壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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短め。次回は……


油断

「ごめんなさいっ!」

「っ……うぅ゛……」

「お兄ちゃんが泣かしたー! ろくでなしー!」

「わ、悪かった! ごめんなさい! あやまります! このとおりです!」

 

恐怖のあまり失禁してベソをかき出したずるぼんを見て急速に正気を取り戻した影夫は、Dr.ワ○リーばりのジャンピング土下座で謝り倒していた。

ずるぼんのことは半ば女扱いしていなかったものの、泣かれてしまうほど追い詰めてしまったとなると罪悪感が凄い。

ホトホト困り果てひたすらに謝るしかなかった。

 

「本当にごめんなさい! なんでもするからゆるしてください!」

 

冷静になれば女性にしてよい行いではない。恐怖のあまりちびらせてしまったのも大変よくない。

女性の尊厳や羞恥心を大いに傷つけてしまったと影夫はもうどう償って良いか分からないくらいの罪悪感でいっぱいだった。

 

ごわがっだんだがらぁ! と泣き怒る彼女に自分から高額なプレゼントを約束し、二度としないと誓い、何でもいう事を聞くなどと影夫は口約束の大盤振る舞いをしていった。

 

「さすがにあれはいかんのぅ」

「まぁたしかに少しやりすぎだったよな」

「いい薬だろ」

 

男3人衆は、針の筵状態で何でもかんでも差し出して謝り倒す影夫をみながらゲソ焼きをほおばっていた。

見た目の気持ち悪さと、常識という先入観から食べるなんてオゾマシイと思っていたが、追いかけっこの挙句口に放りこまれたら、普通に美味しくてはまってしまっていた。

 

「おいずるぼん、もう許してやれよ」

「そろそろ戻ろうぜ」

「今後のことは宿でかんがえればよいじゃろ」

 

いつまでも終わらない謝罪を無言で責め睨むずるぼん。さすがに終わらないのででろりん達が声をかけ、ミリアが手を引く。

 

「ほら、お姉ちゃんいこ?」

「うん……」

「お、俺はなんてことを……も、もう絶交かな……あはは……俺ってやつぁ……やつぁよぉ……」

 

「クロス……許してあげるけど……水に流して欲しかったら、分かってるわよね?」

「は、はいぃぃ! 何でもさせていただきます、許していただけるんですかっ、ありがとうございます!」

 

すれ違い間際、つぶやいたずるぼんの声に許してもらえる希望を感じて影夫は歓喜する。

 

しばらく影夫は言いなりになるだろうが、許してもらえたことが何よりも嬉しかった。

影夫は人間関係がギスギスしたり強く嫌われたり険悪になったりするのが辛いのだ。

 

「ふ、ふんだ……おぼえてなさいよ」

「は、ははー誠心誠意尽くさせていただきます!」

 

大喜びでへこへこしながらずるぼんに媚びる情けない姿に少し溜飲をさげたのかずるぼんも怒らせていた目尻を下げて表情をゆるめ、足元の影夫を見下ろしている。

怒気が収まったのを感じてさらに忠誠を誓いだす影夫。

 

「むぅ……お兄ちゃんサイテー」

「ええ!? 何故だミリア!」

 

ミリアはそんな光景を見て不穏なものを感じ取ったのか不機嫌になって影夫をなじった。

 

「なんだありゃ。あほらし。やってられるかよ」

「まあまあリーダー」

「あやつらもおかしな関係じゃのぅ」

「おい、おまえらさっさと……」

 

呆れモードの3人が腰を上げてずるぼん達に声をかけようとして、言葉を失った。

ずるぼんの背後にあった横穴の物影で、黒く巨大な影がうごめいていたのだ。

 

「ずるぼん後ろ!!」

「え?」

 

でろりんの声で咄嗟に振り返ったずるぼんは、目の前に振り下ろされんとしている鞭のようにしなる軟体の触手腕を、見た。

 

「あ……」

「ふぇ?」

 

限界まで引き絞られた弓が放たれるように、振り下ろされたそれ。

触手腕は残像を残しながら、少し前を歩いているミリアの頭を潰す軌道で迫っているが、ミリアはそれに気づいておらず逃れることは不可能だった。

 

可愛がっている妹分のミリアが死ぬ。そう思ったらずるぼんの身体は勝手に動いていた。

ミリアを突き飛ばし、触手の軌道上に自らを割り込ませていたのだ。

 

「っ……!」

 

これでミリアは大怪我をしても死ぬことはなくなった。

ミリアが死ぬ運命は回避できた。だがずるぼんが死の運命にとらわれた。

 

体勢を崩しているずるぼんは回避などできるはずもない。

逃れえぬ死に、ずるぼんが目をつぶった。

 

その時。

 

「おぉぉおッ」

 

衝撃とともにずるぼんとその側にいたミリアが横っ飛びに吹き飛ばされた。

 

「っ……あがあぁっっ!!」

 

ふたりを吹き飛ばしてその代わりに強烈な一撃を無防備に受け止めたのは影夫であった。

 

「あぐ、うぅ……」

「クロス!?」

「お兄ちゃん!?」

 

たった一撃で、物理攻撃に強いはずの影夫の体の表面は大きく抉り削られ、体の半分近くの暗黒闘気が四散してしまった。

 

「お兄っ、お兄ちゃん!?」

「うぐ……あ……がっ……」

 

「おに、おにおにぃちゃ……ああ、あああああああああーーーー!!!??!」

 

体を半分吹き飛ばされて弱々しく呻き声をあげる兄の惨状を見て……ミリアは激しく取り乱し絶叫する。

 

「お兄ちゃんを……よくもっ、よくもぉぉぉぉっっ!!!」

 

一瞬で怒りと憎悪に染まったミリアの身体から爆発的に暗黒闘気が噴き上がった。

それと同時に四散して周囲を漂っていた影夫の暗黒闘気の一部がミリアの体内へと流れ込み、ミリアの顔と腕に黒い紋様が浮かんで明滅して瞳が赤く輝く。

 

「ああああああァァァァァァッッーーーーー!!」

 

全身に溢れたチカラを誇示するように雄たけびを上げ、殺戮衝動のままに敵を睨みつける。

 

「ころしてやる……ころすッ!」

 

「落ち着け馬鹿! やめろ!!」

 

ミリアは駆けつけてきたでろりんの制止も聞かずに、その軟体生物……クラーゴンに飛び掛かっていった。

 




本当に余裕がなく、考えてる暇がないくらいギリギリの状況で咄嗟に身体を動かす時、人間は体になじんでいる動きをします。

影夫は前世で30年も人間をしていたので、みょーんと手を伸ばして突き飛ばすという動きができなかったのです。だから、飛び込んで身代わりになりました。転生で別種族に生まれ変わるとこういった心と肉体の齟齬が起こるんです。ということにしました。

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