壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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本日から1日2回更新は難しくなりましたので、ペースを落とします。
1日1回更新は維持できるようにがんばります。
できるだけ文量もあまりおちないようにしますのでこれからもよろしくお願いします。



遭遇

クラーゴン討伐の翌日。

疲れ果てて宿で眠っているでろりん達を置いて、ルイーダへ討伐依頼の顛末を報告しにいった影夫は、ルイーダに真摯に謝られた。

 

誤情報をよこした国にこのけじめを取らせると豪語し、とりあえずの謝罪金だとして10倍に増やした報酬をくれた。

いくらなんでも20万ゴールドの報酬は法外だと影夫は言ったが、けじめだとして押し付けるように渡してきた。

 

さらにルイーダは、金はあくまで組織としてのけじめなので、個人としての信義に基づく侘びの助力をさせてくれないかとも言ってきた。

 

今回の情報ミスについては、ルイーダに大きな責任はないと影夫は思っている。国から言われたことを伝えただけで、彼女には何かする能力も義務もなかっただろうから。情報の信憑性について確認だってしてたというし。なのに偉そうな役人が酒場女風情は黙って従え的な態度だったらしい。

 

そんなに気にすることないのに、いい人だなぁと影夫は申し訳なく思いつつ、ルイーダの好意に甘えることにした。

 

 

「それで、強い武器が欲しいんだって?」

「ああ。ミリアの武器が壊されたんだが、デパートで予約してた武器がキャンセルになってあてがなくなったんだよ」

 

影夫はネコのぬいぐるみ(ネコぐるみ)の手足を動かし、ミリアに抱かれたままやれやれとしぐさを取る。

 

ミリアの怪我と消耗した体力はずるぼんのベホマで回復しているし、暗黒闘気の反動や影響は影夫が取り除いたので、ミリアはもうピンピンの健康体だ。

 

原作だと、暗黒闘気によるダメージは回復にかなり時間がかかったし、影夫による暗黒闘気の除去が可能というのはかなり大きなアドバンテージじゃないかと思う。

 

「…………」

 

ミリアはというと、最初は情報ミスに怒っていて、ルイーダに冷たく当たっていたが、影夫がどうしようもなかったんだからと宥めつつ、彼がルイーダを許してしまったので、ちょっと不機嫌そうに出されたミルクをこくこく飲んで黙っている。

 

「何でもその鍛冶屋が大臣と揉めたんだとか言ってたよ。一方的キャンセルのお詫びにと、どくがのナイフをタダでもらったけど……やっぱメインウェポンがないとなあ」

 

しかし……デパートで注文したとき、店員が鍛冶屋ジャンクとかいってたが、大臣と喧嘩するエピソードからして、ポップのオヤジだったようだ。

この時期にランカークスへ引っ越して、近所の山の中に隠れ住んでいるロン・ベルクと出会って友人になるってことかな? と影夫は考える。

 

一瞬すぐにでもランカークスにいってロン・ベルクに会いにいこうかとも考えたが、やはり伝手がないと無理だろう。

ミストバーンの仲間に間違われたら、バーンの元に戻るつもりはないと追い返されるだろうし、原作の気難しさじゃ頑張っても仲良くできそうな要素があまりなさそうだ。

 

ミリアが真魔剛竜剣をへし折れるなら話は別なんだろうけど。

 

「ったく、大臣と揉めるのは勝手だけどさ、請けた仕事はやってもらいたいもんだな。高名な鍛冶屋なら」

「ああそれは、その大臣ってのが手を回したんだろうね。デパートに圧力を掛けて仕事を回させないようにしたのさ」

 

「うへえ。なんだその無能大臣の典型みたいなやつ」

 

実に迷惑千万だ。

でろりんの折れた武器を作ってもらったりしようかと考えていたのでこれでそのあても外れた。

 

「でも、強い武器か……裏のほうで探せばあるかもしれないね」

「お!? 本当? 金はちゃんと払うからできれば頼むぜ!」

 

