壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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招宴

 

そしてその夜。

 

「勇者でろりん様、へろへろ様、ずるぼん様、まぞっほ様、勇者ミリア様のご入場!」

 

係りの掛け声と共に、でろりん達が晩餐会場へと入る。

 

城内にあるデカくて広い晩餐会場は、巨大で豪華なシャンデリアが部屋全体を明るく照らしていて、立派な調度品が居並び、絨毯もふかふかであり、さすがはベンガーナの王城といった絢爛さがあった。

 

「おお、あれがベンガーナの勇者でろりん様か」

「まぁ素敵。なんて勇ましく凛々しいお姿なんでしょう。ぽっ」

「おお! あれがベンガーナ王家に代々伝わるふぶきのつるぎ……実にお似合いだ」

「ほう、あれがガーナの勇者ミリア様。本当にお小さいのに軍との手合わせでは大活躍であったとか……こども勇者の噂は本当であったか」

 

城の晩餐会と聞いていたが、その空気は非常にいい。

影夫は、性悪貴族や強欲大臣などがのさばり、ギスギスして敵対的で、擦り寄ってくるヤツラも嫉妬の悪意や利用してやろうという下心をもつ連中ばかりといった想像をしていたのだがまったく違う。

 

うだつがあがらない万年平社員であった影夫はエリート連中や金持ちは鼻持ちならなくて、権力欲丸出しで他人を蹴落とすのをなんとも思ってないような人でなしが多いという印象をもっていた。

創作物でも大抵悪役であったこともあってそんなイメージだったのだが肩透かしだった。

 

それも当然だった。問題行動が見られる人物は王によって事前に排除されていたのだ。

 

昔、影夫がガーナの街の町長にわたした不正の証拠。

あれがベンガーナの国に巣食う汚職と談合を行う大臣一派を炙り出すことになった。タネパの村の村長はそれら一派につながる者だったのだ。

 

この事態を重くみた王が徹底調査と全面的解決を強く指示。その結果、芋蔓式に不正に手を染めていた連中が一斉に排除されていたのだ。

 

無自覚なところでベンガーナに大きな影響を及ぼしていた影夫とミリアは、尊敬や敬意、憧れや感謝といった、好意的な視線や感情を受けつつ、係りの人に連れられるままにでろりん達は王のもとへと歩いていき、王の前で手をついて跪こうとした。

 

「勇者でろりん、勇者ミリアよ。今宵は無礼講。礼儀や作法など不要だぞ」

「は、はぁ……」

「ふふふ、そなたらはもうベンガーナ公認の勇者達なのだ。そなたらを無闇に平伏させているとまるでワシが傲慢な暴君のようではないか」

 

ベンガーナ王はそう言ってでろりん達に手を差し伸べてまで、立たせた。

 

こういう行為をしてもいいのだろうか。と影夫は内心首を傾げた。

個人的には大変好感をもてるが、王の権威上好ましくない行為だと思うのだが……この世界の王は、絶対王政に近いと思われるほど権限を持っている。余計にまずいと思うのだが、神の使者の末裔の血を権威として、万民がそれを認めて誰も侵そうとはしないので、問題ない、ということなのだろうか?

 

御付の人達や、周囲の参加者たちも普通に微笑ましそうに見ているだけであり、影夫はますます拍子抜けしてしまう。

 

「今宵の主役はそなたら勇者達だ。ゆるりと楽しむがいい」

「はい」

 

王主催ともなれば堅苦しくてマナーにうるさそうだったり、田舎者はバカにされるイメージもあったが、立食形式であり、とても砕けた場であった。

なんだかちょっと高級なレストランのバイキングみたいな雰囲気である。

 

「うひょー! すげえご馳走だぁ!」

「食いだめだ、死ぬほど食いだめをするぞ!」

「ちょっと落ち着きなさいよ! 恥ずかしいでしょ?」

「ほっほっほ。酒も美味いのう」

「んぐごくぱくもぐっごっくん!」

「むしゃぱくごくりっ、んがんぐッ……!」

「あっ、ミリアまで!? もうっ……こうなったらヤケよっ! 食べ尽くしてやるわ!」

 

影夫をのぞいた全員はマナーも知ったこっちゃないと、料理を山盛り取り皿にのっけて猛烈な勢いで食いまくっていた。

喉が詰まれば高級果実酒や果実汁で流し込む。

食べ始めのころは周囲は唖然としていたが、すぐにさすがは勇者豪快だと和やかムードになっている。

 

(ちくしょう! 俺の分も持って帰れよな!)

