出来る範囲で頑張って、ちょっとばかり無茶をするだけだ」

 

俺が皆を助けるんだ、とか自分が正義などとは思わない。ただ、目の前に手を伸ばせば助けられるかもしれない人がいるのに、むざむざ見捨てるなんて良心が許さず、人道に悖るのは人として恥ずかしい。

影夫は両親にもご先祖様にもお天道様にも世間様にも顔向けできないような醜態を晒したくなかった。

 

「でも……」

「綺麗事がはびこり、愚かしくもおめでたい先進国の人間ってのは、重大な人権侵害をみると憤って我慢できないもんなんだよ。それが手の届く場所ならなおさらな」

 

こんなのは所詮、傲慢な現代人のわがままであり偽善の押し売りだ。

 

バーンがやろうとしているのは魔界の解放だ。侵略であるが、魔界を救うという大義を向こうももっている。それを知りながら野蛮や理不尽を許せないという感情論で影夫は否定しようとしている。

 

「いいねえ。精々魔王軍の連中に、甘い甘い現代人の偽善と傲慢を押し付けてやろうじゃねえか! 殴りつけて押し付けるのはお国の流儀からははずれちまうけどな。クククッ!」

 

テンションがあがって前世の話を垂れ流しながらヒヒヒ、と引き攣り笑いを始める影夫を見て、決死の覚悟ゆえの狂騒だと勘違いしたのか、でろりん達が悲痛そうな表情を浮かべて、沈痛な空気があたりに広がる。

 

「で、でも……!」

「クロス……お前っ!」

「なに、心配すんなって。えらそうなこと言ったけどさ、俺にとって一番大事なのは身内の仲間……ミリアの命だ。いよいよとなったら盛大にトンズラぶっこくから! 別に俺は正義の味方じゃないんだからな」

 

影夫は、ニカっと笑ってそれらを吹き飛ばすようにおどけて見せた。

半ば冗談だがミリアが死にそうになれば見捨ててでも逃げるというのは本気である。矜持を捨ててでも守るべきものはある。

 

(無定見かつ無節操で日和見主義か。我ながら実に日本人らしくていいねぇ。能天気なお人好しって、よくずるぼんにも言われるし、やっぱり俺日本人なんだなぁ)

 

「さあどうする? 無理に俺達に付き合うことは……」

 

「ごちゃごちゃうるさいわよ!!」

 

「ず、ずるぼん?」

「さっきからなんなのよ! 私は顔も知らない他人が死のうが知ったこっちゃないわ。けどね、あんたが、ミリアが危ない目をするのはほっとけないのよ!」

 

「でもな……」

「ふん。どうせとめたって無駄なんでしょ。ミリアもクロスに従うだろうし。だったら私が一緒にいくしかないじゃない。文句は言わせないわ、いいわね!?」

 

「はぁ……わかったよ。んで、でろりん達はどうするんだ?」

「ん~、こうなったらずるぼんの奴は意地でもついてくだろうし、3人PTでやるってのもしまらねえからな。しゃーねえな、俺らもいっちょきばるか」

 

「そうか。有力な戦力が増えて正直助かるよ。な、ミリア?」

「うん。みんな一緒のほうが楽しいから好き! これからもよろしくね!」

「よしよしミリア。あたしが一人前のレディに育ててあげるからね?」

「「「俺らともよろしく頼むぜ?」」」

「はぁ~い、えへへ!」

 

ミリアは嬉しそうだ。

仲良くなったでろりん達と壁を作ったままというのはさびしそうだったからこれでよかったのかもしれない。

 

(……俺に、万一があってもミリアや今後のことを託せるしな)

 

「よぉ~し、そうと決まれば景気付けだ、飲んで騒ぐぞ~!」

「「「「「異議な~~し!」」」」」

 

6人はその日、宿から苦情が来るほどに飲んで食べて騒ぎまくるのだった。

 

 




次話でようやくベンガーナを出ます。
全員一緒と思いきや……

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