「金はいらないさ。けじめってやつだ。ただ、表に出せない類の品になっちまうから勇者さまにはふわしくないかもね……それでもいいかい?」

「ああ! 強けりゃ盗品でも、呪いの武器でも何でもいいからな! 俺が制御を手伝えば呪いの武器でもミリアがあつかえるかもしれないんだよ」

 

「へえ……そいつはすごいね」

「だけどどこにも売ってないんだよなあ。闇市にならあると思ったのに」

 

ルイーダの目がきらりと光る。

強力だが強烈なデメリットがついて回る呪いの武器。

 

そんな武器を彼女は実際に何回か見たことがあった。

扱いに困る物が多いが、有効活用できるならこれ以上なく強力な武器になるだろう。

 

それに呪いの武器はまともな人間なら所有を嫌がるし、威力に魅かれて購入したところで、デメリットや呪いの存在で結局持て余すことも多いから、市場価値はたいしたことない。

 

呪いの武器自体がかなりの希少品である上に、まともに取引もされてないから、足繁く盗品市や闇市に通ったとしても見つけるのはほぼ無理だろう。

 

裏世界に顔が利くルイーダにしか呪い装備の入手は出来ず、品物自体は安価に手に入る。これは彼女にとって都合がいい状況だ。

 

「呪いの武器は殆ど出回らないんだけど、伝手をあたってみるよ」

「はかいのつるぎとか、みなごろしの剣でしょ? すっごく悪かっこいいいんだろうなぁ……はやくみたいねお兄ちゃん!」

「勇者のお嬢ちゃんは、そういうのが好きなのかい?」

「うん」

「そうか、それじゃあ頑張って探しておくよ」

 

興味のある話題が出てすっかり機嫌の戻ったミリアの様子に安堵したルイーダは、おかわりのミルクをミリアのジョッキに注いでやり、微笑を浮かべる。

 

「ほんと、ルイーダさんに話してよかったよ。信頼できる人みたいだしさ」

「そいつは光栄だね。期待に応えられるようにするよ」

 

すでにルイーダは影夫の人となりを理解していた。

ルイーダが分析するに、彼は信頼と信義を重視する性格の人物だ。

 

彼のようなタイプは害意や悪意に敏感だ。奪ったり騙そうとすると以後は警戒されて二度と心からの信頼をされないだろう。

特に彼が一番大事にしている『家族』や『仲間』といった部分は彼の逆鱗といえる。

 

逆にいえば一度信頼されてしまえば裏切らない限り、付き合いやすい性格でもあるだろう。

安定志向で諍いを嫌うので、彼のほうから裏切りや策謀をしかけてくるということがないからだ。

 

ルイーダが弁えて誠実な振る舞いをすれば、良い関係を維持することができる相手と彼女は見た。

 

(しかし、伝説の武具なのに、えらく人間臭いことだねぇ。こどもの保護者もやってるし……そこらの人間よりもよっぽど人間らしい)

 

ルイーダはちらりとカウンターの上で身体を伸ばして寛いでいるネコぐるみ姿の影夫を見る。

ミリアを大事にしていることは普段の言動でよく分かる。

自分を含めて食わせ物がおおい人間よりもよっぽど真っ当に、『人間』をしている。

 

(ころころ姿も変わるし、おもしろいやつだよ)

 

最初は、ミリアの姿を借りて、次はミリアの首にくっついて、今度はネコのぬいぐるみ姿だ。

ちなみにいい年齢のルイーダをしても思わず抱きしめたい可愛さだが、手下の手前もあり我慢していたりする。

 

(いつまでも、いい関係でいたいものだね)

 

そう思いつつ、ルイーダは脳裏ではすでに算盤がはじかれていた。

 

彼は、見ず知らずの他人よりも信頼を置いた相手との付き合いを優先するだろうから、ルイーダが勇者ミリアへの各種依頼や各種交渉の独占窓口になることで、彼女の影響力は大きくなる。

 

大きくなった影響力を使えばルイーダはますます権力と富を増す事が出来る。

無論、一方的搾取は信頼を損ねるので論外。きっちりと彼らにも恩恵を渡しておけば皆が幸せになれるだろう。

要は、ルイーダが得をすれば彼らも得をするようにしておけばいい。利用ではなく協力の形だ。

 