 

お偉いさんの前で魔物の姿を晒すわけにもいかず、影夫はひとり涎を我慢しつつ悶々とするのだった。

 

ずらりと並んでいた料理を思いっきり食べまくって、満足したから寝ると言い出したミリアから身体の主導権をもらった影夫は、周囲の目を盗んで手の平に作り出した口からこっそり飲み食いしながらくつろいでいた。

と、そこに愉快げな笑みを浮かべたベンガーナ王がやってきた。

 

「あ、クルテマッカ陛下。さきほどはすみません……あまりのご馳走にハメをはずしてしまいまして……」

「はははっ、楽しんでもらえてなりよりだ。それと、口調もくだけたままでよいぞ」

「はい。あ、すみません料理が余ったら持って帰ってもいいですか?」

「あいわかった。後で申し付けておこう」

「ありがとうございます!」

 

ペコリと頭を下げる。これで影夫も後でご馳走を味わうことが出来る。味を想像して思わず涎がたれそうになる。

 

「そなた達は本当に見ていて飽きない。あけすけで面白くて痛快だな」

「あ、いえ……お恥ずかしいことです」

「それはそうと、勇者ミリアとしての意見が少し聞きたいのだがよいか?」

「は、はい。何でしょうか?」

 

「実際に戦ってみて、戦車部隊をどう思う? 役に立たぬものであると思うか?」

「いえ。使いどころを間違えなければ有用であると思います。ただ、剣や魔法の素質に優れた精鋭部隊が扱うよりも、人並みレベルの兵士達に扱わせるべきでしょうね」

 

「ふむ……?」

「大砲は誰が扱おうが威力は変わりません。故に人並み程度の兵士であっても、イオやイオラ並みの破壊力を発揮できるというのは大きな強みだと思います。逆に言えば誰が使おうが基本的に同じ威力でしかないのが問題でしょう」

 

「ワシや大臣としては国軍の柱にすえたいと思っているのだがな?」

「突出した強者が存在しないような戦いで使うならば主力足りえると思います。しかし仮に魔王の軍勢を相手取るのは難しいのではないでしょうか」

 

「……」

「勇者アバンや魔王ハドラーといった強者に通じないのは当然として、ドラゴンやヒドラ相手にも苦戦すると見ていいでしょう」

 

原作でも、超竜軍団のドラゴン達の皮膚を貫けなかった。それどころか衝撃によるダメージすらも与えることができていなかった。やはり強者相手に大砲で対処するのは厳しい世界だ。

 

「ですので2段構えでいくべきでしょうね。戦車部隊と、呪文や武術の達人を集めた精鋭部隊です。雑魚の軍勢は戦車部隊で抑え、強者には精鋭部隊で相手取る。それがよいかと」

 

本音をいえば精鋭ばかりを山と揃えられるのが理想だけど人材にはどうしても限りがある。それを火器を装備した部隊で埋めるのが現実的な形だろう。

 

「……もっともな意見だ。参考にさせてもらおう」

 

感心しきりといった様子で、ベンガーナ王が何度もうなずく。とはいえ、影夫の意見がどれほど役に立つかというと微妙だろう。強者であれば人外レベルの力を発揮できる世界だ。

 

なにせオリハルコンの武器を使った竜の騎士が放ったとはいえ、竜闘気をこめた大地斬程度で動く巨城がまっぷつになるくらいなのだから。

 

(今のミリアですら、もろはのつるぎを使って暗黒闘気を込めた渾身の一撃を放てばちょっとした軍艦なら真っ二つにできそうだし)

 

所詮ベンガーナの戦車や大砲程度では戦力の補完や多少の底上げにしか貢献できないだろう。

火器兵器の類でまともに大魔王バーンと張り合おうと思うなら、戦略核兵器の山でもないと無理そうだ。

 

「しかしそなたには、将としての才もあるのだな。いやはや驚いた。将軍としてわが国に迎えたいくらいだ」

「いえとんでもない。私なんか指揮の経験はありませんし、軍学の知識もいい加減な素人ですよ」

 

ゲームやアニメを入り口にしてちょっと興味を持って調べた知識がある程度であり、そんなに深い造詣があるわけでもないのだ。一般人よりは多少知っている程度である。

生兵法は怪我のもとだと身をもって影夫は知っている。聞きかじった知識は穴だらけであり、本当に危ういのだ。

 

「ところで貴殿はパプニカのレオナ姫と友人になられたとか?」

「は……え、ええ。そうですがどこでそのようなお話を?」

 

「うむ、先日まで滞在していたパプニカ王との会談の場でその話が出たのだ。娘に初めて対等な友が出来たようだ、と喜んでおった。それが噂に聞く勇者ミリアであるとも」

「そ、そうですか」

 

レオナは初めての友人のことを周囲に話しまくったらしい。よっぽど嬉しかったのだろう。

まぁ別に口止めもしていないけど、脱走を手伝ったようなものなので大丈夫だろうかとも思う。

喜んでいたのなら、好意的に捕らえてもらえているのだと思うのだけれども。

 

 

「それはもう、見事な親ば……いや溺愛ぶりでわが事のように喜んでおったよ。まぁパプニカ王の気持ちも分かる。対等で飾らない付き合いが出来る友というのは王族にとっては本当に貴重だからな。王族の立場と国という壁が、な」

 

影夫はそれをきいて王族も色々と本当に大変なのだと思う。

 

国民には立場上どうしても謙った態度を取られるし、顔を合わせることが多い他国の者たちには地位や立場がある為、真の友人とするのが難しい。

国の利害対立もあるし、私的感情で国を動かすのもまずいためだろう。

 

そういう意味で公的な地位や立場があやふやで感覚がほぼ一般人に近いミリアは友人として気兼ねなしで付き合えるいいポジションといえる。

 

(原作でのレオナの我侭や気ままな態度は寂しさの裏返しだったんだろうか)

 

そういえばレオナもダイと出会った後、交流を深めていくうちにちょっとずつ丸くなっていった気がする。

ミリアがレオナの初めての友達になって、いい影響を与えあえれば素敵なことだ。と影夫はしみじみと思った

 

(え……あれ? それってダイのポジションじゃね?)

