壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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伝説

 

王が招いた客人。それも勇者一行ともなると扱いは素晴らしい。

宿泊する部屋は、広くて豪華な城の客室である。

もちろん全員が個室だ。

さらに食事も山海の珍味が並ぶ豪華なものであった。

 

 

食後のミリアの部屋。そこにでろりん達がやってきて手合わせの作戦会議をしていた。

 

「で、軍隊と勝負と言ってたが、どんな相手なんだろうな?」

「そうだな。城の中庭だろうし、軍船の類はないはずだ。となると相手はベンガーナ王ご自慢の戦車部隊だな」

 

「戦車ぁ~なによそれ?」

「大砲を積んで自走する兵器だ。鋼鉄の装甲で身を固めており、外からの生半可な攻撃は一切受け付けない。高い機動性で縦横無尽に走り回り、敵をその巨砲にて粉砕するのだ!」

 

「お、おいおい! んなの相手に勝てんのかよ!? へ、下手したら俺ら……」

「ああ。死んじまうだろうな……数え切れないバラバラの肉片となって……迷わず成仏しろよ?」

 

「「「「ひぃぃぃぃいーーー!?」」」」

 

影夫が軽く脅すように言ってみると面白いように脅えだすでろりん達。

実力はついてもこのあたりの性格は変わらない。まぁ持ち味だとは思うが。

 

「な~んて冗談だよ。それは技術が発展したらの話。実際は、単なる軽量化された牽引砲を扱う部隊みたいだから大丈夫だよ」

「馬鹿クロス! 脅かすんじゃないわよ!」

「ぐえっ、ごめんごめん」

 

震え上がっていたずるぼんに、影夫はぐわんぐわんと振り回される。ちょっと脅しすぎたようだ。

 

「で、大砲なんてのを相手にどう戦うんだ?」

「大砲なんていっても照準器もない上にろくな工作機械もなしに手作りされた兵器と弾にすぎない。人間サイズの的をまともに狙えるわけはないはずだ。どうせ弾も石か金属球だろうし」

「き、金属球って! 当たったらやばいんじゃないか?」

 

「別に俺らを殺すのが目的じゃない。というか殺すわけにはいかないんだ。王が勇者を招いた末に殺したりしてみろ。外聞が悪いどころじゃないぞ。目撃者も多すぎてもみ消しも無理だろう。おそらく万全の救護体制を取るだろうし、弾も訓練用の模擬弾かもな」

 

なるほど、と安堵した様子のでろりん達。安堵したら欲が出てきたのか、4人はそれぞれ顔をだらしなく緩めていた。

 

「ふむふむ……それで勝てばお宝か。王家に伝わる伝説の逸品! 楽しみだなぁおい!」

「売れば大金になるな!」

「売らずに使ってもよさそうじゃのぅ」

「アンタたち、分かってるね? お宝はいただきだよ?」

 

「「「「ガッテン承知ぃ!」」」」

 

調子にのってノリノリになるでろりん達。小悪党ぶりも健在だった。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「それではこれより、模擬試合を始める!」

「うっし、打ち合わせどおりに!」

 

「「「「了解! お宝ゲットするぞー!」」」」

 

「射撃よーい、目標……」

 

王の合図とともに模擬戦が始まる。それと同時にでろりん達は全員が一斉に散開した。

 

バラバラになって各自が別の方向から正面500M先あたりにいるベンガーナ戦車隊へと走り寄っていく。

 

「隊長! 目標が全員散開しました!」

「うろたえるな、各個に射撃開始!」

「てぇーー!」

 

戦車隊の一斉射撃が降り注ぐ。

皆が散開したために、狙いはバラバラに分散しており、影夫の意図通りだ。

 

ちなみに砲弾は殺傷をふせぐためか、頑丈な木の球に布を幾重にも巻きつけたものになっているようだ。

そのために威力も低く、木の球を粉砕しないように火薬量も少ないのだろう。弾速も意外と遅いように思われた。

 

「うおっと」

「こりゃあぶねえ。が、なんとかできるな」

 

「っきゃーきゃー!?」

「はぁっ、はぁっ、う、運動は年寄りにはきついのぅ」

 

でろりんにへろへろ、ミリア&影夫は、砲撃を回避もしくは防御できる身体能力があり、当たっても平気な体力もある。

だが、ずるぼんとまぞっほはそういうわけにもいかない。想定以上に危なっかしい。

 

「ずるぼんとまぞっほはやばいか。ふたりともミリアの元に集合してくれ! 俺とミリアが弾丸を防ぐから背後に隠れろ!」

「作戦変更かクロス!?」

「おうっ! そっちは臨機応変にやってくれ散開してかく乱すればどうにでもできるはずだ!」

 