「ごちそうさま!」

「じゃあいくかミリア。装備の件はお願いしますね!」

 

ぴょんとカウンターから飛び跳ねたネコぐるみ影夫は彼の定位置であるミリアの腕の中へと飛び込んで、彼女とともに酒場を出て行った。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

ミリアがベンガーナの街の中を鼻歌まじりで歩きながら歩いていた。もちろん、その手には影夫が抱えられていて一緒にいる。

 

「ごっはんーっ、おいしいごっはんー♪」

「上手い飯は明日への活力だよな。ミリアは何食いたいんだ?」

「ハンバーグ!」

「そればっかりだなぁー」

 

転生の定番ということで、影夫はこっちにはない料理を作ったりもしていた。

さまざまな作品でネタになるだけあってハンバーグは鉄板だった。

安い肉でも手間をかけて美味しくできるのは魅力だ。

でろりん達も気に入っておりすっかり彼らの間で定番メニューとなっている。

 

「まぁいいやデパートでみかわしドレスを受け取ったら、地下で材料買って帰るか」

「野菜もちゃんと食べるんだぞ?」

「わかった!」

 

とたとたと小走りでミリアはデパートへの道を急ぐ。

形見のドレスは、みかわし効果をつけてもらっていたが、今日デパートに届いたらしい。

 

今のミリアはというと影夫が以前プレゼントした白いワンピースを着ている。腰のナイフシースやくくりつけられた道具袋が若干ミスマッチだが町の人は特に気にすることもない。

 

「こっちが近道っー♪」

「あ。そっちは……」

 

ミリアはいつぞやの裏道に飛び込んでいく。

崩れかけたレンガの建物の間をとおり、ゴミをまたいで小走りに駆け抜けていった。

いつもは人相の悪い男やくたびれた物乞いがいるものだが何故か今日はいない。

 

 

「待ちやがれこのガキッ!」

「捕まえて売り飛ばしてやる!」

 

影夫が不思議に思っていると、どたどたと走り回る音にふたり組の男の怒声が聞こえてきた。誰も居ないのは犯罪にかかわりあいたくないためか。

 

「あー……」

「なんだろ?」

「馬鹿が誘拐をもくろんでるみたいだな。よし、助けるぞ」

「えー、はやくハンバーグたべたいのに」

「ビッグハンバーグにしてあげるから!」

 

「はやくたすけないとたいへんっーー」

「っとにもう、現金だなぁ」

 

黒い長髪を揺らしながら、声のほうへと急ぐミリア。

 

「くっ……」

 

「散々てこずらせやがって!」

「もう逃げられねえぞ」

 

袋小路になっている建物と建物の間。

そこに一人の少女が追い詰められていた。

歳のころは10くらいだろうか。ミリアと同じくらい。

長い金髪の少女で、気が強そうな顔をしている。

今も誘拐犯達を睨んでいる。

 

それにしてもその少女は、身なりがかなりいい。どこかの令嬢だろうか。

 

「うわー……あいつら、チンピラの誘拐犯がいかにも言いそうなこと言ってるよ」

「おやくそくってやつ?」

 

あまりに分かりやすい奴らに思わず影夫が言葉を漏らし、ミリアがあわせる。

そんな、緊張感のない少女の声にそいつらが振り返る。

 

「誰だ!?」

「なん……て、てめえはいつかのガキ!!」

 

影夫はそいつらに見覚えがあった。いつか裏道に入ったミリアを襲ってきたチンピラふたりぐみだ。

歯抜けのハゲチビと、ガリヒゲノッポという中々目立つ風貌だ。

 

「?」

「昔Wしゃちほこポーズで往来に放り出しただろ」

「あぁーいたねそんなの。ほら、お兄ちゃん。わたしが言ったとおりでしょ。こんなのは反省なんかしないんだから生きてるだけ無駄なんだよ」

 

「な、何ひとりでぶつぶついってやがる!」

「てめえこの前はよくも!」

 

チンピラのうち、歯抜けのチビのほうが、おろかにもミリアにナイフを向けてしまう。

 