 

初めての友達というのは特別なものがあるだろう。物心ついてすぐに友達が当たり前だったならともかく、10歳になってようやくできた友達。

 

(レオナがダイじゃなくてミリアに惚れて百合になったりしないよな……?)

 

原作の頃だから14歳ごろの思春期の姿のふたりで、脳裏に一瞬いけない想像をしてしまう影夫。

ミリアがその気になるとはあまり思わないが、ふたりともかなりの美少女であるだけに考えるだけでドキドキする。

 

『ミリア、もう離さないわ。私達はいつまでも一緒に、ね』

『ダ、ダメだよレオナ。き、気持ちは嬉しいけど、私には、お、お兄ちゃんがいるの!』

『じゃあ3人ならどう? クロスなら私も好きだし……皆で一緒になりましょう』

『それなら……いいよ』

 

(って、なんて事考えてるんだ俺!)

 

いつのまにか影夫がJCハーレムを作るという妄想になってしまってあわてて正気に戻る。

中学二年生を侍らせる妄想をする中年男はちょっと洒落にならない。

 

影夫にとって救いだったのは心の声は、伝えようと思わないかぎりミリアに伝わらないことだっただろう。

こんな妄想が伝わったら影夫は恥ずかしさで死んでしまう。

 

「周囲が配下ばかりでは無意識のうちに他者を慮ることを忘れてしまうことがある。清く正しくあろうと心に誓っていてもついそうなってしまうのだ。ワシも同じだった。友人と意見のぶつけ合いや喧嘩をして気づかされたものだ」

 

影夫が脳裏のいけない妄想を追い払っている間、ベンガーナ王はしみじみと懐かしい目で友人との思い出に浸っていた。

 

「若人を見ていると、自分の若い頃を思い出して心が洗われる気がする……というと歳寄り臭いか。ワシとてまだ38なのだからな」

「え、ええそうですね。陛下はまだえーとその……これからもこの国をよりよくお導きしていただきたく……あー」

 

十分に若いですと10歳児が言うのも、嫌味か皮肉に当たる気がして、なんと切り替えしてよいかしどろもどろになってしまう影夫。

 

「あの、勇者さま。よろしければ戦いのお話をお聞かせください!」

 

と、そこに意を決した様子で歳若い貴族の少女がやってきた。

彼女はキラキラとした憧れのまなざしでミリアを見つめている。歳若いとはいえJKくらいの年齢みたいなので、なんだか妙な絵面である。

 

「ほう、ワシにもぜひとも聞かせてくれ」

「は、はいええと。はじめて戦った相手は、とても大きく強い凶暴な……」

 

話を始めつつ、ちらりとでろりん達の様子を見ると、人だかりの中心で武勇伝を身振り手振りを交えてノリノリで披露しており、大変盛り上がっていた。

 

若く綺麗な女性も大勢うっとりと話に聞き入っており、でろりん達は大層モテていた。

目つきが若干悪いものの美形のでろりん、筋肉が雄々しいマッチョなへろへろ、渋いインテリ爺さんなまぞっほ。それぞれ好みが違う女性達にモテていた。

ずるぼんだけは醒めた目でカッコつける仲間達を見ていたが。

 

それを横目で見ながらもげてしまえと呪詛を放つ影夫。

彼は自分も続けとばかりに、身振り手振りに芝居がかった抑揚を交え、若い貴族の少女に向けて、英雄譚を語って聞かせていった。

そして影夫は余計な暴走で勇者ミリアに恋する少女を生み出すことになるのだった。

 

 

そんなこんなで、その後もご馳走と楽しい語らいと友好的なふれあいを楽しんだ一行であった。




兵器の類だと先制飽和核攻撃くらいしかバーンに通じない気が。まぁやったら地上が死の灰で全滅しますが……あの世界の各大陸は日本列島を分解して少し形を変えたものなので、日本の総面積程度が陸地であとは海という世界みたいなんですよね。
実に小さい惑星だが重力や大気をどうやって維持しているんだろう。中心核の重金属比率が高くて重いとかなんだろうか。謎です。

それとダイ世界は季節がなくて一年中同じような気温気候でもあるそうです。地軸が0度なんでしょうかね?
でもそうなると緯度で気候が決まると思うのですが、極寒のオーザムと同じくらいの高緯度にあるデルムリン島やパプニカが温暖すぎる気がします。北半球でも南半球でも緯度が同程度なら同じような気候になりそうなんですが……もしかしたら地熱の影響なのでしょうかね。両方ともに火山がありますし。

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