「んじゃ俺らは適当にやらせてもらうぞ。いくぜへろへろ!」

「まかせろ!」

 

「まぞっほとずるぼんに飛んでくる弾は俺に任せろ。ミリアは正面から飛んでくる弾を頼むぞ」

「りょーかいだよ!」

 

影夫は2本の凶手を出し、ミリアは両手を突き出し、暗黒闘気を圧縮した大きな盾を作り出して、砲撃にそなえる。

 

『ほぉ……あれが変幻自在の伝説の武具とやらか』

『勇者ミリア殿が手から出した盾もそうなのか?』

 

『いや。闘気の一種じゃないか。リンガイア戦士が使う闘気剣の盾版ということなのでは?』

『ううむすごい。さすがは勇者様だ』

『だが、あれで砲撃に耐えられるのか!?』

 

 

試合を観覧していた王や側近の大臣たちは影夫とミリアの作り出した暗黒闘気の手や盾を見て、どよめいている。

 

「有効弾なし!」

「ええい! 狙いを正面の3人にしぼれ! 照準は適当でよい、とにかく撃って撃って撃ちまくれ! 散開して接近してくる2人には、戦士どもを差し向けろ!」

「はっ!」

 

ベンガーナ戦車隊がろくに照準をつけずに雨あられと砲弾を撃ち放ってきた。

 

「ほいっ、はっ、とっ! ミリア防ぎきれるか?」

「きゃっ……うんっ、なんとかいけるよ!」

 

影夫は凶手を振り回して降り注いでくる直撃コースの砲弾を弾き、ミリアは飛んでくる砲弾を盾で正面から受け止め、防ぎ続ける。ずるぼんとまぞっほはバギマでミリア達の周囲を覆い、地面にぶつかって飛び散る砲弾の破片や跳弾を防ぐ。

 

『ほう! 見事だな』

『ミリア殿も凄いが、ずるぼん殿とまぞっほ殿の息もぴったりだ。的確に援護している』

『馬鹿な! 砲撃がこうもたやすく無効化されてしまうとは!?』

 

観覧席の王達は、ミリアと影夫の力量に感心するもの、コンビネーションの見事さに着目するもの、戦車部隊の攻撃が通じないことに動揺するものなど、さまざまな反応だ。

 

『やはりわしの言うとおりだったじゃろうて。最新の兵器だ大砲だなどといっても金の掛かるオモチャにすぎんと。本当に優れた強者には通じぬわ』

『ぬぅ……しかし、勇者の数は揃えられませんぞ。それに国に属せぬ者を国防の要とするなど無責任にすぎる!』

『じゃからわしは、王軍に迎え入れるべきだといっておる! 一人一人を将軍の地位での。戦車部隊を廃止すれば予算もつくわ!』

『馬鹿な! 兵器は今後の世界の趨勢をも変えうるものですぞ!』

 

『議論は後にせよ。今は勇者殿の戦いぶりと我が軍の奮戦をしかと見るのだ。今後我が国が何をどうすればよいのか答えはここにあるはずだ』

 

喧々諤々の議論が始まるが、王はそれを止める。

この立会いをじっくりしっかりと目に焼きつけないことには議論がただの感情論になるからだ。

しっかりと経過と結果を見て、何をどうすればよいのか、じっくり考えていけばよいと王は思っていた。

 

「ずるぼん、まぞっほ、次に連中が装填に入ったら反撃だ! 今のこの距離ならあたる!」

「わかったわ」

「ほいほいっ」

 

「今だよお兄ちゃん!」

「よっしゃあっ、全員一斉に攻撃開始! バギマ!」

「バキマッ」

「メラミ!」

「メラゾーマ!」

 

影夫とずるぼんがはなったバギマの渦に、まぞっほとミリアの火炎呪文が巻き込まれて、炎の渦となって戦車部隊を襲った。

激しい炎が戦車部隊を包んで、砲撃用の火薬が引火したり、兵士の服に火がついて大混乱に陥ってしまう。

 

「ぐあああっ!?」

「ひるむなっ、射撃を続けろ!」

 

「オラオラ俺を忘れてるぜ。イオラ、イオラ!」

「闘気砲ッ……!」

 

でろりんとへろへろが混乱中の彼らに遠距離攻撃を加える。

今回のへろへろはクラーゴンの時と違い、気絶することはない。殺さないように威力を抑えているのもあるが、日々続けている闘気コントロールの練習の成果だった。

 

でろりん達に差し向けられていた戦士達は、近接用の槍のみを装備した一団であるため、遠距離攻撃手段は持たない。

接近しないとどうすることもできず、戦車部隊がやられるのを見ているしかなかった。

 