「あーあ……敵になっちゃった。くすくす。こんなのに、お兄ちゃんが情けを掛ける価値なんてないよね!」

「お、おい殺すなよ。ほんとに殺すなよな!」

 

ナイフシースから右手でどくがのナイフを抜刀し、ミリアは舌なめずり。

それと同時に前傾姿勢になって、ぐっと膝に力をためる。

 

「ガキがナイフもってもおままごとなん……だぁっ!?」

「おままごとがどうしたの?」

 

たったの一呼吸。

その一瞬で、3Mほどの距離をつめたミリアがハゲチビを蹴倒して喉仏の上にかかとをめり込ませた。

きちんとナイフを持った手は左足で踏みつけて封じている。

 

「てめっ」

「動いたらこいつ殺す」

 

ミリアはガリヒゲノッポにそう言って、動きを止めさせる。

 

「殺すなって!」

「ちょっとおどすだけだよ」

 

「あ……ひ……」

「ねえ。どうして反省できないの?」

「た、たす……」

「助けてって言った人を助けたこと、ある? ないよね?」

「あぅ……っ」

「ないんだね。残念でし」

 

「ま、まってっ! もういいっ!」

 

ドンッ、とミリアが予想外のほうから突き飛ばされて体勢が崩れる。

 

「逃げなさいっ! 悪いことはもうしないこと!」

「「は、はひぃっ!!」」

 

狙っていた金髪の少女に助けられて呆然としていたチンピラふたりだが、転がるように逃げていった。

 

「いたたた……助けてあげたのに……もう」

「やりすぎよあなた! 何も殺そうとすることはないでしょう!?」

 

「あなたには関係ないよ」

 

怒った顔で言ってくる同年代の少女に、ミリアはめんどくさそうに言い捨てる。

 

「こらっ、ミリア」

「あいたっ」

 

ミリアの腕から抜け出した影夫が肩に乗って、ぷにぷにの頬にぽかりと猫の手ぱんちをお見舞いする。

直立して腰に手を当て、影夫はお説教モードだ。

 

「殺す気はなかったもん。潰すだけにするつもりだったから……たぶん死なないよ」

「殺しだけじゃなくて、殺しかけるのも禁止な!」

「だってそれじゃぁ、あいつら反省しないよ。いつか誰かの大事な家族があいつらに殺されたらどうするの?」

「だからって、まだやってもないのに罰したらダメだろ。反省しないかもってのはわかるけどさ。それは俺がちゃんと考えておくから」

「はぁ~い」

 

しょぼんとした感じに肩を落とすミリア。

ミリアは、言われたことは守るのだけど、不満があることについては言葉の裏や綾を利用して出来るだけ過激にやりたがるので困る。

 

(ミリアとしては、悪人は全部誰かの家族を奪うかもしれない凶悪な可能性に見えちゃうんだろうけど……)

 

まぁ結果的にあそこまで怖い目を見たら、真っ当に働くようになるかもしれない。裏道で2度ミリアに会っているから、犯罪をすると殺しに来ると恐怖するかもしれないし。

 

しかし骨の髄まで恐怖を刻み込んで反省させるっていうのもダメなように思う。更正ってそんな簡単にいかないと思うし、大体個人がそういうことしちゃダメだろう。

かといって、前は衛兵に捕まったと思うけど懲りずにまた悪さしてるしなぁ。

 

あ。そうだ今度からルイーダに預けるという手もありかも。と影夫は思った。

ああいう手合いの扱いにも慣れているだろうし、なんだかんだいって柄の悪い冒険者達をずっと飼いならしているし、大丈夫そうだ。

 

 

「なにそれ!? しゃべるぬいぐるみ? キャーかわいい!」

「わっ!?」

 

「あっ……ダメッ! お兄ちゃんを返して!!」

「おねがい、ちょっとだけ貸してよ」

「私以外はダメなのッ!」

 

影夫がそんなことを考えていると突然、謎の金髪少女が影夫を抱きしめ頬ずりしてきた。

それに怒ったミリアが奪還しようとして、女の子の間で引っ張り合いになるのだった。

 


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