「暗黒処刑術! うりゃああ! おまえも死ねぇぇっ!!」
ミリアは跳躍とともに暗黒闘気を刃に伝わらせた一撃でグリズリーの額から上を斬り飛ばすと、すかさず次の獲物へと飛びついて、首を跳ね飛ばした。
以前と違い、着地の勢いを殺さずに横っ飛びの動きに利用する等、動きに隙や無駄がなくなっている。
でろりんやへろへろを相手に訓練したことが見事に活かされていた。
「すげーなミリア。細かい動きが見違えてる!」
「グオオオっ!!」
「あはっ、おそすぎだよっ!」
「ギャウゥゥゥッー!!」
仲間をやられて怒り狂ったグリズリーが鋭い爪を向けてくるが、ミリアは着地と同時に身を転がして回避し、起き上がり様に飛び掛ってその胴体をジョキリと切断する。
グリズリーの胴回りは太く真っ二つに切断はできないが、脊椎を断ち切られては立っていられず、崩れ落ちて絶命した。
「ギャォォォっ!!」
「腕ぇぇっ! 足ぃぃ! 首ぃぃっ!」
続いて3体のグリズリー達が一斉にミリアへと飛び掛ってくる。
正面から差し出された丸太のような右腕を斬り落としながら、同時に影夫の凶手を使い、2体が繰り出してきた爪撃を受け止めた。
「ォアァァッ!?」
攻撃の衝撃で体が飛ばされるがそれも計算ずくであり、すばやく着地すると別のグリズリーの右足へと飛びついて、ざっくりと斬り落とす。
片足を失い、体勢を崩して崩れ落ちる身体に飛び乗り、その首を寸断。
痛みに仰け反ったり、隙を見せたグリズリーから次々にその命を失っていく。
「次は俺だ!」
「うんっ、がんばってね!」
ミリアの奮戦を見た影夫が張りきってミリアから自らの主導権を受け取る。
早速凶手の刀を作り出し、ミリアの左右から近づいてきていたグリズリーの首をスパンと刎ねる。
「残りはまとめていくぞ!」
「バギマ、バギマ!」
前方に群れている5匹のグリズリー達に向け影夫が両手からバギマを放ち、真空の突風で身動きを封じる。
「ミリア今だ! あの技!」
「はぁぁぁ……きえてなくなれぇぇっ、暗黒っ、闘殺砲ぉ!」
ミリアは突き出した両手に全身の暗黒闘気を集めて、巨大な暗黒闘気の塊を撃ち込むと射線上にいたグリズリー達は一撃で皆殺しになった。
「「よっしゃー!(やったぁ!)」」
「あいつら、滅茶苦茶だ……」
「へろへろ! 俺達もやってやろうじゃねえか! 師匠の意地をみせてやろうぜ!」
呆然とミリアと影夫の虐殺劇を見ていたへろへろにでろりんが発破をかけて、彼らも戦闘体制に入る。
「熱血してるわねでろりんったら。似合わないけど。バギマ!」
「ベギラマ!」
「イオラ!!」
「殴り合いは俺に任せろ! うおおおぉぉ!!!」
まずは呪文による遠距離攻撃が放たれると同時に、へろへろがグリズリーめがけて突撃していった。
「ギラ! ヒャダルコ!」
「バギ! バギ!」
「メラ! イオ!」
グリズリー達が距離をつめてくる間に、まぞっほが後方から次々に呪文を撃ち放ち、ずるぼんとでろりんは中衛として呪文を放って、傷ついたグリズリーにトドメをさしていく。
「でりゃああっ!」
でろりん達に近づいてくるグリズリーは、前衛を受け持つへろへろが一手に引き受けている。
片手で鉄のたてを構え、その剛力を生かして攻撃を受け止めつつ、隙を見て鉄のオノで斬りかかっている。
影夫とミリアに負けず劣らず、でろりん達も順調なペースでグリズリーを駆逐していく。
「ぐぅああっ!?」
「ずるぼん、へろへろを治療だ。敵は俺が!」
「はいよ、ベホイミ!」
その途中、3匹に同時に殴りかかられて防御し損ねたへろへろが吹き飛ばされたが、すかさずでろりんが前に出てグリズリー達を引きつけ、その間にずるぼんが治療に当たる。
「ずるぼん! 一匹そっちに……」
「おっと、やらせはせんぞい、メラミ!」
ずるぼんの背後から飛び掛ったグリズリーがいたが、まぞっほの呪文によって倒される。
でろりん達は、この戦いが4人パーティでの初陣だというのに、抜群のコンビネーションを見せていた。
「おぉー、師匠たちやるじゃないか。息がぴったり。まるで歴戦のパーティだな?」
「ああ、そうだな! こいつらとはすげえやりやすい」
「またせたなリーダー! 戦線復帰だ! うおおお!!」
完全回復を果たしたへろへろが渾身の一撃で、でろりんが相手にしていたグリズリーの頭を鉄の斧でかち割った。
「バギマ! でろりん、アンタは前衛のほうがいいよ! 援護はあたしとまぞっほに任せなさい」
「りょ~かい。ってリーダーは俺だぞ!」
「はいはい。それでOKでいい? リーダー?」
「いいぞ! でりゃああ!」
軽口を叩きながら、でろりんとへろへろはグリズリーの攻撃をいなし受け止め、斬り、殴りかかる。
「ヒャド! メラ! ほっほっほ。まったく負ける気がせんのう。こんな気持ちになったのは初めてじゃ!」
まぞっほが周囲を警戒しつつ、脅威になりそうな相手を的確に妨害し、攻撃を加えていく。
「これも、クロス達との模擬戦が役に立ったのぅ」
でろりん達から一通り指導を受けたミリアと影夫は、彼ら4人を相手に模擬戦を何度かしていたのだ。
模擬戦も最初の頃は実戦経験の差で、ミリアと影夫が勝っていたが、でろりん達も弟子に負けっぱなしは悔しいと奮起した。
4人で連携の訓練をしたり、知恵を出しあった結果、卒業間近の頃には勝率は五分かむしろでろりん達が優勢となっていた。
連携の巧みさや息を合わせることで相手の実力を封じることも、連続攻撃で反撃の隙を与えずに倒しきることもできたのだ。
その経験が役に立っていた。
4人が力を合わせれば、敵の集団や格上の敵でも勝ち目があると知っていることで緊張や脅えも薄れており、実力を遺憾なく発揮できてもいた。
「クロス! 敵の残りはあとどれだけいるんだ?」
「んと、茂みの向こうから、そっちに向かってやってきているのが12体いるな。俺達のそばには6体だ。それで打ち止めみたいだ!」
影夫は周囲の邪気を感じ取り、索敵に使う。
邪悪な気配がない人間や怪物は見つけられないが、悪意や強い害意を持った相手は索敵できる。暗黒闘気レーダーと彼は秘かに名づけて呼んでいるが実に便利な能力だった。
「うっしゃっ! みんなもうひと踏ん張りだ! 油断はすんなよ!」
「「「「りょーかいーー!」」」」
でろりんがリーダーらしく号令をかけ、息を合わせて残敵を掃討していくのだった。