「そこまで! 勝者は、勇者でろりん達と勇者ミリアである」

 

まともに砲撃できなくなった時点で、ベンガーナ王が勝利判定を下した。

 

『おおなんと。真の強者が相手となるとこうまで一方的な戦いになるとは……』

『今後も戦車部隊を使うとすると、このままではいけませんな』

 

『某が思うに、機動力の問題では。近づけぬほど動きまわりながら砲撃ができれば……』

『砲撃精度の問題では。まぐれ当たりしか期待できぬのでは……』

『やはり威力の問題でしょう。もっと威力があれば防御されてもダメージは与えられる』

『足りぬのはすべてではないか。あらゆるものが足りぬよ。まだまだ未熟な技術なのだ。配備よりも技術開発を優先すべきだ』

 

『そもそもだ。軍事の前にまずは内政をより磐石とすべきなのだ。そうでないと軍備拡張どころか維持すらできぬのだからな』

『しかし!』

 

それと同時に、王の側に侍る側近や大臣達が口角泡を飛ばしての熱い議論を始めるのだった。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「うぉーすげえ!!」

「金貨に銀貨、宝石が山とあるぞ!」

「ご、50万ゴールド以上ありそうじゃな」

「素敵! 宝石は全部私のものだからね!」

「こらこら、おまえら。そんなもんより伝説の武具だろ!」

「なにかななにかなぁ~♪」

 

ベンガーナ王城の中にある一室。

そこで影夫達は、授けられた褒美の金銀財宝と武具に目の色を変えていた。

 

 

「「「「「「うおおおこれはああ!?」」」」」」

 

さらに皆が各人に1つずつ与えられた宝箱を開ける。

 

でろりんにはふぶきのつるぎ、

へろへろにはまじんのオノ、

ずるぼんにはしゅくふくのつえ、

まぞっほにはふしぎなぼうし、

ミリアには、輝石の指輪と聖石の指輪が下賜されていた。

 

王家に伝わる武具の品々というだけあって、優秀な装備や逸品がたくさんだ。

 

影夫が一番びっくりしたのは、それぞれ輝石と聖石がはめこまれている2つの指輪だ。

アバンの家系しかその製法は知らないはずだったと思うが何故ベンガーナ王家にあるのだろうか?

過去にアバンの先祖が献上していたのだろうか?

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん! 指輪はめて?」

「ん? はいはい……」

 

思案にふけていた影夫にミリアがおねだりしてくる。

苦笑しつつも、左右の人差し指に指輪をはめようとした。

 

「あ、そこじゃなくて薬指にしてよ!」

「こ、こらっ。それじゃ変な意味になっちゃうだろ?」

「えぇーーダメなのぉ?」

「えーじゃない。大体指輪のサイズも合わないだろ。あ……指輪のサイズは調整できるのか。芸が細かいな」

「それじゃあやっぱり薬指がいいよ! ねえねえお願いっ!」

 

「……ダーメ!」

 

ミリアのお願いをすげなく却下して影夫は人差し指に指輪をはめる。

 

「ぶぅー」

 

意識的に指輪を使ったり発動したりするのにはこの位置がやりやすいであろうから。

大体、婚約の証の指輪はこんなごっこじゃなくて本当に愛する人と結ばれるときにこそ嵌めるべきなのだ。

 

「見て見てお兄ちゃん! 似合う?」

「ああ、清楚で控えめなデザインだからいい感じだな」

 

少しの間膨れていたが、子供らしい切り替えの早さでミリアは大はしゃぎしながら、影夫に見せてははしゃいで喜んでいた。

影夫としても2つの指輪が手に入ったのは大変嬉しい。

魔法の威力を増幅できる性質を持つ輝石と、魔法力を蓄積できる聖石があれば今後の戦いでもおおいに役立つだろう。

 

余談であるがアバンのしるしと同じ輝聖石ではないのは幸いであったともいえる。輝聖石には破邪の力があるためミリアとの相性はよくなかっただろうから。その点ただの輝石と聖石ならば問題はない。

影夫もミリアもご満悦である。

 

「すげえ……」

 

一方、でろりんはふぶきのつるぎを手に取り、思わず見惚れていた。

手に持っただけでヒシヒシとこの武器の切れ味、威力を感じるかのようだった。

 

へろへろもオノに頬ずりしてぐふぐふと喜んでいるし、まぞっほも頭に被ってみたりして嬉しそうだ。

ずるぼんは、美術品のような見た目が気に入ったのか、早速装備していた。

 

 




地上では、これらのクラスが最高峰の装備品という想定です。
これ以上は、ロン・ベルクに期待するか、魔界に行くか、破邪の洞窟の地下数百階とかにいかないとないと思います。


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